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【01-03:8月3日午後】

「浅間スタンバイOK」

「奄美スタンバイOK」

『こちらフィリス、メカニカルチェック項目オールグリーン、チェック完了』

『こちらオペレータ、メカニカルチェック項目完了申請を受信、これを了承、浅間、奄美、二人のスタンバイシグナルを受信、浅間、奄美はウェポン選択を行ってくれ』

「こちら浅間。了解。ウェポン選択に入る」

「こちら奄美。了解です。ウェポン選択に入ります。何か変化はありましたか」

「俺も聞きたいぜ」

『では割と暇じゃないオペレータから、まずは現在の主力と言える魔剣シリーズ、炎、雷、氷の三種類だ。これらの魔剣か装備は奄美の魔法能力と密接な関係にある。また奄美が拒む魔法に関してはシリーズ化されない、まあ試作品は作られるだろうが、また今回より射撃武器の魔剣化シリーズもあるがそれほど意味がある物ではない、何せ魔法を放つ砲台なら近接武器とは相性が良いが、射撃武器を持つ必要じゃない。近接武器なら近・遠の両方の特性を持てるが、遠距離なら遠距離のみだ。フィリス嬢、何かあるか』

『あらら、瀬戸口さんは策士策に溺れるという諺をご存じ?』

『やっぱり専門家の言葉の方が良いな、何かあったら指摘してくれ』

『射撃武器の魔剣化なら、射撃と魔法の二つのどちらかを選択できるという利点があるのをお忘れなく。浅間君や奄美君ならわかると思う』

「確かにあるが、奄美お前はどう思う」

「射撃武器としての性能です。正直な話ですが、マガジン付きクロスボウでもない単なるクロスボウを選択する気はありません。何せ相手はスライムに骸骨のスケルトンに巨大な蝙蝠です。魔法以外で対抗しろと言われても無理です。そもそもスライムに銃弾がきくのでしょうか。またスケルトンに銃弾など意にも返さない、この二つの攻略のためには魔法攻撃が欠かせません、まあ蝙蝠には利くかもしれませんが、その為に火器を持ち歩くのは効率とは言い難いです。そんな訳で俺は射撃武器その物の性能から採用せず、近接武器で有る刀剣を選択します」

「話が長げえ!」

『科学者みたいな論理的な話ね』

『波田間課長とかと気が合うわけだ』

「言っちゃあ何ですけど。研究者って説明が肝要ですから」

『言えているわね。そういう所は肝心な所よ』

「で、瀬戸口さん、他に変化は」

『ああ。一応武器なの一種なのだと思うが、棍棒、釘バット、野球バットだ』

「え?それって」

『ちなみに棍棒はご意見無用という名前、釘バットは一球入魂、野球バットは生涯現役だ』

『父さん』

「絶対親父さんだ。100%だぜ」

「ご意見無用の方を」

『単なる木の棒だぞ』

「名前が最高じゃないですか。御意見無用ですよ。殴る毎にご意見無用が」

「いや、割と良い考えだぞ。少なくてもスケルトン、蝙蝠の二つに聞く」

「しかも安価ですし」

『まあ好きに選ぶといいが、魔法回数の制限から一種類だ。いつも通りの刀剣、射撃武器のクロスボウ、鈍器と言える棍棒シリーズだ』


奄美は棍棒のご意見無用を選択、浅間は悩んだ末に刀剣類を選択した。


「浅間ウェポン選択完了」

「奄美ウェポン選択完了です」

『メディカルチェック完了、オールグリーン、ウェポンをプログラム通り単なる道具と判定、軍事兵器としての認識なし、よって完了』

『オペレータ了解、浅間、奄美の順でハッチを超えてくれ』


二人が「了解」と短く答え。浅間、奄美がハッチを超え、外部に現れる。

いつも通りのゲートの前に立つ。

悠木双葉が操作するドローンが滞空しており、浅間からすれば珍しくもないが、奄美の様な魔法使いからすれば珍しい物でもあって、つい視線が追う。


『奄美君』

「はい」

『君の様な少年からすれば珍しい、ドローンが』

「はい。かなり珍しいです。まるでなんというか、従者の様で、高位の魔法使いが使う使い魔の様な物と言えばよいのか、俺の様な駆け出しからすれば有り得ない物です」

『そう。でも朝方は双葉ちゃんから習うなんてしているのでしょう』

「たとえそうでも人の考えは早くは変わりませんから、例えるのなら最高導師の連れる使い魔みたいなものです。ホワイトドラゴンですが」

『そっかあ。分野は違うけど、気になる物よね。』

『今回からドローンに初期突入は確実になる。理由は分かると思うが、ゲートの中に侵入する際の奇襲に対抗する為だ。また壊されたドローンは奄美の実験機に転用する、何か質問は』

「瀬戸内さん、ドローンが武装していないようだが」

『それはな、別に兵器が搭載できるドローンはあるが、壊れる前提に使い捨てをするのは、分かるな』

「勿体無い」

『そういうことだ。節約志向という訳だ』

「俺からはこれぐらい」

「俺からはその内に荷車でも現れそうですね」

『荷車?まあ可能ではあるが、何のために』

「サンプルの確保、武器の輸送です」

『なるほど、現在の偵察目的以外の用途か、ガンゲイルにはあったのか』

「いえこういった自立型や操縦型などの兵器は存在しません」

『話してもよい範囲で頼む』

「俺がいたのは2年間ですし、大した情報はないですよ」

『それでも俺達の様な一般人からすれば信じられないほどの話が多いのさ。この世界じゃあ魔法なんてお伽噺だ。外の職員が他に居たら驚くことは確定だ』

「あっちの世界と繋がるトンネル、もしくは門、名前を付けるならダンジョンが有るのですよ」

『それでもさ。お前が酒を飲める年齢に達したら酒でも飲もう』

「ういっす。そういえば魔導甲冑というモノがあります。魔法の甲冑なのですけどね」

『初耳だが、要すれば鎧か?それともパワードスーツと似た様な物か』

「魔導甲冑はパワードスーツと同じ物です。性能に関していえばあっちの方が上ですけど、扱い易さの事ならこっちです」

『ちょ!?本当に同じものなの奄美君!?』

「ええ。魔法関係の性能を差し引けば、でもこっちの方が扱い易いです」

『それを早く言う!』

「すみません。でも想像しませんでした。銃と違った銃があり魔法が有る事と言い、昔は甲冑をどう強化するのか、こっちの現代でも同じようなことを考えているのですから」

『奄美、フィリス、そこまでだ。俺達には調査という、迷惑千万のお仕事が有るからな』

『お役所仕事なんて、はいはい。魔法の甲冑の話は仕事外の仕事でね』

「了解です」



スライム、スケルトン、巨大蝙蝠を片付け、浅間はLv2なので魔剣の魔法解放回数は7回、ベースとなった6回から+1だ。奄美の方はLv2でも才能が有るらしく魔法解放回数は既に82でベースとなった75回から+7だ。

一般人の成長力より、奄美の様な魔法使いの方が成長率は高いらしい。

前回の奄美の8回、浅間の6回を計算し、予想されるのは同じ回数より+1上回る程度と、そう予想していた。


「おっ+1、LvUPだぜ」

「分かるんすか?」

「おう。まあ感覚だが、Lvが上がったという感覚が分かるのさ。ニコチン酔いに似ているが、感覚が緩む感じだ」

「俺には好くわからないっす」

「そうか、悠木」

『リアルRPG、しかもダンジョン系、どんだけウィズ?』

「意味は分かるけどよ」

「すみません。よく意味が」

『浅間はオタクだからいいけど、奄美君は、どうしよう。奄美君、オタクでいいのかな』

「えーと。でも俺は魔法使いで研究員ですから、オタクじゃないんですか」

『言われてみれば君はそっち系か。うむむ』

「おい馬鹿葉。何を迷ってんだ」

『そうよね。やっぱり』

「ダメに決まってんだろ。後輩に何をする気だ」

「えーと。よく意味が」

「なんでもねえ。聞くな絶対に聞くな」

「ラジャー」



帰還の後にサンプルを提供、仕事がいつも通りに終わって手からすでにフィリスが用意していた質問が記入された書類に目を通す。

内容を選んで記入し、フィリスからの主に質問にも答え、悠木も、浅間も興味が有ったらしくその質問の話を聞いていた。

佐久間もドローンの整備の仕事の終わりごろに、近くに腰を下ろして整備しながら聞いた。谷口や竜胆博士も興味がわいたらしい。

異世界であるガンゲイル王国に所属する魔導院に運ばれた魔導甲冑、魔法の甲冑でもあり、現代のパワードスーツと同じようなのでもあり、このパワードスーツが持たない魔法に対抗するための対抗魔法、物理・魔法攻撃を防ぐ防御魔法、装着者への治癒効果、魔法が有る為の恩恵が満載の魔導甲冑だが、そ複製はあまり性能が良くない粗悪品だ。言い換えればロシア系のトカレフのような粗悪さだ。

簡単に言い表すなら、一応射撃は出来る、命中精度は最低のどん底、よく壊れる廃品の様、撃つたびに整備がいる酷い作り、握りすら悪く触りたくない感じ。

だが非常に安い訳でもない。


「こんな感じです」


奄美が言い終えてから近くのベッドボトルのお茶を飲む。


「う~。役に立たないゴミって感じの性能ね」


酷い言い方かもしれないが、フィリスの感想は正しいと奄美は考えた。

技術職の者からすれば魔法の技術には興味がある、また工学を学ぶ者や志す者にとってみれば紋章学の技術には興味を持つ。丁度レスリングの者がプロレスに興味を持つのと似ている。

他にも浅間、悠木も似た様な感想を考えた。


「他に現代と似た様な物はあるの奄美君」

「そうっすね。戦車なんかどうっすか」

「せっちは興味ないんだよねえ。まあなんか使えそうな」

「戦車が結構目玉んなんすけど」

「興味ないからパス」

「そ、そうっか、戦車が不人気って聞いたら作った人泣きますよ。まあ後はシューズとかっすね」

「靴?そういえば前にもそんな事を言っていたわね」

「そうっす。足を守る為っすけど、移動速度を向上させる最新鋭もあるっす」

「ほ~う。詳しく」

「ういっす。まずは内側の素材に防護の魔法をかけ、外部の素材に速度上昇の魔法化を掛ける二重仕上げが最新鋭っす。まあ戦車の重さに耐えられる耐久度、軽く走っただけでトップランナーを超える速度っす」


質問者のフィリスも、他の人も皆声を上げた。


「凄い性能なんすけど、お値段の方も吃驚っす。機関銃より高いっすから」

「それって」

「そうっす。あまりに高額な物で、軍でも傭兵隊でも作用されなかった曰くつきのものです」

「作れる?」

「専用の素材がないっす。こればっかりとどうしようもないっすよ」

「じゃあ。劣化品とかは」

「これでも付与魔法も随分と研究したっすから可能っすけど、魔剣化された武装の魔法を開放する負担は通常の75%っす。普通に魔法を使うなら1・0倍っす」

「道具を使った方が楽なのは知っているわ」

「普通に魔法を使って、今のLv2で60の回数っす。ヒールの使用回数は1っす」

「なんか雲行きがおかしくなってきた気がするわ」

「魔剣化の回数は30っす、この魔剣化の使われる紋章学の魔法は簡単に訳せば魔法装備化っす。もしくは魔装化っす。低級の攻撃魔法の回数っすけど、これらの回数を計算した物を魔装化コストというっす。強化系、防御系の二つの魔装化コストは凡そ1、ヒールには及ばなくても、攻撃魔法なんか軽く超えるっす」

「一日一回ってことかあ。こりゃあ後回し、LvUPで上がってきているからその内上がるのでしょう」

「上がるっすね。このまま一日回のLvUpなら来週には2回になるっす」

「先は遠いわね」

「後ですが、試作、失敗も計算しておいた方がいいっすよ」

「・・・そういえば君は研究者でもあったわけだ。だけど、なんかもっと便利な物とかない」

「軍事以外っすか」

「そんな感じ、民間品って感じの路線で」

「う~ん。そうっすね一番に言えるのは伝通球っす」

「どういうものなの」

「簡単にいえば通信用の道具っす。商会を持つところは大抵持っているっす」

「革命的な物なのはわかるけど、うーん。なんというか微妙」

「じゃあ。自転車っすかね。」

「魔剣化、もしくは魔装化した?」

「そうっす。人力のみの事っすけど、リアカーを引っ張る力は中々っすよ」

「うーん。特に興味はわかないな」

「もしかして日本で使われる自転車と思っていません?」

「違うの?」

「全く違うっすよ。昨日中国のニュース映像を見たっすけど、日本と違って電力の原付が有るじゃないっすか、あんな感じで本人の魔力を使い進む、人力の自転車っす」

「本人の魔力、略して人力?」

「そんな感じっす。王都じゃあメジャーな乗り物っすよ。地方でも採用するところは多いっす。まあ軍では使わないっすけど、魔導院じゃあお値段も手頃だし何より使う人々の魔力か半端ないっすから好評っす」

「うーん。疑問だけどその使用分野は魔剣の魔法解放回数と同じ分野?」

「ここが難しい所なんすよ。魔法の力、これが魔力という鉄則なんすよ。所謂科学のなかった時代の体力とか重力とか引力とかっす。突っ込んだら無茶苦茶に面倒っす」


基本的に質問にはしっかりと答える奄美がここまで言うのは珍しい。


「簡単にいえば知力ってなんすか」


誰もが沈黙する。


「知力の分類は簡単にいえば頭の使い方、魔法使いは凄く勉強したっすけど、この世界の事は全く知りませんし、でもあの世界では頭の良い方と言います。でもこっちの事を知らないので、常識を知らないバカっす」

「頭を使う力ってことで」

「魔法は頭を使いませんよ。魔剣を使ってわかると思うっすけど」

「・・・困ったわ」

「頭を使う力、魔法を使う力、勉強をする力、努力する力、力の種類も豊富っすけど、知能の力というのなら人間は愚かなバカっす。戦争してばかりいる、核を作ってばかりいる、社会差別をよくする、学校で、職場で虐める、なんでそんな事をするのかさっぱり理解に苦しむっす。何のために考える力が有るんすか」

「人それぞれでいいのではないの」

「そうと言える者は必要っす。でも差別する側は常に多数っす」

「何れよくなるものと思っておきなさい。考えても仕方ない事はあるモノよ」

「っすね。この国は戦争はないっすか」

「ないわね。かれこれ100年近く」

「凄い国っす。戦争のない国は珍しいっすから、だからこそ豊かなのかもしれません、あの王国も、戦争をはしたくてしている訳じゃない。攻められたら護るために戦う。とある僧侶はいいました。侵略に抵抗しないで行うのも一つの考えだと。」

「私は頑固に抵抗するわよ。戦争で酷い目に合うぐらいなら戦った方が良いもの」

「ちなみにその僧侶は賛同を得られず左遷されたっす。当たり前っすけどね。どっかの村に言っていったとしても確かにその村が平和なら通るような話っす」

「戦争がない限り、ね」

「そうっす。簡単に人が知力というのなら、なんでバカなことを考えるすかね。謎々なのか、それとも人が言う知力がないのか、人が言うのなら魔力とはそんな物っす。考えれば考える程に謎が謎を生むっす。そもそも人に魔力があるというモノも考えが有るっすよ。そもそも魔力が低いのも、高いのも、どんな技術で判断されているっすか。超謎っす」

「魔力にも適正というモノがあると奄美君は考えるのね。なんていうか足の速い人の才能、砲丸投げが得意と人の才能とか」

「そうっす。でもこれは受け入れられないっす」

「何故?」

「なら何の基準で魔導院の試験を作るんすか、自由にしてもよい時代ではないっす。一つの基準がいるっす。戦闘に使う魔法の力、これが魔導院が定めた魔法の基準となる力っす。ペンなんかより遥かに弾幕の方が脅威っすから」

「もしかしてガンゲイル王国は自由な」

「よくわかんないっす。比較するところがないっすから、ただ日本のようにはいきません、特に軍事に関していえば厳しいっす。何よりペンで機関銃には勝てないのは当たり前っすよ」

「そうね。ネットがないなら当たり前かあ」

「こっちとは随分違いますから。でも平民と解放奴隷が手を組んでいるっすから民衆の力は特権階級を易々と超えるっす」

「奄美君の才能は認められた方?」

「最高導師は、他はないっすね。俺みたいに戦えない正規魔術師はいらないと言われるのが当たり前っすから」

「変わったこともあったのでしょ」

「そうっすね。まあ確かに戦闘に関係する力は乏しいっすけど、それは魔導院の正規魔術からは軍の戦闘員でしたから、当然のように戦う力が必要でした。そうっすけど、俺が正規魔術の試験に提出した研究内容は魔導院に激震を与えたっす」

「当然ね。戦う力じゃないもの」

「そうっすよ。うま味の安価な大量生産法っすから、戦闘とは全く関係ないモノ、でもこれが魔導院の試験に合格し、サイドビジネスで作ると大爆発、このレシピは下手な戦闘用魔法の研究内容より魔導院を潤したっす。そりゃあそうっすよ一人100、王都の人口から言って1日当たり10万以上、毎月300万、毎年3600万も収入になる」

「日本円でいえば100万で1億、36億もの収入になるのなら大して利益という訳ね」

「はい」

「なんか気分のいい話ね」

「最高のネタっす」

「嫉まれなかった?」

「不思議と嫉まれなかったすね。むしろあの味は、そんな感じに言われることは多かったっす。まあ上位正規魔術師になった時は散々に言われましたけど。当たり前っすね正規魔術師の上位にいる戦闘員が戦闘用魔法が殆ど使えない料理人、そんな感じに変わりましたよ」

「上に立つとそれはまた変わる物ね。話は戻すけど」

「そうっすね。他には防具や衣類っすね」

「防具?魔導甲冑の様な」

「衣類には後ほど、防具に関してはこちらと似た様な防弾ベストや、ブレストアーマーっすね。他にも防具の中でいえば矢避けの護符っす」

「防弾ベスト、特殊繊維なの」

「魔導院でも性格がマシな分類に入る導師が考えた物っす。兵士への銃弾の攻撃を防ぐために、でもこの防弾ベストは採用されなかった、性能と値段のつり合いが取れないっすから、これを装備するぐらいなら魔導甲冑の性能の良い物を作ってから考えた方がいいと言われたっすね」


魔導甲冑の複製はあまりに酷いために廃品と言われた。

そんな事を奄美が話していたことを思い出す。

そんな魔導甲冑と競争するような防弾ベストは酷い品のようだ。


「防弾ベストには最新鋭の特殊合金繊維が使われたっす。軍でも力を入れた研究された物っすけど、人の好い魔法使いは無能と同じと言われるほどの散々な成果だったっす」

「物には冷静な評価なの?」


奄美が喋らずに頷いた。


フィリスからしてもの少年は色々と不思議だが、性格が良い物を好みながらも、道具の性能に関しては冷静、物を作る研究者や開発者の能力、性格、そんな物を考えながら冷静に判断を下す。この歳での考え方ではない。


「まあ性格が悪い奴とは関わらないっすから、大抵の話っすけど」


フィリスからすれば奄美が言う性格の悪い人、これが当て嵌まる人とはフィリス自身も関わらない方が適切と言えるし、関わらないようにしているのも確かだ。

奄美の性格は一言でいうのなら好いともいえるが、経験したことがこの世界の事ではない為に、フィリスの物差しでは測れない物がある。


「奄美君の言う性格の悪い魔法使いの典型的な物は」

「そうっすね。人体実験を平気で行う、部下を平気でごみのように扱う、人を人と思わないと、人の良い人を騙して道具にしようとするもの、生き物を道具のように扱う事、出世のためには何でも利用しようとするもの、利己心、非人道的こんな所っすね」

「私も学生だけど、そんな人はまずいないわ。少ない交友だし、学科の者も少ないからかもしれないけど」

「それは人としてマシな方々っす。最低でも善良な方が多いのがこの国っすから、まあ全面的にはそう言い切れませんが、ガンゲイルの魔導院の人の半数は人間じゃないっす。そんな奴らの最も平均的で最高なのは異常なまでの知識欲と利己心っす。」

「その人たちは、こちらでいう非人道的な実験を平気で行うの?」

「行うっす。ここにいる人でまだ耐性がありそうな竜胆博士でも眉を潜めるっす。連中は綺麗な建前を言いつつ、非道を重ねたっす。俺が来る前には最高導師と喧嘩するほどの力が有ったっすけど、今はそんな力は失いかけた事も有り、急に従順になったと言われていますけど、そんな事はバレずに行う屑っす」

「具体的には、私達でも大丈夫な」

「気が重いっすけど、怪我の治療と称して義眼にしたっす」

「・・・酷いわね。それは」

「あの連中は魔導院の闇っすから、ちなみに義眼にした後、再生させたから問題はないっす。そんな主張っす」


誰もが言葉を失う。


「そんな連中だから畏れられる一面もあるっすけどね」

「そういう問題?」

「まさか、でもあの連中を謀殺しないで、事件を公開し、あの連中を追い出せば万事解決じゃないっす。連中を一網打尽にする物的証拠に、連中を上回る力がいるっす。ガンゲイルに居ない俺にはどれも無理っすけど」


奄美も戦うべき道に居る事はこの言葉でわかる。

だからこそフィリスはこの少年が不憫でならない。

一般的な家庭で育ち、14歳で異世界に飛ばされ、そこで出世し、2年間という10代にとってみれば大きな時間を失った。

失ってこちらに戻ってきても家族はない。

失ってこちらに戻ってきてもゲートという通路が有るからと縛られる、縛られた後でも戦うために戻ろうとする、それが魔法の様な呪縛としても、この少年に安息の日々が戦いの後にもないのなら、せめてこの世界での生活が良くなる事を願う。

願ってかなえられるとは思わない、でも


(願わずにはいられない、この少年に安息が訪れることを)


「あっちに通じるルートが見つかったらまず、魔法使いとは交渉しない方がいいっすよ。むしろ魔法使いではなく、魔法使いの上層部と交渉した方がはるかに効率的で建設的で効果的っす。下っ端は勇ましいっすから」

「奄美君、詳しいのは分かるけど、このゲートがどこに通じているのやら」

「そうっすね。まあ場所に関しては特定はできないっすけど、ガンゲイル王国の合った世界という事は分かるっす。運が良ければガンゲイル王国の国内っすね」

「そんなに都合よく、いえ、私達からすれば識別できないし」

「そうっすね。ゲート内のダンジョントンネルの探索結果次第かもしれないっす」

「ダンジョンに宝が有るとかの」

「違うっすよ。行き倒れがいるとか、服装や装備から可能っす」

「現実的ね。もし悪い魔法使いだったら」

「ちなみに、俺はそんな魔法使いたちが嫌いっす、その魔法使いたちは俺を心底憎んでいるっす。何故かわかりますか」

「君が憎まれるようなことをしたの、とても思えないわ」

「悪い魔法使いの会合のリストを複製しまくって、王国内の商会に無料で提供した後に職人ギルドにも提供し、傭兵達が欲しがったので提供したっす」

「それは恨まれるわよ」

「魔法なんか使わなくても、戦術、作戦、戦略のやりようはあるっす」

「こんな所ね」

「そうっすね。そろそろ飯時っす。後はコツコツとの作業っす」

「作業?魔剣化?」

「ドローン研究っす。パワードスーツは高価っすけど、ドローンは俺の金で買えるほど安いっすから、そういう実験機を利用した物っす」

「OKこれぐらいね」

「喋ったことは後で提出するから大変っすけども、それが蓄積する事っす」



ドローンサービス社の実験機用ドローンを利用した紋章学の実験。

他は帰還し、実験機の一機に攻撃魔法でも、強化魔法でも、防御魔法でもない、付与魔法の系統の魔法を使い、全体の表面を覆う素材、プロペラの強度を強化した。

この実験では何の変化もなく、強度に関してはモース硬度+1の結果を得る。


「奄美」

谷口が奄美を呼ぶ。

奄美が谷口の方に向く。


「Good Job」


谷口が親指を立てて言う。

奄美も少し笑いながら頷く。


「奄美君、よかったわね」

「はい。悠木さん、速度の方はどうです」

「速度かあ、そうね」

「強度の実験は多いっすけど、速度に関係する実験は少ないっす」

「佐久間さんは」


初老の整備士の佐久間に話が振られる。

佐久間からすれば奄美の話は話半分だ。


「具体的に何の速度化に依るな」

「奄美君としては」

「そうっすね。物を運ぶ力、俺はこれに興味があるっすけど、何の速度が可能なのかはわからない、でも必要なのはわかるっす」

「言ってみろ坊主」

「プロペラが回転する力っす」


(まともなことを言う)


悠木もこれには納得だ。


「なるほど、てっきり魔法効果でも与えるかと思ったが」

「俺が与えられる魔法効果は攻撃Lv1の3種、新しい魔法の治癒、強化系の一つ、防御系の一つっす。」

「トンファーにしたのは」

「あれっすか、あれは攻撃、治癒、強化、防御の魔法に入らないっす」

「何故だ?」

「佐久間さん、魔法使いが拳を使いますか、棍棒を使いますか」


佐久間は奄美の言葉を考える


(魔法使いの武器は魔法だ。奄美は最低レベルでも、他の一般正規は奄美の100倍以上と聞くし、とするなら武器を持つ必要がないな)


「確かにな、武器を扱う必要のない戦闘員なのだから」

「そうっす。だからなのかもしれないすけどね。魔導院では武器を携帯したりする者も恐ろしく少ないっすよ。俺の知る限り俺ぐらいです」

「どんな武器を好む、ああいや」

「トンファーに使ったのは工業製品を作るために作られた魔法っす」

「威力向上が?」

「採掘には役立ちますよ」

「やれやれ、魔法に関係する事はどうも難しい」

「俺からすればあんな複雑なドローンを整備するとか、一般的な機工師でも少ないとおもうっすよ」

「へー機工師」

「興味あると思うすけど、この機工師は文字通り機械工師の略語なんですが、ガンゲイル王国以外にはいない職業の方々なのです」

「?何故だ。その世界には蒸気機関車が有るんだろ?」

「ええ。その蒸気機関車が有るのはガンゲイル王国のみっす」

「軍事機密だからか?」

「違うっすよ。機関車が普及しない最大の理由は整備されない道路っす」

「コスト的にはどうなんだ」

「高いっす。最新鋭の個人用蒸気機関車は2千万円はします」

「ちと高いな、なら旧式なんかは」

「無理っす。そういうのは中古ですらないっす。有れば購入した者が使いますから」

「奄美、お前でもか」

「俺の資産を聞いたらたぶん気の毒にと思いますよ」

「ほう、貧乏には見えないが」

「解放奴隷には財産的制限があるのです」

「そうだったな。お前はその世界で奴隷から解放奴隷になったのだったな」

「ええ。収入の9割は国税になりますから」

「何のために稼ぐんだ?それ位の収入なら平民に成れただろう」

「平民だと、年俸の5割は税収として取られます」

「高いのだな」

「残り5割から自前の店や土地や商売の事の必要経費を引きます」

「そりゃあそうだ。こっちでも変わらんさ」

「人件費も引きます」

「まあ維持費ってことでどれくらい減る」

「5割が税金、4割が維持費です。残り1割での生活費です」

「つまり。あれだ解放奴隷の方が経済的に助かるのか」

「国が負担を補助したりしますから、解放奴隷には税はないのです。制限はありますが、ガンゲイル王国も色々と有りましたし、解放奴隷が活躍したおかげでガンゲイル王国は滅亡しなくて済みましたので」

「兵力でもあるから?」

「解放奴隷の義務の一つですが、戦争には絶対参加です。それらの戦争参加の代わりに様々な恩恵があるのです」

「平民はその義務がない代わりに恩恵がないのか」

「ありますよ」

「なんだそれは」

「どんな状況でも守られる安全です。災害救助の最優先の安全です。医療関係の優先的な安全です。簡単にいえばデメリットがない唯一の階級ですし」

「まあ義務のない奴らが幸せなのかは別かもしけないが、美味い政治だな」

「巧みです。解放奴隷にはアメとムチ、平民には安全という名の安心感、貴族のボンクラ共には特権が認められるも、最近は微妙な風向きですし、王国の王家も積極的に貴族を活用しようという動きはないです。貴族は好き勝手をし過ぎたのです。善政を行う現国王の政治を支持する平民・解放奴隷の二つの階級と、貴族側では数において貴族が劣勢なのです」

「絶対王政って知っているか」

「知識としてはありますが、そうですねよく似ていますし。ですが、なんか合わないです」

「お前がそう思うならそれでいいが、お前はあっちに戻って紋章学の資料のデータ化、性格の悪い魔法使いの一掃、他にもありそうだな」

「佐久間さん、魔導甲冑」

「ああ。本当にあるのか」

「くっLvが上がって使える様になれば、必ずお見せしますよ」

「分かった。んで話は戻すが、このプロペラの回転速度を上げたモーターの方が逝かれるぞ」

「そうなんですよね。そりゃあ連結しているので付加はかかります」

「やっと話が戻った、電波とかは」

「無理っす。小さすぎるモノには影響を及ぼせないっす」

「なら単純に速度のみ上げれる」

「つまり一か所のみの上げ方から全体っすか?それなら初めての実験っすね」

「坊主もそうだが、悠木も適応しているな。好きにやってみろ」

「了解」

「うっす。んじゃあ。佐久間さん、現在のデータを記録していますか」

「ああ」

「じゃあかけるっす」

強化系の速度上昇を掛ける。

「バッチっす」

「飛ばすわよ」

悠木がドローンを操縦し、飛ばすと、速力に関係する性能は飛躍的な上昇を行い当然の様にソフトとのバランスが取れず失速した。

「・・・何が間違えなんすかね」

「ググりたい」

「ググっても乗っていないっす」

「色々と分かった。まず通信速度に影響なし、モーターの回転数に影響なし、プロペラの回転数に影響なし、その他の影響はなし」

「佐久間さん、何の影響が有ったのよ」

「そうっすよ。飛び方が尋常じゃなかったすよ」

「結論から言えば全く影響のなかったわけじゃない、しかしボディに関係する事は何も変化のない事だ。しかし。内部のセンサーの記録によれば加速力がおよそ2倍だ。魔法による影響で加速力は2倍、他には異常はない、変化もない、なら制御系が狂うのも頷ける」

「なるほど」

「情報の事は勉強になるっす。なら制御系の速度制限を上げればいいんじゃないんですか」

「そう簡単でもない、操縦、整備までは出来ても情報系の改良は力の及ばない範囲だ。奄美の言葉でいうのなら、コツコツと学んでも年数がいる」

「それだけの製品を、ここまで低コストに作れるのは凄い技術っす」

「うむうむ」

「まあそんな訳で速度の全体に拡大した実験はデータを得るも失敗だ」

「魔力がやばいっす。これ以上の攻撃魔法以外の魔法は無理っす」

「だが、威力向上なんてものは使えるのだろ」

「使えるっすよ。でも何に使うんすか、まさかドローンでの殴り合いっすか」


(察しの良いな坊主は)


「悠木、お前は何と思える」

「奄美君と同じです。むしろご意見無用って棍棒?」

「そうだ。坊主の察しの良い事と、悠木の棍棒というのはよい線を言っている。ボクサータイプのマニピュレータ―を採用する、この武器としてのご意見無用と威力向上を使う」


悠木も、奄美も考えるが、単純な工業製品ほど、魔法や紋章学の成果は大きく、複雑な物は成果が低いという傾向にある為、納得の事だ。


「情報系の事は慧の奴に押し付けるので、まずはご意見無用の棍棒、この棍棒に奄美曰く魔法外魔法を使って威力向上を行う」

「了解です」


用意された棍棒に威力向上の魔法外魔法をかけ、その破壊力を試す。


「今回は悠木の使う、ボクサータイプ、奄美が操縦する極普通のドローンとの空中戦だ。悠木はボクサーの経験はないな」

「ありません」

「奄美は使い慣れている物を選べ、とはいっても実験機は壊れたので、新しいものだな」

「あの」

「なんだ」

「壊れて無い物で、マニピュレーターがついているのはボクサーのみ、残るのは軽い奴ばかりですよ」

「言えている。勝負にならないよ。間違いなく奄美の方が勝つわ」

「悠木、奄美の操縦技術は高いのか」

「私よりは格段に劣るけど、鈍い子で軽量級と戦うのは無謀ってところ」

「一応実験だ。試してみてくれ」

「奄美君、なんか魔法ない?」

「今の魔力だと攻撃魔法で精々っす」

「じゃあ。魔法外魔法なら」

「それなら幾つかあるっす。防御力向上、命中率向上、回避率向上の他にも色々と有るっす」

「なるる。とはとは、重ね掛けは不味い?」

「別に本体には掛かってないっすよ」

「うしうし、命中率向上」

「了解っす。でもメカニックとしてはどうっすか」

「何事も実験だ。それに魔法というモノのせいで常識が毎日崩壊だ」

「今後気をつけたほうがいいっすか」

「いやいや、奄美君には助かるよ本当にね。このままLv上げて」

「魔法外魔法はLv意味ないっすよ。使用回数とかは増えますけど、はっきりと言って魔法外魔法に関していえば魔導院の学生で覚えるすよ。かなり楽勝っす」

「じゃあ。二重とか」

「いいんすか?失敗確実っすよ。そりゃ俺も喜ばしいっすけど」

「命中と相性が良いのはやっぱり回避」

「そうっすねえ。ボクサータイプの事も考慮して命中率向上は確実、でも防御力向上も欠かせないと思うんすよ」

「えー」

「ほらご意見無用を使うじゃないっすか」

「よしよし。まずは命中率向上、次に防御力向上、三番目に回避率向上で、ひとまずは二重からね」

「あと加えるなら魔法外魔法は、そのLvの低さから研究すらされないっすけど、最大のデメリットは効果時間が一時的かつ短期間なモノっす」

「うう。魔剣化みたいにはいかないの」

「行かないっすね。魔法外魔法は、一時的な護身術の様な物っすから、本人の技量が及ぶ範囲としても、工業製品の前には大して役に立たないっす。簡単にいえば散弾機関砲の散弾はどんな武術の達人でも避けられないっす」

「だから誰も研究しないのかあ」

「性能の低い道具より性能の良い道具が増えすぎたから、そんな事を言う人もいます、昔気質の導師とかはそうですね」

「研究はしていないのだから得意だった人?」

「はい。良い方でした。金のない時はいつも奢ってくれた人です」

「その人は、今は」

「殉職しました。所謂戦死って奴です」

「好い方だったのね」

「凄く、でも運命って奴は性格が悪いっす。最近は孫の話をするような人でした」

「大丈夫、あっちで見てくれているわ。お孫さんが99でも貴方に1くらいわね」

「十分っす」

「紋章学で魔法外魔法は使える」


悠木の言葉に奄美が凍り付く。

佐久間からすれば若者の何とやら、かもしれないのだが、間違えたかと思案した

悠木は次第に好い顔になっていく奄美の方を叩いた。


「よし発案です悠木さん」

「それは好かったよ」

「紋章学での魔法外魔法の効果の刻印に挑戦します。でも失敗して元々っす。それでも良ければ」

「成功の報酬は」

「今までの刻印の範囲の拡大、結果として選択幅の拡大っす」

「許可するわ」


奄美が紋章学の紋章化した魔法外魔法を使い、その一時的な向上ではない、恒久的な向上である、その差は歴然としており、奄美の言う魔法の分類にはいるモノは強力な反面は消耗が大きく、連続して扱う事が出来ない欠点がある。そういった高威力、高消費だ。


魔法外魔法に関していえば低威力、低消費という、初めのころには役に立つようなものだ。


紋章学魔法外魔法刻印化実験術式⦅防御力向上⦆

ドローンに淡い光が放たれ、まるで蛍のように光を放つ、夕刻が過ぎた夜陰間近な時間、輝く燐光が幻想的な世界に誘うように周囲を淡く照らす


「成功?」

「分からんぞ。どんな、いや、これだけでも十分成功とは思えるが」

「分かりません。成功なら強度が上がっています。使ったのは防御力向上ですから」

「殴ればいいの」

「はい。+された性能は微々たるものですけど、日本人の特性がありますから」

「特性って、全能力強化言う奴?」

「はい」

「でも、それって奄美君が言う魔法の分類よ」

「そうなんす。さすがに悠木式刻印術式は初めてっす」

「・・何その名前?」

「発案者が悠木 双葉、日本人、女性、18歳」

「確かに私が発案したけど完成させたのは奄美君じゃない」

「こういうのは発案者の名前が取られるすよ」

「断固拒否する」

「えっ」

「当たり前じゃない。魔法なんて習っていない奴が魔法のの名前がつくのは変よ」

「じゃあ双葉式刻印術式」

「ダメったらダメ」

「木葉」

「ダメだ。君の名前にしなさい」

「ダメっすよ。魔法使いの業界じゃあ。そういうのを責任放棄って言って怒られるすよ。良くない行動っす。なんか名前から、魔法使いの業界じゃあ。発案者の名前が使われなかったら彼奴は功績取りだ。そんな後ろ指を指されるっす」

「奄美君が黙っていればよいじゃない」

「ダメっす。そんな行いはダメっす。悠木 双葉の名前からなんか付けてください」

「ガキども」

「「黙ります」」

「そういうのは大切にしておけ、バンバン上がりそうだが、こういった名前を使うのは、言い換えれば王国と通じるかもしれないこのゲートの事も有る、少しでも手札を必要とするものだ」

「佐久間さん。無理時はよくないと思います」

「そうだが、分かり易いだろ。日本人の仲間が考えた魔法のやり方、その仲間の名前が使われた方式、恐らく100年以上の長い間主流となると俺は踏む。確信じゃないが、奄美では考えられなかった分野をお前が考案したのは驚異的な発明と言ってもいい。何せ魔法使いの奄美では考えられなかった。恐らく他の学生や教授ではとても考えられない事だと俺には思えてならない。何せ魔法外魔法というほどだ。研究すらされていないのだろう奄美」

「はい。記憶にある限り、魔導院の教科書にも、魔法外魔法を研究する者の噂すら聞きませんでした。そもそも一般的な学生レベルの魔法使い見習いの攻撃魔法の回数は数百ですから」

「それだけ使うという発想に及ばないし、何よりもそんな物もあったな程度の価値しかない、奄美君が言いたいのはそういう事?」


奄美が頷く


「しっかり返事はすることいい!」

「了解っす。悠木さんの事は当たりです。日本人が最近の水道料金と同じです。大して気にもしませんから。さらに言い換えるのなら魔導院の学生レベルの魔力は数百、101~999ぐらいです。俺が数十、経済的なことに言い換えれば俺は経済的にかなり厳しい訳ではないがやや厳しいレベル、自立した頃の新卒民間の経済力、学生レベルは自立から数年の高学歴の大卒です」

「とすると高卒レベル、大卒レベル?」

「そうっすね。そんな感じっすけど、実際所は中卒のアルバイトと、大卒の大手企業人っす」

「そんなに?」

「そうなんです。何せ101~999という数字から分かることに、数十と999の差はあり過ぎです」

「・・・ちなみに奄美君は」

「数十です」

「じゃあ。学生レベルの最低は」

「知る限り101です。しかも1年生のみ」

「ごめんフォロー出来ない」

「ある人が言ったんすけどね。怠け者がいるから世界は発展するのだと、誰かが言ったっすよ。生真面目な働き者は楽を考えませんから」

「分かる」

「奄美、どれぐらいか予想できるか」

「あっはい。+された特性値は全能力+、その中で硬度に関しては+1、鉄から鋼のランクに上がったようなものです」

「その特性でいうのなら色々と上がっていないといけないぞ」

「だからこそ簡単です、全能力+1ではなかったという訳です」

「はは、奄美君は柔軟だね」

「若いな。まあそれが若さってものだがな」

「俺としては嬉しいっす。紋章学は発展途中っす。全能力+1とかは困るっす」

「細かなデータは社に戻らないと分からないが、紋章学の刻印は完了し成功しているとしたら、特性の他には魔法効果か」

「そうっす。掛けた魔法外魔法の効果は防御力向上、俺の知る限りその効果は全く不明っす」

「奄美君ふざけている訳じゃないよね」

「奄美の言い分は分かる。使ったこともない魔法の効果が分かる魔法使いも居るはずもない」

「佐久間さん、その通りです。使ったことも、研究したこともない、実験すら最初の1度に、成功なのかすらわからないのです。もし特性、魔法外魔法の効果が組み合わされると、実験を繰り返し、データを確保しないと、特に特性値が分からない以上はなんとも」

「じゃ簡単な計算では」

「・・・特性値がもしなくても魔法外魔法の+数値から、0+0.1かな」

「ひ、低いね」

「元々低燃費の低効果の魔法ですから。この+0.1でもかなり良い数字です」

「もし奄美君の言う最高レベルの学生が行ったら変わるの」

「いえ」

「変わらないんだ」

「いえ、使えないと思います。この魔法外魔法が」

「・・・学生の間に覚えると言ったと思うけど」

「鳥は飛び方を知っている、大きな鷲も飛び方を知っている」

「雛の飛び方は教わらない、かあ」

「習いはしてもすぐに忘れる、そんな訳で今の魔導院の中においては習得すらされていない確率も高いです。加えて学生レベルの魔力程度では変化はないです。昔の記録ですけど、正規レベルでも変化なし、導師レベルになって初めて変化が見られたという。」

「なるる。その変化のあったというデータの導師級の魔力は」

「数千です。1001~9999」

「奄美君には考えられない世界ね」

「虐めないでください、これでもポンコツ上位正規魔術師と言われているすから、口の悪い奴は廃品なんて言うのです。俺も頑張ったすよ。そりゃあ平均的な一般市民レベルっすけど」

「ガキども、それで+0.1でいい訳か」

「あと考えられる事も有りますが、紋章学の基礎である刻印の使用された紋章が正しいかどうかもあります」

「なるほど、確かに紋章学の力を使うとき必ず刻印がある物だ。魔剣を使うときも刻印は常にある。魔剣化された物には全てだな」

「はい。まず適切な紋章のサイズ、適切な紋章を刻印する側の色彩、この2種類が重要な意味を持ちます」

「つまり。魔法外魔法とはいえ、紋章学の刻印化をしたのだからこれは立派な紋章学の魔法の一つだ。とするのならこの紋章学の魔法は」

「そうっす。すでに紋章学の一つの紋章っす」

「ふっ。これで奄美君のレシピは増えるわね」

「増えるっす。だからこそ悠木」

「嫌、魔法習って自前で魔法を作ってつけたいの」

「その気持ちは分かるっす。よく分かるっす。自分でやり遂げた感が半端ないっす」

「でしょ?」

「話を戻すぞ。紋章学の分類としてはどういう位置づけだ」

「そうっすね。色々な分類に分けられるっすけど、低燃費の分類っすね。最大の特徴っす」

「便宜上は魔法紋章学低燃費系紋章となるぞ」

「言葉を飾るなら汎用紋章っす」

「そでいい、低燃費よりはイメージがいいからな」

「で、この汎用紋章の場合の的確な紋章サイズか、的確な紋章刻印側の色彩か、この二つは重要な意味合いがありますし、また素材によっても変化があると予想されるも、未だに確認されない事です」

「魔法の事は詳しくないが、奄美は上位の研究者の、上位正規魔術師、なら相応の知識があると判断してもよいのか」

「科学者は全ての科学に詳しいのですか」

「どれぐらいの知識がある」

「基礎程度のレベルが最高なものが殆どです。それに学生生活は色々でしたから」

「・・・そうか」

「好い事も有って悪いこともあるのが日常って奴ですし、まあ頭が良い方ではないので一般人並み程度の知識です。ただ紋章学に使われるありとあらゆる判明している紋章は全て覚えています」

「専門バカになると苦労するぞ」

「うんうん。佐久間さんも情報工学を学んでおくべきだったとよく言うのよ」

「あるっす。それはあるっす。あっちでの魔法研究の時にどうしてもっと勉強しないかったんだと散々毎日思ったっす。」

「本題に戻ろう。この汎用魔法の結果+0.1で楽観的な数字なのだな」

「そうです。下手したら、歓迎できない軟化もありゆることも、紋章学で一番多い失敗例でいうのなら効果と軟化を繰り返しその刻印した物が崩壊する事です」

「崩壊?」

「砂で作ったお城の様な物です。あっさりとさらさらと」


淡い光を放つドローン、奄美が掛けた汎用紋章もあり、防御力は向上していることは悠木には思えるが、単純な計算で有って、この計算がどんな結果を生み出すか、誰も知らない兵器を使う様であまり良い気分とは言えない。


「でも、綺麗ね」


悠木の言葉に佐久間も奄美も、確かに見栄えが良いことには同意できるし、これはこれでよい物と奄美には思える。


「紋章は適当でしたけど、これはこれでよいのでは」

「・・えと。本気?」

「ええ。商店などに使えそうです。明かりとかにも、街灯とかにも」

「なるる」

「だが、このままじゃあ使えないだろう。無害であることが最低限の条件だ」

「それは確かにです。探査系も使えればよいのですが」

「おうおうさすがは魔法使いか、色々と有るようだな」

「知識労働がイメージだけど、魔法を使う兵士なのよね昔は」

「ええ。魔法を操る兵士確かにその通りです。だからこそ力こそ全てという人がいたのも事実です。寂しい事ですがね」

「その方は」

「国外追放になりましたから存命と思いますよ。見送った時にポツリと、」

「そっかあ。色んな人がいて、そうだね。だからこそぶつかり合う」

「青春話はそれまでだ、この紋章を削除できるか」

「除印、紋章学の俺が現在扱える最高峰の紋章魔法です」

「考えてみれば、奄美が紋章を使えるのは当たり前のように思うが、それはこいつが死に物狂いで獲得したことなのだな」

「佐久間さん?」

「佐久間さん」

「魔剣化をした魔剣を使い、俺達は簡単に扱うが、こいつは、こいつの様な魔法使いは、それこそ死ぬかもしれない激痛を耐えて、歯を食いしばって、そんな連中がいることが、なんというかなあ。魔剣化がもたらす先において、それらの魔剣を扱う事が出来る者達に覚えておいてほしい事だな」


佐久間は整備士だ。

当然のように今まで散々直してきた機械の事がある、これらの機械を壊すのは奄美の様な者も居るだろうし、それらの壊された機械を修理するのも佐久間の様な整備士だったりする。

整備する人を覚えておいてほしい、使う人にこそ覚えておいてほしいと

奄美にはそう思えてならない。


「奄美君、この紋章を撮る?」

「とる?」

「あっえ~と。そっかあ。異世界で2年間過ごしてきたからわからないのね。写真を撮るのかという事」

「必要ないっす。紋章は全て覚える特技があるっすから」

「全部?」

「そうっす。見たことのある紋章なら全て覚えているっす」

「へ~。じゃあ私用に取るけど、いい?」

「どうぞ」


悠木が写真を撮った。


「終わり」

「じゃあ。除印するっす」


ドローンに刻印されてた紋章を同じ様な紋章によって、相殺する様に消す。


「完了っす」

「その除印は疲れないのか」

「特にっす。といいたいっすけど、結構大変っす」

「なら今日の所は辞めるか」

「そうっすね。一つ実験していいっすか」

「俺としちゃうよいが、悠木」

「私もよいです」

「じゃあ。実験内容は明かりっす」


奄美が紋章を刻印したドローンは、先程と同じように淡く輝き始め、燐光を放ちその光の強さが徐々に大きくなる。


「おお。凄い光量」

「こいつは、街灯レベルじゃない、灯台か」

「いえ街灯っす。街灯利用のために開発した紋章の一つっす。ただ街灯にしては強過ぎるという事で不採用になったお蔵入りの奴っす。んで」


追加する様に先程の紋章を刻印する。

さらに強まる光量に悠木は目を細め、佐久間も強すぎる明かりに目を細めた。


「更にこれに」

「お~い。三重は不味くない?」

「あっちにいるときは好きな実験が出来なかったっすから、軍優先でしたし」

「この子が壊れるってこともあるのよ」

「ほら、ゲートの中のダンジョンって暗いすよ」

「パワードで増幅されるのじゃないの」

「されるっすけど、一言でいえば暗視ゴーグルの世界っす」

「緑光の世界ね」

「だからよくわからないことも多いっす。明かりを強くすれば色が分かるかもと」

「あ~。緑光の世界じゃあ色が判別できないのかあ、確かにそれは困る」

「しかし。奄美、実験機を壊し過ぎると明日の実験に支障をきたすぞ」

「バッチこれで完了っす」

「お前も研究者だな」

「でもっす。二重紋章の刻印をどう除印するのかが分からないっす」

「奄美、本当か」

「そういえばそんな事を言っていたっけ、なんでも相互干渉の法則、お互いに干渉しあう関係が紋章にはある、逆に非干渉もあるもごく一部、他にも重複の刻印はデータがない為に試したことがないって」

「よく覚えているっすね。悠木さんって暗記得意なんすか」

「君は覚えていないの」

「覚えているっす。だけど、細かいまでは、まあどうやって除印するのかも前任者の資料にもさすがに乗っていないっす。二重刻印の除印は」

「佐久間さん、これは保管出来そうですか」

「そりゃあな。可能だが、光り輝くドローンなんてものは普通はないぞ。今後の為にも情報は伏せろと言われているしな。出来るだけ除印してくれ」

「んじゃあ。試すしかないっすね」


奄美の指先が二重刻印の紋章と同じ紋章を作り、空中に作られた除印のため紋章が完成するなり指で押す。


「一応成功っす。」

「その一応の理由は何だ」

「自信が無いっす」

「お前は専門家だろうが自信を持て」

「そうなんすけど、除印は専門外なんすよ。紋章学の中でも除印は特別な物なんす」

「そりゃあまあそうだろうな。消す為の紋章だからな」

「ひとまず成功100%とでも記録しておけばよいのよ」

「終わったか」


谷口が暇そうに話しかけた。

ドローンサービス社の社長であるが、元々はドローンの調査で成功して今の会社を築いた人らしく、ドローン操縦に関しては悠木を遥かに上回るらしいが、それ以上にドローンを10機以上も破壊しても全く気にしない人なのだ。

ちなみに安いドローンは一つ1万円も行かない、それゆえの事なのだと奄美は思うが、それでも度量の大きい人である。


「はい。無事完了ってところです」

「話は聞いていたから分かるが、もし三重紋章刻印をして、どうやって解除するのかの手順は分かったな」

「単体、複数の二つのデータがありますから、十分可能です。後は経験が裏付けになります」

「よし。撤収準備だ」


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