悪意が動く
予想に反して、三男があのグレイヴ家の娘と近づいているらしい。
報告書を読みながらパーシヴァル・リディアはつまらないというように鼻を鳴らした。
フィーネ・グレイヴ。
ギルバードの末娘。
一番凡庸な容姿ながら、優秀な兄姉と比べても随一の魔力量とそれを扱う力を持った少女。
戦場となった場所に放り込めば、震えながらそれでも他者のために動き続けた。あれは自分以上に他者のためにこそ力を発揮できるタイプである。
パーシヴァルは理解できないその人間の性質を、必要ないものと断じながらもほくそ笑んだ。
で、あれば。
そうであれば、その一番助けたい他者をこちらで用意できれば優秀な魔法使いは決して逃げる事ができず、命尽きるまで尽くすだろう。その身を犠牲にしても。
あのギルバードの娘だ。
そう考えるとそのまま息子達に与えるのも勿体ない。
野に咲く花のような愛らしさを持つ少女を組み伏せて、力付くで奪い尽くし、孕ませ、壊れない程度に使役する。
そうなった時のギルバードの顔はきっと見ものだろう。
愛娘が一番嫌いな男に奪われた時。あの自分以上に完璧だと、国のために必要だと言われた男がどんなふうにその表情を歪めるだろう。
想像しただけで胸が高鳴った。
城にさえ連れてきてしまえばどうとでもなるが、どうするか。
そう考えたパーシヴァルは、何か思いついたようにある書類を手に取った。
「まぁ、アレでなければいけない理由はこちらにはないわけだしな」
何にせよ該当の人物が少女を正式に得るためには、国にとって、そしてギルバードにとって相応の力を示さなければならない。
他国に妖精の愛で子を取られるのは痛手であるし、そうでなくともフィーネという少女を欲しがる人物や団体は多い。
黒い噂を持つものなら尚更である。
だからこそフィーネを守れるだけの力量と覚悟を示してもらわなければならない。
それが息子にとって今はまだ荷が重い仕事でも、できなければその資格はないだろう。
「どうなっても、己を守れるだけの力をつけさせる事ができなかったアレらのせいでもあろうさ」
息子がいなくなればあの少女はどうなるだろうか、と思案するが、他国に渡らないのであれば壊れたって構いはしない。
優秀な次代を産む道具になってさえくれれば、貴族令嬢として及第点をやってもいいだろうと嗤う。
例えば、無様にも失敗したとして。
葬式でもなんでもここに呼び寄せられる事ができれば、その死はパーシヴァルの役に立つ。
「クリストファーを呼び出せ」
側仕えに命じて、彼は愉悦に満ちた顔を作った。
どう転んだとしても、自分が今より困ることなんてないのだというように。