第一話-謎-
ホームルームを終え、みんなは一斉に一時間目の授業の準備をし始めた。一時間目は現代文の授業だ。現代文の授業はどうも眠くなってしまう。長ったらしく文を読まれるのが嫌いなのだろう、体が拒否反応を起こすようだ。そして今日の授業も開始数分後にはすっかり夢の世界に落ちたようだ。
「────。…い。…め…さい。」
誰か喋っている。しかし声がはっきり聞こえない。
「…い。…め…さい。」
何を言っているのか。誰が、何を言っているのか、分からない。しかしそれは少しずつ聞こえるようになってきた。
「…さい。…めん…さい。…めんなさい。ごめんなさい。」
「ごめんなさい」を誰が誰に言ってるのか。そして視界がはっきりしてきた頃、その人物を見て驚愕とした。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
そこにいた人物は、三上大貴、自分だった。俺は誰かに謝り続けていた。顔は真っ青で、まるで生気を感じない。
「ま、待ってくれ。俺は…お前は、誰に謝ってるんだ。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「やめろ!それ以上言うな。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
止むことなく謝り続ける自分にイライラしていると、次第にもう一人の自分が少しずつ消えて行くのを見た。
「お、おい、どうした俺。おい!」
「────…い。…きろ。おい!起きろ三上!」
「…!!は、はいぃ!」
「後ろの席だからって寝ていいわけじゃないんだぞ。」
「ご、ごめんなさい。」
周りでみんなはクスクス笑っていた。夢を見ていたようだ。一気に注目の的になった。とても恥ずかしい。
「いい夢見たか?…顔が酷いぞ。洗ってこいよ。」
と、前の席に座る松本将司に言われ、「授業終わったらな。」と一言返した。
それにしても気分の悪い夢だった。何らかの予兆じゃなければいいのだが。
ふと窓の向こうを見てみると、さっきまで晴れていた空は嘘かのように曇っていた。
その後授業はさらっと終わり、俺は顔を洗いに教室を出た。
3分程経ち、教室に戻ると、俺の机の上に小さい紙切れが一枚置いてあった。折り紙を二回折ってできる四つの正方形の一部程の大きさだ。そしてそこには大きな字で「和」と書いてあった。
「『和』?何だこれ。」
不思議そうに手に取ると、後ろの席の水瀬夏樹がトントンと肩を叩き、一枚の紙切れを見せてきた。彼の紙切れには「ニ」と書いてあった。
「水瀬も似たようなものを貰ったのか。」
「うん。」と言うように、彼は首を縦に振った。
次第に周りもざわざわしてきた。どうやらみんな手元に持ってるらしい。いつ、誰が、どうやって配ったのか、俺はもちろん、クラスメイト全員が知らない。また、謎の字は漢字だけではなかった。後ろの方でお喋りをしていた小此木さんは「キ」、桜本さんは「ス」。そもそも水瀬の「ニ」はカタカナなのか漢数字なのか曖昧なところだ。これは何を意味してるのだろうかと考えていると、今年学級委員になった一ノ瀬麗奈が動いた。
「みんな、ちょっと聞いてもらえる?この紙に書かれた字は、もしかしたらみんなの字と繋がってるかもしれないわ。五十嵐さんは『コ』、泉野さんは『ト』、私は『ノ』、遠藤君は『ハ』。続けて読むと『コトノハ』、『言ノ葉』よ。これは何らかのメッセージかもしれないわ。」
流石は学級委員だ。彼女はきっと頭が良いに違いない、と思った。
彼女の指示により、一人ずつ紙を黒板に貼り始めた。幸いにも、二時間目の古文を担当する先生が休みで自習になったので、この一時間はこの謎解きをすることになりそうだ。
黒板に並べられた字を読み上げると、謎はより一層深まった。