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【01-06:8/16~8/】


8月の中頃の16日の火曜日。

午前6時に起き仕事場まではジョギング。

いつもなら奄美一人の時間だが、今日の所は話が違う。

県内に駐屯している陸上自衛隊の車両にPSと省略される事も有るパワードスーツ、特殊歩兵の方々だ。

ダム内に作られている公園の中の自動販売機にワンコインで済む500mlスポーツドリンクを取る、それを美味そうにごくごくと飲む。

陸自の方々なのか、警察のようには動かず、作業に集中し、ダムの近くに色々な施設を建設していた。しかもエアコンまであるのが妬ましい。

スマホが鳴る。

『戸村 仄』


通話を押す。


「はい」

『はいは~い朝早く申し訳ない候』

「自衛隊?」

『うん。相当揉めているよ~』

「政治の世界は魑魅魍魎跋扈だからね」

『うん。でね。デートに誘おうと思ってね~』

「つまり、紋章機械工学が習いたいと」

『どう~翻訳したらそうなるの~』

「でも最大の関心事項はそれじゃないの」

『うぬ。やりおる候』

「要するに、援護になるかもしれないから戸村、周防に勉強会と」

『僕って読み易い?』

「だって揉めているんでしょう」

『鋭いね~』

「でもこっちの方も凄いよ。今ダムにいるんだけど」

『この時間にダム?』

「ああ。簡単にいえば自衛隊の皆さんが働いております」

『その映像は獲れる?』

「ああ。ちょっと待ってね」


動画を取り、通話相手に送信した。


「おい坊主、何映している」


声の方に向くと、あまり人の良さそうではないいかにも兵隊崩れの様な自衛官が近づいて来る。


「あれ、自衛官が国民の財産を奪うのですか」


自衛官は唾を吐き捨てる。


「戸村、映像は確保した方がいい?」

『うん』

「了解だ」


紋章魔法の刻印を空中に描き、その紋章を手の平で突き刺す。

紋章魔法強化系<紋・金剛>

紋章魔法の刻印を空中に描き、その紋章を手の平で突き刺す。

紋章魔法防御系<紋・ダメージカット>

紋章魔法の刻印を空中に描き、その紋章を手の平で突き刺す。

紋章魔法攻撃系<紋・ファイアーボール>

放たれた火の玉が自衛官の足元に炸裂し、高熱でアスファルトを溶かす。


「話の会いする気があると思うのですが?」


自衛官は驚くも顔を引き締めて突撃する。

引き抜いた拳銃を突き付ける。


「何者だ」

「渋いですけど、手の平は何回紋章を貫いたかは計算すべきでした」


自衛官の拳銃を掴み、剛力の元引き剥がす。


「なんつう腕力だ」

「ちなみに」


拳銃の銃口を混み神に当てて引き金を引く

ドン!

自衛官の顔が歪むが次第に驚愕の顔になる。


「名乗った方がいいですか」

「先に言えよ」

「すみません。その柄が悪かったので、裏方の人かなと」

「いいから」

「調査課のアルバイトの奄美 信雪です」

「調査課・・アルバイト?」

「ちなみに時給は8時間で1万円です。最近やっとのこと弁当がグレードアップしたと噂のアルバイトです」

「これだけで来てアルバイトなのか、お前の組織は」

「これでも待遇は平均的ですよ」

「ガキ、まあ仕事手伝え」

「は?」

「時給2千ぐらいは出す」

『もう十分だよ。凄いアクションだった』


と切られた。


「調査課の午前8時までなら」

「おう」


と肉体労働、パワードスーツを上回る身体能力の為に自衛官も表情を変えず眉を動かすぐらいに驚いていた。

別ら魔法の事や情報の事は聞かず、割と良い仕事だったと言える


◆2時間後の午前8時


「ほれ」

「まいど、4千円だよ臨時収入だよ」


財布に納めてから、入り口近くに止まっているドローンサービス社の車両を誘導する。


「そっちの会社も関係者か?」

「はい。ゲート内部のドローン調査と探索とか」

「どうゆう組織なのだ」

「ゲートの内部調査です」


社長の谷口が近寄り名刺を出す。


「自衛隊だな?」

「そうです。ただ上より施設を作れと指示を受けたのみです。この少年のおかげで何とか完成しました」

「肉体労働です」

「奄美が働けば大抵の施設が完成するわなそりゃあ。そのうち上から指示も来るだろう」

「奄美君、何も話していないわよね」

「ゲートの仕事位は」

「それ位ならいいのよ。あれはだめよ」

「魔法か?」

「ノーコメント」

「いえ、ある程度は話した方がいいと思います。俺の予想が外れればいいのですが、」

「聞こうか」

「たぶんこの部隊の次の任務は、ゲートへの突入調査です。その為に特殊歩兵の方々も居ると思います」

「納得だ」

「まあ調査課はその先鋒という奴です。水先案内人、ただ自衛隊の面子というモノから役所の手は借りたがらないでしょう。何処に行ってもぐんと役所の中は常によくありませんから、特に管轄組織や目的が違えばすぐに不満が矛先になります」

「中々良い読みだ」

「ただ、上層部ともめている方々が大人しくするのかも謎です。何より試作機の購入先は揉めたくないでしょうし」

「試作機?」

「パワードスーツです。とある事件で二機で現れた」

「ほう、あの」

「現在の所はその二機は自衛隊の防衛研究所に有ります。戦力的にはそれほど痛くはないですけど、調査課も無関係とは言えませんからね」

「そのようだ。しかし未成年を雇うのはどういう理由だ」

「未成年は4名ですが、一人は引き籠りのゲーマー、一人は何の問題もないも、本人がバトル好きな高潔な戦士の女子高生、この女子高生と同じように芯の戦士の様な柔らかな女子高生って訳です」

「そして君か、変な組織だ」

「そりゃあそうでうよ。だって銃の利かないモンスターの巣に調査に行く変わり者ばかりですから」

「銃が効かない?」

「ああ。やっぱり知らされていないか」


ガラの悪い自衛官もさすがに驚いた。


「気になりませんか、何故俺達が一度たりとも銃器の使用、もしくは補給を行わない最大の理由が」

「非常に気になる、今から突入して試すことは」

「可能ですよ。でも数は抑えてください。護衛はこの俺がしますから」

「確かに君なら護衛としてはふさわしいな、少なくても銃は効かない、重機張りの怪力、しかも地面を溶かす火の玉まで投げられる」



腕利きらしい自衛官の二人、特殊歩兵は使わずに行う予定になる。

ガラの悪い隊長は部下に何度も止められたが突入員に入る。


「よろしく」

「よろしくな」

「出てくるモンスターの紹介です」


ゲル状の生物のスライム、骸骨のスケルトン、蝙蝠。


「こっちのスライムは古き懐かしいゲームでよく出てくるモンスターです。動く者を見付けては襲うものの、蝙蝠は襲えません、狙うのはスケルトンです」

「確かに銃が効きそうにもない、そもそも心臓や臓器や脳みそはどうなっているのだ」

「後は顔だな」

「どれも不明です。その理由が、このスライムをどう捕獲するかという事です」


さすがに猛者たちも黙る。


「武器が効かない相手、しかも接近して捕まれば生きたまま溶かされます。さすがにそれはちょっといやかなと」

「次」

「スケルトン、どんなゲームにも登場、学校とかでもよく見かける奴らです。一番合う事が多いのがこのダンジョン、動く者を見付けて襲ってくる、正直知り合いには欲しくないです」


ゲル状生物に次は骸骨に、さすがにこれは堪えたらしい。


「最後に蝙蝠、主にスライムを食べます、特殊能力の超音波攻撃、その破壊力は一撃でスケルトンを砕くほど、その後にスケルトンは再生しますが、この蝙蝠はこのゲートのダンジョンの中においてもっとも分かり合える生物です。何せ唯一の哺乳類ですから」

「どう戦えと?そもそも奄美、お前はどう戦う」

「穂村」

「ああ。異世界へなんて思って志願したんだよ」

「一応、武器はあるのです」

「「有るのか!」」

「管轄が竜胆研究所なので今頃は、まあ防衛研究所に」


二人の自衛官はガクッとする。

どうやら朝方の騒動は知らないらしい。


「まあ俺には色々と有りますから」

「魔法か、魔法なんだな、魔法だろ」

「穂村、落ち着け、頼む」

「まあ簡単にいえばそうです」


自衛官の一人の穂村という青年は相当嬉しかったらしく無言喜んでいた。


「この魔法というのも微妙ですよ。必要になるのはMPというモノですが、初期は6程度です。中にはいればわかりますが、調査課が遅い遅いと進まなかった理由がよくわかります」

「もし、その魔法が使えずに調査をすると言ったら君はどうする」

「魔法で止めます」

「中にはいればわかるだろうが、異世界が広がるとかは」

「ある意味異世界です。何せ広大なダンジョンですから、しかも今の所はフロアボスを確認した程度ですし、今出に1Fなのです」


武装した自衛官の二人の異世界好きの穂村、冷静な苦労性の佐藤、ガラリ悪い隊長さんの西田の三名を連れてはいる。


「あっ運がいいです」

「なに?」

「いつもはここら辺でスライムが罠を張っているのです。いつもはそのせいで酷い臭いになるのです」

「酷いインストラクターだ」

「調査隊のくじ引きですよ。おややっぱり運がいいです。蝙蝠さんです」


自衛隊の中で強大な蝙蝠と交戦する不思議な交戦経験が出る。

89式5・56mm自動小銃を構える。


「蝙蝠なら利くと思いますよ。魔法なら一撃ですけど」

「穂村!」

「はっ」


暗視ゴーグルを被り、蝙蝠が鈍く寄ってくるその眼を小銃で撃ち抜く。


「・・・」

「ジャムか」

「いえ、合計10回は小銃の点検をしています」

「まあどっちにしろ迎撃します」


ファイアーボールで蝙蝠を焼き尽くす。

3人は火の弾に焼き尽くされたとに驚く。


「さあてと、銃が使えない最大の理由を説明しましょう」

「最初に言っても信じなかったことを言おう」

「でしょうね。人類最大の歩兵の武器が使えなければどうしようもありません。このダンジョン内部ではありとあらゆる爆発が起きないのです。」


奄美が話を続けた


「火薬も、気化爆発も、爆弾も、どんな爆発も起きないのです。これいじゃあ米軍もお手上げですよ。お蔵入りしたレーザーライフルでも引っ張り出しても、このレーザーライフルが効果を上げるかは謎です」


隊長の西田は、二人を見て喝を入れる。


「佐藤、穂村、撤退するぞ。奄美」

「はっ」

「はっ」

「使い物になる武器は調達できるか」

「ええ。直ぐにでも可能ですが、まずは家の課長なんかと話してみるとすごく話の分かる人ですよ。少なくても危険の中に飛び込もうという人を見捨てません」

「了解だ」



調査課の6名+救援隊の3名、竜胆研究所は休み、ドローンサービス社の3名だ。


「なるほど、協力体制ですか」


自衛官の二等陸尉の階級と所属を明かした西田が話し終えた。

波田間はこの実直な自衛官は信用できると踏めるが、その上司まで信用できるのかは別だ。

だが、このままではゲートに突進することになる、89式5・56mm自動小銃などの火器の使えないダンジョンに、今後の事を考えそれ是が非でも避けたい。


「上はなんと」

「火器が使えないことを伏せられたことが偉くご立腹らしいが、上には上の考えがあるそれには従うさ。だがこの部隊にもそれなりの権限が認められている、ただ上まで信用できるかは別だ」

「分かりました協力しましょう」

「いいのか」

「我々調査課にもそれなりの権限があるのですが、如何せん県の一課でしかないのです」

「そうか。素朴な疑問だがよいか」

「ええ」

「国が扱うようなことを何故か県が扱うのか疑問なのだ」


この西田という男は相当な実直らしい、何やら懐かしい人を思い出した波田間は、質問に少しの試案をし、口を開く。


「ゲート内部のダンジョンのモンスターはこの日本にはない、いや世界にもない珍しい素材的な価値があるのです」

「なるほど、続けてくれ」

「すでに判明しているスライムの耐衝撃能力は既に我依存の製品の10倍、スケルトンの軽量剛繊維は量産できれば数千億円の試算です」

「つまり。役所が食いつく話という訳か」

「ええ。その通り、製品化できればこの県は潤いますから」

「それに対しての費用効果も高い訳か、なるほど」

「私からもよいでしょうか」

「構わない」

「なぜ陸自のみなのです」

「・・・当然の疑問だが、ゲート内部に入れる手近な部隊だったわけだ。つまりお手ごろだな」

「西田二等陸尉、部下が泣きますよ」

「事実だからどうしようもない」

「少なくても、この指揮官は信用でき、信頼できる、人格もそうなら、その能力と、部下に押し付けず、自分が体感しようとする悪い武人ではないです」


奄美の言わんとすることは分かる。

話を聞くと、どうも政治も、経済も、理解はできるが好みはしない、ましてや口にすることも殆どない、根っからの武人という言葉が似合う指揮官だ。


「ガンゲイルには居ましたか」

「はい。最初の隊長がそうでした。懐かしいです」

「その方はもしかして解放奴隷の?」

「はい。元奴隷です。あと少しで騎士の階級に入るともいわれる武人です」

「分かりました。ただ材料の費用はそちら持ちで」


西田二等陸尉は敬礼し礼を述べる。



用意してもらった材料、89式多目的銃剣。


「奄美、終わったらいえ」

「誰か見学させた方がいいのではないですか、上に何か聞かれたとき」

「逆だ。聞かれるかもしれないから見ないのだ」


西田が出ていく、好奇心の強い者なら見学を希望しそうだが、西田の性格からして許可しないらしい。

89式多目的銃剣の剣身に攻撃魔法の紋章を刻印する、作業を繰り返す。



「終わりです」

作業を終えてから連絡すると、西田と信頼しているらしい穂村、佐藤のコンビがついてきた。

「全部ご注文通り、ファイアーボールの物です」

「どのように使う」

「意外なことに俺を通して翻訳されているそうです」

「つまり。異世界の国の魔法技術を、奄美の日本語能力で変換していると」

「はい。俺自身が生きた翻訳機ですね。まあそんな訳で日本語が扱えるなら使用可能です。何せ持てば使い方が分かる便利さですから」

「奄美、話が長い」

「重要な事です。海の兵隊さんはこういうのを好むでしょう」

「他所には確かに使えそうもない、機密保持は確かなのはわかる」

「じゃあ運びますよ」

「穂村、いいか、間違っても使うなよ」

「もちろんですよ西田二尉」

信頼はするが信用まではいかないらしい穂村だ。佐藤はさっさと仕事をしている。



「余計なことは話していないわよね~」

「もちろんです悠木さん」

「パワードの面々がいないから戦闘能力に関しては激減なのよね」

「しゃあないですよ。試作機で騒動が収まればお釣りが来ますって、それにフィリスさんや浅間さんも就職先が必要ですし」

「そう・・ね」

「まあそのうち戻ってきますよ。あのフィリスさんが紋章機械工学を捨てて働くと思いますか?あの浅間さんが公務員など薦められたら逃げ出しますよ」


面々からすればよくみているなといった雰囲気だ。


「まぁ、フォローが上手くなったわね」

「いえ、100%の未来です」

「相変らず理屈っぽいな」

「まあまあ、とりあえず、志雄」


名前を呼ばれた四之宮は直ぐに意図を予想し答えた。


「装備の方は汎用の方で、攻撃装備に関してはいつもの正式で、ただ波田間さん、速水さん」

「そうだね。自衛隊との模擬戦なんて、どうでしょう」

「よい発案です。西田二等陸尉に伝えましょう。あちらも訓練はしたいと思いますし」

「あの」


珍しく奄美が言葉に迷いながら声を出す。

その黒曜石の瞳には迷い、不安が入り混じる。この少年の様子から周囲の者はよほど大事なことなのだと悟る。


「なんでしょう。奄美君」


波田間が代表していうと


「とあることを思い出したのです」

「どのような」

「はい。ガンゲイル王国は豊かに国です。しかし、耕作地というモノが常に固定されている、その最大の理由は王族・貴族の特権ではなく、治水的な事、水が限られてするのです。その限られた水を利用する為にガンゲイルでも動き始めました。その直後にこちらに来ましたので」


波田間は話の続きを促す。


「治水の技術協力を頼めませんか」

「ええ。約束しましょう。他に思い付けば話してください」


奄美の顔が笑顔になり、頭を下げ、お辞儀した。


「本当に異世界が有るんだな」

「そりゃあるよ。何処で魔法を習うんだい?」

「そりゃあ言えている、どこで学ぶか、学校にでも行くかな」

「同じ学校だから安心して足を引っ張るよ」

「そのガンゲイルには何が必要だ」

「いや、志雄の好きな学問を習い、その学問を生かせばよい、大丈夫、必ず役立つことに繋がるから、異世界のガンゲイル王国でも、この世界の日本でも」

「好きなものから調べるのもよいか」


四之宮からすれば、この風変わりな友人の事が少しわかった気がした。


「僕でも役に立つかな」


戸村がいつも通りにのんびりと尋ねる。

この黒曜の瞳に奄美の黒曜の瞳が重なる。


「うーん。戦士としての腕前しか知らないからね。」

「いじわる」


戸村が拗ねるようにつぶやく。


「今までの学校も知らないし、色々と知らないことが多いんだよね。でも一つだけ確かに役に立つことが有る」

「フォローする様に成長したな~」


戸村が感慨深く口にした。


「知ることが出来るということだ。それも志雄よりも、何故なら戸村は色々と知ることができるだろ?一般的な学生より遥かに、財務の事とかもね」

「覚えることはできるよ~でもその王国で役に立つの~?」


戸村が素朴な疑問を声に出す。


「会計士、事務官は高収入なんだ。」


これに戸村だけではなく周防も、瞳に力が宿る。


「つまり私でもできるのか?」


この周防の言葉に奄美が深々と頷いてから話す。


「出来るよ。この二つが出来る為には文字の前に数字を覚えないといけない、そのうえで計算に得意ではないと無理、これらの上に主任会計士、数値からの統計的な計算を求める」

「それは簡単ではないのか」

「教育を受けている世代ね。ガンゲイル王国では一般会計士すら引っ張りだこだよ。」


奄美の言葉に予想していた面々は黙り、知らなかった周防、戸村、四之宮は奄美の黒い瞳を見る、三人の中から周防が長い睫毛を瞬かせ桜色の唇を開く。


「教育を受ける?」


この問いに、奄美は話していなかったことが有るのだと気付く。


「ああ。ガンゲイル王国では教育を受けるのは貴族と魔導院の学生位だ」

「他は~」

「誰かから教わる。最低限読み書きと計算は」

「じゃあ。読み書きができない人はどれくらいいるの?」

「500万人、人口の半分は読み書き計算できない、出来ても片言だけとかね」

「僕らには信じられない王国だね。」

「国外にはあると聞くし、ネットなどによればとも思うが、確かに教育を受ける期間が有るのなら役に立つ知識と技能を身に着ける時間はある」

「餌で釣る訳じゃないけど、あっちには未知のモノに溢れているからね」

「未知のモノ、か」

「お爺ちゃんを動かせるかも」

「周防も戸村もよいな、俺ん家は平凡な家庭だからな」

「よい親御さんじゃないか、それに志雄も変わることを決めたんだろ」


これに四之宮は両目を大きく見開く、自分が一歩を踏みたしたことを今実感した。


(そうか、これが一歩を踏み出すという奴なのか)


そんな事を思い。


(何か色んなことが有り過ぎて)


そう思い、喉を鳴らす。


「色々と有り過ぎて困るぜ。本当に」

「16歳の青春ね」


何やら盛り上がっているところだが、


「さて、そろそろ始めましょう。」

「時間ありがとうございます波田間課長」

「ええ。今後の事についてです」


気持ちを切り替えてから、速水が言葉を継ぐ。


「皆が分かる通り、正直なところだよ。ゲート内部の通路の新素材なんてくれやればよいと思っている。わが調査課の最終目的はガンゲイル王国に行き、実質的な利益を得ると共にそれを資本としたこちらとあちらを綱が産業育成及び交易のための組織を作る事だ」

「いいですか、そんな勝手なことをしても」

「知事には計画は既に出しています。後々に回るでしょうね」

「つまり我々は軍事的な目的はない、あくまでも経済的な結びつきを求める、火中の栗は我が拾うと」

「よくわかっているじゃないですか、瀬戸内」


あまり話さない瀬戸内が苦笑混じりな、微笑混じりな笑みを浮かべた。


「何処の管轄になるのや?もしかして国家公務員?」

「そういう権力とは違った方向性です。地方公務員でしょうが、まあ相当な波乱がありそうですよ。ガンゲイル王国に向かうまで、また到着した頃、その後、波乱三昧です」

「まあいいですよ。異世界に行けるのなら」


瀬戸内の珍しい発言に本人する苦笑気味だ。

何やら昔懐かしい者が心中を占める瀬戸内の内心に、同僚の加藤も頷く。


「ほな、皆で行きましょう。ここにいない者と一緒に」

「一応言っておくが、老人はいかないぞ」

「美味しい料理とお酒が有りますよ。しかも見知らぬ世界が肴です」

「やる気が出るな」


佐久間が言葉を発する。

谷口もなかなか上手くなった奄美の人を動かすやり方に感心した。


「見知らぬ世界での酒の肴か、確かに悪くはない」

「やったあ社員旅行だ」


悠木が大喜びする、亜麻色のストレートヘアが良く跳ね上がる。

なんとも微笑ましい光景を見るが、旅費の戸を考えてた谷口は素早く奄美に聞く。


「ばっちりです。あっちに限定はされている物の、商人並みの資産がありますから」

「換金はしてもらえる言う訳か」

「はい。あっちでは銅貨、銀貨、金貨の三種は有ります。基本的に銅貨のみでも可能でしょう。まあ蒸気機関車とか、蒸気機関車の戦車とか買わないなら安心です。でも技術解明のために必ず買うとは思いますが」

「車はあった方がいいのか」

「無くいても誰も困りませんけど、ゲートを超えるにはぎりぎりの大きさです。悠木さんのドローンの腕前同様の精密な作業が要ります、もしくは小型の時代の物を購入するしかないですね」


誰もが感心するような奄美の言い方だ。ただ本人は自覚がないらしくよくわかっていないようで、全員の反応が通じないもの特有の困惑と言った困り具合だ。


「奄美君、上手くなったわね」


悠木が悪戯っぽく話す、半分は感心した弟分の成長だ。

奄美は困惑しながらも、何度も首をひねり、


「悠木さん、一体何が上昇したのでしょうか」


分かっていないことが確信に変わるが、悠木からすればこの弟分の少年の好ましい所の一つと言えた。


「まあまあ、その内解るわよ」

「はぁ」

「俺らからは以上だ」


谷口がまとめ、波田間が話を聞き来乍ら資料を見終えた。


「最終目的は分かったと思いますが、問題は即ち、装備です。」

「確かに痛い、パワードスーツチームは居ないし、奄美君一人のアタッカーなのはいつも通りだけど、他の武装まで取られたしね」

「その通りです。現在としては指揮車両すらありません」


この波田間の言葉に全員の顔が暗くなる。


「今は陸自の倉庫を借りるぐらいだし」

「ちょっと貧乏になりましたね」


悠木と奄美がため息交じりに話す。


「指揮車両はすでに速水君と加藤君が入手する手はずです。前回の指揮車両は試作品なので、今回は注文している間にこんなことになってしまいましたが、今頃完成しているでしょう。またインフォメーションイルミネーター、統合情報処理端末、この情報装備が有れば幾分か楽になるでしょう」

「そういう訳なので、指揮車両、iイルミネーターの二つは追加されますから、今の状況よりだいぶ良くなるでしょう。さてと、次に必要な物を揃えるのは周防君、戸村君」


速水の指名に周防は自我の強い輝きの瞳を向ける。戸村もゆるゆるな顔の確かな自我の大きめな瞳を向ける。


「二人には手に入れてもらいたい物があります。PS、それもフィリス君の指定の物です」

「ホノと私なら大抵の物が手に入るが、さすがに軍事用は無理だぞ」

「うん~無理~」

「安心してください、試作機です。それも奄美君、四之宮君、周防君、戸村君、若宮、来栖の6機です。凡そ一個小隊及び一個分隊、浅間君がいない今の調査を支える物です」

「軍用は無理でも、民間品というのなら可能だ」

「うん~可能~」

「篠原重工の40式試作パワードスーツです。所謂特殊警備という分野の機体です。実質的な軍用の前の段階の試作機です。ちなみに篠原は何でも自衛隊の陸自にトライしていますが、その極めて特殊な構成から不採用です」

「極めて特殊な構成?」

「もしかして~い~や~な予感がする~」

「極めて高性能ではある物の、防御力を一切切り捨てられた高機動兵器貨物機という事です。」

「それはまた極端な」

「ん~でも~でも~あまあまがいるのなら変わるかも~必殺<ダメージカット>」

「あの理不尽なまでダメージをなくす奴か、敵に使われたら酷い結果になりそうなものだ。<剛力>とワンセットに使われたら溜まった物ではない」


全員がその尖った性能には、奄美の魔法を知る者なら相性の良い試作機だ。


「そういう訳です。頼みます」

「了解だ」

「承った候」

「後奄美君」

「はい」

「とある人から頼みがあるそうです」

「俺だ」


来栖が声を出す。今まで黙っていたが、奄美は意図を察し目を伏せる。


「奄美に頼むのは魔力取得の儀を行ってほしい」

「やはり抑えきれませんか来栖さん」

「ああ」

「分かりました。ご家族には遺書をしたためてください、後、これだけは誓ってほしい、無用な暴力だけは振るわないでください」

「了解だ」

「なんとなくそうなるだろうなと思ったのです。耐えてくださいよ」

「もちろんだ」

「準備が終わったら声をかけてください。あまり人に見せられる物でもないので」

「了解だ」

「さて、四之宮君には隊の運営面をお任せします」

「ええと、16歳ですよ?」


さすがに自信のない四之宮の言葉に波田間は首を振る


「貴方は才能が有ります。例えゲート内部での物だとしても、替え難い才能です。このまま開花しないのは非常に惜しい、その片鱗だけで調査隊、警備隊、救援隊の効率は劇的に上昇した。これは非常に得難いものです。君はもっと自信を持つべきですよ」


四之宮としてもここまで言われたらやる気を出す。


「なんか世界が変わってた感じだ。分かりました引き受けます」

「頼みます。参謀には速水君をつけましょう」

「よろしく指揮官」

「よろしくお願いします速水さん。いえ参謀」

「私は当座の間は政治ですね。各所の協力を取り付ける仕事です。非常にやりがいが出ますよ。よく言えば学生時代の頃に読んだことのあるハイファンタジーを、タイトルは忘れましたが、感慨深いものです。恐らく幸運なのでしょう」

「では、それぞれの仕事が有りますので、担いましょう。また若宮君が当座の間の警備兼運転手です。指揮車両を取りに行きますので頼みます。後、指揮車両はメルセデスですよ」

「速水副課長、そんな物で何を」

「見ればわかります。だいぶん奮発しましたよ」


若宮からすれば、厳つい軍用用車両かと思いきや、メルセデスの車となると、運転できるのは確かに好いだろうが、余りに心許無い、むしろどんな裏があるのかと疑心暗鬼になる。


(まっこれも機会だ)


考えることは上に任せるを信条とする若宮だが、車の方は結構好きだったりした。



奄美が静かに魔力取得の儀を執り行う。

力によって獲得させる、乱暴なやり方だが、奄美はこれしか知らず、また来栖も行うべきことを終えて臨む。

死に至る様な激痛を数秒間、下手したら9秒を超えるかもしれないことに、治験は出来ないので奄美は来栖に告げ、来栖はそれでも魔力取得の儀に挑む。

今回の事に関係者が呼ばれた。

貴重な儀でもある。


当然の様に魔力取得の儀を考える者達に見せる警告でもある。

死ぬかもしれないことを念頭に置き、その意思が揺るがないことを何度も確かめ。

来栖の体に魔力を注入した。

声にならない激痛が駆け巡る、計測用のセンサーが尋常ではないストレスと、尋常ではない激痛が全身を巡る、自衛隊の医療班はさすがに動こうとするが、他の兵が止める。

さすがに医者がドクターストップを掛けるが、奄美は止まらずに魔力を注ぐ。

実質的に9秒で止まるが、そのまま医療班によって処置された、あと僅かでも遅れたらさすがに止められるような数値だ。


「儀式は終わりました。お分かりと思いますが、こんな激痛を味わう事になります。魔力取得の儀など愚かなことは考えないでください、お願いです」


儀式を取り行う者が懇願する言葉に、見学者達はこれを部下に押し付けるなど無理を通り越し辞職するようなものだ。死ねと言っている様な激痛に得たいと思う者がいるはずもない。



「状態は」

「仕事なのでいいますが、あのまま言ったら死にましたよ」

「貴方は力を渇望したことはありますか、その心を知っておられますか」


ドクターはなんとも言えない顔になる。しかし、死ぬかもしれない実験を行うなど正気ではないのも確かだ。


「症状は安定、数日で極普通の日常生活レベルに落ち着くでしょう」

「そうですか。魔力取得の儀にも活用できる医療技術には感謝です」

「正気じゃないのは確かでしょう。まるで狂気との中間にある様な儀式です」

「それだけ力への執着が強いという事でしょう。時々いるのです。あのドクター」

「何でしょうか」

「力への渇望が狂気を上回った場合はどうするのでしょうか」


ドクターにも言葉がない。


「何でもありません。忘れたほうがいい場合もありますし」


少なくても精神ケアには良さそうだ。


「ドクター、監視カメラを少しだけ止められますか」

「映像の記録は」

「少し検査を行うだけでもよいと思います」

「なるほど、貴方の様な魔法使いの勘ですか」

「仕事がら探られていると魔法が不成功してしまう事がまれにあるのです」

「分かりました」


ドクターが魔法の使用のために監視カメラの停止を要請し受理された。

紋章魔法治癒系<紋・ヒール>

室内にいたドクターにも温かい印象の光が来栖の体に収束される。

恐らく癒しの力を使ったことが分かるが、それほど効果はなかったらしい。


「気休め程度です。それでも少しはよくなります」

「狂気の果てに得た力の一つがその治癒と」

「はい」

「簡素な返答だが、確かにその価値が少しはあったのかもしれない、魔法使いとは私には怖く映るよ。社会を変え過ぎる力の様で、過ぎた力は身を亡ぼす」

「その通りです」

「少なくても患者の容体はマシになった気休め程度の数値でも、患者からすれば痛みが和らぐ」

「医学とはすばらしい力です。治癒とは人を狂わす力です」

「医学だって、そんなに良い物じゃない」

「そうなのですか、それでも自分には黄金のように映ります。」

「万人を遍く治癒する力じゃない、だから医者も、そして患者も、色々と有る」

「そうですか。世界同士が繋がり何が変わるのか」


ドクターからすれば、もしかしたら病を治癒する薬が見つかるかもしれないという期待はある。この少年ならきっと探すことも分かるが、今度はそれで争うのが人間という事もドクターにはわかり、癒す為に傷つけあうその愚かさがなんとも言えない狂気の沙汰だ。

こんな矛盾と戦う医者の事も有るが、こんな矛盾と戦う魔法使いはどうするのだろうか?魔法使いらしく万物を司る魔法で解決するのだろうか?人である以上限界はある、だからこそ人はその限界を超える為に挑む、この目の前の患者の様に、それは愚かではないとするのならなんというのか?愚かその物では無いのか?そんな疑問が浮かぶもその応える者はおらず。


(こんな儀式で得た力の為に)


医者からすれば全くのオカルトの様だが、現場を見ればかわる、また先程の治癒の力を見ればわかる、迷信のような力に見えてしっかりとした法則なり公式なりが有る。

これでは科学のような学問に似た、魔力という名前の物を扱う為の学問のようであり、恐らくそれが正しい姿なのだと言える。しかし、治癒の力が人を狂わすなら、魔法の力もまた人を狂わすに十分な魅力がある、その為にどれほどのものが挑むのか、このような患者が再び入ってきたときはどうするのか、なんとも言えない、憤りと、ジレンマと、様々な思いが渦巻く、いっそのこと仕事を変えるかも考える。

ただ異世界は惜しい、異世界にある物が有れば患者を癒せる、多くの者を救える。


「ドクター、少し休まれては」

「いや、そうだな。君の言う通りだ。」

「異世界にあてられましたか」


この極普通の歳ぐらいの少年魔法使いがそういう、ドクターは少年の持つ洞察力には感心した。しかし、年の功という事も有り苦笑して病室の外に出た。


時々魔法の使用のために監視カメラを止めるぐらいの要請が出る程度で、その度にわずかながら数値が安定してくる。ゲームなどの経験者は治癒かななどとぼやく。



「奄美」


来栖が目を覚まし、力を与えてくれた者の名前を呼ぶ。


「気付いたかい、今から日常生活に向けてリハビリだ」

「奄美は」

「彼ならMPを使い果たしたと言って休んでいるよ。治癒の魔法を使っていたしね」


来栖は年下の少年魔法使いの気遣いに感謝した。


「彼には感謝するといい、君のために相当な無理をしたらしい」

「そう・・だな」

「こちらで医療の支援は行うが、定期的な検診は受けてくれ、日本初の魔力持ちだからね」


来栖の重々承知しているが、今力を得て生きていることに感謝の念が絶えない。


(幸運だった)


そう思うほどの儀式の際の激痛は、あの痛みを体験した奄美だからこの事を何度もやめるよエうに行ったのがよくわかるほどの耐え難い激痛だった。

あの激痛を二度味うと言ったらさすがに拒む。


(それに力だ。)


ダンジョンのモンスターを一撃で狩るほどの力、それが手に入った。


(これで失わずに済む)


大事な者を失うのはもう嫌だ。

来栖の念願の思いが敵うが、厄介なことも絡みつく。

しがらみながらも、奄美に師事することになる。

何よりもダンジョンで得たLvの事も有るし、魔力取得の儀で得られた魔力もある。

少なくても来栖は人が及ばない力を得たが、それ故に奄美の心配するろくでもないことにつながる恐れを抱える。それは国の事、世界の事、大事な者に攻撃してくる者。


(若宮の言葉もあるな)


かつて来栖を思い止まらせた言葉。


(魔力を取得しても才能がなければ意味がない)


こればかりは魔力を得た後でしか知る事の出来ないために、若宮の懸念は見事に的を射ている。



奄美が作った紋章学の書籍を見る来栖は、うんざりした顔で似た様な紋章の微妙な違いをひたすら言い当てる時間だ。どんなことに言えるが基礎は何事も重要なのだと奄美に説かれる。特に来栖好みの強化系の大量の紋章にはやる気が有っても頭脳が追い付かない。


「奄美、全ての紋章とはどれぐらいある」


来栖の素朴な疑問に、奄美は考えてから。


「数千億はないよ。ほんの数万個ぐらいだよ。一つの系統」


言葉を濁す奄美に、来栖はうんざりしていた顔で重々しげに溜息を吐く。


「全部で?」

「数千万個ぐらい、判明している物で」

「まさかと思うが」

「最終試験は全ての紋章を成功させること、そしたら見習いから正規魔術師だね」

「やるだけやってやるさ」


口調こそ意気込むようだが、含まれる感情は自棄だ。


「どんな時も冷静さを失わない来栖向けだよ。弟子だからさんはないからね」

「了解だ。数千万個を成功させるとか正気じゃない」

「安心して、紋章学単体の知識だから、所謂基礎だね」


来栖からは恐ろしくて、他の学問の応用の汎用紋章魔法などの事は聞けなかった。


「ちなみに、汎用紋章魔法は、まだ試験中だから、覚えなくてもいいよ」

「助かる」

「でも、弟子だから紋章機械工学についての、まあこれはまだよいや、きっと役立つから自分なりに勉強するのもよいよ」

「了解した」

「魔法工学については最近の流行だからね。後学のために学ぶのもよいね。でもあの学問はなんというか、儲かりたい魔法使い向けかな、発明家みたいな。まっそんな訳でお好みで」

「了解だ。ちなみに師匠である奄美はこの紋章学をどれくらいで覚えた」

「4カ月」


来栖はなんとも言えない、何せ教材全てを作ったのは奄美だ。当然のように全て覚えている師匠樽奄美だからこその行いだ。少なくてもこの知識を得たいと思う人は居ても、現実に突き付けられたら心が折れる。

少なくても数年かかってすら覚えられるか謎の量だ。


(やって見せる。やっと得た力だ)


自衛隊の防衛研究所での紋章学のたった一つの系統の方一つを成功させたのは実に数日とい日数がいる。それも数十回も失敗した後の成功だけに、実験に立ち会った人々は歓喜に沸いた。



「やあ久しぶりですフィリスさん、浅見さん」


浅間が挨拶し、フィリスが飛び付いて奄美の頭をなでる。


「久し振り!」

「フィリス、師匠から離れてもらいたい、試験の最中なのだ」

「ごめんごめん、仕事上の上司から、紋章学に役立つ機会でも作ってくれと頼まれて、かなり難航している紋章全てを登録することにしたの」

「貴方は神だ」

「来栖も現金になったな、まあそんな地味な学問だと確かにな」

「1億に限りなく近い9000万個もの紋章を全て暗記しろという無茶だ」

「そんな時こそ現代技術、大抵の技術は使えるから、さすがは自衛隊、お金が有るわ」

「ついでに言うのなら紋章機械工学にも応用しろと」

「また紋章が増える」


来栖の瞳に力がなくなる、浅間からすれば、心が折れ掛けているなと言った所だ。


「まあ紋章全てを登録して、それを持ち歩いて適切な状況下で使える様にすれば画期的だね」


フィリスの抱きしめる力が強まる。


「さすが!」

「問題は、未登録の分野や、その他の様々なの分野の紋章などの取り扱いかな。この点は魔導院との交渉だね。俺にも魔導院との取り決めはあるから、でもすでに知られている紋章に関しては問題ないよ」


来栖からはやっとのこと楽になると久し振りにホッとした。



紋章全ての登録にはそれほど時間はいらなかった。

パソコンではなく、スマホで事足りるからだ。

この情報からの奄美からの取扱説明書を一つ一つに津に取り付け、9000万もの全て他の紋章の使い道と取り扱いを覚えており、紋章学に関していえば非凡すぎる才能を見せる。

もちろんのことに、奄美はガンゲイル王国魔導院で禁止されていることも覚えていたりするので、それらに関しては禁止指定し説明をせずに、禁止なので使用禁止と記載した。

この禁止の紋章だけで1割近く有ったりした。


これらの現代の情報機器と、また情報技術を使った紋章登録装置が完成し、膨大な根紋章が誰にでも手に入る様になるが、魔力を持たない者には単なる紋章でしかない。


「奄美師匠」


来栖がとあることを思いつき奄美に話しかける。


「何だい来栖」

「銃器の物が有ったと思うが」

「あれは無理なんだ。疑問に思わないかい、俺がなぜ使わないのか」


他にもいたフィリス、浅間も同じ疑問を浮かぶ。


「紋章学に非常に高い相性を示した特殊な鉱石がいるのだ。他の者では付与魔法レベルのために対した力はない。精々パチスロの銀玉ぐらいだ。何せ紙すら破けない力なのだ」


酷い話だと言えるが、奄美はさらに続く。


「紋章学はまだ未発展の学問、好奇心を持ち試してみるのもよいと思うぞ。」

「しかし、俺はまだ見習いのみ」

「見習いでも学問は自由だ。学ぶことは追及する事にもつながる。しかしだ。自分の追求した者が結果としてどのようなことに使われようと受け入れる度量は持て、この事で身を崩した見習いや魔術師は多い」


年齢こそ低いが、魔法の本場のような場所で学んだことは生かされているらしく、その警告に、自分がウェチェスターになるのはさすがに来栖も嫌だった。


「特に軍事兵器は遠慮しておけ、よく軍人が伝えてくるが、下手したな大量破壊兵器の作り主となるぞ。その為に非業の死を遂げた者なら数多い」

「了解した」

「だが、自衛の為の力を怠れとは言わない、自衛できない魔術師は死ぬからね」

「了解だ」

「フィリスさん」

「う?」

「とある研究していた紋章を試したいのです」

「どんな乗り物が必要」

「原付で結構です」

「ユウくん」

「フィリスは免許がないんだよ。だが、原付一台を実験にすると言ったら、自衛隊から凄いの機が来そうだ」


防衛研究所にある小さな研究室だが、現状なガードにセキュリティーと言った所だ。

そうして浅間が調達した原付。


「これより紋章機械工学の実験第1号を行う」


ヤマハの原付、そのエンジンに向けて紋章を刻み込む刻印を行う。

魔剣化とも違う、魔法を撃ち込むわけでもない、紋章機械工学専用の紋章だ。

奄美の研究していた紋章の刻印が終わり、浅間が乗り込む。


「エンジンの性能が上がっていると思います。どうぞ」

「もしその時には抱き着いてやるよ」


エンジンを入れる。

音は通常の変化なし、アクセルを軽く入れる。

少し動く程度。


「思いっきり」

「了解だ」


思いっきりアクセルを入れる。

凄まじい加速力を見せ奄美の防御系が活用されなければ壁にぶち当たって事故死だ。


「すげえよ。おい奄美」

「成功です」

「凄いじゃない」

「1000年は使われるぞこの成功した紋章は」


人類が動力を獲得して数世紀、この動力:エンジンが例え宇宙の世界に至ったとしても活用されるものだ。この世界で最も大きな発露委の一つのエンジンを強化する紋章は来栖の言うとおりに1000年は使われる基盤となる。

そんな奄美、来栖、フィリス、浅間の研究はある程度の失敗と、とてつもない大きな成功を収める。監視カメラでのぞいていた警備の兵士は直ぐに報告するほどだ。



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