思いは同じだったのに
リオン様達が帰って来ると、あの石の事を聞かれたので説明しようとするとお父様が「何の話かな」とにっこり笑っていた。
あ。怒ってる時の顔だ。
「わたくしもただ、家であの方の帰りを待っていたわけではありませんの。魔族、という名の存在から過去の記録を引っ張り出して対抗策を研究していたのですわ。……主にレオお兄様と」
なんとなく思い出したレオお兄様の笑顔に腕を摩る。ちょっと寒気がした。主に妖精や神秘と呼ばれるものへのレオお兄様の執着心に。レオお兄様ってば、妖精に恋をしていると言っても過言ではない。恋どころか愛している。おそらく人よりもずっと。
ナディアが特攻をかけているのは知っているけれど、それでもきっと心揺れることはないだろう。
「その中の記述にあったのです。強い祝福の力と浄化の力が重なった時、黒き力は眠るだろうと」
確証はなかったし、検証もできていないものだったから報告ができなかっただけだ。なお、使った妖精石は私とレオお兄様のもの。もっと禍々しくなるのかと思ったけれど、結構綺麗なマーブル模様になった。
「……もっと早く完成していれば、とは思わなくはないのですが」
「お嬢様は体調を損なってもなお、この研究を急がれておりました。倒れられたのはその疲労もあったのでしょう」
バベルが労るようにそう言う。眠り続けたあの一件があってから過保護がまた増した。なんかレオお兄様がバベルに何か言ってらしたからそれも関わっているのかもしれない。内容は教えてもらえなかったけれど。
どうやって作ったかは話したけれど研究資料は王都にあるレオお兄様の研究室だ。その方が安全だとレオお兄様が判断されたので私は素直に従った。
王都のお屋敷に踏み入る人間がいないとも限らないし、荒らされてはかなわない。
戦争や政争に使われて、事態の収拾がつかないって事態こそが最悪だ。私の判断よりも殿下達やお父様の判断をこそ仰いで適切に対応していただきたかった。
ところが、私が無理したのと精神的ショックとベルの気遣いによってここまで報告がずれ込んだ。いや私もこんなことになると思ってなかったの。許して欲しい。
「……しっかり休むように言っていたろう?」
「それでも、何をしても手に入れたいものがあったのですわ、お父様」
そう言って微笑みを浮かべる。
「ですが、そのおかげで次の一手を打てます」
リオン様はそっとブレスレットを撫でる。
そして、真剣な目で私を見つめる。
「フィーネ嬢、どうか私たちに協力をお願いします。二度と、我々のように大切なものを失う人が出ないように」
「お嬢様が例のものの製作法を教えるだけではいけないのですか?」
普段は口を挟んでこないバベルがそう口に出すと、お父様がチラと彼をみる。
「まだ娘も病み上がりですしね。殿下、とりあえずはレオナールと協力していただいて構いませんか?」
「もちろんです。彼女の身の安全を第一に考えてください」
お父様とバベルの様子になにかを感じたのかリオン様はそう言って微笑んだ。
え?私もう元気なんだが?
不思議に思いながら首を傾げた。