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その茨が消えるまで 5



「狡い」



そう一言告げてジト目でほんの少し生まれるのが早かっただけの兄を見る青年は王太子である。


そう言われても、とリオンハルトは苦笑した。


そして、そういう事を言ってはいてもその手元は書類を片付けている。目線をチラと落としただけで内容を大体把握しているあたり優秀である。



「諸々の事情がある故羨ましくはないが、それはそれとして私だって私だけがフィーネを救えるとかいう状況があったら這ってでも駆けつけたい」

「そうは言っても結局のところ、本当に彼女を救えるのは死んだクリスだけですしね」

「…言うな」



目線を落として、そしてリオンハルトに視線を向けながら気怠げに頬杖をつく。「行儀が悪いですよ」とリオンハルトが注意をすると、「お前しかいないのに行儀よくする意味があるか?」とため息を吐いた。



「私はな、これでもそれなりに弟が可愛かったのだ」

「それは…そうですね。私もです」

「小さい時は手を引いて歩いたし、あれに聞かせてやりたいとピアノを一生懸命頑張ってみたりもした。一部貴族とあの男の思惑から勉学が進まないと知った時は隠れて本や私の過去のノートを押し付けたりもしたよ」

「たまに唇を尖らせて、これくらいできるのに兄上は過保護では?なんて愚痴を言いに来ていましたよ」

「そうか」

「ええ」



沈む声。

思い出されるのは、幼少からの弟の姿。


王は言った。

「ライバルが居なくなってせいせいしたのではないか?」


とんでもない、と彼らに近い人物ほどそう思う。



「リオン、祖父上のところに行け。父上の許可は取らずにそうだな、家出とでもしておけ」

「クラウス、それは……」

「お前が出る頃には気にかける余裕がないくらいには騒ぎを起こしておいてやる。いいか、祖父上のところに行く際に中継地としてグレイヴ領を通れ。ギルバードには私が言っておく。……王都で何が起きようと絶対に戻ってくるな。例えば」



そのあとに続いた言葉に、リオンハルトは思わず彼の名を叫ぶ。

リオンハルトの目を見つめてクラウスは穏やかに微笑んでみせた。



「お前たちがどう思っているかは知らんが、それくらいの覚悟はあるよ。私はこれでも王太子だ。いいか、私が今からお前に任せるのはこの国にとって必要な事だ。それにまぁ、私は彼女の心を得る事以外で勝算のない勝負はしないよ」



要らないところばかりが似ている、とその笑顔の中にクリストファーを見つけた気分になる。

それならば、とリオンハルトは自分を落ち着かせるように息を吐いた。



「わかりました。けれど、それには魔力を補充させてもらいますよ。それとこれを」

「………魔力の補充はお前のそれにもしようと思っていたからいいとして、その不気味な人型は何だ」



それ、とブレスレットを指して言うリオンハルトに、彼が出した麦か何かで作ったであろう人形のようなものを指さした。



「クロイツとの共同研究の成果です」

「機能は何だ」

「秘密ですが、肌身離さず身につけてくださいね」

「この不気味な人形をか!?」



絶対に呪いの人形だろうと呟きながら、渋々といった形で懐に仕舞い込んだ。


そして、彼らは互いのブレスレットについた妖精石に魔力を足し始めた。

二人は、互いに防御力と攻撃力を補い合うために妖精石の交換を行なっていた。有事の際にそれは非常に役に立っている。

クリストファーにも学院入学時に揃いのものを渡す予定だった、とクラウスは思い出してその瞳に少し影が差す。


そして、それが終わるとクラウスはリオンハルトに書類を手渡して「頼んだ」と告げた。



「ええ、私の全てをかけて」

「馬鹿。お前は命なんてかけなくていい」



クラウスは兄の胸を少し強めに叩いて苦笑した。


クラウスが言ったのは「私に何があったとしても」。

ちなみにリオンがクラウスに渡した不気味な人形は藁人形です。釘みたいなのも刺さってる。

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