凶報来たりて
私に、と何かの知らせが来た。
お父様とアルお兄様は別の使者からの知らせで真っ青な顔で城へ向かって行ったはずだし、王城関係者であればこちらには来ないのではと思ったりもした。けれど、なんだか胸騒ぎがしてお母様に「会わせてくださいませ」と告げる。
「お嬢様、顔色が良くありません。後日にして頂いては」
「いいえ。お願い、行かせて」
バベルにそう言われたけれど、これはきっと魔法の使いすぎもある。
リオン様に聞いた妖精石をはめ込んで結界を展開する魔道具をグレイヴ領にも設置したくて頑張った。私は魔力量が多いからうちの領地に行き渡らせることを考えるとたくさん作ればそれだけ危険が減る。…今回みたいに、クリス様が視察などという名目で駆り出される可能性もきっと減るだろう。
…そう。
そう。それだけを願ったの。
私は愚かで自分勝手なのだろう。恋した方が心配で心配で堪らなかったから、必死に頑張ったのだ。
お母様とバベルに付き添われて応接室に向かうと、クリス様の侍従…エドワルド・テイラー様が表情が抜け落ちたような顔で座っていた。
「急な訪問にもかかわらず、御目通りいただけた事、心より感謝いたしますグレイヴ公爵令嬢」
彼がいるのにあの方がここにいらっしゃらない理由を、自分の中で必死に探す。
まさか、と。
どうか杞憂であって、と。
そう思いながら震える手を握りしめる。
「あの方は、クリストファー殿下は……」
「その件で急ぎで参りました。単刀直入に申します。殿下は…あの方は民と周囲一帯の土地を守るために強敵と戦い、戦死されました」
言葉が理解できず、時が止まったような錯覚を受ける。足元から地面が急に消えてしまったような気すらする。
「フィン!」
「お嬢様!」
「続けて」
「無理よ。元々あまり体調が」
「いいえ、いいえ。続けてくださいませ」
聞かなくては。あの方が、クリス様が何を成したか。成せなかったか。
深く息を吐いて、彼は話し始めた。
クリス様の最期について。
そして、私が早々に逃げなければいけないということについて。
「殿下は、最期に…フィーネ嬢。あなたの末長い幸せをと言い残されました」
我慢していた涙がボロボロて瞳から溢れていく。
ああ。なんて酷い事。悲しいことをおっしゃるの。
私の幸せはあなたの笑顔だったのに。
「ありがとうございます。テイラー様」
「いいえ。クリストファー殿下をお守りする事ができず申し訳ございませんでした」
後悔を滲ませるテイラー様に首を横に振った。
私だって何もできなかったのだ。
私の贈ったアミュレットはクリス様を守ってはくれなかった。願いも祈りも、力がなければ届かない。
そこから何を話したかなんて覚えていない。
部屋に戻った私は崩れ落ちた。
「恋をしなければよかったのね」
そうすれば、あの方は死なずに済んだのかしら。
あの時、泣いて縋るべきだったのかしら。
そうすれば、遠くからでもあの方の幸せを見る事ができたのかしら。
「クリス様がいないのに…どうやって幸せになればいいの」
お母様とバベルが私を領地に送るという話をしているようだ。王から逃げなくてはいけないから。
私もクリス様の言葉を胸に頑張るべきなのだろう。わかっている。わかっているわ。
けれど。
「無理しないで」
「ベル」
「フィンの心は、ベルが守るわ」
泣きそうな顔のベルが私の額に口付ける。
ああ、どうしよう。
頑張らなきゃ、もっと頑張らなきゃいけないのに。
どうしようもなく眠い。
けれど、そうね夢の中でなら……。