私の陽だまり(side リオンハルト)
あの日、私は温かな陽だまりに出会ったのです。
王妃様が主催の茶会、という名目のクラウスの妃・側近候補を集めるための場が開かれることになった日。私は久しぶりに陛下……父上との謁見をしていました。
本来、王であっても跡を継ぐ子どもが生まれないなどの理由がある場合にしか認められない側妃を母に持つ私には、滅多に会えないのだと父である王は悲しげに私に言います。それを私は疎ましく思いながらも否定せずに聞かなければなりません。
母上は、多くの貴族の子と才ある平民の子が通う王立の学院に通っていた際に当時王太子であった父に見初められたと聞きます。母上はその時、愛する婚約者がいたにも関わらず、父に連れ去られ後宮へと入れられた……というように宰相から聞きました。他の者は母上が父上を誘惑し、汚い手を使って私を産んだのだと言います。ですが、宰相はそういった人間を「当時の陛下たちのご様子を知っておいでなのによくもそういったことが言えますね?」と言った際に悔しげに去っていったことから、おそらくは宰相が言う方が本当なのでしょう。
そして、それ故に思うのです。
“私など、産まれてはいけなかったのだ”と。
王妃様は陛下を深く愛していらっしゃいます。その王妃様を陛下は手酷く裏切ったのです。たとえ、王妃様を危険視した陛下が「王妃を一番に想っているよ。」と嘯いて、王妃様の元へずっと通っても、その憎しみが母上に向いたとしても仕方のないことでした。
だから、私は強い呪術を受けたのです。
父の裏切りの報いを受けたのです。
謁見からの帰りに呪いを向けたのは、王妃様についてきた王妃様の乳姉妹の女官でした。
「おまえたちさえ居なければ、お嬢様は幸せだった。」と冷たく私を見下ろす彼女は本来ならそんなことをしなくてもよかったのです。
私が魔力を持たない、魔法の使えない出来損ないでも放って置けないほどに憎まれていたのには堪えました。
あまりの苦しみに胸を掻き毟ると、女の子の悲鳴のような声が聞こえました。
その子の魔法なのか温かなものが体を包み……私は気を失っていました。
そして、その温かな金色の光の導きで夢を見たのです。
夢で出会ったのです。
私の運命の光に。
「私はグレイヴ公爵家のフィーネと申します。」
可愛らしい声で一方的に私を知っているのだと告げる彼女。グレイヴ公爵家の名に、そこの次男である幼なじみのことを思い出しました。ヒュバードの妹。彼の妹であるならば、と警戒が解けるのをかんじました。しかし、彼の妹はグレイヴ夫人譲りの金の髪とその容貌を持つ少女ではなかったか、と思い口に出すと、「それはロザリアお姉様かと。私はその下、末の妹ですわ。」と微笑んで、姉自慢をし始めた。あまりにも止まらないので顔がひきつっていたかもしれませんね。
それから、自分の家や立場の話をして「これだけ愚痴を言えたなら目が覚めなくても満足かもしれない。」なんて思ってしまいました。
「ふふ、たぶん殿下は笑ってらした方が素敵ですよ。」
そう言った彼女に胸が高鳴って。
目覚める自信すらないのに私はいつのまにか再会の約束をしていました。
そして、翌日。
癒し手として私を引き戻してくれた彼女と再会し、私にとって彼女は得難く尊い存在なのでは、と感じました。
腐っても王族です。なんとか婚約できないかと打診してみました。が、良いお返事は頂けませんでした。
実際、宰相は優秀で、5代前とはいえ王族の血も入っている家系であり、権力も財力もある。そんな家が政略結婚をする必要はない。特に私は複雑な立ち位置にいるため、少なくともクラウスとクリストファーの婚約者が決まるまでは王太子と継承権第2位の王子という二人の王子と年齢の近い公爵家令嬢の彼女は、きっと私の手の届く人ではないのかもしれません。
それでもあの温もりを知ってしまった私は彼女と友人の元へ時々足を運びました。
その過程で知り合ったレオナール殿の誘いで妖精王にお会いした私は彼女と共に“名”と“魔導具”を賜りました。
祖父に動かれる前に陛下に謁見をすることを許していただき、私は報告を行う。
嬉しそうにそれを聞き、継承権の繰り上げの話をする陛下に、私は「クラウスとクリストファーの成人を以て、継承権の放棄をしたいのです。」と言う。
「……王位は望まぬ、と?」
「私には荷が重いと思いました。国と、国を治める弟たちを支えていくことが私の役目と存じます。」
私は、リオンハルト・アーサー・リヴィア。
光の精霊王ルミナス様より、盾を賜りし者である。
盾は即ち、守護の象徴。私の陽だまりを守る者であれれば良い、と私は願ってやまないのです。