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【01-05:8/8日~8/15】



「冗談でしょう」


奄美が珍しく怒気を含んだ声で話す。

調査課の行う関係者の中でも、こと魔法に関して最高峰の人材だ。

何よりも温和その物の性格でもある。


『冗談ではない、何らかの動きがある』

「しかし、現場で防ぐ者どうするのです」

『それについては、ない』

「では命令系統の説明は」

『ない』

「有害な生物が町中に現れたらだれが責任を取るのです」

『・・・すまん』

「分かりました。これからは独自の判断で動きます。」

『その方が良い、役所は役所の都合で動く、奄美信雪、君の判断を尊重する。無事で』


通話が切れる。


(波田間さん)


通話が終わってから、直ぐに救援の為にと思っていた仲間に連絡する。

そうして集まった。

引き籠りの剣道有段者のゲーマー、四之宮 志雄

剣豪の様な剣士の女子高生、周防 真

小柄ながらも優れた槍の使い手の女子高生、戸村 仄


「よく集まってくれた」

「緊急との事だが」

「ゲート調査課の解体が決まった」


三人が黙る。奄美は続ける。


「8/1より始まったゲート調査のための調査課は8/8の営業時間を持って解体が決まり、この仕事の引き継ぎはない、ゲートの資料は全て隠蔽される。」

「何が起こっているのか、さっぱりな状況だが、一つ分かることがある。このメンバーの事は知られていないのだな」

「もちろんだ」

「Lv上げを行うべきか、それとも装備を整えるべきか」

「選択肢はそれほど多くはないな。周防の二つの選択肢がベストだろう。こんな夜中かもしれないが、街中は明るい、何かを調達するにはまだ十分だ」

「ハイ!」

「戸村、どうぞ」

「奄美は、私達を頼る、でも頼る必要があるの、巻き込む必要があるの」

「頼る必要はあっても、巻き込む必要は全くない」

「ふむふむ。ならなら、どうして」

「俺にとってみれば緊急事態だ。二人にとってみれば楽しそうなイベントに映るのではないか」

「・・・その一面はあるが好きにはなれない表現だ」

「僕も同じかな」

「経験を積ませたいと思った。これは良い機会だと」

「最初からそう言えバカ」

「それなら納得、他に協力してくれそうなところはある?」

「二つほど思い浮かぶ、たぶんそこには伝わっていないと思う。こんな時間にはさすがに寝ていると思うし」

「バカ、そんな遠慮をする間柄なのか」

「うーん。そうなんだけどね。大変な労働なんだよ。あれだし。パワードスーツ」

「「パワードスーツ?」」

「そ」

「もしかして竜胆研究所か」

「よく知っているね」

「シン、どうにかできるかも」

「ああ」

「話がさっぱり見えないが」

「私の家、周防家、ホノの家、戸村家の二つも出資しているのだ」

「出資って金を出すって意味だよな」

「普通の家庭より裕福なのだ。あまり言いたくはないが」

「もしかして、番号とか知っている、後住所とか」

「もちろん知っている、私もいくらか出資しているしな、ホノもだ」

「あまあま、他には」

「ドローンサービス社」

「うん知っている。そこにも出資しているから、ねシン」

「ああ。この二つか?」

「今さ、抱き着いてキスした位だ」


四之宮、周防、戸村が噴き出す。

大真面目にいう奄美の台詞だ。


「よし、近い所は」

「ドローンサービス社だ。案内する」

「いいねえ。ついてきたぜ」


四之宮の言葉に奄美が頷く。



ドローンサービス社のビル前、おんぼろな雑居ビルにある建物だ。

移動中に呼んでいた事も有り、老人の谷口が待っていた。


「どういうことだ奄美」

「すみません谷口さん。こちらは俺の仲間です」

「周防家のお嬢さん、戸村家のお嬢さん、よくわからない少年が一人、まあ話を聞くしかないな。その前に聞くがこの事は波田間は知っているのか」

「調査課の解体が決定しました。その為に独断で動いています」

「・・・なるほど、邪魔な調査課を解体すれば後は自由だしな。あの波田間が易々と終るとはとても思えないが、まっ。起こしてみるか、ひとまず中に入れ」

「はい」


中に入る。

事情を話す。


「まずは調査課の解体、もしてお前の仲間はいざという救援のための人材育成、しかもLv3だと?どうやったかは知らないが、随分と高レベルな。まあ戦闘能力は高い方だな。その救援隊はまあ良いとしても、竜胆研究所には」

「連絡は入れています」

「そう・・か」


谷口はホッとした様子でソファにもたれかかる。


「禁煙中のタバコが吸いたくなるが、辞めておこう」

「よくわかりませんが、体力が落ちますからLvを上げれば可能では」

「年寄にはきついのさ」

「足腰の強化に繋がりますから健康的と思いますが」

「体力は若者に押し付けるのが家訓だ」

「了解しました。ある程度の武装は可能でしょうか」

「パワードスーツを着込まなくてもお前さんの魔法なら、まあそうだな、武装か、近くにスポーツ用品店が有る」

「使い道のない金ならある」

「お嬢さん、Lv3だな?」

「ああ」

「そっちの方も」

「そうだ」

「なら強化系、防御系の紋章も使った方がいい、一々攻撃魔法を使えば被害が大きく過ぎると共に、強化系や防御系が使えるのなら半日近く効果を持つからな」

「詳しいな谷口さん」

「そりゃあな。先週はずっと調査だ。その時に色々と試したさ。まあ奄美の能力については色々あったが、こいつが低レベルな魔法使いかもしれないが、紋章学の権威だ」

「奄美、後でその紋章学を教えてくれ」

「はい~はい~。僕も」

「俺も習いたい」

「別にいいけど、一言で言うなら酷く面倒且つ地味な学問だよ」

「いいんだ。学校の授業より楽しそうだ」

「うん。実験とか楽しそう」

「やっぱり回復魔法だよな。あんなものが有れば滅茶苦茶楽そうだ」

「じゃあ。スポーツ用品店での武装購入後、それらの装備の強化を行うよ。実験中の汎用紋章学もあるしね」



スポーツ用品店での装備の購入後、近くの衣類店での夏物のコートを購入し、ドローンサービス社で、それらの武装を汎用紋章学で強化続けた。

それらが終わる頃に、竜胆研究所から連絡が入り、竜胆研究所は連絡が入るなりすぐ行動を起こし、現在のところパワードスーツの4機を稼働可能にしてあるらしい。


「奄美君!」

「お久しぶりです悠木双葉さん」

「佐久間さんはぎっくり腰で入院中」

「幸運な人です。こんなトラブルの時に休めるのは、ちょっと羨ましいです」

「バカ言っていないで」

「こっちの三名は」

「救援隊の面々です。平均Lvは3、ダンジョン内部での活動時間は4時間です」

「中々強いじゃない。私よりLv1上だし。まあ私の場合ドローン操縦によるサポートが主だしね」

「うす。まずは自己紹介から行きましょう」


登場人物一覧

奄美 信雪:Lv[5]16歳・男性。異世界帰りの魔法使い、主に紋章学の研究を行う、調査課きってのアタッカー&魔法技術者

谷口 斎:Lv[1]60歳・男性。ドローンサービスの社長、県内でも有数のドローンのビジネスで成功した会社を率いる。

悠木 双葉:Lv[2]18歳・女性。ドローンサービス社の期待の星、汎用紋章の考案者

四之宮 志雄:Lv[3]16歳・男性。引き籠りのゲーマー、剣道有段者

周防 真:Lv[3]16歳・女性。周防家の令嬢ながら剣道有段者、ロボゲーマー

戸村 仄:Lv[3]16歳・女性。戸村家のお嬢様ながら槍術の達人かも、ロボゲーマー



「悠木さんが汎用紋章の考案者なんだ。かなり頼りになる人だよ。でもドローンを溺愛するのが玉に瑕かな」

「道具を大切にする人の方が好感は持てる」

「うんうん」

「まあね。では奄美君はどうしたいの」


悠木の質問に奄美は、途中で購入したローリーメイトを齧り。


「調査課の存続、もしくは引き継ぐ組織の発足、このままゲートを放置するのは危険すぎるからね」


これには誰もが納得した。


「次には個人的な事、ゲート内部のダンジョンを進み、魔気を辿ってガンゲイル王国のある世界に到着する事」


奄美の明確な目標には、他の者からすれば本当にあるのかも謎の世界だが、ゲート内部にあるダンジョンを進めばいずれ分かる事だ。

この為には調査課、もしくは調査を引き継ぐ組織がいるのは確かな事だ。


「ドローンサービス社としては協力してやりてえが、微妙だな」

「資金的な事でしょうか谷口さん」

「それもあるが、この会社自体の人員の殆どが休んでいる。今じゃあ悠木がいるのみだ。ドローンの整備可能な所がいる。しかも運命共同体の所が、奄美の治癒で佐久間の病気が癒せるのならよいのだが、それはまただろ」

「はい。まだです」

「後だが、中心となる組織がない、ドローンは主力とはならない、パワードスーツもまだ主力とは言えない、調査の為には人員がいる、組織がいる、個人で行えることには常に限界がある」


谷口の事は最もであることは奄美にも、悠木にも、他の3名の救援隊にもよくわかる。


「谷口さん、ダンジョンのサンプルはどうします」


奄美の言葉に谷口は考えてから口を開く。


「そりゃあ。まあ未知の発見とかなるな。上手くすればよい素材になるかもしれない」

「はい。その為に必要な道具は」

「・・・お前さんも随分と回るな。確かに必要だ。お前さんの協力なしにゲート内部の迷宮の調査も不可能なら、内部に現れるモンスターの撃退も素材確保も出来ない」

「はい。その通りです。なら、それらを誰が欲するかという事にもなります」

「なるほど、確かに道理だ。欲する側に高く売りつける事は可能だ。それがどこかは」

「ネットって便利ですね」

「いやいやいやいや、ネットは不味い、かなり不味いって」

「落ち着け若いの、何事も交渉というモノだ。例えば政府、例えば県とかな、もしネットに広まれば、もう止められないぞ。それだけでも十分、交渉材料になる」

「その結果の記者会見でこういうのですか。あそこには有害なモンスターがウヨウヨ、また銃が効きそうもないモンスターが多いです」


奄美が言いながら次の事を言う。


「それらの対抗手段とはいかなくても対応策はどうなっているのでしょうか。全くの放置です。なんて言おうものならボコボコです。また責任者は、担当するところは、相当揉めます。誰だって貧乏くじは引きたくないですからね」

「お前さんがいて本当に好かったと思うぜ」


奄美に三名も悠木もぐっと親指を立てる。



「なるほど、確かに好い考案ですね。奄美君は中々の交渉人のようだ」


竜胆 慧、竜胆研究所の所長、また竜胆・フィリス・音符の父親、機械弄り大好き人間。


「私としては協力するわ。紋章機械工学の為にも」

「ああ。まあ後輩がこうも頑張っているのに逃げ回るのもな、まあ金の事ならかなりどうにかできそうだ。運良くすれば紋章機械工学の予算も入りそうだしな。俺としても救援隊には驚いたが、腕前の方はまだ初めごろか」

「感謝です。フィリスさん、浅間さん。後救援隊の面々は白兵戦の訓練を受けています」

「ほう。来栖や若宮並みか」

「装備がないですから、専用装備の開発ができるのならよいです」

「その点は、どうにかしますよ。必要不可欠ですし、救援隊には感謝したいですね。調査課が存続しなければこの救援隊が中心となります」

「重いって、俺の様な引き籠りになんて重荷を押し付けんだよ」

「志雄、頼む」

「・・分かった。ああくそ。ゲーム三昧の日々が妙に懐かしいぜ」

「日給1万」

「頑張らせてもらうぜ」

「うむむ。それは高いのか、たった1万だぞ」

「阿保抜かせ。1時間・・・416円?」

「一日8時間目有働がこの国の規則だよ」

「とすると1250円か、中々の時給だ」

「高校生としては中々の高収入だ」

「はいは~い」

「どうぞ戸村」

「サンプルというと、あのスライムやスケルトンに蝙蝠だよね」

「ああ。まあ売り物になる様に捕獲する方法はあるからな。それには売り物を買い取る相手が必要だ。そのことは後々だ」

「魔法って火球、汎用紋章の刻印による汎用魔法の使用可能」

「ホノが言いたいのは、魔法技術を売却すればよいのではないか」

「そっかあ。話してなかったんだ」

「悠木、どういうことだ」

「うん。魔法を使う大前提がMPという魔力がないといけない」

「もしかして紋章による魔法は」

「それは魔剣化した道具を使った魔剣魔法解放って奴、言い換えれば魔法の灯具を使った共通の魔法、これを作れるのが奄美君ってわけ」

「道具は誰でもって訳なのか」

「そうでもないわ。私が調べたところ、奄美君の協力の元だけど、Lvが一定数値に行かないと使えない事も有るわ」

「とすると、単に道具を使う事は出来るが、生身では使えない、また高レベルな道具は、同じように高レベルでなければ使えないと?」

「ええ」

「これはまた厄介な、交渉の時はこれは伏せたほうが良いな」

「だからこそややこしいんだけどね」

「奄美、僕の家や真の家がその魔法技術とか買うと言ったらどうする」

「うーん。そうだな。まずは使用目的、次にどんな商品プランか、まあ商品にするとしてもそれらの課程での問題はないのか。かなり大きな話になるし、この世界初の魔法技術の商品化だからね。これは大きなビジネスとなる事は確実だ。だけど、なるべくは辞めた方がいいと思う。魔法はあまりに魅力的過ぎる力だ。暴力に少しでも傾くのなら欲する、それらによって起こりうるテロなども考えればやめた方が無難だ。また魔法を使う為にはMP、魔力がいる」

「うん」

「その魔力を得るには麻酔抜きの歯医者の痛みに耐えるしかない」

「それだけが得る方法?」

「ああ。正気じゃない。ましてや仲間に薦めるつもりもない、仲間の家族ならなおさらだ。ショック死したらどうしようもない」

「そ、そこまで、むう」

「魔力を手に入れることは即諦めるとしても、その便利である道具、確か魔剣化した道具、我々救援隊が装備する汎用紋章の刻印がつられた装備、これらの差異は」

「簡単にいえば性能だ。正式な魔法の魔剣化した道具は10、汎用魔法による魔剣化した道具は1だ」

「そうなのか、とすると消耗に関しても?」

「そうなる。」

「まっそういう訳だ。老人には考えがある。周防、戸村の嬢ちゃん」

「なんだ」

「なんでしょうか」

「御老に頼んでみるのもよい。」

「確かに」

「お爺ちゃんかあ」

「知事には二人の老人から伝えてもらえばよい、二人にも連絡は入れられる。全く長い行きはするものだが、若者は無謀な所があるのが心配だ。まあ浅間も、フィリスも、悠木もいるし、奄美だって鈍くはない、いつものおバカな口調の事も有るが、まあ何とかなるさ」



とある料亭、深夜というより明け方の時刻。

二人の老人、好々爺そうながらも鋭い目つき、近くには日本刀、対面するのは戸村、周防、奄美の三名の未成年、ドローンサービス社の社長の谷口、竜胆博士の五名。


「なるほど事情は分かったが、魔法か、これまた吃驚じゃ」

「仄でも魔法が使えるようにはなるのか、のう奄美殿」


二人の老人の鋭い眼差しに、奄美はニコリと笑う。


「魔力を得る方法はあります。御老方でも可能です」


二人の老人は笑わない。


「麻酔無しの歯医者の痛みに耐えられるのなら、となります」

「では奄美殿はどのようにして魔力を得た」

「俺の場合は元々微弱乍らありました」

「ほう」

「しかし。魔法を使うには足りません」

「ふむ」

「そこで、魔力強化の儀を執り行い、痛みに耐えました。時間にすれば数秒、それでも全身に死ぬほどの激痛を受け、何も考えられないほどでした。このような強化の儀を欲する者は多かったです。そのような方々に執り行いました」

「のう奄美殿」

「はい」

「そのような痛みが起こることを承知でその者達は実験体になったのかのう」

「はい。力を欲する者の事情は様々ですが、どうしても欲しかったという内容です」

「なら、魔力取得の儀は」

「それ以上の者が欲しました。同意の上ですが、得た後は皆笑っていました。やっとのこと手に入ったと。魔法が使えない者と、魔法が使える者とでは経済格差がありますから、また復讐を考える者には必要だったのかもしれません。」

「同意さえあれば誰でもよいと?」

「はい」

「それは、治験のようなものと」

「そうですね。健康な者と条件は付けてありますから、治験が最も近い物です」

「違うのは金ではなく魔力という力を得る事、その魔力をお主は強化の儀で得たといった、だからこそ、魔力取得の儀を止めると言ったな」

「はい。」

「何故止めなかった」

「力を欲する理由はそれぞれでもその渇望する心はよく知っていますから」


二人の老人は目を伏せる。


「調査課の存続、それでよいのだな」

「わし等も協力は出来るが、魔力を待たない物には魔法は使えない、また魔法の道具は誰でも使えるが、れべるが一定に達しなければ使えない」

「しかし。その魔法については金を出した方が良いのか迷うぞ。孫が言うのは分かる、映像を見せられてそれを疑う事もない、しかし、しかし、余りに強すぎる力に映るのだ」

「律するしかないでしょう。いっその事に対魔法兵器でも開発しますか」

「そんな道具より普通に魔法を使った方がはるかに安く簡単に済むわい、奄美殿、主はゲートの中に広がる迷宮の先にある世界に戻るために居る」

「その通りですが」

「すでに家族はおらず、学業においても追いつけるかわからない」

「はい。むしろ追いつけないでしょうと思います。2年の差は大きいですから」

「それで今はどちらに住まわれる」

「調査課の速水さんの紹介でそビジネスホテルに泊まっています」

「もし研究所を作るとしたら、移られるか」

「近所に越すかもしれませんね。」

「身軽じゃな」

「しかし、まあなんというのか、救援隊だったかの」

「はい」

「何故孫と仄がおる」

「信用でき、且つ強いからです。周防の性格は高潔です。戸村の性格も善良且つ用心深い、二人が協力し合う事で、よい結果を生むのは分かります」

「もう一人おったの」

「四之宮志雄です」

「四之宮?」

「その子は信用できるうえに強いと」

「それもありますが、引き籠りだったので外に連れ出す口実にもなるかと」


老人の二人は初めてニコリと口元を緩めた。


「なるぼの、お主は色々と優れているところはあるが、結局のところ人の為、そういうのを口では自分の為と言いつつ、世話焼きな面もあるのじゃな」

「よい男の子じゃよ。まあ話もあるが竜胆、話に合った紋章機械工学、魔法工学の二種類の研究は可能か」

「可能ではありますが、、すでに分かっている問題もあります。情報への干渉は不可能、また小さすぎる物質にも干渉不可能、また魔法紋章などの影響はあまりに強すぎて制御不能になるのが当たり前です」

「谷口からは」

「お前さんも色々とまあ不運じゃな。整備士に関してはこちらでどうにかする」

「すまねえ。まあドローンも研究したんだが、制御できないんだ」

「つまり成功例は未だにないのかの」

「いえ、100%成功する物は二つあります」

「奄美君、それは本当か?」

「パワードスーツです」

「しかし、まだ実験しすら」

「まあまあ聞こうではないか」

「成功確実とな」

「はい。ただ性能がどれほど上がるかまでは予想不能です」


誰もが促す。


「強化系<剛力>、防御系<ダメージカット>この二つなら成功します。なぜならパワードスーツと同じ意味から作られてた魔法だからです」

「それはどんな効果か」

「まずは強化系<剛力>、パワードスーツと同じように筋力の強化です。使うと強化し過ぎるかもしれませんが、パワードスーツの性能が高くても文句を言うところはありませんので、また防御系<ダメージカット>は、物理系の攻撃をすべて遮断します。実験結果がないので何ともではありますが、銃弾ぐらいなら易々と弾きます」

「直ぐにでも実験を」

「落ち着いてください博士。」

「ではその二つの効果は永続的なのか」

「結論から言えばいいえ、しかし、パワードスーツを丸一日も着込むことは不可能ですから。良くて12時間、強化系、防御系は半日は持ちますから」

「確かに活動時間を考えれば、お釣りがくるような時間じゃ」

「それで、奄美殿は紋章学、紋章機械工学、魔法工学の三つのどれに専念する」

「どれも必要な所です。魔法工学は自分の魔力が低いので大した結果は得られなくても、紋章学、紋章機械工学の二つは可能な限り研究したいです」

「あい分かった。のう真」

「はい。お爺様」

「正直救援隊の事は反対したいが、こんな面白いことから遠ざけるのも勿体無いとおもえる。貴重な経験ぞ?」

「もちろんです」

「仄」

「はい。お爺ちゃん」

「よき仲間に恵まれたの」

「うん」

「さて、話し込んだが、時間はどれぐらいある」

「営業時間が午前9時なので3時間です」

「骨が折れるわいのう」

「そうじゃ。まあ楽しみじゃ」



調査課は存続することなり、いつも通りの調査を行う。


「なるほど、そのようなことが、しかし、よく救援隊の育成を行っていましたね」


波田間が感心した声で言う。


「今回はそれで助かったのでお手後らです奄美君」

「はい。救援隊のメンバーを紹介してもよいですか」

「構いません。ですが、救援隊のお世話にはなりたくないのが浅間君や奄美君の本音ですね」

「波田間さん、まあその通りだが、彼奴らは中々やる。何せパワードスーツをつけないで潜る連中らしい」

「それはまた」


救援隊の面々と調査課の面々がそれぞれ自己紹介し、ドローンサービス社、竜胆研究所の面々も自己紹介した。


「さて、救援隊の面々の扱いです。まずは発足を行っていた奄美君にはしっかりとした意見があります。先発隊が遭難した場合の救援の部隊」


波田間がそういう。

自己紹介を終えていた面々は波田間に注目していた。


「またこの救援隊の事も有りますが、この救援隊の装備については悠木君が考案した汎用紋章魔法、威力こそ低いもの、低消費なので連発が出来るという優れた点もある物です。そこでこの汎用紋章魔法を使った装備一式を調査課では採用しようと思います。加藤君」

「追加予算も決まったし良い案だと思うわ。それにな、奄美君が作るからリーズナブルやし、バッチリや」

「はい。お任せください。汎用紋章魔法の実験にはもってこいです」


使用頻度が高いと予想できる調査課の警備担当の若宮、来栖、救援隊の四之宮、周防、戸村の5名も何やら複雑そうな顔だ。


「基本的なプランは、個人によるモノにしますか、それとも画一的な物」

「その前者の方が良いでしょうが、まずは画一的に作りデータが集まってから個人用プランに移りましょう」

「了解です」

「後は、救援隊に関しては調査課の所属アルバイト組です。1日8時間の時給1250円です。役所の仕事なので色々と保障は付きます。地道に稼ぐのも良い物ですよ」


波田間の言葉に三名が頷く。


「暫くすればられるでしょうが。まさかパワードスーツを着込まないでの育成とは」

「あの、波田間課長、もしかしてそれって安全上に不味いのですか」

「ええ。相当のスパルタです」

「おいユキ」

「だが動きやすかった、パワードスーツを着込んで戦いたいか」

「それは、まあ確かに、あんなものを着込んで戦うのは良い点もあるだろうが」

「そう、重量という欠点があるそれだけ運び難い」

「確かに、救援隊の性質上、パワードスーツを着込んだ二人を運ぶのが主な仕事、当然の様に軽い重量で動いた方が何かと好い」

「中々考えるじゃないか、いつもみたいなバカ一直線を行わなくてよかった」

「それが奄美君のデフォルトなのよ」

「そうそう」

「先輩方、今日はいつも以上にユキが頭を使うので明日あたりかその後に休みを兼ねてバカになります」

「おお友人よ。俺の生態に詳しいな」

「頼むからなるべく頭を使ってくれ、使うなら頭の良い方なのだ、使わなければバカだが」

「うっす」


何やら苦労していそうな四之宮だ。

そんな二人の会話に周防も戸村もクスリと笑う。


「さて、今日の調査はどうするべきかとも思います。装備の充実はコツコツと行い、この言葉が癖になりそうですが、奄美君には戸村、周防の御老人から、パワードスーツの確定的な強化実験の話が来ています。ただ奄美君が一睡もしていない事にはさすがに体調を崩してもらっては困りますので、午前中は休暇です。また午後に至るまでにゲートの中には潜らないでください。よろしいですね」

「「了解」」



午前中は休み、夏のうだる様な暑さもあるが、救援隊の面々も、他の面々も休み、昼時になってから起きての弁当。


「あちい、さすがは熱い」

「休めたか」

「ああ午後は潜るのなら、どうすっかねえ」

「なんかあるのか」

「救援隊は3名、調査課の警備は2名、パワードスーツが1名、合計6名だ」

「計算じゃあそうなる」

「この6名から、4名を編成する方法もある、何せツールMPの事も有る、そう深くはまだ潜れない、ならなるべく経験を積ませるためにLv上げを行うのもよいんじゃないか」


奄美も、近くで弁当を食べていた周防も、栃村も、パワードスーツ担当の浅間も、四之宮に注目する。


「志雄、よい仕事だ」


奄美に言われた四之宮は、少しボーしてから口元を釣り上げニヤリと笑う。


「やるじゃないか四之宮、誰か異論はあるか、俺としちゃあ良い案だと思うぜ。」


浅間がそういうと、戸村も、周防も頷く。


「異論はない、むしろ遊ばしておく必要はないから効率的だ」

「僕も、経験を積むの良い事だよ。それにLvを効率的に上げるのもよいし」

「志雄、弁当を食べ終わったら波田間さんと速水さんに掛け合おう」

「了解だ。しかし、死ぬほど暑いぜ。魔法でどうにかできないか」

「出来るよ」

「じゃあしろや」

「氷漬けになるけどいい」

「そりゃあ涼しいが、凍傷で仕事が出来なくなるぜ。もしくは氷人形だな」

「なら今後に期待だね」


弁当を食べてから波田間、速水の二人に伝える。


「四之宮君は中々ですね。好いプランです」

「僕からしてもよいけれど、全体で7名しかいない人員のやり繰りは大変だよ」

「はい。ですが、Lv上げは優先する事の一つですから」

「他には」

「汎用紋章魔法の装備開発です」

「分かりました。四之宮君のプランで行きましょう。」

「では四之宮君には、それらの仕事を頼み任す」

「引き籠りでも役に立つのならよいですから」

「安心しなさい、君はどうやら才能が有るようですし」

「奄美君の判断は間違いじゃない、何せ君が直ぐにこんな話を持ってくるぐらいですから」

「はい」


四之宮は、認められるという今までにない心境に、口元が吊り上がりニヤリと笑う。

5名を木陰に集め、四之宮のプランを話す。


「悪くない」

「ああ。暇を持て余すよりは良い」

「私も賛成だ。一日Lv1はあげたいしな」

「僕も賛成だよ~」


来栖、若宮、周防、戸村の四人は賛成した。


「う~ん。まずは来栖さん、若宮さん、周防、戸村の四人を一つの構成とした方がいい、何故ならLvが2~3なので直ぐに上がり、ユキの負担を減らせる」

「まて、まずはLv上げを優先するのは分かるが、LvUP時の上がり酔いもある、一人で運べる量には限りがあるパワードスーツにも限りがある」

「なるほど、一理あるな。とするとまずはLv2の来栖さん、若宮さんのLv3まで上げるのを優先し、二人を浅間さんのパワードスーツで輸送し、その間の護衛をユキに押し付けて、2時間ぐらいだから、二番目に周防、戸村の二人と浅間さん、ユキの二人、この時に俺も参加すればLv4が三人か」

「午後5時までだからそれほど時間はないぞ」

「なるほど、じゃあ。俺が警備を担当するから6名で行って、若宮さん、来栖さん、周防、戸村のLvを上げてくれ、だが、浅間さん、ユキの二人はLvは上げるなよ」

「次の探索でLvを上げる」

「そういう事だ」

「1日Lv+1はしたいからな」



ゲート内部のダンジョンから入る。


「モンスターとの遭遇率についての調査は行われていますか」


四之宮の言葉に指揮者のオペレータ、波田間、速水は首を振る。


「いえ。四之宮君はそれを調べる必要があると判断するのですか」

「はい。救援を行える範囲に直結しますから」

「なるほど、後学の為に今の10代は君のような若者が多いのですか」

「少なくはないと思いますが、多いとは言えないでしょう」

「なるほど、ならモンスターとの遭遇率の他には」

「遭遇するモンスターの種類、また遭遇するパターンです。曲がった時に遭遇するなどです」

「四之宮君には探査チームの運営に関わった方がいいですね」

「運営ってほどの知識はないです。ただ救援に求められるのは迅速さ、そしてしっかりと運ぶことです。しかも安全にと思うと、今回は別にして、探査チームより強くなければならない、そのうえで安全に運ばなければならない、かなり大変です」

「他には」

「気になるのはパワードスーツの重量と、このパワードスーツが運べる重量です。正直な話、この性能が高くなければ救援には使いたくないのが本音です」

「まだありますか」

「各隊員の体重と、それらの装備品の重量、またユキが使える魔法での数値です」


一々もっともなことを言う四之宮への調査課の面々からの信頼度は上がった。

奄美が仲間に引き入れた理由がよくわかる視点と発想だ。


「ならこれらのデータを纏めてください」

「了解です」



「こちら浅間、若宮、来栖の二人LvUP、体調に上がり酔い発生」

『こちらオペレータ、帰還を指定する』

「なお戸村、周防の二人も残るMP1」

『こちらオペレータ、救援隊の隊長さんに変わるぞ』

「四之宮か」

『そうだ。中々ユニークな少年だ。奄美君が入れたがる訳だよ』

『こちら四之宮です。浅間さん、周防、戸村の二人には魔法を使わせないでください』

「なぜだ」

『自力で歩いて出入り口ら戻り、その後にLv上げをするためです』

「なるほど、確かに計算通りなら助かるな」

『今回のテストプランです』

「了解だ。周防、戸村」

「なんだ」

「なんでしょう」

「自力で歩いてもらうために魔法は禁止だ」

「了解だ」

「了解です」

「四之宮他にはあるのか」

『ユキは』

「いるぞい」

『強化系で移動力向上はないか』

「剛力は筋力を上げるから移動速度も上がるぞい」

『了解だ。全員に掛けられるか』

「浅間さん、周防、戸村の三名と、俺か?」

『そうだ。MPが足りるなら頼む』

「攻撃魔法の二倍のMP消費量だぞ」

『移動方の方が大事と判断した、すまん』

「了解だ。後でコーラでも奢れよ」

『了解』


強化系<剛力>を三名に掛け、自分にも掛けた。

いつも数倍の速度でダンジョンから脱出する。



「ご苦労さん、来栖さん、若宮さんに異常は」

「ない、いつも通りの酔い具合だ」


二人を浅間と奄美が木陰に下ろす。


「志雄、どこで勉強したんだ」

「MMO」

「えむえむおー?」

「ゲームの一種だ。いつか暇が出来たらいくつか紹介するよ」

「おお。そいつは楽しみっすなんてな」

「一休みしたら周防戸村の二人のLv上げを行う、一人1キルだから直ぐに上がる」

「いえているな」


四之宮からコーラのカンが渡される、冷たいコーラを奄美が飲み干す。


「しかし、ハイテク機材より魔法の方が高いのはどういう事なのだろう」

「というと」

「ああ。いつもの帰還時間と、<剛力>を掛けた時に移動速度を調べた。その結果5:1の速度の比率だ」

「フィリスさん、竜胆博士には知らせたか」

「もちろんだ。というより速水さんが伝えた」

「喜んだだろうな」

「ああ。凄い喜びようだ。さてとそろそろ小休止お終い」

「志雄は」

「俺は書類仕事がある、このままだと残業だ」

「そういう仕事ならできるぜ。後で手伝うよ」

「ありがとよ」



「周防、戸村、準備はよいか」


浅間が二人に話しかけた。

凛々しい顔の周防、緩い顔の戸村の二人が頷く。


「奄美」


穏やかな顔付の奄美が頷く。


「バッチっす」


ゲート内部に突入し、遭遇するスライム、スケルトンを一撃で焼き尽くし、周防、戸村の二人はLvUP、二人を担いで外に出る。

四之宮がクリップボードに書き記した。


「四之宮」

「了解です」


今度は四之宮のLv上げを行い、浅間、奄美もLv上げを行った。

LvUP酔いが静まるまで待ち、その後に営業終了。


「さてと、四之宮君、チームの構成はどうします」

「今はLv上げ優先ですから、今日のようにやればよいでしょうし、ただユキ、浅間さんの二人が最後になり、結果として酔い乍ら帰還するという事になっています。これは危険です。ただユキの魔力から魔力切れと一緒ではないので他のメンバーよりは安全です。ここをどうするのかを今後の改善点としたいと思い伸す。また武装についての事です。これは1日を潰してもよいから揃えるべきでしょう」


速水は納得した。傍で聞いていた波田間も納得し、四之宮の事にGOサインを出した。

四之宮が指揮車両から出ると、奄美、周防、戸村の三名が待っていた。


「帰ろうぜ」

「ああ。意外なのは周防と戸村かな」

「意外か?」

「いや、やはり意外じゃない」

「どっち~」

「うーん。イメージに合う、まっひとまず飯からだな」


ワイワイと騒ぎながら仕事場から出る。



翌日、朝早くから仕事場に入り、ドローンサービス社の車両を木陰に誘導し、谷口斎、悠木双葉とも挨拶していた。

ドローンを下ろす。


「悠木さん。佐久間さんは長引きますか」


奄美の言葉に、悠木は直ぐに答える。


「それがねえ。医者の誤診って奴」

「は?」

「若い医者が誤診したのよ。危うく佐久間さんが殴りそうになったり、少なくてもあの医者には二度と掛からないと怒っていたわ」


(そりゃ怒るわ)


悠木が奄美を見てから納得。


「そう思うでしょう」

「えー。表情から言葉を探らないでください」

「奄美君って表情から読み易いのよ」

「むう」

「そう気にしない」

「佐久間さんの復帰は」

「今日からよ」

「もしかして佐久間さんは」

「まあ、可能性はあるけど、仕事一直線の人だったから、その怒り方もって訳よ」

「そうですか、まあ良かったじゃないですか。佐久間さんがいないととても困ります」

「主にドローンの調整とかね。他にもドローン関係、更に言うのなら社のメンテなんかも幅広くね」

「調査課、ドローンサービス社、次は竜胆研究所ですか」

「凄く困るわあれのおかげで何とかなっているのだから」


朝方の会話をする間に佐久間が現れる。

珍しく自家用車での登場だ。

この車を誘導し、木陰に停める。


「おはようございます」

「おう。休んてせいる間な溜まった仕事を片付けるぜ」

「特にドローン調整と共有化を」

「担当技術者がいなくなるのは悲惨なモノだぜ」

「全くです。次は何処かと不安です」



メンバーが集まり、佐久間を知らない三名も直ぐに挨拶し、周防、戸村の二人の事は知っていたらしく、佐久間は驚いていた。


「お嬢さん方、危険な仕事なのに給与も少ないブラックな仕事だぜ」


佐久間が試すように言うと。


「問題ない、何せ毎日が楽しいしな」

「シン、それは毎日が生き生きしているで~よくないかな~」

「同じことだ」

「まあ、意気込みは分かるが、Lvは」

「ふっ4だ」

「同じく4だよ」

「へー。意外に高いじゃないか」

「だろ。大変なものだったが、四之宮の運営には感謝している、かなり楽になったからな」

「しのしのは救援隊の隊長なの、だけど警備隊、調査隊の二つも兼ねる隊長さん」

「あの坊主がねえ。奄美のダチっていう話だし、悪くない人材を確保したな、おし引き留めて悪かった」

「了解だ」

「じゃ」


そんな1日が始まる。


「調査隊、警備隊、救援隊は集まってくれ」


調査隊の浅間、奄美、警備隊の来栖、若宮、救援隊の周防、戸村の6名が集まる。

一人一人に四之宮がカタログを渡す。


「お値段の相談事の為に妥当であると判断された護身用の武装類だ。性能に関していえばユキが反則的な改造をするので特に問題なし、デザインで選ぶのもありだ」

「俺が魔法改造は手かげられるが、微調整なんかはどうする」

「任せてくれ、救援隊発足の後の調査課解体の日に入ったスポーツ用品店の協力は既に取り付けてある、建前の方はご安心だ。サバイバルゲームの白兵戦版とした」

「それは、まあ悪くはないが、支払いとかで足がつくぞ」

「そちらも安心だ。支払いは各自で、その後に加藤さんが適当に処理する」

「建て替えって訳か」

「ああ。ただ重量には気をつけてくれ」


全員が不思議そうな顔になる。


「特に救援隊に関していえば下手したらパワードスーツの二人を運ぶことになる、軽い方が最も良い、また警備隊に関しても、救援隊が運べる重量が有ればよい」

「なお志雄」

「何だ」

「強化系の<剛力>で直ぐに」

「使える魔力が無ければどうする?常にあると思うな魔力だな」

「計算はしたのか」

「ああ。ユキの道具無しMPは80。道具有りMPは107・5だ。」

「強化系なら50回以上は使えるぞ」

「ヒール用MPこれは欠かせられない、次に全員に掛ける際の防御系が優先なのでMP12を消費する。ちなみにヒールのMPは50ぐらいだ。これらに差し引く道具無しMPはと18だ。これで強化系を使えば残る6、豊富とは言い難いのさ」

「ヒールは」

「ダメだ。ヒールが有るのと無いのではダメージに対する手段に直結する。どうしても確保したい、しかもヒールが使えるのはユキ一人だし、それらの道具もない」

「了解だ。なるべく負担をする個所を支援するのだな」

「ああ。問題は各自のMP回復率だ。こちらは後ほど調査することになるそうすれば今よりもっと良くなると思うが、道はまだ遠し、はやく異世界行きてぇ」

「あまり良い所じゃないぞ」

「その点においては話し合うというこしとで、まあ選んでくれ」



7名で選んだ武装類をフィリスがモデル化し、これらの製品が届く頃と、汎用紋章魔法の情報を登録し、この汎用の効果を奄美、四之宮、装備する者で話し合って決めた。

これらを決めてから昼飯、その後にゲート内部での調査も兼ねたLv上げは昨日と同じく、終わってからいつも通りの日常だ。



ゲートの調査結果が作られ、関係先、スポンサー、また調査課のある県の上層部に提出された。

これらの調査課結果は、役所の上にはふざけるなという怒声の元に叩き返される。

しかし。


「なに事もなかったと言って隠蔽しろと」

「そうは言わん。しかし、しかしだ。このようなことは公表できん」

「ではこちらをお読みください。調査結果の別の視点からの物です」

「誰が書いた?」

「速水茜。です」

「ふむ」


今度は上役の顔が引き攣るものの、まだマシだと言われた。

波田間からしてもこの直属の上司の器の小ささには困りものだ。

組織からすれば、しっかりと使い道のある様な人なのだが、運悪い結果になった。


「中々好い報告書と思うが、アルバイトにいる者の名前は、伏せられている様だが」

「周防、戸村の者です」


上役は咳き込むように体を折る。


「な、なに」

「周防真、戸村仄です」

「波田間、正気か?」

「月曜日の調査課解体の話が出たおりの方々です」

「む。む。」


こういわれたら上役は辛いモノだ。

他の上役たちも、視線を合わせないように動く。


「しかし、危険すぎるな」

「むしろ他の者ではとても真似できない、今では女子高生のLvにおいては最高峰の白兵戦能力者でしょう。他の者ではとても務まりません」

「後方に下げたまえ」

「彼女たちが所属するのは救援隊、他より優先されながらもいざというときのレスキュー部隊です」

「しかし」

「では誰が担当を行えると」


上役たちは黙る。

何せ一度は裏切って調査課を解体しようとしたのだが、間からは複雑怪奇だ。


こんな会話の後に、知事とも面談し、報告を簡素に行う。

民間出身の人だが、割とやり手だったりする。


「それで何か得られたか、波田間課長」

「はい。こちらの方に」


提出された本当の調査結果、傍で護衛する若宮や来栖も苦笑するようなやり方だ。

知事はこれを読み。


「ほう、新素材の利用価値」

「知事もご存知の通り、あのゲート内部のダンジョンは宝の山です。特にスライムのゲル状素材、スケルトンの軽量剛繊維素材の二つはあまりに魅力的です」

「当県は国との間柄は、善くて悪くて、好いカードになるが、すでに周防、戸村は動いているし、あの二つとの協力関係もよい、あの子達も元気にやっているそうだし、私としては特にいう事はない、ただアルバイトの奄美君はかなり特殊な子供のようだね」

「はい。おバカな一面もありますが、伊達に異国から帰ったわけではないらしく、同世代の子供に比べ、かなり大人びています」

「能力的には」

「個人的な部下に一人は欲しいです。類まれなモノが有ります」

「だろうね。16歳であの頑固の二人を動かし、しかも調査課解体を叩き潰した若者だからね。私からすれば喝采ものだよ」

「全くです」

「彼の特殊な能力は得られると判断できないと」

「あの子があそこまで言うのは非常に珍しい事です。何よりあんな目をして止められたら誰も嘘とは思えません。ショック死したければどうぞ、と」

「宝が手に入るだけにしておこう。さすがに死ぬかもしれないことを押し付けるわけにはいかないからね」

「はい」

「所で、少年は傷が癒せるかね」

「は?」

「いや、ふとそんなお伽噺が浮かんだ。波田間君、予算の方はどうにか出来るが、今の内に味方を作っておくことをお勧めするよ。恐らくこのゲートを巡ってかなりの争いになる」

「・・・はい」

「自衛好きな方々も興味津々だろうよ。海の兵隊さんもね。だがこの国の、この県の産業に直結する事だ。食い荒らされるのは叶わない、ある程度ならマシではないかね」

「速く後任者に押し付けたい厄介話です」

「それは困る。私の場合は結構続くからね。そういえば爺さんたちがお茶会を開くそうだ、出席したまえ」

「はい」


◆指揮車両


「波田間さんは無事や。何やら怪しげな連中は周防と戸村が話をつけたらしい。あの二人もようやるわ」


事務官&オペレータの加藤が小気味よいと笑う。

相棒の瀬戸内も表面には出さないが胸の中で大喝采の真っ最中だ。


「役所勤めも大変だよ本当に、しかも若い四人のアルバイトの内、一人に関していえば、やっとアパートが見つかった時期で、この仕事を投げ出すわけにはいかないからね」

「彼奴の事だ。何処でも生きていける」

「その度に魔法の道具をばらまかれたら困る」

「・・ありうる」

「そういう事に無頓着やからな、何事も精一杯しようとする心意気はよいや」

「その通りだ。だからこそ、この子ならどこでもやっていけるという信頼感があるが」

「その内、魔法道具回収課なんてのが出来ないことを祈りますよ」


速水からすれば奄美は信用でき信頼できる少年だが、まだ若い事も有り思量が回らない分野も多い、その一つが役所の仕事を漁るジャーナリストだ。他にも公表すれば世界的なことに繋がるゲート内部のダンジョンを通った世界のガンゲイルの魔法だったり、特に機密ばかりの少年なのに全くと言っていいほど頓着しない。


大人の速水などは常にハラハラものだ。


「竜胆の方は」

「ほな、フィリス、起きているか」


問いかけに、パワードスーツの2機のメカニカルチェックは大変だ。


「はい。こちらフィリス、街中で使うの?本当に使うの?ねねマジマジなの?」

「フィリス、落ち着けよ。なんかいつも以上に」

「気にすることはないですよ。戦闘データが手に入るのは喜べますから」

「奄美、あんまりバカスカ放つなよ」

「何言ってんすか。魔法使いはダメージディーラーですよ。火力は調整しますから」

「安心できないよ奄美君」

『そっちはどう』

「双葉ちゃん。奄美君が過激なことを」

『落ち着いてフィリス。奄美君へのアメ玉には弁当1ランクUPよ』

「らじゃー」

「双葉どうしたよ」

『家で最も暴走しそうだからよ。雄真、しっかりと手綱を握りなさい』

「ああ。って結構」

『かなりの量よ。久し振りに複数のドローンを扱うのは大変よ』

「へまんなよ」

『そっちこそ』



調査課の噂は既に流れており、あちらこちらに記者が多い、それだけではない事に警察、防衛庁も入り乱れての所謂話を聞かせてもらうである。


若宮、来栖は既にLv6、常人が敵う護衛ではない、当然のように次に切るのは警察ご自慢の警察用パワードスーツ。


『パワードスーツを確認、ユウくん、奄美君、準備と心の準備はOK』

「こちら浅間、作戦通り排除に向かう」

「こちら奄美、作戦通り妨害活動を行う」

『グッドラック』


警察のパワードスーツを確認後、竜胆の試作型パワードスーツが現れる。

四機のパワードスーツに対し、浅間・奄美の二人のコンビプレイ―により、僅かに1撃で撃破される。警察官の装着者はシールド、ロッドの二つによる接近戦を挑む。

強化系<剛力>の掛けられた試作機は、信じられない跳躍力で跳躍、警察官たちが常識を覆す試作型に動きが鈍る、この時に浅間が接近し、迅速に二機を叩きのめす。

残った一機の警察機は、慌ててオプションの銃を取ろうとする。そこにドローンが上空から映すので、警察官の装着者は葛藤の中、武器を捨てる。

この頃にはアマミが輸送車両を持ち上げて叩き壊す。


『PS部隊P1消滅、02はP2の破壊に迎え、01は引き続き周囲の排除』

「こちら02、了解です」

「こちら01、了解だ」


指揮系統の副課長の速水による指揮、補佐には四之宮が付き、指揮車両の護衛には周防、戸村の二人がつく。

速水指示で動く二機の二人はパワードスーツの対人戦の初陣だ。

この1日から、15日までひたすら鍛えてきたのでLvも高い。

魔法で強化された事も有る、その為に掲載用のパワードスーツの性能を容易く跳躍し、一撃の内に撃破、警察車両の輸送車を破壊しようとしたときに、真横からRPGを突き付けられる。


「もしかして言葉の通じない方々か」

「通じるよ。けど力は通じないな」


至近距離からのRPGの直撃、爆発もあるが基本的な軍用以外では破壊されるような破壊力だ。

風が戦ぐ。

全く無傷の02に、武装集団の射撃と砲撃が始まる。

今回の作戦には防衛庁が関係していることから、恐らく現れると思われる県内の配備されていたパワードスーツ部隊だ。


「02、陸自の方々を打ち倒す」

『こちらオペレータ、了解、02、破壊し過ぎるな』

「こちら02、了解、なるべく傷を負わせない」

『了解、ドローンより数は8、2小隊分だ』

「02了解」


火器を使いつくし、ナイフ戦に移行する。

パワードスーツの使うような出刃包丁の様なナイフ、それに対して02が使用するのは格闘用ナイフの数本。

素早く投擲した日本が一体の両足に突き刺さる。

素早く行動を開始した7機の内に接近戦を挑む前にもう一機の足を突き刺す、そのまま三体目の飛び蹴りを食らわせて吹っ飛ばし、後続の妨害になる。

接近した一機のナイフで突き刺すが、さすがに相手も読んでいたらしく受け流す、その時に接近し終えてから蹴りを撃ち込み、また後続の邪魔をする。

しかし。

相手の機体は思ったより丈夫で、さすがは軍用機と感心するほど、その為に投擲したナイフが弾かれてしまった。

足を負傷した二機を味方機が運び、結果としては妨害になってしまった一機と、ナイフ戦を演じた一機も失神しているらしく、友軍機が担いで運んでいった。


「こちら02、お終い」

『追撃の必要はない、作戦の大まかな部分は成功している、警察の輸送車両を破壊後撤退せよ』

「こちら02、了解」


警察の輸送車両を破壊し、01担当エリアに退く。



県に対する報告と、その後に予想される調査課及び関係者の捕獲。

これらの情報を集めたうえで防衛庁の伝手が有る速水が試作機の情報を流し、この見返りに警察からの情報の流される、この流された情報をふるいにかけた後に警察には試作機の数を流す事である程度の予想を可能とさせた。

結果としては警察用パワードスーツ8機撃破、軍用パワードスーツ4機撃破という非常に有り得ない数字が出た。

試作機をダシにまんまと釣竿を垂らしていたことになる。


「はい。速水です」

『どうなっている』

「ライブ放送はご覧になっていないのですか」

『訳が分からないから聞いているのだ。研究所の試作機程度が、何故RPGを受けて平気でいる、そんな防御力は何処にもない』

「特殊システムを利用したバリア機構です。すでに結論は出ているのでは」

『ぐ、性格の悪さは相変わらずだ』

「上に上がりたいのではなかったのか神田」

『そうだ。しかし、どんちゃん騒ぎだな』

「まあ、日本初となるね」

『試作の購入を上は検討している。とにかく寄越せの一点張りだ。後でそっちに行くからな』

「はいはい」


話が終えると今度は警察からの連絡が入るが少しの時間後に切った。


「速水君交渉は成立ですか」

「はい。すでに試作の購入計画が練られているようです。大した額ではないのですが」

「でしょうね。奄美君ご自慢の手品ですから」

「色々と厄介になりますよ。運がいい事に四之宮がいますから不在時には押し付けてLvUPさせましょう」


話を聞いた四之宮は天井を見る。


(どうなっていやがる、あのバカ)


と叫びたくなくるが、事前に説明はされている。

試作機の使った協力関係の構築だ。

全員がノリノリで参加した中、小市民で引き籠りだった四之宮はがくがくと震えそうだ。

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