仲が良い兄弟でライバル
「ごめんね。怖がらせたかったわけではないのだけれど」
そう言ってクリス様は俯いた私の髪を耳にかけて視線を合わせてきた。突然目の前に現れたクリス様の顔に驚いて変な声が出た。
それに笑うクリス様に「酷いですわ!」と主張すると、彼はいつも通りの小悪魔染みた笑みを作った。
「クリス。あまりフィーネを揶揄うものではないよ」
「羨ましいと素直に仰れば良いのに」
「おい」
ふふ、とクラウス殿下を揶揄うようにクリス様が笑う。それを聞いて揶揄われたと察したクラウス殿下が眉を下げて「お前なぁ」と言う。ああ、お兄さんなんだなぁ、と思うような優しい声音だった。
思わずくすりとすると、気恥ずかしげに咳払いをした。私が知らないだけで、カッコいいだけでなく可愛らしいところもお有りらしい。
「すまない。情けないところを見せた」
「いえ」
殿方に可愛らしい、はいけないかしらと思って言葉を濁した。
そっと目を逸らすクラウス殿下に、「そもそも僕たちは口説いてくるという口実でここにいるのですから間違いではないのに」とクリス様はクラウス殿下を見ながら言う。
「今は選ぶよりこの家から出ない方がいいと思うがな」
「それはそうだけど」
和やかな雰囲気になった二人を見ていると、少しほっとする。
ゲームでの二人はそんなに仲が良くなかったのだ。要するに、俺様と小悪魔系でソリが合わなかったというやつなのかもしれない。
それを言うとリオン様死んでたかもなのでちょっと何とも言い辛いのですけど。
「それでも、近々君には誰かを選んで欲しい。それが私ならばこの上のない幸せだけれど」
「兄上ってちょいちょい抜け目なく自分の宣伝しますよねぇ」
「知らん間に私たちよりも仲良くなっていたお前に言われる筋合いはないぞ、クリス」
ちょっとだけ、たしかにって思ってしまった。
「ヤダなぁ。下の子ってそういうものでしょう?ね、フィー」
「わたくしを巻き込まないでくださいまし」
「拗ねた君も可愛いよ」
「空気を吸うように口説くな」
「兄上もこのくらい頑張れば良いのです」
楽しそうな二人の様子にほんの少しだけの平穏な日を謳歌した。
帰り際、クリス様に箱を渡されて部屋で開く。
「ピアス……?」
石はエメラルド。シンプルなデザインなので使い勝手が良さそう。
ベルが「風の魔力がたっくさん入ってるわ!」と嬉しそうにはしゃぐ。
「もしかして、お礼のお礼?」
無限ループしそうですけど、これのお礼っているのかしら。
お父様に聞こう。