その茨が消えるまで 6
王城内で起こった騒ぎをBGMにクラウスとギルバードは話をしていた。
防音の魔法がかかっている上にこの喧騒だ。二人の声は外に漏れることはない。
「随分と楽しい企てをしたものですね」
「父上への嫌がらせは母の直伝だ」
クラウスの妖精であるフレイヤは楽しそうに契約者の肩でクスクスと笑っている。
王は火の妖精との契約者である。いくら権力がクラウスより上であっても、魔法と妖精関連であれば権限はクラウスの方が大きい。同程度の権限を持つレティシアがいれば話は別であっただろうが、彼女はここにはいない。
そして、王は妖精は魔法を使うためのただの資源だと思っている節がある。よもや、妖精たちが自分から力を貸さないという選択肢をするとは思っていなかったようだ。
「アルヴィンが妖精王に連れ去られてからの水の妖精たちの様子、クリスが居なくなってからの風の妖精の様子も大方同じようなもののようだ。ここまで愛し子の心情等に配慮されるとは思わなかったが、このままだと結構な数が自分の魔力量と技量のみにしか頼れなくなるな」
とは言うクラウスだけれど、クラウスはただフレイヤに騒ぎを起こしたいと相談しただけだ。好いた女性と似た彼女は「いいけど、本当に大事になりますわよ?」と首を傾げた。
それに構わないと告げて今に至る。
国家の弱体化に繋がるとか、魔物の多いこの時期になんて声も聞こえるが、そもそもが「弟の死の原因」をざっくりそういう状態にしてやっただけだ。
例えば、クリストファーを置いて逃げたものとその家族。
例えば、彼の魔道具を奪った男。
例えば、王の意見をすすんで受け入れた人間。
もちろん、実際に殺したのは魔王グノーシアと名乗る男だということは理解している。その上で、また逃げるであろう者たちは必要かを考え、そして実行してもらっている。
一度逃げたのなら、二度目三度目もあるだろう。
「それで、お話は事実ですか?」
「リオンが御息女が関わった件で嘘を吐くとは思えない。事実だろう。そして、ギルバード。追いかけてあいつを手助けしてやって欲しい」
「娘が助かるのであれば構いませんが、こちらも腹立たしいことが多かったためそれなりに動いております」
爽やかな笑顔と共に口に出た言葉に楽観視できるほど、クラウスはギルバードの性格を甘く見てはいなかった。
「そうか。何が望みだ?」
父や自分の首程度で済むのならいいか、とそう尋ねれば思いもよらない言葉を聞かされて、クラウスは首を傾げた。
「それならば早く行ったほうがいいぞ。もうリオンに頼んでしまった」
「おや、行動がお早い」
クラウスから資料を受け取ると、ギルバードは窓から出て行った。城の割と上の方の階層にあるクラウスの部屋から飛び降りて無事なあたり、魔法使いとしての技量が桁違いだなとクラウスは感心する。
その反面、手続きに時間を取られたくないからと横着をして危険な方法を取るのはやめて欲しいとそっと胃の辺りを摩った。
「さて、俺の行動が吉と出るか凶と出るか」
「意地でも吉にしてくださいませ!わたしにあなたを看取らせないで」
クラウスはぷくっと頬を膨らませて「そういうのはお爺ちゃんになってからでしてよ」と言うフレイヤの頬を、楽しそうに突いた。