表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/203

願い星 燃えて、流れて、そして 7




戦場となった街道に暴風と雷鳴、黒い炎と氷が散る。

その周囲は被害が広がらないようにとエドワルドが作った氷の壁に覆われている。



(下手に手を出せば、殿下を…クリスを逃すどころか足を引っ張ることになる。まずは周囲に誰も来ないようにしなくては)



伝達系の魔法は本来ならば風の魔法使いが得意とするところなのだけれど、とエドワルドが表情を歪める。


今の状況を急いで書いた手紙に風の妖精石を加工したペンは魔力を通すと鳥のような紋様を紙に刻む。そして、手紙は鳥の形を取って飛び立っていく。


誰が今ここに現れても確実にクリストファーの邪魔になるだろう。例外があるとすれば彼の二人の兄とグレイヴ家の兄弟だろうか。

唇を噛み締めてこれ以上の足手纏いがこちらに来ないように、あとは負傷時の光の魔法使いの確保を頼むのが精一杯だった。




初めは拮抗していたクリストファーとグノーシアであったが、剣を交え、魔法で攻撃し合ううちに、クリストファーの方の体力が先に限界へと近づいてくる。

それは体格差と種族の違いからそうなってくるのは当然であったといえる。


しかし、クリストファーが必死に戦ったおかげで周囲の民は避難ができており、多少破壊力のある魔法を使っても影響は最小限で収められる程度になっていた。



「せっかく全力で戦える環境が揃ったというのにお前も不運だな?最早満身創痍、私から逃げるだけの力もあるかどうか」



傷ついているとはいえ、グノーシアにはまだ余裕が見受けられた。

一方、クリストファーはグノーシアの言う通り限界も近く、フィーネの送った琥珀のピアスにももうあまり魔力が残っていなかった。

もし、アミュレットが盗まれることがなかったら戦線の離脱は可能だっただろう。光の魔法は心身の回復を主なものとしているし、フィーネはそれに特化していた。


しかし、現在の彼にそれはない。

ピアスに付与していた魔力はこの場で戦うために使い切る寸前。



(帰らないと、いけないのに…!!)



クリストファーの噛んだ唇の端から血が流れる。

まだ諦めない、と立ち上がってグノーシアをキッと睨みつける。それを見て楽しそうにグノーシアは笑った。



「気が変わった」



突如訪れた衝撃にクリストファーは倒れた。エドワルドも何が起こったか分からないまま目を大きく見開いた。



「あれの言う通り、苦しめて見せしめにしてやろうかと思っていたが、私をここまで楽しませた戦士にこれ以上の苦痛を与えるのは私の矜持に反する」



腹部から夥しく流れる血。それでも折れたレイピアをもう一度握り直そうとするクリストファー。



「せめて楽に殺してやろう」



優しい声音で響いたその言葉にエドワルドはクリストファーの代わりになろうと足を踏み出そうとした。だが、目の前に一瞬だけ壁ができる。



「クリス!!!」



彼の目に映ったのは、今まで一緒に育ってきた乳兄弟が剣に貫かれた姿だった。

絶望のあまり目の前が真っ暗になる感覚を覚える。



(ただで終わって…、なる、もの…か!)



死を覚悟した少年は最後の最後に、未来に彼に対峙するであろう兄達を信じて、その腕に折れたレイピアを突き刺した。



「今際の際まで敵意を失わないとは見事だ」



感極まったような表情でグノーシアは告げる。

刺された傷口に残った風の妖精石の欠片のことなんて気にした様子はなかった。



(せめて……フィー。君に未来を)



血と共に意識が薄れていく。

それでも願いはその魂の中に刻まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ