消えない不安
最近、お父様たちがこっそり何かをやっているみたい。私はあんまり関わらせていただけないけれど、貴族の政治に関することは私の領分ではないらしいので仕方ないだろう。
私も既に結婚して社交で飛び回ってたりすれば少しくらいお役に立てたかもしれないけれど、今回に関しては守られる立場だ。
将来的に私がお母様のような立場になった時に、私は自分の家族を守れるのかしら。
そんなことを考えながら、お母様とリリィお姉様の言うことを聞いておとなしくしている。
リリィお姉様はセレスティアにあるシュヴァルツ公爵領に魔物が増えてしまったことから妊娠していることもあってこちらに疎開してきた。
そうしたら私が王家に狙われててすごく心配したらしい。申し訳ない。
リオン様やクラウス殿下からも手紙や近況報告が来るのだけれどいかんせん、緊急の要件となるとクリス様から送られてくるセシルが運ぶ手紙の方が早い。
おかげで進められている計画もあるらしいのでありがたくはあるけれど、目をつけられていないかが非常に心配だ。
セシルは「そんなに簡単にドジはふまねぇよ」と笑っていたけれど、どうにも不安感が消えないのだ。
そんな言葉を漏らすと、「気をつけるように言っとくわ」と言ってくれた。
「お願いね」
「わかったわかった。んじゃ、またな!ベル」
ベルの頭を乱暴に撫でてセシルは飛び立った。
「もう!ぐちゃぐちゃになっちゃったじゃないの!」
ぷくっと頬を膨らませるベルに笑みが漏れる。おいで、と膝を叩くと嬉しそうな顔でやってきた。
妖精に小物を贈る、というのはあまり聞かない話ではあるけれど、私の場合は趣味で小物を作って贈っている。
小さな櫛で丁寧に髪をすくと、ベルはお気に入りのレースのリボンを差し出してきた。
ドアをノックする音が聞こえて、返事をするとローズお姉様が顔を出した。ベルの様子を見て苦笑して「先にそちらからどうぞ」と言われたのでお礼を言ってベルからリボンを受け取った。
髪と一緒に編み込んであげると、鏡を見て大はしゃぎしていた。
「フィンは細かい作業が得意よね」
羨ましいわ、とお姉様が言う。
そして、何かを迷うように視線を彷徨わせ、やがて私の目を見て微笑んだ。
「フィン」
「何でしょうか、お姉様」
「わたくし、婚姻が早まることになりました。式は後になりますが、早々にクロ様の領地へ参ります」
ミーシャさんの事があったからか、現在の政情からか。
今は婚姻を早めて領地に子息子女を返してしまう貴族が急増していた。
「おめでとうございます、ローズお姉様。けれど……寂しいですわね」
「ありがとう、フィン。わたくしもあなたと離れるのは寂しいわ。けれど、きっとそう長くこのような状況は打破されると信じています。……あなたの幸せを願っているわ。いつでも、どんなところでも」
そう言ってくれたお姉様はまるで女神のように美しかった。