そして復讐の鐘は鳴る ⒌
「フィーネの復讐心を侮っていたな」
ギルバードはセシルの首根っこを掴んで羽虫を見るかのような目で見た。
納得がいかないといった表情でなされるがままになっているセシルは「あいつはお人形じゃないんだぞ」とギルバードに向けて発した。
「それは分かっているが?」
「言っとくけど、クリスの死の原因になったクズを軒並み殺すか、フィーの心を掬い上げられる人間が現れない限りそのうちあいつ潰れてたぞ。過保護に守るのも結構だが、お前たちのそれはフィーの意見を取り入れなさすぎる」
それでも、親兄弟にしてみれば可愛い妹の手を汚すことなんて考えられないのも事実だった。
そして、フィーネは基本的に多少お転婆な一面はあるが弱気で臆病。ちょっとした拍子に調子に乗って失敗してピィピィ泣く。そして、他人が傷付くことに怯える優しい少女である。そんな彼女が誰かの命を奪うことを考えるという事自体が彼らには信じ難い事だった。
家に帰って娘を見たギルバードは、窓越しに美しい青年と話す姿にゾッとした。
尖った耳に美しい緑の瞳と羽根。どこか厳しさも感じさせる声は伝承を思い起こさせる。
「ウェンティ様」、そう呼ぶ愛らしい声でギルバードはその正体を知る。
そして、ウェンティはフィーネに何かを授けて消えて行った。
「フィン」
「お父様!お帰りになりましたのね!?わたくし心配しておりましたのよ」
可愛らしく拗ねて見せる愛娘。けれど、認めるほかないだろう。その中に渦巻く感情を。
「先程の方は妖精王様かい?」
「……見ておられましたの?話しかけてくださればよかったのに」
一瞬だけ悲しげな顔をしたフィーネの頭を撫でる。
そして、何かを考えるような仕草をしてから娘に微笑みかけた。
「一緒においで」
そう言ってエスコートをする様に手を差し伸べるとフィーネは嬉しそうに手を重ねた。
そして、向かった先は応接間。
そこにはヒュバードとミーシャも共に立っていた。
「ヒューお兄様、ミーシャお義姉様!」
嬉しそうに次兄夫婦の元へ向かうフィーネの姿を見て、ギルバードとアルヴィンは安心したように一息ついた。
後から現れたクラウスとリオンハルトもその様子に表情を綻ばせた。
真の王が玉座に帰った事で、行動が容易となった兄弟はそれでも多忙だ。
魔王、魔族と名乗るものの始末もつけなくてはならない。
「なぜ殿下たちがここに」
アルヴィンが問うと、「今日だけ休暇を頂きました」とリオンハルトが苦笑した。
「まぁ、それにレオナール先生がここに集合と言っていてな」
「レオナールが?」
「そう、僕が言った」
大きなカバンと本を数冊抱えて研究者は「久しいね」なんて言う。
顔だけ見ていれば普通なのに、頭に乗った兎がどこか間抜けな感じがする。
「それで、フィーネとシュトレーゼ夫人は奥の席に着いてもらっていいかな?話があるんだ」