その茨が消えるまで 2
妻と子は領地に、預かっていたセレスティア帝国の二人は従者と共に別宅へと移動した。
アルヴィンはクラウスと一緒にいたところを水に飲み込まれて消えたというが、肩に乗るギルバードの妖精である大鷲が「セイレイオウサマ アルヴィン ホゴ」と断片的に伝えてきたところから、水の精霊王に呼ばれたのだろうと考えて害はないと考えている。
わざと門の警備を薄くして玄関に家の者を配置したギルバードは、騒ぎの大きくなり出した玄関の先に居る者たちに酷薄な笑みを見せた。
「やあ、随分と物騒なお客様だね?」
その笑みにお客様と称された彼らは身を竦ませた。
どうして、ここに。
怯える瞳がそう語る。
「どうしたんだい?あぁ…もしや私がいないと思って来たから緊張しているのかな」
柔らかな口調ではあるが、何故だろうか。
怒りを感じるそれに先頭に立つ男は一歩後退りした。
「だろうね、本当に彼は度し難い。私が可愛い娘を失うかもしれない瀬戸際で、どうするかにも思い至らない。お前たちが何をしたか、私が知らぬと思っている」
諭すような声音に、恐ろしいものを感じて逃げようとした男を先頭の男が怒鳴りつける前に氷で道を阻まれる。
そして、血が舞った。
先頭にいた男のみを残して、屋敷に押し入って来た男は絶命する。
「さて」
「我らは陛下の」
「陛下の、なんだい?まぁ、全部吐いてもらうけれどその前に…君にも落とし前はつけてもらわなくてはね?ハルヴィンくん」
最も容易く彼の足を払って首元に剣を突きつけてギルバードは笑った。
彼から感じる魔力の残り香に大鷲が不快感を示す。
「さて、あとは頼んでもいいかい。ライナルト」
「かしこまりました」
男の足を凍らせたギルバードは「これらは賊として処理をしておいてくれて構わない」と淡々と告げる。
実際に書状もなく、公爵家の娘を連れ出そうとしていた様子であるのだから賊に間違いはない。
予め用意していたであろう馬車に入り、御者に行き先を告げる。
執事長ライナルトと背後に控えていた水色の髪を持つ青年は男を見下ろして「さぁ、全て吐いていただきましょうか」と口角を上げて見せた。
その笑みに恐怖を覚えた男は怯えたように身を竦ませた。