ただ一時と離した手
クリス様は一気に忙しくなってしまったのでせめても、とアミュレットを作成する。
丁寧に、願いを込めて。
しっかりと魔力を込める。
クリス様が無事に帰って来てくださる事だけを必死に願って。
合間に顔を見せてくださるけれど、私に対しては明るい話題だけを選んで話している節がある。城でのあれこれは今はお父様とアルお兄様からお聞きしている。
きっと、私を不安にさせないようにという配慮だろう。
だから、クリス様の前ではあくまでも笑顔でい続けることにした。
「フィーは、やることが決まると一気に落ち着くよね」
「まぁ。そんなことはありませんわ」
クリス様に苦笑をすると、「ううん。覚悟を決めてくれたのが分かるよ」と真剣な眼差しをなさる。その瞳に弱いのだ。
「わたくしもできることをする、そう決めただけですわ」
「なんだか心強いよ」
そう言ってくださるのは嬉しいけれど、これはただ単に気持ちを隠して微笑むことに少しだけ慣れてしまっただけ。
クリス様に近づいて、隣へと移動する。その手を取ると、自分より大きな手のひらに殿方なのだなぁ、と少しだけ感心してしまった。
「フィーネが積極的なのは珍しいね」
不思議そうに首を傾げるクリス様に、優しく微笑んで、バベルの名を呼んだ。
返事をして、箱を持参した彼から受け取る。
「これを、どうか受け取ってくださいませ」
受け取った箱を開いたクリス様は、私が作ったアミュレットを見て驚いたような顔する。ついた石は私が作った妖精石だ。琥珀のようなそれは全てが妖精石になっていて、治癒と結界の力を持つ。
「……随分とまぁ無茶をしたね」
「それほどではございませんわ。だって、いざという時のために作り貯めていたものも多いのですもの」
「受け取っても、いいの?」
「はい」
アミュレットを持つその両手を自分の手で覆う。
「わたくし自身はここを動けません。けれど、わたくしのできうる限りの力で、貴方様のお役に立ちとうございます」
恋なんて、あまり覚えのない感情だった。
だからこそ、失うとどうなるか、私自身が壊れてしまわないか。
貴方の笑顔を追いかけて、黄泉路まで行ってしまわないか。
不安が多い。
「では、貴方の心と共に行くよ」
そう微笑んだクリス様は私の額に唇を落とす。
そして、この数日後にクリス様は旅立つことになった。