統治者の憂鬱
「な、なんだこれわーーーーーっ!」
朝、目を覚ますとすぐさま箱を覗き込んだ俺は、思わず大声をあげてしまった。
「なになに?どーしたの?」
「ってヒナ!お前どーしてここにいる?!」
声に驚いて振り向くと眼前に妹……ヒナの顔があった。
「あら、おにいに……忘れちゃったの?いっしょに過ごした昨日の夜のことを……」
「って、なんの話だ!昨日お前が顔に落書きしたことは忘れてねーぞ!」
「あれれ?しーらないっと~」
「おま!」
「つかお兄ちゃん。ガッコ、遅れるよ?」
「はっ や、ヤバイ~~~~~」
いや、学校に遅れることがヤバイのではない。自慢じゃあないが遅刻がヤバイなんて思ったこともない。
なに?少しは思えって?そんな話は今はいい。今、ヤバイのは……
「で?なに?そのメガネは!」
「や、は」
そう、メガネと……箱をヒナに見られたことだ……
「スチームパンク?そんな趣味あったっけ?」
「え?スチームアイロン?」
「ガクッ やっぱね やっぱそんな趣味、おにーににはないよね?じゃ、なんで?」
「い、いやあ、なんかさ……いいかなあーって思ってさ、スチームなんとか」
「そう……まあいいわ 私朝練だし~行くし~一人で行くし~見送りなんていらないし~」
「わ、わかったわかった、見送るから」
なぜか、ヒナはメガネのことはつっこんだが、箱のことは何も言わなかった。俺から言う必要もなかったから、黙ってヒナを見送ってやった。
「つか、アニキの見送りなんていらねーだろ、中二にもなって」
と、思わずつぶやくと……
「なんか言った?なんか言ったよね?おにーに???」
「い、いえ言ってません。行ってらっしゃーいって言っただけです」
ヒナは地獄耳だった。
「ふぅ~~やっと嵐が去った……って、はっ!」
俺はまたつぶやくとすかさず周囲を見渡した。もはやある意味、妹恐怖症だ。
「それじゃあ、今日こそ病院に行くのよ?」
母親は無頓着に俺を一人残しまた出かけてしまった。
まあ、今日も具合が悪い、と、俺が言ったからではあるが……しかし……
「そうだ……なんでこんなことになってる????」
俺は部屋に戻ると、メガネをかけ、箱を覗き込んだ……
ーーーーーーーーーーーーーー
【アルカディア庭】
ーーーーーーーーーーーーーー
領 主:不在
候補者::ウツギ ハルト(lv:1)
名 声:★
資 金:48,963
食 料:12,658
箱民数:3,263人
箱娘数:5人
ーーーーーーーーーーーーーー
「箱民数……減ってんるじゃん……てかいろいろ減ってる????」
そうだ……昨日一日かけたはずが、増えるどころか減り続けている。唯一増えたのは資金ぐらいだ。
「そ、その他は……っと……」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイテムが届いています……】
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、アイテム!も、もしかして!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイテムが届いています】
ーーーーーーーーーーーーーーーー
*森から【牧草】が取れました。
*森から【木材】が取れました。
*荒地から【石】が取れました。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「な、なんだよ……そんなもんばっか……どうすれば……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★アイテムが作れます。何を作りますか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【農工具】 or 【武器】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「な、なるほど……アイテムを作る材料ってことか……【農工具】はわかるけど……【武器】ってなんだ???ま、まあよくわかんないけど……あの少女たち、戦ってたもんな……ってことで【武器】っと……」
--- ハルト……は、【木の弓】と【石の矢】を作りました ---
「なるほどなるほど……あとは~?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*箱民が【錆びた鎧】を発掘しました。
*箱民が【痩せこけた山羊】を捕まえました。
*箱民が【古い指輪】を見つけました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★どれを献上品として受け取りますか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほほう、こうやって特別なアイテムが見つかることがあるのか……」
しかし……今回は……ぜんぶダメっぽいなあ~武器作ったから、鎧ってのはアリだと思うけど……錆びたってのがなあ、錆びって取れないもんね。で、食糧ってことで……山羊もいいかもしれないんだが……痩せこけてるもんなあ~乳もとれなさそ……とすると指輪?しかし古いってのが………いや待てよ……アクセサリーの場合、古いモノのほうが価値があるって可能性が……あるのかな?ないか?いやいやいや……
「ま、まあ【古い指輪】でいいか……」
--- ハルト……は、【古い指輪】を手に入れました ---
「指輪かあ~、これって贈り物とかになるのかなあ」
誰に送ろう?なんて妄想しかけたとき
--- チロリ~ン ---
と、安っぽいチャイムがなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【箱民からメッセージが届いています……】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ま、またか……これ……あれだろ?どうせ飯がねーとか、金がねーとかだろ?嫌だなあ~こういう不平不満を聞くのが領主の仕事なのか?だったら……俺、やりたくないかも……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【箱民からメッセージが届いています】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*食料が足りません。ファームの増強をお願いします。
★このままでは人口が減少します。
*北の洞窟にモンスターが出現しました。【討伐】してください。
★このままでは人口が減少します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほら!やっぱり食糧難だ、箱庭世界はいつだって食糧問題だよ!……って……なんか増えてる???モ、モンスター?討伐???」
正直、開墾とか建設の作業は飽きていた。だから、このモンスター討伐というのに惹かれた………が……
「選べない!【討伐】が選べないぞ?おーいジル!ジルぅ~~~~」
”……………”
「ジル~ジルジルジル~~~~ルールールール~」
”あのお……私、ペットとかじゃあないんですけれど?”
「おお!いたいたいた!ジル!」
”いますけれど……なんでしょう?”
「これだよこれ!【討伐】が選べないよ!」
”はあ……まあ、そうでしょうねえ~【討伐】は箱娘さんたちが行いますのでえ”
「ハコムス?そ、そういえば庭のパラメータにあったな~あれのことか!」
”ハイ……ですので、箱娘さんたちに依頼できる状態じゃないと、【討伐】は行えません”
「な、なるほど……で?どうすれば依頼できるんだ?」
”それはもう会話ができるようになれば……ということですねハイ”
「え?それじゃあループじゃないか!俺はあの少女たち……箱娘と話がしたいからやってるってのに、そのためには開拓、開発、アイテム、だのに進めるには会話が必要だなんて!」
”しょうがない人ですねえ~~~”
「そ、そんなこと言ったって……」
”エイッ!……ハイ、これで会話できるようになりました”
「え?」
”10億ゴルドです”
「ええええええーーーーっ無理無理無理無理」
”嘘です”
「な、なんだよ。結局嘘なのかよ!」
”まー、話せるようにはなってるはずですよ。候補者レベルが1になっていますので”
「え?マジで?」
”ハイ……箱娘ギルドを覗けば【箱入】できるでしょう”
「箱入り???」
”ハイ、箱庭世界に外界人が入ることを【箱入】と呼ぶのです”
「おお!そうか!そうなのか!!!じゃ、じゃあさっそく……」
”ただし……条件があります”
「じょ、条件?」
”今のところ……行ける時間は3分、それを超えると二度と戻れませんので、目覚ましをセットしてからどーぞ。それでは、よき箱庭生活を~”
「目覚まし?な、なんで????てか3分って……あれだな」
俺は不安に思いながらもジルの言う通り……いや、ここは慎重に2分45秒後にタイマーをセットして【箱娘ギルド】に向かうことした。
【箱娘ギルド】、その場所自体は昨日見つけてあった。