ドラゴンで無ければ即死だった
あー、参ったなあ
ユランがあそこまでアホの子だとは思わなかった
いや、まさかスプレー缶からガスが出る仕組みが風魔法とか言うとは誰が想像出来るよ?
明日からの学校生活で付いてこれるか不安だ
今のままでは落第しかねないんじゃ・・・・・
まあ、とりあえず実物を見せた方が良さそうなので
3人で地下2階の訓練所に降りてきたけど
テニスコート二面分の大きさがある訓練所
石のブロックを重ねた壁に高さ2メートルはある
金属製の箱が設置されているけど
何か部屋の雰囲気が中世の地下室なのに
いきなり宇宙時代風の箱があるから凄く浮いている
まあ、照明は蛍光灯だったりしますが
「じゃあ、訓練用のゴーレムを起動するよ」
そう言うとジランが壁際に設置されている
220ボルトの電源スイッチを入れた
ん?ゴーレムなのに電気?
「え?電気で動くの?」
「何か、イメージと違う・・・・」
ユランも同じ事を考えているようだ
「いや、純粋に魔力だけで動くゴーレムとかも有るけど高い割に性能的には充電が要らないだけだったり微妙で」
ウィーン・・・
ガリガリガリ・・・
ファンとかHDDが動いている音がするんだけど
コレッてどっちかと言うと
金属製の箱が開いて中から金属ボディのゴーレムが
出てきた
「しすてむ起動。さーぼもーた異常ナシ。
視覚せんさー異常ナシ。全しすてむ異常ナシ」
「スゲー!!喋ったー!!」
珍しくジランが目を輝かせながら興奮しているが
「これじゃない・・・・」
「ロボットじゃん・・・・」
どうみてもロボットです
「いや、ロボットっていうのはコンピューター制御だけど、ゴーレムはコンピューターの代わりに魔石を用いて制御を行うんだよ」
「ふーん」
適当に聞き流そう
カーン、カーン
軽く小突いてみた
「まあ、丈夫そうだからいいかな」
見た目を気にしなければ
「じゃあ、例の爆発魔法を試すから2人とも見てて」
「はーい!」
「カメラも良いよー!」
ジランが訓練所の隣の武器庫からカメラを見つけて
来たので録画をしながらの実験となった
ゴーレムから1メートルの距離を置いて
左手を突き出したところで実験を開始した
「圧縮開始ー」
見た目には変化が無いが感覚的に左の手のひら
に直径10センチ大の空気の塊が出来たのがわかる
「どう?映ってる?」
ジランに確認する
「うん、バッチリ映ってるよ」
魔力の流れが映るカメラと聞いてたけど
けっこう便利かも
「それじゃあ、ゴーレム側に圧力を開放して爆発
させてみて」
「了解ー!」
解放!
〔ぽんっ!〕
うん、ちょっと髪の毛が揺れた程度の爆風でした
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・?」
「・・・・うん、圧力が低すぎたね。今度は更に加圧して」
「はーい!」
今度はしっかりと圧力を確認してと
うーん、1MPaもあれば大丈夫だろう
「圧縮開始ー」
相変わらず見た目に変化は無い
「じゃあ、解放して」
「了解ー!」
今度は爆音は聞こえ無かった
音の代わりに全身が圧される感覚が襲ってきた
「うっ!」
声が出るより早く身体が吹き飛ばされた
〈ひぃやああああぁぁ〉
〈アエラー!!〉
〈嘘でしょ、ちょっと!?〉
あまりに勢いよく飛ばされたせいか頭の処理が
追い付かない
壁に打ち付けられたようだ
幸いな事に気絶はしなかったので憑代に意識が
移ってはいない
うー、痛くは無いけどなんだこの感覚
耳鳴りがする、舌まで痺れてる、目や鼻が痛い
膝をついて倒れ込んでいたところにユランが走りよってきた
「!・・・!!・!」
「はひ?(何?)」
ユランが叫んでいるけど聞こえない
〈ちょっと、アエラ大丈夫!?怪我は?〉
今度は念話で話しかけてきた
〈何とか大丈夫・・・・〉
この程度で怪我する程柔な身体では無いけど気持ち悪い。
吐き気とかでなく気持ち悪いのだ
ようやく、耳鳴りが収まってきた
視界の端でジランが歩みよってきたのが見えた
「一体、何をしたの?」
「何って、さっきは爆発しなかったから圧力を上げただけだよ」
そういえば、ゴーレムは・・・・あ、何事も無かったかのように仁王立ちしてる
「どんだけ圧力を上げたの?」
「1MPa・・・」
「あー・・・。うん、普通の人間だと最悪即死するよ」
「ちょっと、休むよ・・・・立ってらんない」
「わかった、じゃあユラン。アエラが復活するまで練習してみて」
「え!?」
ユランが嫌そうにしている。まあ、しょうがないか
結局この日は私が1回、ユランが20回、ジランが3回
吹き飛ばされたが3人とも何とか物にすることが出来た
ユランが12回目に吹き飛んだ後に
「あ、これ回避に使えない?自分に爆風を当てて遠くに飛んだり空中で違う方向に飛んだり」
と言った後に天井に勢いよくぶつかって真上にある
食料貯蔵庫に繋がる大穴を作ったりもしたけどね
治癒魔法の方は二人から教えてもらったのでとりあえず
大丈夫だと思う
「じゃあ、夕飯の用意をしてくるから」
ユランはそう言い残し先に階段を昇って行った
ジランがゴーレムを収納しているのを横目に
訓練用の剣で素振りをしながら今日1日の事を
振り替える
まず、目が覚めたら異界から戻って来れたものの
生まれてはじめて怪我をした
次にジランを呼ぶようにユランに指示を出した後に
株価の確認をしたらアウレウス金貨1000万枚分も
儲かっていたのには驚いたなあ
何でかと新聞やネットで情報を集めたら
戦争拡大を見越して軍需産業に資金が集まり
つつあるとかで
一通り売買を済ました頃にジランが来て
龍殺しの魔法やら糞親父があばら骨を折ったとか聞いて
呪いの説明を聞きながらシュークリーム食べて
ユランがアホの子なのがわかって・・・・
あ、一つ聞いてないことが有るわ
「そういえばさ、ジラン」
「なんだい?」
「こっちでの睡眠時間と憑代側の起きている時間ってリンクしているの?」
ゴーレムの電源スイッチを切ったジランが振り向きながら答えた
「いや、リンクはしてないよ。こっちで5分寝ただけだとしても
憑代側が次に寝る時間までの記憶を持って帰る形になるよ。
逆に憑代側が5分寝たとしてもアエラ本人側が寝るまで向こうの時間は進まないし」
「睡眠はあくまでトリガーってことかあ」
「そう、だから明日以降に授業中に寝たらその度に憑代の1日分の記憶を持って帰る事になるから気を付けないと授業の内容が頭に入んないよ」
めんどくさいなあ
食事と入浴を済まして寝室に入った頃には
夜中の10時を過ぎていた
食事中にユランと同じベッドで寝ることになったので
ジランに片付けを任せて先に二人でベッドに
横になることにした
お互いにベッドの上で向き合う形になった
「ねえ、アエラ。憑代が居る異界はどんな世界なの?」
「んー?」
昨日見た風景を思い出しながら答える
「私が向こうで気が付いた時はロケットの発射場で倒れていたね。
目が覚めて起き上がったら息が白くなるくらい寒かったけど
上を見たら直径が100メートル近い大きなロケットがあったなあ
ちょうど打ち上げの5分前だったんだけど
私が迷い込んだことに気付いた人が私を誘導して
避難させてくれたんだ。
あと、あの場所は地下みたいだったなあ
途中長い昇り坂を走ったし」
「ロケットかあ。結構文明は進んでいるね」
私は前月、あの異界がまだ栄えていた時代の事を思い出していた
「前月見た時、異界だと何年前かは分からないけど有人ロケットが2つの衛星と本星の間を定期的に往き来してたなあ。
衛星に基地を作ってたんだけど。他の惑星に移住する計画もあったし」
前月見た時はかなり発展していたのになあ
「そういえば、何で怪我したの?」
「ああ、アレね。階段で女の人とぶつかって
薄暗かったせいもあって受け身を取り損ねて
顔面から地面に落ちちゃってね」
不意にユランが私の手を握ってきた
「怪我だけはしないでね」
「大丈夫だよ」
大丈夫だと思いたい
只の人間の身体に乗り移るのだ
人間の状態で致命傷を負ったらどうなるのだろうか?