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願い星 燃えて、流れて、そして 4



クリストファー達が国境から移動を始めた頃、グリンディア侯爵領の特に魔物が多いとされる場所にある豪奢な屋敷にて真紅のドレスを纏った女性が楽しそうに笑っていた。


肌の露出が多いそのドレスは豊満な胸を際立たせ、すらりとした脚をより美しく見せる。

ただ、その姿を見た貴族男性はきっと彼女を高位貴族の令嬢であったとは思わないだろう。この国の高位の貴族令嬢はそのようにはしたないと思われる格好はしないからだ。


淫靡な雰囲気を纏う彼女は少女から女へと羽化していく年頃だ。



「エメルダ、我が妃よ。随分と楽しそうだな?」



エメルダ。

彼女をそう呼んだ青年は微笑ましげに彼女を見つめる。だがその瞳の奥には冷たい光が見える。



「あら、グノーシア様。今日はお早いお帰りですのね?」

「ああ。君が望む故、君の指定の場所を滅ぼしてきたがそこまで楽しいものではなかったのでな」

「まぁ!わたくしのお願いをもう叶えてくださったの?ふふ、ふふふ」



鈴の鳴るような美しい声は魅惑するような響きを持つが、グノーシアと呼ばれた青年は口角を上げる程度の反応である。


青年は銀の髪に紫水晶のような紫色の瞳、褐色の肌を持つどことなく優美な印象を持たせる。


彼の名は「グノーシア」。

人ではない故に姓はなく、身に纏う魔力は黒色。人間がおおよそ持つはずがないその魔力は魔物を創造し、服従させる。

彼こそが自然が生んだ魔の王である。



「君の魔力が染まり切った祝いだからね」



ある夏に、彼はエメルダのいた修道院に一つの宝石を置いた。

美しく輝くそれは黒い魔力の塊だった。──妖精石。そう呼ばれる石と似ていた。

その石は彼女の体に数日をかけて徐々に取り込まれていき、結果として彼女は魔王妃に相応しく禁忌の力を手にすることとなった。



「しかし、あれは君の故郷だったのではないか?」

「わたくしのものにならない場所に価値はあって?」



本気で不思議そうな声でエメルダは可愛らしく首を傾げた。どこまでも自分勝手な言葉に、グノーシアは「それこそ我が妻である」と満足そうな顔をした。


グノーシアは偶然見つけた少女の純粋な悪を見染めたのだ。だから、彼女の妖精をまず黒く染め、彼女自身を手に入れた。

魔を率いる者として相応の悪辣さと醜悪さを持つエメルダをグノーシアは殊更に気に入っている。

魔族の雄を侍らせ世話をさせているのも別に構わなかった。色欲だって大罪の一つであるのだから。



「ねぇ、グノーシア様。わたくし、あの小娘をとーっても苦しませる方法を思いついたの」

「ああ、あの光の。構わないよ。君の望みを叶えよう、我が妃」



戦場を、子ウサギのように怯えながら走り回っていた少女を思い出して、彼は優しげにエメルダへ微笑んだ。


光の妖精王。

かつて、忌々しくもグノーシア達を封じ込めていたその「片割れ」。


エメルダの願いを叶えることで、あの不快な存在にも傷をつけられるとグノーシアはほくそ笑む。



──やはり君は素晴らしい。



確実にあの少女の心を蝕むであろう事象をエメルダは楽しそうにグノーシアに話す。

無邪気に、何を犠牲にしてもただ一人の不幸を心から悦びながら醜悪な企みを口に出す少女の、なんと美しいことか。



「では、わたくしのお願いを叶えてくれるのね?」

「問題ない」



少年を一人片付ける程度訳がないと囁いて、グノーシアはエメルダへ口付けた。

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