序章-幸-
それはある春の月の、晴々とした日の事だった。
第一志望の高校に無事合格した俺は、高校生活を楽しく送っている。まだ入学してから一週間しか経っていないというのに、クラスはとても賑やかで、まだ自分は中学時代のクラスメイトと一緒に過ごしているのではないかと錯覚してしまうくらいだ。
俺は三上大貴。久岡高校一年一組。趣味はバスケで中学からずっとバスケ部に所属していた。久岡高校でもバスケ部に入部した。これからの学校生活に胸を高鳴らせている。
「よう、おはよう大貴。」
名前を呼ばれて振り返ると、同じクラスの山下充だった。俺と充は小学生からの付き合いで、今でも信頼出来る親友だ。高校に入ってから髪を茶髪に染めていて、遠くからでもよく目立つ男だ。容姿も顔もいいし、それはそれはモテるようで。
「おう、おはよう。朝からリア充お疲れ様ですね。」
「羨ましいか、へへ。」
そう、隣にいる女の子は同じクラスの大江みなこ。充の彼女だ。彼女は背は160cmないくらいの背丈でショートカットがよく似合う子だ。充は180cmくらいだから、理想の身長差なのではないだろうか。
「おはよう大江さん。朝から付き合わされてさぞご迷惑でしょう。」
笑いながら嫌味っぽく言ってみた。
「そ、そんなことないよ。朝から一緒にいられて嬉しいよ。」
と、照れながら言った。あぁ、満点の回答だ。これが「リア充」というやつか。
最寄り駅から学校までは徒歩十分といった距離だ。途中で小道に入れば車はめったに通らないから生徒はよく広がって歩いている。よくこれで学校に苦情が来ないものだ。周りは木造の小さな建物が沢山並んでいて、中には駄菓子や玩具を売っているお店もある。見るからに築二十年は経っていると思われる。
充と大江さんと三人で喋ってる間に学校に着いた。久岡高校は昨年創立五十年を迎えたが、今でも校舎は綺麗である。特に入口抜けてすぐ左手に見えるガラス張りの校舎を見ると、公立高校なのに贅沢だなと思う。もっとも、外観の美しさからこの高校に入学したいと思った俺だが。
一年一組の教室は南校舎一階の端にある。下駄箱を超えてすぐ隣なので遅刻ギリギリでも間に合うというのが最高である。
教室に入ると、廊下にまで響くような声量で、今日もクラスメイトは賑やかである。「昨日の『VS曇』見た?」とか、「『リプリーグ』に出てたダレヤネン明美めっちゃかわいい。」とか、TVの話題で盛り上がる女子もいれば、「俺も木田圭佑みたいなサッカー選手になりてぇなぁ。」とか、「この子俺の推しキャラ、上原しまりちゃん。」とか、趣味で盛り上がる男子もいた。これもごく普通の高校生活だと、改めて実感する。
それから数分して、担任の藤森先生が来て、今日も平和な一日が始まろうとしていた。