旅立ち 1
お父様にばっちり監視つけられてしまいましたけど私は元気です。
お父様ったら、私が逃亡するとちょっとでも思っているところが先見の明有りすぎですね。
ですけどね。
「私にだって、個人の付き合いはあるんですよ」
すっかり冒険者といった服装で私は馬に乗っていた。髪は切って置いてきた。お母様泣いてるかもしれない。なんかやたらと私の髪に拘りがあったから。
領地で「将来何かあったら逃げるために馬に乗れた方がいいからな!」とお祖父様が乗馬を教えてくださったから意外と乗れちゃったりするのだ。娘のお転婆っぷりに驚いちゃうかもしれないけど今は手段選んでる場合じゃないので。
というわけで、ちょっと小細工もした結果振り切りました。アルお兄様、ご自分の発表を妹が興味津々で論文まで目を通していたとは思いもよりますまい!
「いやでもフィーナ、これ絶対俺ら首刎ねられるぞ」
「閉じ込める方が悪いのよ!」
気安く話す青年はランスロット。元孤児の冒険者である。フィーナは偽名使えって言われたのでそう名乗ることにした。元の名前に近い方がボロでなさそうだし。
バベルのいた孤児院のみんなを引き取った際に私はその治療やら、その後の支援なんかで結構奉仕活動をしていたりする。ある程度は貴族の嗜みとしてそういう活動をしているものだ。
ちなみに、ドロシーもそういう活動していた時にお母様の目に留まって我が家に迎え入れられていたりする。
「バベル怖いんだぞ。分かってんのかお前」
「私が一番側にいたもの」
そう言って笑うと、「これがお嬢様とかどうかしてるぜ」と彼がぼやいた。
「はは……俺もこれで死んだら多分クリスに超キレられる。絶対老衰まで生きないと」
そう言ってテイラー様、基エドもボヤいた。私を見つけてしまったのが運の尽きである。
うっかり見つけてしまったがばかりに王都を出るまで麻袋に閉じ込められていたので完璧誘拐です。申し訳ないとは思っている。
結界で封じ込めて中に電流を通し気絶させて運ぶのほんと犯罪者でしかないな。帰ったら裁かれそう。
クリス様の妖精石を取り込んでしまった影響か、風の魔法が使えるようになった。
まぁ、それも内緒にしてるけどそのうちバレると思う。ウェンティ様が来てたの知っているし。
「それにしても、お転婆ですまないぜ、これ。ほんと姫さん絶対俺から離れんなよ。絶対だぞ。姫さんになんかあったらどうせ殺されっから、俺が死んでも姫さん逃すからな」
「納得しかないな」
「坊っちゃんの割に理解が早くて助かる」
「グレイヴ家に関わるとすぐに理解ができる」
エドのどこか遠くを見るような眼差しに、お父様たち何やってるんだろうと少し怖くなった。
正直、さっさと見つかるだろうなぁとは思ってるんだけれど、それでも諦められないものが多すぎるのだ。主に復讐とか報復とか。
私を絶望に突き落としておいて、あの方を殺した奴らが楽しく過ごしているなんて許してなるものか。
とまぁ、そんな薄暗い理由もあるけれど他の理由ももちろんある。
光の妖精王ルミナス様とは頂いた杖を使えば割と簡単にお話が可能なのだけれど、闇の妖精王様とはお会いした事ないので現地まで行く必要があるのだ。闇の魔法使いが妖精祭で儀式を行うとかであれば会えたかもしれないけれど、私は違うので機会が本当にない。
そこで、あの黒い魔力への対処法を聞くつもりだ。
──かつて、黒き魔法は強い祝福と浄化の力で封じられた。
では滅ぼす方法はあるのか?
そして、あともう一つ。
この命に強い負担をかけているらしい魔力をどうすべきか。
一応見張りつけていたけど、これまでずっと深窓のお嬢様やってた愛娘が本当に脱走するとは思っていなかったグレイヴ家。