【02-01:8/29月曜日】
登場人物
奄美 信雪:Lv[10]16歳・男性、県内の高校に通う事になっている異世界帰りの紋章使い。論理的で話が長い
波田間 匡孝:Lv[5]29歳・男性、県の調査課課長、調査課の中心的な人物ながら卓越した指揮を執る。
速水 茜:Lv[5]24歳・男性、県の調査課副課長、調査課の参謀的な立ち位置で、何かと手回しがいい。
来栖 銀河:Lv[6]25歳・男性、県の調査課の一人、現在は奄美に学びながら魔法を習得中。
若宮 敦司:Lv[16]25歳・男性、県の調査課の一人、現在も調査課の武闘派
加藤 美鈴:Lv[5]24歳・女性、県の調査課の一人、事務とオペレータの二つを兼任
瀬戸内 隆:Lv[5]24歳・男性、県の調査課の一人、オペレータを担当。
四之宮 志雄:Lv[17]16歳・男性、県の調査課救援隊隊長、波田間に任せられて一時的に調査課の指揮を執る。奄美と同じ高校に通う事になる
周防 真:Lv[17]16歳・女性、県の調査課救援隊隊員、戸村 仄とコンビを組む。県内のお嬢様学校に在学中
戸村 仄:Lv[17]16歳・女性、県の調査課救援隊隊員、周防 真とコンビを組む。県内のお嬢様学校に在学中
谷口 斎:60歳・男性、ドローンサービス社の社長。
佐久間 勘八:50歳・男性、ドローンサービス社の整備主任
悠木 双葉:Lv[5]18歳・女性、ドローンサービス社のドローン操縦者。奄美と同じ高校の3年生の女子高生
竜胆博士(竜胆・慧):40歳・男性、竜胆研究所の所長、現在は防衛研究所での試作機の技術提供を行う
竜胆・フィリス・音符:Lv[3]20歳・女性、竜胆研究所のテスト機の整備主任兼開発者、調査課ではパワードスーツのメカニカルチーフ。
浅間 雄真:Lv[10]18歳・男性、卓越した危機察知能力かあるが、非常に義理堅い、割と面倒もよい、浅間と同じ高校に通う三年生。
◆8/29日
防衛研究所から久し振りに調査課に戻る。
免許などはないので、奄美の直弟子の来栖が駆る試作型紋章エンジン搭載大型二輪車の後ろでじっりと風景を見ていた。
「師匠悪い事は言いません」
来栖が説教臭く言う。
「問題なし」
奄美があっさりと却下する。
だが県の職員でもある来栖からすれば心臓に悪いだけではなく、警察とのカーチェイスなど正気ではない。
「上同士納得しているんです。ちなみにこいつは結構な価値が有りますから壊さない様に」
「下に伝わっておられないようですが」
「伝わったら実験にならないでしょう?」
来栖からすればこの実験の為なら手段はあんまり選ばないやり方は賛成できない、是非選んでほしいが、上司やなんやらが待つ場所に一直線に行くのはこの試作機の実験を行うかない、しかもそこには警察が陣取ることも間違いなしだ。
来栖は祈るように捕まらないために進む。
試作品の搭載エンジンは新型のエンジンの為にすでに時速は300キロを超える。
このエンジンの性能は最高速度ではない、最高速度に行き着くまでの時間は僅かに3秒、1秒あたりはおよそ100kmの加速度だ。
戦車などのエンジンにも応用できそうなものだ。
「しかし、来栖は運転が上手いですね」
「昔少し」
「ではなのですが、なぜブーストを使わないのです」
「それだけは止めるべきです。この機体では最も道路が」
「ああ。そういえば滑走路用の道路とは違いますからね。分かりました」
結果としては早く着いた。
「さてと、そちらの違法車両」
警察の皆様方がお待ちしていましたと、やはり予想できたが、防衛研究所の生活で知恵がついたのか、奄美がスマホで伝えると、警察官にすぐに伝わり、もの凄く目付きで睨まれた。しかも来栖の方が年上で体格も大きい為に、奄美には集中していない合理的だ。
来栖のバイクの旅が終わるが、修行の旅はまだ終わらず。
奄美の教育方針というモノはしっかりとしている、徹底して基礎を叩き込み、この基礎を深く理解させることと、持ち前の知識を掛け混ぜる事での新しい紋章を生み出す事を基本とする。見習いと言えど基礎を学んだ後は研磨するものらしい。
◆
身長170cmに届かない奄美の身長は169cmどまり、体重の方は何故か異常に軽く、担当した自衛官はその数値に驚き、直ぐに健康に問題ありとした。
四之宮は174cm、体重が異常に軽い、その為に健康に問題あり
周防は身長161cm、体重が異常に軽い、その為に健康に問題あり
戸村は慎重149cm、体重が異常に軽いが、別に発育不良ではないので担当官は悩むも、健康に問題ありとした。
身長158cmの悠木は、体重が異常に軽いことからも別に痩せているわけではないので担当官が困るも、健康に問題ありとした。
身長179cmの浅間は、体重が異常なほど少ないので健康に問題有とした。
そんな訳で高校生6名は全員健康に問題ありという事で、メディカルチェック。
そんな8/29日を過ごし、一応入院という事になる。
◆
そんな翌日の8/30日。
「健康には全く問題はないが、特殊な鍛練法でも?」
ドクターの素朴な疑問に、奄美は特に考えずに
「ダンジョンでLvUPしたら体重が軽くなるという噂があるっす」
知らないドクターからすれば残念な子だ。
担当の看護師免許のある自衛官からすればあまりに阿保の子だ。
「次回からは遠慮すると言い、これ以上体重が軽くなれば死ぬかもしれないよ」
「大丈夫っす。これからはビーチでパーティーっす」
「それは健康的だ。よく楽しむと言い」
◆
/8/30には退院後、ビーチでパーティを楽しむ。
◆
8/31日。
久し振りにアパートに帰る。
直ぐに準備してゲートのあるダムに行く。
午前5時、自衛官たちは起きていた。
この小隊を指揮する西田 冬樹二等陸尉の所に挨拶に行く。
「おはようございます西田二等陸尉」
挨拶したら、相変わらずガラの悪い兵隊崩れの様な凶悪な顔で挨拶を返す。
「おはよう。防衛研究所の方はよいのか」
「はい。学校が有るので当座はこちらに戻ることになりました」
「そうか。あのバイクは何だ」
29日にこのダムまで来た試作型紋章エンジン搭載大型二輪車<韋駄天>の事だ。
「自衛隊が採用する新型エンジンを搭載した実験機です」
「新型エンジン?単なる大型エンジンにしか見えないが」
「はい。紋章エンジンというモノです。原理に関してはそれほど解明はされていませんが、紋章機械工学の成功した紋章刻印済みのエンジンを使った物です」
「ふん。約に立つのか」
「そうですね。1秒で時速100kmまで加速しますし、戦車に試作的に搭載した時の性能は凄かったですね」
「問題としては」
「エンジンに車体の駆動系が追い付かないです。10式戦車を1秒間で100kmに加速させる性能は凄いのですが、これでは仲の操縦者が操縦できないと、色々と工夫しているところです。エンジンとしては採用されるのですが、色々と上層部の方で揉めているらしいのです」
「まあ確かにエンジンとしては驚異的だわな。ここで役立つ物はあったか」
「新型軍用パワードスーツぐらいでしょうか。こちらに配備される予定なので、俺が最後の仕上げを行う事でもあります」
「なるほど、確かに納得だ。」
「後で上官さんから聞いてください。どうせあと少しで大量輸送ですから」
「朝ぐらいは静かにしてほしいぜ」
「じゃあ失礼します」
「ああ」
近くの自販機でスポーツドリンクを購入しグビグビと飲んでいると、大型PS輸送車両、所謂パワードスーツの輸送車両が視界に入る。
スポーツドリンクを飲み干す。
「奄美!」
「今行きます」
輸送車両からパワードスーツを下ろす、これらのパワードスーツはそのままでは役に立たない、紋章機械工学の専用の刻印をすることで真価を発揮する、小型紋章動力機構、紋章人工筋肉強化、紋章装甲強化などを刻印することでその性能を高める。
特殊歩兵なども居る為に運び、技術士官に受取書にサインした。
特殊歩兵用装備の試作紋章システム採用の40式特殊歩兵用PS<スサノオ>。
40式試作特殊歩兵用特殊格闘武器Ⅰ&Ⅱ、40式試作特殊歩兵用特殊射撃武器Ⅰ&Ⅱの4種類のオプションもある。
「随分とまあ揃えたな、紋章の刻印によって性能を発揮する、か、奄美頼むぞ」
「はい。では開始しますが、あちらの海の兵隊さんは何です」
「上から見せろと」
「迷惑なことにならなければよいのですが」
「間違いなくなるだろう」
試作機、試作品はこの小隊専用の品だ。
自衛隊ではこのゲート内部のダンジョンから得られる新素材というモノが研究され、利用価値などを調べられた結果、当然のように与党に伝えると、金になるので取れという予想する内容の命令が下り、この小隊が成果を上げるたので、専用装備の開発を考案されたので作られた。知らされてはいないが機密保持は絶対と言えた。
紋章の刻印を海の兵隊さんに隠れて行い、この兵隊さんが近寄ってくる。
「What do you do?」
「針金を弄っています」
返答された海兵隊の兵隊は、返答はされると思っていたのか、それとも機械オタク指定のような言葉で返されたのが驚くのか、何やら可哀想な子供を見るような目で
「Is free to anyone you like」
「日本語分かっているじゃないか」
「He knows English.」
「日本語で話せ」
「分かった分かった。で何をしているんだね奄美 信雪博士」
「博士号はねえよ」
「まあまあ、便宜上ね」
「何の用だ」
「そうそう、上からね。未知のエネルギーと技術について勉強して来いと飛ばされたわけよ」
「ふーん」
「ちなみに異世界に繋がるという不思議なことを言われたが本当かね」
「こんな小さな穴しかないぞ」
「かもしれないが、まあ都合よく巨大化することもないだろう。むしろ縮小しないことを祈るね」
「ただそっちの事前に分かっていると思うが、宇宙パワーは渡さないぞ」
「何の話だね?」
「残念な子を演じようかと」
「話がややこしくなる辞めてくれ」
「んじゃあ名前と階級を教えてくれ」
「一応機密なんだがね」
「偽名と階級だ」
「偽名を聞く意味があるのかね?」
「便宜上の呼び名だ」
やり返されたことを悟った海の兵隊の兵士は、苦笑した。
「アキバだ」
「よろしくアキバ、簡単な説明は後にするぞ」
「説明が本当ならよいがね」
「ケチケチしねえよ。知り合いの顔に泥は塗らねえ」
「中々話の分かる少年で助かった」
作業を開始し、特殊歩兵の装着者達が性能を確かめていた。
「奄美、この銃は何だ」
「レーザーライフルとレールガン」
自衛官たちが大喜び。
「ただお値段が凄いので多用はしない様にと釘を刺される奴」
「皆様方の税金だものな」
「後で説明があると思うけど、補助的な話があるから、今後の副業的な物かな」
「言い辛いのか」
「なんというか、う~ん。自衛官のイメージを崩すようなこと」
全員が微妙な顔になる。
「そんな顔はしない、補佐的な事なんだから」
全員が顔を引き締める。
基本的に人柄はよいが、能力の方が注意すべき自衛官の多い小隊でもあったりする。
狙撃、情報などなど、中には珍しい特技を持つ者も居たりする。
「魔法装備かよこいつはやる気が出るぜ」
「穂村、それをあちらさんの前でいうなよ」
「お客さんか、好きになれない連中だ。しかし、未知のエネルギーってなんだ」
「お前は自分で口にしなかったか?魔法の事だ」
「ああ。魔法エネルギーか」
オタク趣味のある穂村、一般的な趣味の佐藤の名物コンビだ。
「佐藤さん、穂村さん、真面目にしてください」
奄美に言われて二人とも真面目に装備を弄る。
「奄美終わったか」
「稼働テストがまだです。省きますか」
「お客さんには待ってもらうか」
◆
刻印やら作業やらテストやらが終わった後の、息抜きをしてから隊長室に入る。
大柄の白人男性のアキバ、相棒なのかボーとした黒人男性の二人組。
「In I don't speak translate」
「どうぞ」
「構わないですよ」
「まず自己紹介だ。俺はここの隊長の西田 冬樹二等陸尉だ」
「奄美 信雪」
「アキバです。こいつはポップ」
「宜しくお願いします」
丁重や口調の黒人のポップ。
誰もが所属やらなんやらは話さない、お互いを見分ける為の自己紹介だ。
「それで何から聞きたいか」
「まず、魔法について聞きたい」
「ポップさんでよろしいか」
「ああ」
「魔法についての知識はない、それともある」
「ない」
「魔法とは魔気というとある植物が生成し放出するエネルギーが起源と思われる、何せあまりに古いためにその根源なども含めサッパリなのは覚えてもらいたい」
「つまり。ある程度は分かっても詳しくは知らない」
「ええ。俺個人は」
「何処に行けば分かる」
「難しい質問だ。例えば神は何処にいる?」
「難しい質問だ」
「そうだ。魔法についての知識があるところは異世界の王国などには必ずある、とある地方では魔導院と呼ばれる」
「まどういん、そこは大学のような場所か」
「その通りです。」
「なるほど、確かに知識はある、しかし、一定でしかない」
「それでも、地球の日本より遥かに膨大な知識がある、まあネットは別にしますよ」
「魔法に関していえば日本の防衛研究所より膨大にあるという訳ですか」
「その通り。」
「最初に質問に戻る。魔法について聞きたい」
「魔法とは魔気というエネルギーをとある植物が生成し放出するエネルギーと考えられる、またこのエネルギー、便宜上の魔法エネルギーと呼びます。このエネルギーを受けることで先天的に魔力というモノを取得することがまれにあります」
「大気中のエネルギーの魔気、先天的に稀に得られる魔力の二つ」
「ええ。この魔力というモノをひたすら研鑽したのが魔法という学問です」
「なるほど、他には」
「俺程度はこんな物です」
「俺程度?奄美信雪より詳しい方が」
「異世界には沢山います。俺なんレベルは学生レベル程度です」
「宝を手にするには、あのゲートを超えた世界に行く必要があると思われる?」
「ええ。あの世界ですべき事が有るので、こうして自衛隊にも協力している訳です」
「合衆国には協力は出来ないと」
「アキバ、どうして急ぐ?まだ話している途中ではないか」
「訳も分からない話などどうでもよいではないか」
「中国の氣という思想に近い」
「オーラ?」
「氣、森羅万象が持つ力、それが氣、魔法使いが言う魔力と同じだ」
「つまり」
「そう、地球と同じ人々ではないかもしれないが、似た様な人々の可能性は非常に高い」
「あの」
「何か奄美信雪」
「奴隷制度を持つ国が基本です」
「もしかしてと思うが、そこで暮らしたことが有る?」
「はい」
「いや、私は仕事は魔法について調べる事だ」
「俺は奴隷でした」
室内の音が止まり、エアコンの音がうるさく響き、西田も、アキバも、そして黒人のポップも顔の表情を変える、特にポップの顔はボーとした顔からなんとも複雑な顔だ。
「今は解放奴隷ですけどね。所謂2等市民です」
「それでも異世界に戻りたいと?辛い事しかない世界に?」
「そりゃあ辛いことが多かったですけど、よかった事も有りましたから」
「俺の祖先は奴隷だ。少なからずわかると思うが、辛い事ばかりだ」
「はい。奴隷は財産です。解放奴隷は貧民です。それでも一度はあの国を守ったから、結構な数の知り合いがいるんです」
「戦争なのか?」
「奴隷制度から分かるように理想郷ではないのです。当然のように戦争もあります」
「出来れば詳しく」
「はい。戦争が起き、隣国のダジギス王国の一部が侵攻、この時に傭兵を組織したとある解放奴隷の元ら集い、これを迎撃、遭遇戦の会戦の後に撃破、後にこちらにもじりました」
「何故その王国が迎撃しない」
「用意する前に解放奴隷の傭兵隊が撃破したのです。人数は3千人、敵軍は凡そ1万」
「何が優れていたとかはわからないが、君は殺人を経験したのか、その若さだ」
「はい」
「・・・どうやら私は感情的になったようだ」
「あんたらしくもねえ、少し頭を冷やせ」
「近くに自販機が有りますから飲み物を買ってきます」
室内から出て、自販機の元で程々に時間を潰し、買ってから室内に入り、飲み物を配る。
「落ち着かれましたか」
「少なくても動揺はなくなった」
「アキバさんも」
「ああ。苦労したな少年」
「俺なんか運が良かった方ですよ。むしろかなり幸運でしたね。何せ売り飛ばされた場所は奴隷兵士訓練場です。剣の覚えが有ったのでかなり強かったです。その後の試験の不合格になって、結局奴隷兵士訓練場らは入ってから3カ月で解放奴隷です。その功績が元で魔導院に」
「何かの功績か」
「うま味、味の良い料理売りを作り奴隷仲間に提供しました。この時の料理が筆頭将軍の舌を掴み解放奴隷に」
「そんなに料理が上手だったのか」
「それ程と思いますが、安く上手く大量に作れる料理法に関していえば軍人からすれば興味があるのでは」
「それはな。だが、その国の材料がなければ味わえないか」
「無理ですね。そうですねえ。似た様な物なら」
「西田」
「いいぜ。異世界ガンゲイル王国の筆頭将軍の舌を掴んだ料理、いい話のネタになる」
◆材料調達後の調理後
「黒パン粉の野菜コロッケ、獣の出汁骨を使った岩塩スープです」
全員がスープを啜る。
単なる出汁骨のスープかもしれないが、口の中で広がる岩塩との共演が素晴らしく、こってりした味わいが、飲み込むときののど越しにとろみを与え、食道を通り胃の中に染み込むように広がる暖かなもの。
癖になるような味わいガッツリとスープを飲む
その後にコロッケ。
黒パン粉という、硬くあまり美味しく無い黒パンを砕いてパン粉にした。黒いコロッケを口にいれて噛み、野菜の思わぬ新鮮さからに驚き、肉汁の様な物は塩味が素晴らしい汁、黒パンのような味わいそれ程なく、シャキシャキとした野菜に塩味の汁が好いハーモニーを広げる。
「あの王国では獣の骨は捨てるので、喜ばれて骨が渡されます」
文化の違いもあるが、骨の利用価値がないのなら確かにそんな物だろう。
「野菜については売れ残りです。野菜って人気がない食材の一つです。その大きな理由はドレッシングないのと、レシピがない事です」
納得の事である。
「黒パンは何処でも捨て値で売られる奴隷専用の食材です」
あまり美味しくないパンの一つの為に仕方のない事だ。
「これらから分かる様に全く違う食文化を持つので、経済的価値のないモノを使った料理は、美味しい上に安いというとても大きな魅力があるのです」
◆
「好い物を食べるのだな」
「好い味わいだった。確かにあんな味なら食事が楽しみだ」
「本場が楽しみだぜ」
そんな声が聞かれた。
「じゃあ。ゲート内部のダンジョンに入るか」
「映像はあるか?」
「いや、直に入ろう」
「魔法使いの奄美がいるからいいが、かなり厳しい場所だぜ。しかも多数では動けないから必然的に少数精鋭になる」
「かまわん」
「ええ。構いません。奄美信雪は何度も?」
「20時間ぐらいです」
「この時間でも随分なベテランだ」
◆ゲート内部に突入
奄美が紋章魔法汎用系<街灯>を使い明かりを作る。
さすがに米軍の猛者も、銃が使えない上にモンスターがうろつくダンジョンには緊張するらしく動きに力が入る。
スライムが現れると、奄美が焼き尽くす。
「今のがモンスターだ。あんなのを倒すことになる」
「And the monsterゲル状の生物?モンスターボックスかよ」
「信じられん、どのような構造になっているのだ」
「自衛隊でもサッパリ、そもそも生物なのかも疑問との事です」
「次に行くぞ」
次にはスケルトン、アキバ、ポップの二人は唖然としていた。
「あれが骸骨だ。俺達はスケルトンと呼ぶが、グレネードランチャー、ショットガンも使わないととても無理だ」
「元人間なのか」
「いや、人間は骨になってまでは動けん、そもそも筋肉がない」
「あれは明らかに生き物ではない、どうやって倒せってんだ」
奄美が焼き尽くす。
次に蝙蝠、こちらは明らかに生物なので二人も納得して銃を構えで引き金を引くが、作動してるはずなのに爆発が起きず、銃が意味をなさない。
「噂では食べられるとか聞きますが、あんまり食べたくないです」
「全くだぜ。まあ遭難したら考えるさ」
「では焼きます」
魔法で焼き尽くす。
「これがダンジョンだ。人間を歓迎していくれる暖かなスープもなければ、親しみを込めて呼ぶ人もいない、ただ人すら人を拒むような場所だ」
「何と報告すればよいのだ。モンスターボックスがある場所とでもいうしかなの意か」
「こんな所をどう突破しろというのだ。奄美信雪でもなければ無理だ」
常識がないダンジョン内部の事も有るが、これを伝えるには映像しかない。
◆
「二人の様子は」
衛生兵の一人が報告した。
「はっ。健康そのものですが、精神的に少しきいています。ダンジョンに初めて潜った兵特有の症状です。常識を破壊されたと言った所です」
「そうか。」
「はっ。以上です。」
「ああ」
近くでスポーツドリンクを飲む奄美は、そろそろ調査課の方が集まる時刻なのでそわそわとしていた。
「奄美、連中にあれを渡すべきか」
「下手な希望は多くの犠牲を作る。辞めていた方がいいですよ。あんなタフな方々ですら精神的なダメージを受ける。余程ショックだったようです」
「しかしだ。突っ込まれたら出すしかないぞ」
「恐らくですが、すでに防衛研究所から渡されていますよ。大量にありますから」
「そうだな。態々装備を減らすわけにもいかないが、下手したら素人との共同作戦か」
「無理でしょうね。銃器の訓練は詰んでも対人戦ですし、対モンスター線など訓練すら、対応する装備もなしに突っ込ます真似は米軍がやるはずもない、彼らのドクトリンは知っているでしょう」
「そうか、大量投入、大量消費か、少数の兵での作戦もあるが、銃器を使用しない作戦、しかも対人戦ではない作戦は無理か」
「蝙蝠、スケルトンなら格闘戦の専門家を集めればいい、しかし、スライムの場合は何も効かない、物理攻撃を封じられているのに戦うとか無謀を通り越し捕食されるようなものだ」
「もし無謀ではない範囲で、最新鋭のPSを使ったとしての装備構成は」
「そうですね。レーザーライフル、火炎放射器、レールガンの3種でしょうか、格闘戦を挑まなくても米軍なら可能でしょう」
「なるほど、まああの米軍が大人しく引き下がるとは思えない、最低限の装備位はな」
「よしんば装備が整えられても、彼らは不利ですよ。」
「だが、フロンティアを目の前にしておとなしく引き下がるとはとても思えない」
「西田さん」
「なんだ」
「あちらにも銃はありますよ」
「クロスボウとか、それともマスケットか」
「いえ、自動小銃です。火薬式ではないレールガン式の」
西田が無言になる。
「しかも俺のようなレベルが学生レベルの最低限、もし正規魔術師一人で焼き尽くせる兵士の数は千、導師ならば数千、それも単独で相手が突撃してきたらと限定されます」
「・・・侮っていた。すまん」
「よいのです。少しずつ知っていけばいい、あの世界の王国は、本当にその力を発揮したら想像を絶する戦火をたたき出すでしょう。どうし一人で1個連隊が無抵抗のまま焼き尽くされる、それを毎日味わうつもりではないのなら、和平的な話し合いから行くべきです」
「何やら危険な王国に干渉するとか正気じゃないとその話を聞けば誰もが思うが」
「異世界の産物に利益はないと」
「軍人は辛いよ。しかも入れるのは少数、どうせいという」
「今の内に色々と考えている方々も居ます。しかし、この小隊を排除することはまず無理でしょう。ダンジョンの専門家を排除するのは危険なダイブを素人で構成するようなものですから」
「しかし、レールガン式自動小銃とは、その他の武器もあるという訳だな」
「戦車付きで」
西田は困った。
「戦車?タンクの事か」
「はい。タンクですよ。レールガンがある国に戦車がないのはおかしいでしょう」
「10式みたいな」
「いえ、情報機器がないので61式ぐらいです」
西田は大きく安堵した。
「しかし、魔法装備が有りますから大変ですよ」
「奄美、わざとやっていないか」
「いえ、レールガン式自動小銃、レールガン式火砲搭載魔法装備搭載61式戦車、俺を101として学生最低レベルの基準で、導師レベルは数千、一人ならばそんな物でも、連携すれは数万を突破する、それだけの実力のある魔法使い相手に僅かな兵士で戦うのは無謀です」
「確かに、逆にガンゲイル王国がこちらを目指す可能性は」
「そうですねえ。好奇心旺盛な方々ならやりかねないですが、どこにあるのかも謎なのですよ。滝の裏側にある祠に繋がっていたりすれば導師だろうか、何だろうが無理です。そもそも知らないのですから」
「何か一杯一杯だ。一応上司の勧めで異世界と通じる系の小説を読むが、我々より低い技術力の世界しかない、レールガンに戦車なんて世界の物はない」
「ついでに補足するのなら、ガンゲイル王国は周辺国1の魔法使い人口を持ちますから」
「・・・・何やら上の考えに非常に文句が言いたくなる言葉だ。敵う訳がない」
「俺に無傷で勝てたとしても、ゲート内部のダンジョンを突破してから王国に侵攻するのならよいのですが、自分たちの装備を超えるかもしれない王国と戦うとは正気ではないです」
「そうだな。この事は既に報告されているのか」
「防衛研究所の時に伝えてあります。それでも異世界はあまりにも魅力的らしいです」
「膨大な資源か、それも手付かずのフロンティア、確かに魅力だが、戦争をすれば勝ち目はないぞ、しかもこちらは来栖と奄美のみの魔法使いの数だ」
「しかも魔法使いの質においては俺の数十倍の力があちらの主要人員です」
「和平しかないな」
「世界が繋がろうとしている今、何が愚者で何が賢者か誰にもわからず、遥かな時間の流れの先にある未来の者達が判別するでしかないのです。人が人であることを信じるしかないでしょう」
西田からすれば、この大人びた魔法使いの少年が、遠く離れた宇宙の片隅にあるこの地球という惑星に、同じぐらいの惑星の一つの王国との架け橋をするつもりなのだと言えた。
下手したら国が亡びるような危険な相手国だ。しかし、この国も何度も戦争の度によみがえってきた。だが思う。
(このまま微睡に似た安寧の中に、安らかな寝息を立てていた方が幸せだったのかもしれないな)
久し振りにタバコが吸いたくなるが、清涼菓子を口に入れて噛み潰す。
清々しい味わいだが、その為に必要な材料や技術などを考えれば破格の値段と言えた。
(誠意をもって対応する、だから相手も誠意をもって対応する、果たしてこれでよいのかはわからないが、この少年が何の役割になるのか、少なくても世界を変えてしまうだろうな。誠意だけではどうしようもない世界になるのかもしれない)
◆
「大丈夫ですか二人とも」
「ああ。変な話だがメニューのサイドのパンケーキを食べたら懐かしくなり、落ち着いた」
「私は故郷の写真を見て、家族の事を考えら落ち着いたよ」
「それは良かった。一応西田二等陸尉から呼び出しです。これは注意なのですが、異世界のガンゲイル王国には戦車が有ります。もちろん銃も」
「タンクにライフルだと?」
「どれぐらいの物かな」
「61式戦車、64式7・62mm小銃位と覚えてください。これでも最低限の兵器だと」
「それでも日本は行くのか?どう考えても物資の輸送量から敵わないぞ」
「いや、日本なら和平から進むだろう。この国は戦争好きとは言い難いからな。何より民主制だし、戦争より貿易を考えるのが良く頷ける」
「攻めてくるにはあのダンジョンを攻略するしかない、こちらからも行くためにはあのダンジョンを攻略するしかない、また時間はある」
「確かに、じゃあ行くぞポップ」
「何やら私達は長い時間を共にしそうです」
「上ならどう考えるか、たぶん貴方方を自衛隊に同伴させ、情報を集めるでしょうね。じゃあ行きましょう」
◆
西田からの説明で、二人は可能ではあるが、訓練やら準備期間なども考え暫くの情報提供を申し出る、その代わりに自衛隊に最新鋭のお蔵入り兵器のレーザーライフルを提供すると、この申し出に西田は上に報告し、恐らく上層部同士にすでに手を組んでいるのかと思うほど迅速に提案は承諾された。
◆
調査課の面々と合流し、防衛研究所と竜胆研究所の合作の特殊試作機<ミカガミ>。
この<ミカガミ>は竜胆研究所の試作パワードスーツをベースとした調査課専用のパワードスーツに改良されたパワードスーツだ。
最大の特徴は全身装甲と、iイルミネーターを採用した統合情報処理機能だ。
全員が着込み、攻撃魔法の紋章刻印された魔剣化された武器、強化系・防御系の紋章の刻印がされた<ミカガミ>の機体、ヘッドの部分に集約された情報機器には暗視スコープなどの機能を持つ。
また魔法使いの来栖、奄美の二人には特別なチェーンが施され、通常のミカガミに比べ機動性などを犠牲の装甲が強化され、また武器積載性能も強化された。
当然のように紋章魔法補助装置も搭載されるが、それは来栖だけで、奄美にとってみれば邪魔でしならないので排除された。
代わりに奄美の機体には自衛隊からの配慮である旧時代の技術情報が搭載され、偶然ガンゲイル王国に渡った場合の日本側からの報酬だ。
ガンゲイル王国の人口を考えれば、それほど大きくなく、また領土に関していえば北海道程度なので、そこまで大きいというほどでもない。
ガンゲイル王国の最大の特徴は周辺国と同じく魔法使いの存在が大きいが、基本的な武装に関していえばレールガン式小銃が一人一丁はある。
レールガン式火砲搭載戦車は、蒸気機関車の為に紋章魔法・付与魔法を使った放熱装置を使う、真水のみの燃料の車両に、レールガン式小銃を大型化した火砲を搭載する。
これらに加え、魔法装置と呼ばれる、魔法機能を備えた道具を搭載する為に、非常に高いレベルでの攻撃が可能なのだが、この戦車は高級な上に生産性も高くはないので、各地に分散して配置されるているが、極めて少数だ。
「さて、今日も頑張りましょう」
波田間が掛け声を掛けた。
◆
調査課警備隊の若宮、魔法使いになった来栖、救援隊の四之宮、周防、戸村、竜胆研究所の浅間、奄美の7名が潜る。
すでに1Fは調べつくされた感じはあるが、特に変化のないダンジョンのフロアの、モンスターも三種類という、また宝箱が有る訳でもない為に、序盤の訓練のような場所だと判断された。
現場でも1MP=1キルという簡単な構図ができる程なので、恐らく訓練フロアと言えるのは納得できた。
若宮はLv16、来栖はLv6、四之宮・周防・戸村はLv17、浅間・奄美はLv10というレベル構成なので、序盤はMPを抑えて突破し、フロアボスと戦う。
今回は自衛隊とも合同、しかも米軍の二人も参加する。
特殊歩兵用装備の試作紋章システム採用の40式特殊歩兵用PS<スサノオ>。
オプションの40式特殊歩兵用格闘武器<一式・打ち刀><二式・短槍>。
打ち刀は高熱刀身を持った近接武器。
短槍は高振動穂先を持った近接武器、短槍のみ伸縮式
40式試作型超電磁砲、40式試作型光線銃。
どちらも小銃タイプ、拳銃タイプの二種類だ。
ちなみに、レーザーライフルやレールガンは作られた物の、使う機会に恵まれず、長年お蔵入りしていた兵器だ。
長年使いこんだ火薬を使った自動小銃を捨てるにはあまり魅力的ではなかったのだ。
「本当によろしいのですか、下手したら死ぬのですよ。それもあまり良いとは言えない死に方です」
奄美の確認の言葉に、アキバも、ポップも「問題ない」と短く言う。
自衛官の今回のエリアボス攻略チームも同じく答えた。
悠木の操作する複数の高性能ドローンが、警戒する様に上空を飛び、警戒中だ。
遭遇するモンスターは奄美が焼き払い、エリアボスのフロアに行く。
一体のスケルトン。
通常のスケルトンの体格は中肉中背、凡そ170㎝位だ。奄美より少し上程度の大きさだ。当然のように武装もない。
そんな一般的(?)なスケルトンの倍近くはある巨大なスケルトン、しかも手には巨大なカトラスを持ち、当たれば一撃でミンチだ。
奄美によって強化系、防御系の紋章魔法が掛けられているので、その性能を知る調査課は士気が高いが、効果を知らない自衛官、米兵はその大きさに動きが止まる。
「作戦通り行う。遠距離攻撃初め」
調査課のメンバーが攻撃を開始すると、他も正気を取り戻し、攻撃を開始する。
こちらに走ってくるエリアボスの巨大スケルトンに、白兵戦を主体とする調査課の面々が統率を取りながら格闘武器での攻撃に映る。
調査課の面々の動きは、紋章魔法で強化されているために、忍者のような動きで侍の様な剛剣を繰り出し、騎士の様な強固な防御で攻撃を引き受ける。
自衛隊の面々の攻撃も利いている様だが、厄介なのはその体力と言えた。
そもそも生きても居ないスケルトンが、振り回す巨大なカトラスは、短槍並みに長く、一撃も重さも並々ならぬものだ。
攻撃を食らっても平気なボスに、次第に弾薬の方が心配になる。
一度に運べる量には限界があり、携帯できる量にも限界があるために必然的に武装も絞る必要が有ったのだが、今回は多目に運んだのが裏目に出たのだ。
調査課の中でも高い白兵戦能力を持つ、周防、戸村の二人は、その高いコンビネーション能力で肉薄し、隙を取ってはカウンターの攻撃で骨を削る。
周防の太刀筋はまさに刹那の一瞬を通すような鋭い刃だ。
戸村の槍は、巨大なスケルトンのカトラスを受け流したうえで、周防へのアシストを行い、且つカトラスに打撃を与える攻撃パターンだ。
格闘能力に自信のある若宮は格闘戦を挑み、連続した正拳突きでの打撃でスケルトンの腰を打つ。
四之宮も同じような大振りの刀で撃つ。
三人のような白兵戦主体の者も居るが、浅間のようなタイプには直接戦闘は向いていないが、それでも長い間に潜ってきた能力から高いMPが有る。また紋章魔法を扱う来栖も同じように魔法攻撃に専念する。
しかし。異彩を放つのは奄美だ。
両手で同じような紋章を描き、同時2発の火球を放つ。
この火球の大きさが尋常ではない、浅間、来栖の数倍はある大きさだ。
これだけを受けてもスケルトンは倒れなかった。
「一時撤退」
西田が下したその時に、スケルトンの持っていたカトラスが砕ける。
その一瞬の間の静寂。
「前後撤回、叩き潰せ!」
撤退命令を取り消し、持てる火力をすべてたたきつける。
調査課の若宮、周防、戸村の三名の白兵武器が、スケルトンの足の一部を砕く。
がくりと片膝をつくスケルトン。
奄美が放つ通常の数倍はある火球から、更に数倍の雷の<サンダー>を放つ、1撃でスケルトンの右肩を砕き、もう一撃がスケルトンの頭部の一部を砕く。
「終わるぞ!」
さらに火力を強めることで、スケルトンを倒すことに繋がった。
◆
帰還した後に、メディカルスタフの衛生兵が検査しと一連の事が終わる。
調査課の面々はゲート内部のダンジョンの探査チームの隊長の四之宮が計算した結果、Lv1は上がると計算され、再びLv上げのために潜る。
その後にスケルトンを大量に捕獲した。
これを受け取る、周防、戸村の会社の社員、新素材の為に貴重なものだ。
自衛隊の方にもお裾分けが入り、米軍の二人はその逞しさに驚いていた。
「今回の数ですので、こちらのレートになります」
スケルトン1体50万円、部分ならグラム単位。
「今後ともよろしく頼みまっせ」
社員からすればこいつらが本当に同じ日本人なのかと疑問に思う。
しかし、営業の笑顔は変わらず、受け取ってすぐに輸送した。
ちなみにスケルトン一体の値段は50万円だが、このスケルトンは鋼繊維より遥かに優れた軽量さと剛性を持つ、次世代の新素材なのだ。
当然のように研究材料は必要だが、なかなか手に入らず、また今回の様な大量捕獲の大量提供は、企業側にっても安定した材料供給になるので、50万円程度の少額では普通手に入らないが、いつもお世話になります、ますますご協力の事を、これらの役所の顔の為に提供された。少なくても調査課を裏切るより味方に付いた方が何かと好いと判断する計算や、また判断せず計算できないような経営陣は居ない。
もし大量生産に成功すればその企業は一部上場も夢ではない。
こうして調査課の一人、8月は終わり、9月に入ろうとしていた