願い星 燃えて、流れて、そして 3
クリストファー一行が仕様書通りに発動させた魔道具は徐々に魔物たちを減らしていった。
成果が目に見えて分かるくらいになると、クリストファーに同行した者たちや国境近くに居を構える民、この地を治める辺境伯から認められるようになってくる。
(リオン兄上が託してくださった魔道具のおかげでもあるけれど、少しホッとするな)
認められないまま任務を遂行する事は非常に困難だっただろう。リオンハルトからの頼み事がクリストファーの他者とのコミュニケーションを円滑にさせていた。
やがて、王から与えられた使命を果たすと共にクリストファーは辺境地の者たちや同行した者たちに認められる。
リディア王国の第三王子は、民を思い、国を思う高潔な青年である、と。
クリストファーは雪積もる厳しい冬をそこで過ごし、その間民のためにと兄が用意した魔道具を設置して回った。
そして、春が来ると彼らは王都への帰路に着くこととなる。
「やっとですね、殿下」
「うん。やっと…彼女に、フィーに会える」
耳にある飾りに触れて愛おしげに微笑む彼をエドワルドは微笑ましげに眺める。
この冬の辺境地では、手紙が届きにくいのはもちろん、王都の情報が入り辛い。
彼らは、各々の実力とフィーネが託したアミュレットに守られていたがこの地に滞在することは危険も大きく、魔物が多いこの土地は国内でも分断された土地のようになっていた。
「愛想を尽かされてないといいですね」
「そういう事をいうのはやめてくれ。少し心配になってしまう」
気心の知れた間柄であるが故の軽口に不貞腐れたように返事をしたクリストファーは年頃の少年のようだった。
胸元に入れてあるアミュレットは温かな魔力をクリストファーに伝えてくる。
それがフィーネの願いと祈りである事をクリストファーは理解していた。
遠くからでも感じる思い人の願いは温かくもこそばゆい。
「王都に帰れば、誰にも文句を言わせず彼女の婚約者になれる」
そして、春になれば「クリスティナ」ではなく「第三王子クリストファー」として学院に通う事だってできる。
スキップ制度を利用すればフィーネと同じ学年で勉強することも不可能というわけではない。
年は確かに下であるけれど、誰にも邪魔されず自分にとって唯一無二の人を守る権利が与えられる。
「早く彼女の顔が見たいな」
クリストファーは王都の方角を見ながらそう呟いた。
この時の彼らは警戒は怠っていなかったが、この後に人智を超える邪悪に遭遇するだなんて思ってはいなかった。