ガラスの靴はもういらない 3
お兄様ってば、妖精王マリン様に監禁されているらしい。レイが「一応、説得は試みておられます」と言っているけれど、なんとなく難しい気がする。何しろ、お兄様ってばエメルダほどの人間は少ないものの、なんかこう…ちょっと我儘なタイプに好かれる感じが……。
いえ、不吉なことを考えるものではないわね。
「リオンハルト殿下とフィーネ嬢がいるだけでこうも旅の楽さが変わるとは」
「今回限りだよ」
ちょっぴり感動しているハルヴィン様にお父様が釘を刺す。
「リオンハルト殿下、お父様ってばなんだかハルヴィン様に対して少し厳しい気がするのですが、何かございましたの?」
「……詳しいことは帰ってからで構いませんか?リカルド自身も問題の内容を知らないのです」
リオン様の言葉に「わかりました」と言って頷く。そんなに話しにくいことなのかしら、と首を傾げる。お父様は公平なので、それだけの事があったという事なのでしょうけど。
三日ほど経った頃、ちょっぴり地味ではあるけれど大きなお城が見えてきた。
これが目的地の王族の療養地というやつらしい。
なんか「とある事情から一部の人間しか場所を知らない」とか言ってたけどこんな大きい城目立つでしょ。知らないとか嘘でしょ。ご都合設定すぎるでしょ。
ちょっと引いていたら、門が開く。
お父様の顔を見て門番が懐かしそうに目を細め、敬礼した。
「陛下にお目通りいただきたい」
お父様の言葉に困惑した様子だったけれど、リオン様の姿を見て表情を変えた。「まさか」と期待の表情を向ける。
リオン様がふわりと微笑むと、道が開いた。
元々、パーシヴァル陛下は正式に王位を継いだわけではないらしい。先王陛下が急病に倒れたせいで急に王位に就いた、というかぶん取った?っぽい。
なんかやり返そうにも先王陛下の場所すらわからない状態で手を回すのも難しい状態だったがために少しでもあの男を抑え込むためにお父様達は必死だったらしい。もうやだ。色々と。
「まぁ、クラウスが探り出せたのもある意味怪我の功名というものですからなんとも」
「その運の強さも王としての資質かと!」
色々あって落ち込みながら歩いていたら隠し部屋を見つけてそこから芋づる式だったらしい。
胸を張るハルヴィン様にリオン様は曖昧に微笑んだ。単純にどう説明したら良いかわからないんだと思う。
案内された先でベッドに沈むのは一人の老爺。お祖父様とお歳が変わらないというのが想像できない老け込み方だけれど、この「病」という名の毒のせいだろう。
お父様の袖を引くと、「診てもらえるかい?」と言われて頷いた。
リオン様が先に先王陛下の手を握り、私を誘う。
ベルとカリオンが私たちの手に小さな手を重ねた。
「いきますよ」
「はい」
同時に治癒の魔法をかける。
金色の光が先王陛下の身体を包み、その中へと入っていく。
リオン様が体力の回復を、私が身体の治癒を行う事で短時間で治療は終わった。
その時、大きな雷の音が聞こえて外を見ると異様な黒い雲が少し遠くにかかっている。
結界の機能をつけた魔道具が発動したのを確認して彼方を睨んだ。