箱庭世界
「……しょうがない……覗いてみるか……」
”声”が消えたあと、しばらく箱を眺めていたが反応がなかった。だから仕方なくメガネをかけてみた。
「え?」
箱の中の町の模型のような部分をじぃーーーーーーーっと見ていると、映像はどんどん拡大していき、ついにそれをみつけた。
「ひ……人?人がいる???っていうかこれは!」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・」
あ、あの少女達だ。夢で見た少女達がそこに居た。
しかし……
「声が聴こえないぞ?」
そうだ。メガネのおかげなのだろう、姿は見える。しかしその声は虫の鳴き声のように小さく、何を言ってるのか分からなかった。
「お、おい!箱!こ、声が聴こえないぞ!おい!箱!箱!箱!箱!箱!箱!」
思わず俺は叫んでいた。
”えっとー……お呼びですか?”
「呼んだよ!呼んだだろ?さんざん呼んでるだろー!」
”んーーーー私、ハコさんって名前じゃないのですが~”
「そ、そんなことどーでもいいだろう!」
”どーでもいい?本当ですか?じゃあハルトさんは、ハラクダリとかハラオドリとか、オタンコナスとか呼ばれても良いですね?”
「い、いやあ……それは……よくない。ご……ゴメン」
”ハルトさんは素直ですね。ワタシの名前は……ジル……です”
「ジル……か……ジル……さん」
”敬称は略でお願いします。単にジルで”
「あ、ああ……じゃ、じゃあジル……こ、この子達の声を聴くにはどうしたらいいんだ?」
”課金ですね”
「え?マジ」
”まあ、半分は本当、半分は嘘……そんなところです”
「も、もう少し分かるように教えてくれよ」
”そおですねえ~では少しだけ……領主様候補となったハルトさんは、領主様に就任できるようこの箱庭世界を発展させなければなりません。そして箱庭世界を発展させるには、いくつか方法があります。おもな方法としては、荒れ地などを開拓したり、建物を建造したりして町を発展させることです。するとアイテムが得られます。そしてそのアイテムの中には箱民達の声を視聴できるようになるアイテムがあるのです……”
「ハコミン?」
”箱庭世界の住人達のことです”
「な、なるほど……」
”ちなみに、夢見がちなハルトさんが見たという少女達は箱娘ですね。それでは、よき箱庭生活を~”
「え?や?はっ!い、いやいやいや、ちょっとまってよジル!」
”なんでしょう課金しますか?”
「いや、しないけど……てか課金したらすぐ箱娘さんと話せるアイテム手に入るの?」
”まあ手に入りますけど……今は……ムリでしょうね”
「な、なんで?」
”レベルゼロだと10億くらいするからです”
「え?」
”課金しますか?”
「い、いや……」
”ですよね、では、よき箱庭生活を~”
「いやいやいや、課金の件はわかったけど、荒れ地を開拓とかそーいうのどーやるの?」
”あ………説明、してませんでしたか?”
「う、うん……してませんでしたよ」
”それはそれは失礼つかまつりました。メガネです”
「メガネ?」
”ハイ。メガネの右のレンズフレームにあるレバーを下ろして箱庭世界を見ればメニューが表示されるはずです。それは人間にとって理解しやすいように箱庭世界の状況を数値化したものです。それを操作してください”
「あ、ああ……これか!」
”いえ、それは……違います。ハルトさん自身から見て右の目の2番めの……そうそう……赤いレバーです”
「ああ……な、なるほど……」
”それでは、よき箱庭生活を~”
なるほど、その状態で箱庭を覗き込めば、そこにはさまざまな数値が表示されていた。
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【アルカディア庭】
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領 主:不在
候補者::ウツギ ハルト(lv:0)
名 声:★☆
資 金:18,265
食 料:35,932
箱民数:4,826人
箱娘数:5人
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箱娘数は……そうだ5人居た……
そして……
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【箱民からメッセージが届いています……】
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「ん?メッセージ?てか、これどーやって内容見るんだ?こうか?こうかな?」
俺はメガネに浮かぶ文字を押すような動作をした。
「お?ビンゴーかな?」
するともう一つウインドウが展開した。
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【箱民からメッセージが届いています】
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*食料が足りません。ファームの増強をお願いします。
★このままでは人口が減少します。
*資金が足りません。ファクトリーの増強をお願いします。
★このままでは人口が減少します。
*平地が無くなりました。開墾してください。
★このままでは施設の建設ができません。
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「ええと……んんっと……ど、どうすればいいんだ?なんかいろいろダメな感じじゃないのコレ?」
その後、俺は手探りでなんとか開墾を行った……というか、指示を出すことに成功した。
最初のメニューの下の方に【開墾】という項目があり、それをタッチ、しばらくすると【1ブロックの開墾が終了しました】と出る。すると新たなメニューがふたつ現れる。【ファーム建設】、【ファクトリー建設】だ。最初は食料がないと死ぬのだろうと【ファーム建設】を実行したが、資金が一気に消えてしまった。そこで次は主に【開墾】→【ファクトリー建設】、【開墾】→【ファクトリー建設】、【開墾】→【ファクトリー建設】と実行していき、ときどき【開墾】→【ファーム建設】をしていった。
途中、なんで俺はこんなことをしているんだろう?という疑問もわいてきたが、あの少女たちにもう一度会いたい。声が聴きたい。その一心でその作業を繰り返した。
「ふ、ふう~~~今日は……こんなところか?資金が底をついたし……」
窓の外を見れば、もう陽も傾きかかっていた。俺は昼飯も食べずにずっと作業していたようで、うつらうつらと居眠りをしていた。
……………
…………
……
…
「おっにぃちゃーーーーん!愛しの妹が帰ってきたぞーーーーいっ ほい!お出迎えは?ナッシング???ってあれ?寝てんのかーい」
ヒナは、ハルトの返事がないと分かると、いつものようにドアを勢いよく開ける……ことはせず、そおっと部屋に入ってきた。
「ん?ほほう……なるほどねえ……どれどれ……」
ハルトの顔を覗き込むと、やがて静かにヒナは部屋を出て行った。
「だーーーーーっ!ヒナ!お前か!また顔に落書きしたのは!!!!!」
その後、ヒナのいたずらにハルトが気が付いたのは夕食の後、風呂に入るときだったという。
「っていうか母さん……夕食のとき、教えてくれでもいいだろう?」
そう言ったとか言わなかったとか……
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
声がする……
どこか……遠くで……
「……もしかしてさ……」
「うんうんっ」
「現在絶賛開拓中になってたりする????」
「その可能性は高いですね」
「おお~~~やったね!」
「で、でも……」
「ええ……ちょっとこの感じだと……」
「間に合わないの?」
「お終いですね。終了ですね。死ねば……」
「ちょっとクロエさんは黙ってください」
「…………………」
「開拓がはじまったということは……見られる可能性がありますので」
「あ……」
「もう少し……明るく……楽しく……ふるまいましょう」
「イエッサー!ウチ、そーいうの得意だしーーー」
「メルルは頭ないもんね」
「あ、またエリたん、そんなこと言う~~~~ぶーぶー」
「だーかーらー!仲良く!仲良くしてください!」
「は…はい……」