そして復讐の鐘は鳴る 3
「死にたいの?」
開口一発目がそれか、と思ったけれどレオお兄様が私に対して忖度するはずなかったなって思い直した。死にたくはないなぁ、普通に!
溜息をこれ見よがしに吐いて「まぁ、脅しですか?怖いわ」と言うと、「そういうのはいいから」と即座に言われた。
「死ぬ気なんて少しもありませんわ。……生きろと言われてしまいましたしねぇ。今逝けば叱られてしまいますでしょう?」
「じゃあなんでそんな自殺行為みたいない状況になってるのかな?魔力が体内に溜まりすぎて身体に対して負担がかかり過ぎてる。今は問題なくても、続けば危険だよ。ある程度発散させないと」
王都に帰ってきたら家にレオお兄様がいて、これである。
危険云々はセシルから聞いているけれど、体質的に私かリオン様……あとはおそらくミーシャさんでないとできないことだろう。これは必要だから、溜め込んでいるだけなのだ。
「内緒ですわ」
そう言って微笑むと、何かを感じたのかレオお兄様は「そうか」と少しだけ悔しげに言った。
そんな顔しなくても良いのに、と苦笑する。
「それより、レオお兄様こそこんなところで待っていたのですもの。何か御用があったのではない?」
「うん。叔父上にね」
お父様は「仕込み」とやらの最終段階で出かけている。なんだか不穏だ。
敵がアレだから何やらかそうが相手が酷い目に遭ったらそれだけスタンディングオベーションしてしまう。死ぬより酷い目にあってほしい。
「けど、出かけてしまっているのか」
残念そうな顔をしてから、バベルに向き直って何かを渡した。そこって私に渡すところではない!?
「フィン、本当に死ぬ気はないんだな」
「もちろんです」
特に破滅願望はない、はずだ。ちょっとだけ自信はないけれど。
これは本当に、奥の手として用意しているだけなのだ。相応しい媒介を見つけられたらすぐに移し替える。
だいたい、お父様やお兄様たちが自分たちのやろうとしていることを教えてくれないのに私のやろうとしていることを逐一知りたがるのってどうなのかしら。
「それじゃあ良いけれど」
腑に落ちていなさそうない表情でそう言うレオお兄様の後ろで水差しが割れた。
咳き込みながらアルお兄様がそこに四つん這いになっている。「クソ、あの女……」と悪態を吐く様子はなんだか珍しいものを見た気分である。
「バベル、お兄様の着替えとお風呂の準備を」
「はい」
まぁ、帰って来れたようならいいかと思って指示を出すと、「フィン!?」と驚いたような顔をした。
「そうですわ。お久しぶりでございます、アルヴィンお兄様」
そう言って微笑むと安心したように笑った。ブルーがその様子を見ながら嬉しそうにしている。
「帰ってきたついでに、お兄様。わたくしのお願い、聞いてくださらない?」
そう言って私はアルお兄様の手を握って瞳を合わせるように見上げた。