森の少女
「あら?この人大丈夫かしら?」
「死んでは無いみたいだね、気絶してるだけだよ」
「そうね、でも何処の国の人かしら、見たことない衣服ね」
「ずっと東の方に似たような服を着てる人間の国があるよ」
「じゃあそこから来たのかしら、きっとさっきの光にやられてしまったのね」
なんだ?
声か?
「ラシカ、ダイフキデリュンバ」
「ノリーフイ、キダッテヨ」
「グリー、ナーイゴッダラムバ、ノミーフェイ」
「ラーーガシヒミーフェイダフュリーラム」
「ダーコソライラ、キムネラヒカリレラヤ」
どこの言葉だ?聞いた事がない
仕事柄ある程度の言語には精通しているが、まるで聞いた事のない言語だった
いやそもそも言語なのかすら分からない。
体の感覚が次第に戻る、手足は無事なようだ
身じろぎすると、近くにいる二つの気配が少し緊張したのがわかる
光にやられた所為で視界がまだぼやける
上半身を起こすと、二つの気配は少し自身から離れた
敵意はなさそうだな
「すまないが、言葉はわかるか?」
英語、日本語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語
あらゆる言語で同じ質問をしてみたが反応はない
「ミラットーリユシカ」
「ハミルントジェフデナン」
駄目だな、何を言ってるかも分からないし、伝える事も出来ん
ぼやけていた視界が次第に戻り、少女が一人眼に映った。
一人?声はもう一人分聞こえたが
「ハレナイトビビッタナ」
少女の声ではない、声は少女の隣から聞こえた
・・・なんだ?蝶ではない蝶にしてはでかすぎる、それにまるで人間のような顔をしている
びっくりしたー身じろぎしたと思ったら、突然起き上がるんですもの
おまけに聞いた事のない言葉で何度もあたしと妖精に話しかけてくる
次第に通じてないのが分かったのか、話しかけるのをやめた
「何て言ってるのかしら」
「分からないね人間の言葉はさっぱりだ」
困ったわね、意思疎通が出来なければ、どうすればいいのか
すると妖精が
「ハレリーのところに連れて行こう、確か彼女は言語魔法が使えたはずだ」
「そうねハレリーのところに行きましょう、このままじゃラチが明かないもの」
なんだ、一体何を喋っている
少女と蝶のようなモノは何かを話し合っているようだ
話し合いが済んだのか少女はこちらに向き直し
くいくいっと手で合図を出してきた
ついてこいって事か
現状ここがどこかも分からない以上、彼女達についていくしかない
情報が必要だ、得体の知れない生物がいる以上、倒れていたこの森にも何がいるか分からない、彼女達の誘導が罠とも限らないが、最悪の場合は・・・
円はホルダーのマグナムに手を掛けつつ、彼女達についていった
森の空気は、今まで感じた事の無いほど澄んでいた
まだ地球にもこれほど綺麗な森があったのか
道を先導する少女をよく見ると、特徴的な部分がある
耳が普通の人間より長い、この地域の部族の特徴なのかもしれない
しかし隣を飛ぶあれは何だ、虫ではない、少女と会話を出来るだけの能力も有している
ようだ、新型のアンドロイドか?
悶々と考えながら、彼女達の後をついていくと、次第に開けた場所に出た
あれが彼女の村か?
森に囲まれたその中に数軒ばかりの家と、畑があった
「ポッチデステ」
いつの間にか少女はある一軒の家の前に立ち、俺を呼んでいた
少しばかりの緊張をしつつ家の前に向かった
トントン、少女がドアをノックすると歳は20ほどだろうか
少女と同じく耳が長く、金髪碧眼の女性がでてきた
「デナー、ヒュリカンダ?」
「ハレリィ、コトヒトナッタガシヒラム」
少女と女性がなにやら話をしている
一段落ついたのか女性がこちらをみて
「ハイリャナ」
・・・入れって事か
女性に促されるように、家の中に入っていった。
緊張が走る、右手はいつの間にかマグナムの安全装置を外していた
家の中に女性が一人だったとは限らない。
狭い空間で集団で襲われれば、面倒だ
しかし杞憂であったようだ、家に気配はないし、彼女達が俺に襲い掛かる様子もない
むしろ、テーブルに座らせられ、水やパンのようなものを提供された
腹を壊す可能性も考えたが、のどが渇いて堪らなかったので、水だけは飲む事にした
「パパリ、シュイーテム」
隣に座った少女がなにやら話しかけてくるが・・・分からん
「シュイーテム、ベリラシュイーテ」
パン(のようなもの)を指差し話し掛けているので
食べろってことか、毒の可能性も考え、手をつけていなかったのだが
反感を買ってもしょうがない
恐る恐る一口食べる
・・・ホットケーキのような味がした
「どうかしら、ハレリーのザッシュは美味しいでしょ?」
「・・・・・・」
「東の国からきたの?でもどうしてあの森に?
「・・・・・・・・・」
「何か喋ったらどうかしら?もう言葉は分かるでしょう?」
「・・・どういうことだ・・・なぜ言葉がわかる」
考えていたことが言葉に出てしまった
一体どうなっているのか、ザッシュだったか、あれを口にした途端、隣の少女の言葉が分かる様になった
「良かった成功ね、あまり使うことの無い魔法だから心配だったけれど」
キッチンの方にいたハレリーが安堵の表情で対面に座る
魔法?何を言っている、まさか覚醒剤か?パンに仕込んで、俺は幻聴を聞いているのか
「よかったな人間、これで話が出来る」
大麻だ、おそらくあの森には天然の大麻が生植していたのだ、それをいつの間にか大量に吸い込み、目の前にいる蝶の様な意味の分からない幻覚を見ているのだ
「・・・パンに何を仕込んだ?」
「パン?ザッシュのこと?魔法だよ言語魔法をハレリーに御願いしてザッシュに仕込んだんだ」
・・・幻覚が答えるとは・・・どうやらよほど強烈なものを仕込まれたようだ
これでは隣の少女でさえ幻覚かもしれない、混乱する頭と共に意識が次第に薄れる
睡眠薬か・・・薄れる意識の中、驚くハレリーが見えた
「ハレリー、睡眠魔法も仕込んだの?」
妖精が問いかける
「あれ?仕込んだ覚えは無いけど・・・」
ハレリーが困惑したように答える
「久々に言語魔法を使ったから副作用が出てしまったのではないかしら」
「なるほど、ルルの言う通りかも」
少女・ルルの言葉に妖精は納得したようだった
「それにしてもこのままにはしておけないわ、ハレリー、ベッドを借りても?」
「ええ良いわよ、二階にお客さん用のがあるから」
ルルは魔法を使い円の体を宙に浮かせると、二階へと連れて行った
「ルルちゃん、その人どれくらいで目を覚ますかしら?」
「さぁ?もしかしたらずっとこのままかもね」
ルルの言葉に絶句するハレリーだったが
「冗談よ」
からかう様にルルは言った。