癒しチートだった
ルミナス様から“ルナミリア”の名と大きな杖(不思議なことに全く重くない)を頂いたことをお父様に報告しようと面会を申し入れたところ、お父様は目の下に隈を作った青白い顔をしていた。
「フィーネ、話があるというのは何だろうか?」
「お、お父様……顔色が悪いようですが、体調が優れないのでは……!?」
「ああ、このくらい何ということもないよ。可愛い娘の話の方が重要だ。」
いつもなら目線を合わせてウインクくらいしてみせるだろうお父様なのに、椅子に座り込んで疲れた顔で苦笑する姿に悲しくなってしまう。うう……可哀想……。
それでも、話を促してくださるからできるだけ手短に終わらせようと今日のお話をした。
「……なるほど。今代の愛で子の一人がフィーネ、その候補となっているのがアルヴィンか。しばらくは伏せた方がいいだろうな。フィーネもあまりその話はしないように。」
「はい、お父様。」
「いい子だ。」
そう微笑むお父様に触れて、少しだけおまじないをかけた。
そう、“おまじない“の予定だった。
「これは……?」
思ったよりもガッツリ魔法をかけてしまったのでした!えっ、嘘。元気になぁれ!くらいのおまじないレベルですよ!?
「フィーネ、癒しの魔法を使ったのか?」
「い、いいえ。最近習ったおまじないですわ!」
おまじない、とは魔法とは違うのである。あくまで気休め程度のお祈り。されたあと「いつもよりちょっと体が軽いかも?」とかその程度のもの。逆に「ちょっと体が重いかも?」というおまじない(呪い方面)もやはり存在する。
効力がおまじないを超えている。何があったの。
「隠さなくとも良いのに。ありがとう、私たちの可愛いフィーネ。」
微笑むお父様にキュンとした。私のお父様は世界一……知っていましたとも!
とはいえ、これはおかしいとそれから頭の良いアルお兄様に頼んで一緒に色々試した。
結果、癒しの魔法がチートレベルでその他の光魔法も幼女に似つかわしくないレベルになっていることが発覚して私はあまりの恐ろしさに慄いた。
何事も強い力を持ちすぎるとろくなことがないものです。あと、もしこれから物語がはじまるとしたなら巻き込まれたくありません。ヒロインがまともな子だといいのだけど!生前、悪役令嬢やモブが主人公で転生性悪ヒロインをザマァみたいな小説が流行っていたからライバル令嬢を悪役にして冤罪婚約破棄ものになったら胃が痛いのです。あと変に力を持ったら私、年齢的に王子3人の婚約者候補に押し込められてしまう。
第一王子リオンハルト様と第二王子 王太子クラウス殿下は私の一つ上、第三王子クリストファー殿下は一つ下なのです。
王子様にはそれ相応の地位の令嬢が当てられるのですが、4つある公爵家のうち五代王家に嫁いでない我がグレイヴ家と三代嫁いでいないトーラス家は有力候補の筆頭。年齢も公爵家で合うのは私とローズお姉様、トーラスのレティシア様の3人だし、今私がすごく魔力多くて妖精の愛で子だとか流れたら候補筆頭になってしまう。王族に嫁いでも王妃教育や他の令嬢よりも厳しいお勉強をしなくてはならないので私には向かない。ただでさえお姉様たちよりお勉強の時間を多くしてもらってようやく手が届くか届かないかくらいに収まっているのだ。絶対に無理である。
……そこらへん、お父様はよくわかっていらっしゃるようなのが幸いです。
「それにしても妖精の……な。確か条件が妖精の姿が人型であること、妖精と意志を通わせられることだったか。」
アルお兄様がその力のでたらめさに呆れたように呟いた。ふわりとアルお兄様の肩に腰を降ろす青の少年はうとうとと微睡んでいる。
冷たい印象のあるアルお兄様だけれど、実際は家族相手に限定して言えばとても優しい方だと思う。他人に対しては知らないけれど。
「ふん、実際のところ妖精王に会わねばわからんな。」
ですよね、と思いながら頷いた。
けどそんな設定あったかしら、なんてゲームを思い出そうとする。思い出せなかった。なかったのならなかったで今回の案件は意外と重要度の低い出来事なのかもしれない。
「実際に見せてくれてありがとう、フィン。その杖は重くはないか?」
「アルお兄様のお役に立てたのであれば良いのですが……。杖はまるで重さを感じない軽さですのでフィンは大丈夫ですよ。」
よしよしと頭を撫でられる。私のお兄様は優しくてカッコいいのだ。ブラコンが加速してしまう。