ユランです。特技は剣術です
アエラとジランを部屋に残し1階の台所に向かう
なんでか知らないけどアエラの機嫌が戻ったのは
よかった
今までも不機嫌になることはあったが
今朝のは少し異様だった
言葉使いがきつくなるだけでなく常に殺気を
出し続けることなんか
〈宛てユラン 発ジラン アエラの機嫌は未だに悪いもよう。警戒されたし〉
勘弁してよ、どうせジランが地雷踏んだんでしょ
いい加減にしてよあのバカ弟
台所に着いたけど、どうしよう
直ぐにお菓子の用意をして機嫌を治すか
それともジランとの会話が終るまで待つか、うーん
ジランは旦那様の身の回りの世話と仕事の手伝い
をしているから何かしら聞きたいこともありそうだし
ちょっと待ってみるか
大体、アエラの機嫌を悪くした原因の旦那様も旦那様よ
あの人は月に1度。長いときには1年以上はお屋敷に
戻って来ないのにアエラを束縛し過ぎなのよ
そのくせ今回みたいにアエラが何かした時は不意に
戻って来ては叱りつけて帰っていくんだから
あー、ご主人様のユリア様がご健在ならなあ
あんな婿養子が放置される事なんか無いのに
アエラの何が不満なのかしら?
今度ジランに聞いてみよう、うん
〈ユラン、スマホで遊んでないで早く戻って来てくれ
ー。胃に穴が開きそうだ〉
〈ヤダ、怖い〉
〈ヤダ、じゃない!お兄ちゃんの言うこと聞きなさい!〉
双子だし、そっちの方が弟でしょ。多分
てか、スマホで遊んで無いんですけどー、旦那様への
不満でイライラしていただけですー
「ハァッ・・・・」
お菓子と紅茶でも持って戻りますか
ガチャ
「お待たせ、シュークリームと紅茶を持って来たよ」
「おー、ちょうど良いや。ユラン、ジランが私に掛けられた
呪いについて説明するところだよ」
そう言うとアエラは椅子から飛ぶように立ち上がり
応接用のテーブルまで走りよってきた
こういう時の仕草は年相応なのになあ
テーブルに人数分の紅茶とシュークリームが回ったところでジランが説明を始めた
「今回アエラに掛けられた呪いは寝ている間に異界に居るもう一人の自分に意識が移る呪いなんだ。そして、この呪いはまだ解けていないんだ」
解けていないですって!?
「異界に居るもう一人の自分?憑代の事?」
憑代、確か神様が自分自身を具現化するのに使うもので
神様によっては自分の分身だったり物を媒体にして
その場に居なくても降臨する事が出来るとか何とか
「まあ、そう思ってくれれば良いかなあ
昨日はその憑代を用意している間だけ異空間に閉じ込めてたみたいだけど」
「じゃあ、憑代の私がした怪我が私自身に作用したのは呪いの効果ってことかな?」
シュークリームを頬張りながらアエラは呑気に質問した
「ああ、本来なら憑代がいくら傷付こうが本人は一切怪我を負わないものだけど。呪いで身体がある程度リンクしているんだ」
「ねぇ、こっちでアエラの怪我を治した訳だけどこの場合は憑代の怪我はどうなってるの?」
「まずいことに憑代側の怪我も治るよ」
まずい?
「何か不都合があるの?」
紅茶を一口飲んだジランが続けた
「今朝の怪我がどの程度かは知らないけど
ほんの一眠りで全快したら普通じゃないでしょ」
「あ、そうか!」
確かにまずい事をしてしまった
「寝てる間に治癒魔法使ったとかで誤魔化せ無いかなあ?」
相変わらずアエラは呑気だなあ
「一応、憑代はアエラの身体能力に寄せて作られているし、魔法も使うこと出来るけど・・・・・。
アエラって治癒魔法使えるの?」
腕をクロスさせたアエラが一言
「ムリダネ」
いや、異界をポンッと作れてなんで治癒魔法が
使えないのか毎回アエラのちぐはぐな能力には
呆れる
「教えておこうか?」
「・・・・・あ、待った」
アエラが急に何かを思い出したようだ
あ、アエラの口元にクリーム付いてる
「向こうに意識が行ってる間なんだけど。こっちの記憶が一切無かったんだけど」
「え、それ本当?」
「うん、糞親父の事も綺麗サッパリ忘れてて清々しい位だったけど。覚えていたのは私の名前だけだったよ」
清々しいのかい
「向こうには基本的に記憶は持ち込めないんだ、ただこっちでの出来事の一部は夢の中の出来事として残ることもあるし。魔法とかの使い方は体感的に記憶していれば憑代側でも使えるようになっているよ」
「何か、勉強させたいって旦那様の意志が透けて見える気が・・・・・」
ボツりと呟いてからアエラの方を見たらものすごく嫌そうな顔をしていた
「要はこの呪いって。私が魔法の勉強をサボる程憑代側に命の危険が及ぶって訳ね」
「まあ、そうなるかなあ・・・・」
ジラン、目をアエラから背けながらシュークリームを
頬張るな。可愛さアピールしてもアエラには効かないわよ
「この呪いを解く方法は何か聞いてる?」
「いや、僕は何も聞いてないよ」
ん?
〈ユラン気付いた?〉
〈そっちも気付いた?〉
〈もち〉
ジラン本人は気付いていないがジランは嘘をつくときに右の眉が少し持ち上がるのだ
少しわざとらしく質問してみる
「ほんとーに?こっそり聞いたりとかも無い?」
ジランは紅茶を飲む直前だったがカップを下ろして答えた
「いやほんと、知らないから」
また動いた
〈このガキ、嘘ついてる〉
〈ジランのシュークリーム、チョコクリームだー良いなあ〉
〈え?〉
〈ふぇ?〉
おもわずアエラと向き合ってしまった
イヤイヤ、アエラってカスタード派じゃ?
「二人ともどうしたの?」
「いや、何もないよ。ところでさあ、この呪いってさぁ。術者を殺せば解けるんじゃないの?」
「ブッー」
あ、ジランが派手に紅茶を噴いた
「ゲホッゲホ。ムリだよ。ゲホッ、呪いは既に成就しているから」
「うーん、じゃあとりあえず治癒魔法と昨日糞親父がユランに使った魔法は覚えておこうかな」
「・・・・え?ユランに魔法使ったのは初耳なんだけど。何されたの?」
昨日は確か・・・・
「アレは何の魔法だったのかなあ。急に爆風で吹き飛ばされたんだけど、普通の火炎魔法とか風魔法とは何か違う気がする」
「どう違った?」
感覚的な物だから何がどう違ったか説明出来ない
どうしよう
悩んでいたらアエラが代わりに答えた
「なんか、魔力の残滓は殆ど無かったよ。まるで爆風が空間にいきなり発生したみたいだった」
「そうか、成る程。冷気はあった?」
その一言でアエラは何かに気付いたような反応をした
「まさか、変性魔法で空中に高圧の空気の塊を作って
一気に解放したってこと?」
??
「おそらく、ね」
?あれ?私だけ蚊帳の外?
「え?どういうわけ?」
「高圧空気だよユラン」
「変性魔法で目に見えない高圧空気の塊を作ってソレを一気にユランの方に爆風が向かうように解放したんだよ」
?
「イヤイヤ、高圧空気ってナニヨ?」
「え?」
「ふぇ?」
「・・・え?」
ちょっと何この反応?
アエラとジランは顔を向き合って固まったし
アレでしょ、二人して念話で会話しているでしょ
あ、ジランがこっち向いた
「ガスボンベとか殺虫剤の缶あるでしょ。アレって
なんで中の薬剤やガスが出てくるかわかる?」
知らないわよ、知っていると何かあるの?
「風魔法?」
「おうッ・・・・・」
「マジかよ・・・・・」
あー!思った通りの反応したよ。アエラは左手で
顔を覆ってうなだれたし
ジランは何よ!マジかよとか!
「ちょっと!二人して何よ!」
うなだれていたアエラが目を閉じたまま説明を始めた
「私たちが今住んでる地球型惑星って重力が
「待った、アエラ。ユランには重力と気圧の関係を言うと頭が爆発する!ボカせ!!」
「わかったー!いい?ユラン。私たちが今いる環境って、1気圧=1013.25hpaなのよ!わかった!!」
え?え!?
「うん」
何この流れ?怖いんだけど
1気圧?パスカル?
うわ、アエラが私の両肩を掴んで力説してきた
目が血走ってるんですけど
正直、朝より怖いよ・・・・
「で!!圧力って言うのは均等になろうとするんだよ!例えば缶とかボンベとかに閉じ込められた空気が
外の気圧より高圧だった場合ね吹き出すのよ!」
そうなの!?
「で、あんたはその吹き出しに飛ばされたの!!いい?」
「ア、ハイ」
その後もいろいろ言われた気がしたけど理解した雰囲気を出してその場を逃れられたのは昼過ぎだった