【01-02:8月2日午前】
朝食を食べ、なぜか無性にカロリーメイトが食べたくなり、ホテル近くのコンビニで購入した。その時についつい見てしまったコーラとファンタの二つを迷いながらコーラを購入した。
徒歩で仕事現場につく。
前日はソフト面の失敗もあったが、一定の成果もあげていた。
情報そのものに干渉する力はないモノ、製品としてある部品などの細かな物に紋章を刻印して性能を上げる成果だ。
ただ、これだと、どうしても性能にむらが出来て失敗する、こんな落ちなのも分かった。
工業製品としては簡単な刀剣とは比較にならないらしく、アマミ自身、ドローンに紋章を刻印する魔剣化は初めてなのだ。
このドローンより複雑なことが、一目でわかるパワードスーツなんかの紋章の刻印などは、失敗するのが当然と言えた。
しかし。奄美もゲートの繋がる世界のガンゲイル王国において魔導院の実験で有った魔導甲冑の復活、これにパワードスーツでのデータが必要なのはわかる。またこの魔導甲冑で使われたデータをパワードスーツにフィードバックするのも可能なのだ。
幾ら自身がバカなお子様でも一度きりのデータはいくらなんでも覚えるモノだ。
役所のお仕事の時間の前の午前8時、ドローンサービス社の車両を誘導し、日中の日陰になる場所に案内した。
「おう坊主。元気そうじゃねえか」
50代の初老の男この谷口が豪快に話す。
「昨日はよくもうちのドローンを潰してくれたな」
「苦情に関しては調査課までご連絡ください直営業時間は午前9時からです」
「何時が最大だ」
「午後5時ですが、調査課の都合により午後4時30分までです」
「お役所事ね」
悠木が車両から降りながらぼやく。
大きい瞳の2倍ある丸型フレームメガネ。猫耳型ヘッドホン愛用の特徴的な女性だ。
高校3年生だが、この国においてはもう成人の18歳だ。
「少年お役所仕事はよくないわ。民間に寄り添う形で」
「でも俺の仕事先は役所っすよ」
「これは一本取られたわ」
悠木がカラカラと笑う。
見た目に反しサッパリした女性なのだ。
「坊主、ちと手伝え」
60代の初老の男この佐久間が声を出した。
「うーす。了解っす」
ドローンを運び、一つ一つの丁寧な形でケースに収納されたドローンを下ろしてはケースから取り出し、数機を下ろし終えた。
「これは何か」
「あっわかる?」
「お求め安いドローンすね」
「素直に安いと言わないのね」
「安価ってことはお求めやすいって事っす。それだけで力になるっすよ」
「経済的というのなら確かにそうね。奄美君は、なんというべきか、学校でうまくやれそう?」
「通ったことのない高校っすから悩むっす。昨日はホテルで情報収集っす。」
「その悩む個所は」
「日本の高校の中でもこの島の高校は変という意見が多かったっす。内向的というべきか、閉鎖的というべきか、地元の子供が通うっすからなんすけど」
「確かにねえ。異物に対しては閉鎖的ね。」
「学ぶより慣れろですからまあまあやっていくしかないっす」
悠木も考える。
(この子が上手くやれるような環境じゃないと思うけど、後輩の為に一肌脱ぎますか、後は浅間のバカたれを捕獲してから)
「悠木テスト行くぞ」
「了解です」
「あの」
「坊主は悠木からドローンの操縦も習え」
「了解です」
◆
「おし。坊主も吸収がいい、ドローンの情報を共有するぞ」
佐久間がそういうとモバイルを操作する谷口も手を貸す。
奏者の悠木と見習いの奄美の二人は暇になる
「そういえば、実家とかは」
「うーん。まあ簡単にいえば実家はなく」
「ない?」
「文字通り消滅っす。家族はもうわからないっす」
「ごめん」
「いいんす。2年って時間の重さは馬鹿げた重さだっただけっすから。こっちに戻ってきてからお世話になったところもあるっす。俺みたいな無国籍の奴に飯と宿をくれた恩人っす。」
「奄美君は人に恵まれる方?」
「たぶん半々っす」
「そうなんだ」
「あっちの世界では奴隷の時代には奴隷兵士訓練所に居たっす。いやな奴は居なかったすけど、毎月ある試合に勝っても俺は兵士に成れなかったっす」
「いきなりヘビーな話は禁止」
「んで俺は思ったっす。最初の昇格試験で勝っても採用されなかったっすけど、料理でアピールしようと方向転換したっす」
「なんか戦国ね」
「そういう時代っすから、まあこの料理が出汁骨、黒パン粉の野菜コロッケの岩塩の塩だれソースが非常に受けたっす」
(なんかおいしそうな料理ね)
「ちなみに食べたらよく太るっす」
「美味しそうだけど無理」
「仕方ないっすよ。こんな料理で太る位に奴隷は飢えて居たっすから」
(なんていえばいいのかさっぱり)
「この料理が超画期的だったので、解放奴隷の隊長や料理長も気に入って結果的に筆頭将軍の舌を満足させたっす」
「やるわね奄美君」
「うっす。そんな時に解放奴隷となって後は魔導院に紹介状を提出し魔導院の学生に成ったっす」
「超出世ね」
「そうっす。筆頭将軍のクラーク将軍には大感謝っす」
「皇太子と最高導師は」
「最高導師はラスカルという年齢不詳の初老に見える爺さんっす」
「皇太子は」
「もう言ったじゃないっすか、言わなかったっすか」
「言ってない」
「クラーク将軍っす」
「・・・もしかしてだけどその方ってのは若いイケメンの美青年じゃなくて髭もじゃの」
「超失礼っすよ。人の恩人になんてことを言うすか注意すべきですっす」
「ごめんごめん」
「まあ髭もじゃの50代のおっさんっす。でもこの人は平民から将軍まで出世した後に現在の王女と結婚した皇太子っす」
「野心家なの?」
「違うっす。野心がなさすぎる人っす。少なくても私利私欲で動く性格じゃないっす。もう少し自分を大事にしてほしいっすけど、そういう将軍だからみな戦うっす」
「カリスマなんだ」
「そんな所っす」
「凄く経験をしていたわね」
「今思えば毎日が全力だったっす。生きるために必死に生きていっす。戦争も、暗殺劇も、謀略も、事故も、駆け引きも、何もかもが新鮮だったっす」
「全部ろくでもない単語よ」
「悠木さん。俺は奴隷っすよ。一階級上がっても解放奴隷っす」
「・・・」
「生き残るため、生きる為にひたすらっすよ。あのころこそ生きるというただそれだけに全てっす。酷い事も多かったっすけど、よい事も有ったっす。酷い意味を持つ単語も一つ一つ人との繋がりがあり生き延びたっすよ」
「重い話は禁止」
「う~ん。なら畑っすね。悠木さんが知らない事の代表格っす」
「農業という事?」
「そうっす。ガンゲイル王国では一人約1km四方まで個人が所有できるっす」
「もしかして奴隷でも?」
「そうっす」
「奴隷なのよね?」
「そうっすよ」
「奴隷が財産を持つの?」
「ああ。解放奴隷がっす、ガンゲイル王国には奴隷は居ませんから」
「へー。」
「クラーク将軍が奴隷全てを開放したっすから」
「なるほど、だから恩人?」
「そうっす。解放将軍なんて言わるっすけど、このおかげで王国は貴族の力を弱体化させられたっす。緻密な計算もあったと思うっす」
「ふーん。解放奴隷からは財産が持てるのよね。という事は平民何が違うの」
「平民には特に制限はないっす。解放奴隷には奴隷を雇う事は出来はても、平民や貴族は雇えないっす。こればっかりと法律的な物っすから」
「なんで解放奴隷を平民にしないの」
「なんでだと思うっすか」
「そう・・ね。うーん。ぱす」
「こればっかりは変わらない物があるっす。身分意識っす。他にも財産に関係する事や、貴族と平民の密接な関係もあるっすから、政治的に解放奴隷寄りには出来ないところもあるっす。王国全土にいる奴隷解放で限界だったすよ。それ以上はとても」
「そう。もしかして経済的な事」
「れもあると思うっす。何せ解放奴隷には賃金が要るっすから」
(これは経済的な事ね)
「それに解放奴隷は平民と大して変わらないす。それに解放奴隷には色々と恩恵も強いっすから」
「恩恵?」
「解放奴隷に関してはガンゲイル王国を何度も戦争の矛先を撃退したことにより、魔導院への特別な入学枠、蒸気機関車の購入補助、歩兵銃などの銃の割引、農作物の自由化、兵士志願に関しての一部試験免除」
「・・・それって奴隷なの?」
「平民は制限を受けないから恩恵も薄いっす。解放奴隷は奴隷時代の苦労もあるのでいまだに制限もあるから王国が保護するっす。貴族のボンクラ共は関係ないっす。こればっかりと未来の国王の意思っすから」
「それじゃあ。平民になりたがる者がいないんじゃない?」
「確かに美味しい話に思えるっすけど、平民と違って財産・事業の拡大・税金に関係する事、これらには平民以上に過酷っす。しかも解放奴隷は全員が予備役っすから戦争が有ったらGOっす」
「どっちがお得ってわけじゃないんだ」
「平民になるには莫大な金を払うっす。それを考えたらと思う者も居るっす。それに平民から解放奴隷にはなれないっすから」
「この仕組みを考えたのはその次期国王のクラーク将軍なの?」
「将軍は政治的にはそれほど能力ないっす。むしろ軍人なのにある事が驚きっすよ。こればっかりは軍人経験者はよく知るっす」
「もしかして奥さん?」
「違うっす」
「息子さん?」
「惜しいっす。娘さんっす。ガンゲイル王国の第1王女の娘っす」
「もしかして男性は」
「そうっす。居ないっす。現国王を除き第1王女この王女の夫の皇太子の筆頭将軍が男性、この王女と筆頭将軍の娘のみっす」
「大丈夫なのその国」
「悠木さんはよく知っているっすか」
「そりゃあ。王国なのに王家の数が少ないのは異常よ」
「他の国は多目っす。でもガンゲイル王国には男子が二代に渡って生まれないっす。現代1王女の時も散々揉めたっす。まあ貴族のボンクラ共っすけど。連中も王国がなくなるのはどうしても控えめに言っても回避したかったっす。なんだかんだ言っても貴族の中には愛国所も少なからずいるっす。それ以上に国王に貴族の正統性を認めてもらわないと困るっすそんな風に聞いたっす。貴族は他の階級と仲が非常に悪いっすから」
「奄美君」
「何すか悠木さん」
「君の階級は解放奴隷よね?」
「あっちでの階級はそうっす」
「職業は魔法使い」
「職業は魔法使いというモノはないんすけど、まあそんな感じです」
「魔導院の研究者の中でも上位にいる研究者?」
「正規になった時はうま味、上位になった時には紋章学っす」
「その研究者の上は」
「教授の様な導師っす。上下あって下級が助教授、上級が教授っす。最高峰の最高導師っす」
「学生、研究者、教授、最高責任者なんだ」
「そうっす」
「なんというか詳しいなと思うのよ」
「あっちの楽しみと言えば噂話もあるっす」
「私でも納得出来る回答は」
「納得?」
「君はなんというか、嘘が苦手そうだね」
「何のために嘘をつくっすか」
(何のために奄美君が嘘をつく理由・・)
悠木が考え込む。
前髪を切りそろえたストリートの髪の先を弄る。
(本当の事を話すと不利益につながる?)
この少年がそんな器用なことが出来るのなら、この少年の人生はもっとマシだったと言えた。
(謝ろ)
「ごめんね。ちょっと猜疑心が生まれた」
「うす。俺の目的はいっていませんでしたか」
「昨日の会議には席を離れていたのよ」
「そうっすか。俺の目的は簡単っす。ガンゲイル王国のある世界に戻るっす」
「やり残したことが?」
「そんな所っす。話すと超長いっすから」
「そうかあ」
(年下なのにこれまた凄い経験をした子ね)
悠木にはこの少年の行く末に興味を持つ。
(経験が人を成長させるのなら、私は引き籠りだったしなあ)
「そういえば昨日はドローンの刻印していたじゃない」
「大抵の事は分かるっすけど、ドローンに関してのデータが少なすぎて」
「うん。そうじゃないの。もしかしてと思うけど遠慮していた?」
「遠慮?」
「なんか思い切りがなかったような微妙なモノだけだったから」
「ああ。紋章その物の変更についてっすか」
「うん」
「会議の席で言ったすげ、紋章学って超地味っす。紋章を1ミリ巨大化させたなんてのが当たり前のデータっすから」
「たったそれだけ?」
「この手法が最も的確っす。地道に大きくしていくのが最も効率的っすから」
「それだけで違うの?なんていうか本当に凄く地味な学問なのね。効果に関していえば凄いけど」
「ハマったら強いロボットの様な物っすよ」
「君も男の子ね。まあ言わんとすることはわかるけど」
「んじゃあ。俺は誘導するっす」
奄美の言葉で悠木は気づく、出入り口にパワードスーツ搬送用の輸送車が入ってきた。
◆8/2日
「皆さん今日も耐震強度調査に励みましょう」
波田間が建前を話す。
時刻は09:00。
浅間、奄美の二人は全身装甲のパワードスーツを着込むために搬送用輸送車両に入り装着した。
「浅間スタンバイOK」
「奄美スタンバイOK」
『こちらフィリス、二人の機体には異常はないわ。メカニカルチェックOK』
『こちらオペレータ、ウェポン選択を、アマミご自慢の魔剣をお勧めする、なお昨日で色々と検査刺した結果。アマミご自慢の魔剣はモース硬度:6まで上昇している』
『瀬戸口さん。鉄のモース硬度は4・5~5よ』
『ああ。フィリスの言う通りだ。何せ魔剣化によって硬度その物が上昇している。正直このまま銃にも魔剣化をすれば、どのような結果か出るのか、調査課の間では楽しみが増えたと言った所だ』
「さすが日本、便利な調査機器がありますね」
「伊達じゃない技術大国日本」
「奄美。ウェポン選択に入ります」
「浅間。ウェポン選択に入る」
二人は魔剣を選択し、硬度が+1の為に長石のレベルにある。
『メカニカルチェック完了、魔剣選択完了、影響±0』
『オペレータよりサーヴァントへ。浅間、奄美の順で外部に出てくれ、なお今日よりやっとの事ドローンがつく』
「悠木の阿保がやっと折れたか」
「浅間さん。二人とも似ていますよね」
「似てねえよ」
「同じことを言っていますよ」
「似てねえのは似てねえのさ」
「はいはい。了解です」
「今の口調は自覚しているか」
「忘れていったっす」
「元に戻せ」
「敬語は難しいですよ」
「後だが、魔剣についての事を聞きそびれた」
「なんです」
「魔剣をしようとすると何が減るんだ」
「あれ説明していませんでしたか」
「覚えがない、阿保も聞き覚えがないと言っていたしフィリスさんも同じく」
「そんだけ証拠があれば確かに覚えていないのは話していませんからですか」
「日本語に不便なのか」
「落ち着いて、魔剣の魔法を使用すると本人の魔力、所謂MPが消費されます」
「分かり易い」
「魔力を体力に見立てれば分かり易いですね」
「なるほど」
「浅間さんが選択した魔剣は炎の魔剣、最下級の炎が刻まれた魔剣です」
「それだけ連発が出来るという訳か」
「お見事、その通りです。最下級は威力が即死レベルでも連発できるために重宝する魔法の一つです」
「きになるが、即死レベルでも最下級なのはなぜだ」
「範囲ですよ。最下級は単体系です。一体に当たればそれで終わりです。貫通も爆発も炎上もありません」
「なるほど、質問タイム完了、瀬戸口さん」
『もちろんデータに登録された。奄美の魔法に関することはすべて登録するように言われている。まあアマミが禁呪とでもいえばさすがに登録はしないが』
「そっか。浅間。出撃する」
『こちらコントロール了解』
『ガンダムしない』
「やっぱりガンダムですか」
浅間がハッチから出る。それを確認し奄美がハッチから出る。
悠木と奄美の二人が調整したドローンが二人の上空で滞空していた
「相変らず操縦は上手いな悠木」
『まあね。奄美君も中々よ。魔法使いにしておくのが惜しいぐらい』
「若いと適応力枷違うのかねえ」
『私達も随分と若いのよ。100年の人生の内たったの18年なんだから』
「そんな所はあるな。今回は偵察型か」
『ええ。社長は攻撃力をと考えたんだけどね。佐久間さんがバランスが取れないって感じで揉めたのよ』
「悠木は」
『私?私は操縦するのみよ』
「プロフェッショナル」
『ありがとう奄美君』
「でも社長の言い分も分かる。壊されるぐらいなら壊せってさ」
『意味深い事を言って格好をつけないの』
「へいへい」
『今の所異常はないわ。奄美君、紋章学でいうとこの魔剣を掴んだ状態は』
「掴む」
『それは特別な意味があるの』
「ガンゲイル王国では確認された魔剣は僅かに10本、俺が作ったのが1本、魔剣を掴むとは、その魔剣に認められたことを意味する専用的な兵器化をうけた魔剣士の称号、その隠語に掴む。これが口から洩れたら逃げたほうがいい」
「たったの10本なのか?だって10億だろ?誰だって」
『私から言えば、合うドローンというのがあるのよ。使い易い子とかね』
『奄美君しかできないレベルだったそれだけよ』
「難しくはないんですけど、専門的に学ぶ者が来年からってところでこっちに来たのです」
『という事は王国最大の機密事項が世界を超えたのね』
「くっくっ。はははは」
『ガンゲイル王国にとってみれば大損害ね』
『でも、戻るために今ここにいる奄美君も居るわ。ただ』
『なにかしら悠木』
『ガンゲイル王国に付いたら私達はどうすればよいの』
『自分で考えなさい。それが自立というモノよ』
「まああれだ。悩みがあるだけ幸せだろう。悩まなくなるよりはさ」
「浅間さん好い事を言う。でも悩みって尽きませんよね。魔剣を持つとそう思いますよ」
『二人とも聞こえるな。これよりドローンが突入する』
「「了解」」
『『了解』』
『こちら加藤、何か昨日と違うで、言葉に困るけど、禍々しさか違う』
「ご安心ください」
『何や知っていたんかいな速く言ってほしいわ』
「魔剣で焼き払えればいいのです」
『それは研究者としてあかんで』
「しかも魔気の回復速度も二倍、上限も二倍です。考えるより殴り倒した方が話の分かる方は居ますから」
『・・・ヘビーな人生やったかもしれんが、やさぐれたらあかんよ』
「了解です。ただ昨日は内部に突入しなかったので、今日が初めてという事になります。違いを見分けるには少々厳しいです」
『せやな。じゃ。ドローン突入、たのむで悠木』
『了解。でも加藤さんの言葉には納得よ。突入するとなるとさずにこの子が壊れるかもしれないわ』
『壊れたら直して奄美君の実験機や。うんまあ。リサイクル?』
『外部からの測定も必要ではないのですか』
『人手と予算が』
『世知辛い世の中ね』
ドローンが突入する。
『あれ?カメラの調子が悪いみたい、おかしいな』
『ドローン機のメカニカルチェックのエラー在り』
『敵?まさかね』
『悠木、別の機体を試せ』
『佐久間さん了解。二号機に移る』
ドローンサービス社の車両近くの木陰から二号機がゲートに突っ込む。
『メカニカルチェック項目にエラー』
『通信が途絶えました』
誰かの唾を飲み込む音が妙な大きく聞こえる。
「奄美」
「行きましょう。安心てください死んだら同じ所ですから悩みの相談には乗りますよ」
「お前も言うな」
二人が突入する。
入った瞬間何かにぶつかる。
⦅ファイアーボール⦆
奄美が魔剣を使い放った火球が近くの何かにぶつかりその何かが弾ける。
焦げた臭いが充満し、浅間はその臭いの元を見る。
二機のドローンを覆っているゲル状の何か。
「奄美」
「これって粘菌でよね」
「スライムじゃないか」
「サンプル確保っす」
「っすは禁止だ」
「酷いです。でも」
「あんまり考えたくないが」
「食われていましたね」
「ゲル状のスライムの胃袋の中、というかこいつは何処か」
「謎っすよ」
「今のは許可する」
『浅間、奄美大丈夫か』
「ちょっと調べようと思う」
『鉄砲玉かよお前らは。もう少し思量という。ああくそ。危なくなったらすぐに帰れ、魔法の使用回数の報告』
「俺は0回」
「俺は1回です」
『了解。ちなみに本人のしようと魔剣との使用の別れは』
「ないでするただ魔剣の方が負担は低いです。」
『数字的には』
「凡そ0・75倍ですら、75回分です」
『了解した。焦って死んだら終わりだぞ』
「了解です。それとこちらのカメラとは」
『わからん。どんな状況なのか全く予測不明だ』
「浅間さん」
「サンプル確保後は少し歩こう」
「了解です。奄美です。サンプル回収後、少し散歩します」
『サンプル?』
「粘菌ですよ」
『生物の業界に激震が走るな。回収後少しの散歩を許可する、またいつ通信が切れるかもわからないので、浅間の指示を仰げ』
「奄美。了解です」
ゲル状生物のサンプルを採集して瓶に詰め、二人の採取が終わり。
少し歩くと、骸骨が居た。
「浅間さん、あれは」
「さっぱりわからん。こんなところになんで骸骨が突っ立っている」
「焼きましょう。手っ取り早いです」
「しかし。こちらの住民かもしれない」
「生きていない住民は敵です」
「・・・確かに、その通りだ。二手で焼くか」
「まずはタンクが比較的余裕のある俺が攻撃します」
「ああ」
⦅ファイアーボール⦆
火球が一直線に骸骨に直撃する。骸骨の骨が融ける嫌な光景を見ながらその骸骨がこちらに向くというあまりに視線に入れたくない物を見た。
「サンプルどうします」
「奄美、融けた骨をか」
「無事な所を確保とか」
「その線で行こう。という訳だ言い出しっぺ」
「酷いです。でもこの骸骨は、なんというか」
「何だ魔法使いの血でも騒ぐのか」
「いえ、バカげたことが浮かびまして、子供の童話です」
「・・・興味深いから昼な」
「簡単な内容です。骸骨が夜な夜な踊り狂うのです」
「そんだけ?」
「骸骨に見つかった者は例え万里離れていても捕まえに行くとか」
「・・・」
「それだけ執拗に追い回す相手という事が浮かんだのです」
「サーチ&デストロイが優先だな」
「ええ。現時点では銃は役に立ちませんね」
浅間は「全くだ」と津福
サンプルをアマミが確保し、ホラー云々より恐ろしいゲートの内部だ。
更に歩き。
音が響く。
ゲル状の粘菌の様なモンスターのスライム(仮)、骸骨のスケルトン(仮)と巨大な蝙蝠が戦っていた。それも三種類のモンスターは仲良く戦うのではなく、同じ種類同士に分かれての戦いだ。
「奄美、モンスターバトルだ」
「勝った方を叩きましょう。それとも」
「もちろんだ。魔剣の力を発揮するぜ」
「ういっす。了解っす」
⦅ファイアーボール⦆
⦅ファイアーボール⦆
二人から繰り出された火球が、スライムの二体を焼き、更に放った火球がスライム全部を焼き払う。
更に繰り出した火球が厄介そうな蝙蝠を焼き、追撃の火球が蝙蝠を全滅させる。
スケルトンも焼き払い、追撃の攻撃で全滅させた。
「奄美?」
「どうしたんすか。浅間さん?」
「体が重い、意識が朦朧とする、ニコチン酔いのような感覚だ」
「それは魔力切れの奴です。ここらのサンプルは放棄し」
「・・ダメだ・・確保しろ。」
「分かりました。直ぐに終えるので意識を振り絞ってください」
浅間が倒れ込むように床に伏す。
奄美はサンプルを確保し、浅間の方を担いで運ぶ。
通信のコールを繰り返し、少しでも出口に向けて歩く。
出入り口につく。
ドローンが待っていた。
「浅間さんは魔力切れっす。ニコチン酔いのような症状っすね」
『無鉄砲なことをするわね。後で説教確定よ』
「了解っす。誰が援軍はないっすか」
『そんな話は出たのだけど来栖さんや若宮さんも準備はしていたんだけど。波田間さんがあの二人なら大丈夫と、メガネのなのに性格悪いよう』
「心配かけたことは謝ります」
『そうよう。二人で突っ込むからすごく心配したんだから』
「重ねて詫びます」
『二度はないからね』
「はい」
来栖、若宮の二人が入り、浅間を引き取り、直ぐに運んでいく。
◆
サンプルなどを渡した後、1時間ほど説教を受けた。
説明すると、パワードスーツの記録から調査課、ドローンサービス社、竜胆研究所の面々は唖然とした。
「有害なモンスターがいるとは」
速水がいつものニコニコとした笑みから、少し悲壮になって呟く。
「二人の鉄砲玉が役に立ったという事ですね」
「あの」
奄美が声を出す。
「何です奄美君」
速水の言葉に奄美は迷いながらも話す。
「LvUPって奴らしいです」
「LvUP?」
周りの者も、首を傾げるように奄美に注目が集まる。
「はいLvUP」
「具体的には」
「はい。ステータスが上がりました。その証拠に初級しか使えなかった俺が、少しだけ上位の魔法が使えます」
「どのような魔法が使えるようになりましたか」
「はい。ヒールです。治癒系統の魔法です」
「今まではどのような」
「初級の攻撃魔法のみです。火、雷、氷の三種類です」
「そうですか。ひとまず収穫ありですね」
「怪我なら癒せます」
「病は?」
「それはまだ」
「肉体の一部の再生などは、例えば腕とか、脚とか」
「傷の治癒のみです」
「奄美君がそれを使えるようになったのは助かります」
「他にもLvUPしていけば使える魔法が増えと思います」
「この事は浅間にも言えますか」
「恐らく、かなり高い確立で」
「魔力を得たと思いますか?」
「それは無理です。足がない人は足の筋肉は鍛えられません」
「竜胆博士」
「ああ。興味深い事ではあるな。今で使えなかった者がいきなり使えるようになる浅間君も、奄美君も検査する必要がある、このLvUPは伏せておくべきことだ。力を得たいと思う愚か者が現れないように、待つ何にしろ検査は必要だ。それともこの仕事には健康診断すら保証されないのかね」
これに波田間が苦笑し、これを受け入れる。
◆
午前中は健康診断を受け、午後も同じく健康診断を受ける。
調査課及び関係先の波田間、速水、谷口、竜胆博士が集まる。
「浅間君の情報は見たよ」
奄美が言うLvUPは確かにあった。
健康診断と体力測定の結果にしては今までの一般高校生レベルの低い方から上位へと上がっていた。奄美に関しては非常に高いというほどでもないが、高校生としては高いレベルにある。
「奄美君が言うLvUPはあるいえるね。短期間で上がる数値じゃない」
竜胆博士そういうと、谷口も、波田間も、速水も何とも言えない顔になる
「今の内にバンバン上げるべきだね」
「何らかのデメリットは予想できますか」
「今の所はない、そう言える」
「奄美君には助かりますよ」
「速水、あの子をどうするのだ」
谷口の事は瀬に速水は黙り考える。
「このままでしょうか。あの子はゲートの向こう側に行くべきと思います」
「何故かな」
「竜胆博士、実家の家族もいない戸籍すらなくなっているあの子は、この世界では生きにくいでしょう。いっそのこと、あっちに行けば」
「速水君、それは責任の放棄ではないかね?」
「かもしれませんが、僕にはあの子が余りに不憫で、せめて生き易い世界に行った方が」
「何にしろ、このゲート調査を続けるしかない、それはいえるでしょう」
「上にはどう報告するのかね波田間君」
「・・・誤魔化すしかありません」
「危険はない調査だと?」
「今の所障害のない調査だと」
「波田間さん。よろしいので」
「他に援護してくれるところもないですから」
「なら全員のLvUPを目指す方がいい」
「でしょうね。奄美君に魔力取得の話をするしかないでしょう」
「ヒールでしたか、傷を癒せる魔法は便利そうですよ」
「出来てたら病も直せるとよいが」
「魔法に関していえばアマミ君次第ですし、この為に彼は翻弄されたのかもしれません」
波田間の言う言葉には誰もが思う事がある。
速水はそれ故にこう思う。
(魔法を伝える為に都合のよい少年だったのかもしれないと、酷い物だ。)
◆
「魔力取得の儀を?」
呼ばれた奄美に波田間が伝えた。
「出来ますか」
「出来ますが、まず本人の同意と、生命保険と、心臓が止まった時の事に備えた体制と、体を頑丈に固定する事と、後ですが、ご家族にくなった場合に備えての」
奄美がここまで言うとさすがに誰もが不安になる。
余程の痛みが伴う事が易々と予想できる。
「もし痛みを例えるのならどれほどでしょうか」
「控えめと、標準のどちらがいいですか」
「・・・標準で」
「麻酔無しの歯医者です」
「それの死者等はありましたか」
「聞きたいですか、これでも初期の術式に比べれば各段に痛みが激減した方ですよ」
さすがに不安になる。
波田間もどういえばよいか悩む。
速水、谷口、竜胆博士も微妙な顔だ。
痛みが激減してもここはガンゲイル王国ではないために、全くの未知であることは確かだ。それを部下に押し付けるのはさすがに波田間も無理だ。
「俺としては考え直しませんか、いくらなんでもあの激痛とタフな奴隷上がりの傭兵達でも逃げだすような痛みですよ」
奄美は本気でこう言っているのは分かる。
なにも誇張ではないこの少年がそんな器用な真似は出来ないし、そんな事はしない。
波田間も悩む。
「奄美君は体験したことは」
「聞きたいのなら話しますが」
「?君自身は魔力持ちではないのですか?」
「魔力の強化術式です。魔力取得の術式と同じ方式ですので、痛みも同じです」
「痛かったようですね」
「魔力取得の術式、魔力強化の術式の二つを受けた者は居ません。今まで片方だけでもその痛みのせいで結構な数が」
「ストップ」
「脅しではありません。ここはガンゲイル王国ではない、この世界初の魔力取得の術式を行うのなら相応の用心をすべきです」
「分かりました。この話は凍結します」
「その方が無難です。最低限の話ですが、俺が治癒系統を極めてからでも遅くはないですよ」
「確かに、もしくは鎮痛薬を」
「そんな物を試さない筈もないですよ」
「もしかして効かなかったとか?」
「薬物での痛みの軽減は初期に考えられ、試されましたが、無理でした」
◆
仕事が終わり、奄美は世話になった家に向かう。
そこには部屋があり、また同い年で引き籠りながらも人の良い友人がいる。
「あら奄美君」
「ちす、これをあいつに」
「もしかしてお仕事が見つかったの」
「はい。役所のアルバイトです」
「あの」
「一応公開しています。必要でしたから、よい方々ですよ。学校の手配から何までしてもらいましたし、ちなみにこれは紅イモタルトです。仕事先の速水さんから聞きました」
この家の小母さんに渡し、中に入ってから友人の部屋に行く。
「おうユキユキか」
「この前はノブノブだったよ」
「仕事先か」
「おう見つかった。お前の通り飛び込んでみたら雇ってくれてさ。いましゃあ自立したよ」
「お前は魔法が使えるからな」
「使ってみるか」
「そしたらあれだろ。あのすげ~痛い術式だろ」
「お前も偶には仕事するのもよいと思うぞ。今でも剣道はしているし」
「何の仕事だよ。魔法に剣道が活躍する仕事って」
「探査系肉体労働」
「なんか得点は」
「LvUP」
「つれえよ。マジ。つれえよ。ブラックじゃないだろうな」
「一応生命保険について」
「やべえだろ。そりゃあ死ぬぞ」
◆
友人宅から寝床のビジネスホテルに入り、そこで物件探し、また学校などの情報を探り、他にもいろいろな通販なども見る。
そうして一日が終わり、朝方の食事を終えてから仕事場に向かう。
8時にはドローンサービカス者の車両を一日中日陰の所に誘導し、直ぐにドローンを下ろし、昨日で二機がなくなったために今の6機で、この微調整などを済ませてから共有化した。
「うむむ。中々腕が上がっている」
「そうですかね。こういうのは訓練が物を言いますし」
「そうそう一理あるわよ。でもこれ子達を動かすセンスが必要なのはわかる?」
「よくわかんないです。こんなハイテク機材を操る訓練も、学習も受けていませんし」
「そうね。昔だったらすぐにできたんだけど、今は性能が上がって操縦性が悪化したこともあるわ。特にカメラなどの搭載、ライトなどの搭載、攻撃兵器の搭載どんどん変わっていき、結果として操縦性の悪化、整備性能の悪化なども加わり、重量の悪化もあって、結果として扱い辛くなくなった。こんな所ね」
「ついでに高級化もしていった。値段の悪化ですね」
「そそ。そういえば昨日さ。谷口の社長が真っ青な顔になっていたけど」
「御察しの術式の話です」
「やっぱりかあ。そんな話にはなるわね」
「俺としてはお勧めしないです。痛みもそうですが、この術式の結果、何らかのデメリットが現れても仕方がないですし、何より治癒が」
「奄美君が治癒を極めてからでも遅くはないと」
「その方向性で言った方が万事ですよ。術式に失敗したことも考えないと」
「確立としては」
「半々だったらいいです。悲観的に言えば3:7で失敗です」
「高くはない数字ね」
「データがない事と、何よりも専門としている分野ではない事の二つです。専門の物なら最低でも6割は行くのですが」
「当座は魔剣かあ」
「それぐらいっす」
「っすは禁止ね」
「ダメですよ。こういう日本伝統の相撲語は大切にしないと」
すでに日課となる悠木との会話。
「そういえば悠木さんはゲームとかはするのですか」
「それはもちろん。主にメカアクションね。戦闘機、戦車、パワードスーツ、ドローン、ヘリなんかの個人で扱える兵器は一通りね。特に好きなのがドローンもそうだけど、日本語自慢の二足歩行の人型戦闘機ね」
「えっ。日本に人型があるすか」
「リアルにはないと思うけど、ゲームなんかには多いわね。アニメや漫画にも多いわ。他にもラノベとかにもね。私も随分なオタクとは思うけど、そういう乗り物が好きなの、何よりロボットの方が力って感じがいいわね」
「とすると魔法の方はどう思います」
「便利な技能かしら、でも死に程な痛みを受けてほしいとは言えないわ。下手したら死ぬんでしょう」
「死にはしません」
「そうなの?」
「失敗して1からやり直しです」
「それって成功するまで」
「無理ですかね。どんなタフな兵でも1度の痛みで逃げ出します。どんな者も1度のみです。2度受けた者は知りません」
「死ぬほど痛い痛みを伴う術式、医学とは違うのね」
「随分と違います。何せ俺の教わった魔法の殆どが戦争に関係するモノですから」
「高価な戦争用の兵器か、奄美君はこれを変えたの」
「どうでしょう。俺にはわかりません。どうするべきなのか、未だに答えが出ません」
「そっか。魔法使いも色々なのね」
「ええ。戦闘が好きな人、破壊が好きな人、直すのが好きな人、作るのが好きな人、助けるのが好きな人、色々です」
「そういえばアマミ君はどれぐらいで正式な研究員となったの」
「5か月です。約半年です」
「それって速い方?」
「う~ん。どうですかね。天才に関していえば魔導院1年生になって即昇格しますし、つまり正規魔術師の研究員です。俺が成る前は戦闘員でしたけど」
「平均すれば」
「そう多くを知る訳ではないので何とも言えません。早い者は即1日、もしくは入る前から、遅い者は1年以上もかかりすし、才能が有るもの人していえば、人それぞれですしね。期間でいえば早い方ではないですが、遅い方でもないような中間なのです」
「魔力が低くても」
「そうですね学生の頃は魔力よりも知識ですから、それから正規魔術師になるための研究をこれらを出せなければ何年だっても学生のままです」
「なるる。奄美君は戦闘員より研究者に向いていた、そういうこと?」
「そういう事になります。でも一度ぐらいは派手に魔法で戦ってみたかったのも本音です。自分が地味すぎて困りますけど、一度ぐらいはとは思います」
「Lv上げガンバ」
「ういっす」
9時前になりパワードスーツ搬送用の輸送車を誘導し、その後に調査課の車両である改造バスの指揮車両を誘導する。
調査課の課長の波田間、副課長の速水、事務担当兼ドローンオペレータの加藤、パワードスーツオペレータの瀬戸内、警備担当の来栖、若宮の6名。
ドローン―ビス社の社長の谷口、整備士の佐久間、操縦者の悠木の3名。
竜胆研究所の所長の竜胆博士、整備士のフィリス、装着者の浅間の3名。
県庁アルバイト待遇の装着者&魔法技術者の奄美。
「それでは今日も耐震強度調査を頑張りましょう」
「皆さん、今日は調査に関しては午後からします。午前中は奄美君が作る魔剣についての全体訓練です。浅間君の協力のもと魔剣の破壊力を調べました。その威力は凡そ対戦車ロケットと同じ破壊力です。個人で行使できる力に関していえば強力な物です。また氷、雷の二種類も調査中ですが、担当者からいえば兵器の常識を覆すものです。そこで奄美君が新しく使えるようになったヒールについての、魔剣化は可能ですか」
速水に言われ、奄美は考えるが、出来なくもないのだが、ただ治癒系統にはためらう事も有る。
「結論から言えば半々です」
「説明を頼めますか」
「はい。まず皆さんが思うほど魔法は単純ではないのです。意外なことに攻撃魔法に関しては単なる力の放出です。
治癒に関しては範囲設定、治癒レベの設定、治癒速度の設定、治癒消費の設定など、数多くの設定が必要となり、専門的な訓練と学習を受けない物か行うのは非常に危険なのです。傷が治っても障害を持てば意味はないですから、だからこそ使えはするが、思うような結果にはつながらない、またこれらの教育を受けるのも大変な物です。何せ実験的な経験がものをいう分野でもあり、人の良さが裏目に出ます。失敗してもああそうか程度に思える人のあまり良くない性格の人のみです」
誰もが困る。
「ありがとう奄美君。しかし、うんまあ。無理ですね」
「そんな性格の人には教えたくないです」
「僕も同意します。そんな方にしか使えないというか、失敗や障害を与えて平気でいる様な性格の者はまずいません。そんな希少な方は、味方に成れませんし」
「俺に関していえば、相当失敗しました。すごく悩みましたよ。担当の導師からお前みたいな才能と性格的相性の悪い奴は初めてだと」
酷い言い分だが、奄美の性格からして失敗を気にしない方ではないのは直ぐに分かるというモノだ。
だからこそ信用できる少年かもしれないが、その失敗の多さを考えれば普通の者に使えるようにしろというのは無理だ。
「俺なら可能か?」
谷口がそういう。
「悪夢に襲われますよ。それも毎日寝るたびに、その内寝るのが怖くなる人もいます」
「・・・」
「だからこそ治癒魔法が使える者は頼りにはされます」
「信用はされない訳か」
「いえ、中には信用を勝ち取る人もいますが、性格が良いとはどうしても言えません。マシの中のマシな人でも平気な顔でだまし討ちはしますし」
「お前の異世界生活は相当にヘビーだったたんだな。ベリーハードだ」
「イージーの方がいいですけど、できたらベリーイージー」
「つまり結果は全て患者のみと言い切れる者のみですね」
「竜胆博士、やめておいた方が無難ですよ。使えない幸せはありますから」
奄美なりの労りも分かるが、年配の竜胆博士、谷口、佐久間は、それぞれが見る。
「急がない方がいい事も有ります。段階をこなし行く過程で使える様になれば嫌でも学ぶことになります。力を得る、その重み、その意味、その価値、その覚悟、その意思、全てが揃わなければ魔法の力を行使する事にはつながりません。だからこそ学生、研究者、教授、最高責任者という階級があるのです。昔は学生、戦闘員、指揮官、最高責任者ですけどね」
「・・・分かった。君の意見を採用しよう」
「色々な魔法の系統の中で、治癒を得意とする者だけは信じない方がいいです。もしあの世界で私の専門は治癒です。そう言った者が居たら近付かない方がいい、信じれば利用し直ぐに裏切るような連中ですから」
「じゃあ逆に信じてよいのは」
「強化系です。もしくは防御系です。この強化系と防御系は、前方で戦う為に信用こそが宝です。これを裏切るような真似はまずしません。もし専門がどちらかの場合はまず信用してもよい分野の魔法使いです」
「じゃあ攻撃は」
「攻撃が得意とすると極普通の魔法使いです。所謂没個性です。お好きにどうぞ」
「整頓すると、治癒は最悪、攻撃は平凡、強化・防御は信用できる」
「はい。あと紋章学は俺一人なので圏外です。そう言った少数の系統は統計的、平均的な性格がわからないので用心のほどを」
これに全員が噴き出す。
奄美はよくわからずに困る。
「奄美君、それって君を用心しなければならないという事だよ」
悠木にそう言われ。
何故か納得できない奄美だった。
「とすると、魔剣は攻撃に限定すべきかあ、治癒が使えれば便利だけど、まあこればかりは控えたほうが良さそうだし、まずは魔剣ですね」
速水が笑いをかみ殺しながら話す。
奄美は納得がいかないが、黙る。
暫く笑いが終わり。
「魔剣化、これらの研究に関しては、そうですね。竜胆博士」
波田間がそういうと竜胆博士は、じっくりと思案した。
「これらの研究は価値のある物と思う。だが、この島には二つの軍がいる」
自衛隊、米軍の二つだ。
「この二つを出し抜いての極秘研究だとすると困るよ。あの二つが易々と出し抜かれるかとも思うしね。だが1度は出し抜けそうだ。二度は難しいがね」
「父さんなら治癒は学べない」
「竜胆博士は無理です。人を大切にする人には向かないですから」
「娘にそんな事を言われる私の性格はそんなに悪いのかね」
「いえ、人の良い方です。治癒を扱う人に自己犠牲の精神などは笑いますから」
「そんな方々とは話したくないね」
「治癒を使う人って、性格破綻していない」
「だからそう言っているじゃないですかフィリスさん。彼奴らのお世話になる位なら、逃げ出したくなる患者の気持ちが、よくわかりますよ」
「その中でマシなの人は居た?」
「超極一部に、千名中1名ぐらいの割合で」
「レア過ぎるわよ」
「そいつは性格がマシだったせいで引っ張りだこです。元々は薬草学を学んでいた奴だったのですけど、いつか薬草が人々の手に当たり前に手に入る様になるのが夢でしたね」
「善い人ね」
「それが千名中の1名です」
「さて話を戻そう。魔剣化によって治癒は簡易的にならないかい」
「なるでしょうね。しかし扱えない」
「なら何らかの医療機械を作れないかね」
「幾つか魔法はありますが」
「具体的には」
「まずは肉体再生のリジェネード、体力回復のヒーリング、怪我の回復のヒール、状態異常の回復のキュア、これら4種の複合魔法、これらの上位魔法などです」
「病に関しては何かないかね」
「病の箇所を外科で切除し、リジェネードで再生させる方式です」
「なるほど、確かにその組み合わせなら可能だろうが、君はまだ扱えない訳だ」
「すいません。どうも治癒とは相性が悪く」
「いやいい。君一人しかこの場には魔法使いは居ないのだから、いやいい。肝がこのままLv上げをしていく意味が十分ある。」
「博士は聞かないのですね」
「君が言わんことは分かる。だからこそいえる、そんな酷い事は誰もしてはならないと私は思うよ。その方々の死を踏みにじるのは酷い話の中過ぎるのだ」
「酷い話はそのまま話の中に埋没する方が良いですね」
「全くだ」
「だからこそ博士はわかるでしょう。治癒の苦しみを」
「・・・なんともいえんね」
「忘れてください。そんな方々とは当座は会いませんから」
「そうだね。魔剣化できる魔法に関してはまだ初級の三種類かね」
「まだ三種類です。まあ魔法の知識はそれほどないですから」
「誰と比べて」
「同世代の者です。何せ元々はこっちですから魔法に関する総量的な知識が足りないのです」
「確かに納得のいく話だね。君がこっちにも思い入れがあるのは分かるが、あっちに戻ってから紋章学の他にも研究してみないかね。機械工学を」
「魔法工学を研究する人もいますよ」
「魔法工学?」
「魔法に工業の力となる系統の学問です。主に魔法装置を研究する方と、学術的な研究を行う者、また魔法その物を工業力に活かす為の者、これらの工業に関係する魔法を魔法工学と呼び、魔法工学の者を魔工学者と呼びます」
「興味深い学問だね。私とも相性が良いようだ」
「はい。お勧めの学問です。フィリスさんにもこれはお勧めです」
「言えているわね♪」
「俺の分野は紋章学なので協力できますし、紋章機械工学という分野も作れそうです。紋章魔法工学も、まあ今は単なる紋章学ですけどね」
「いやいや。今からでも早くはないわよ♪」
「?何がです」
「紋章機械工学とかね」
「危険ですよ。魔法を封じる結界もないのです」
「安心安心、魔法をLv上げで覚えるし」
「いえ、使える魔力に達するだけです」
「大丈夫。大丈夫。面白い実験が出来そう」
「うんうん。全くだね。我が娘よ善い意見だ」
「いえいえいえいえ。無理っすよ。何考えているんすか、下手したらばれますよ。えーと自衛隊と海兵隊とかに」
「ご安心を、我が竜胆研究所のお得意様で~す」
「フィリス、不味いと思うぜ。自衛隊はまだマシでも、海兵隊は喧嘩の事しか考えないだろうし、こいつは相応に経験を積んだだろうが、まだ未成年だ。何かと煩くなるぜ」
「ユウくん。次世代の人材育成、新しいパワードスーツが開発できるわよ」
「フィリス名前名前」
「?ユウくん、何が」
「呼び名」
「・・あ~あ浅間君、まずは」
「まずは魔剣から、なんにしても我々が頼る護身の力なのだから」
「ですね。作るのは容易いんですけど、最初はリボルバーの装弾数レベルに行けばよい方でっすよ。つまり6回ぐらいが目安っす」
奇妙な例え方に、悠木が尋ねる。
「奄美君」
「なんです悠木さん」
「リボルバーって拳銃よね」
「ですよ」
誰もが悠木の言葉もそうだが、奄美の言葉にも疑問に感じた。
「拳銃に詳しいの?」
「ええ。軍隊時代使っていましたし」
「異世界のよね?」
「はい。ガンゲイル王国奴隷兵士訓練所とかです」
「もしかして不味い内容?」
「いえ。訓練生時代は、剣、槍、弓、盾、拳銃、歩兵銃、短機関銃、騎兵銃、狙撃銃の訓練は詰みました。一日12時間ぐらいですから一つ60時間ぐらいです」
「そうなのね」
「こちらの銃とは随分違いますが、あちらにも銃はあるのです。でもライフルはありません、そんな単語はありませんから」
「具体的に銃の口径と装弾数は」
「拳銃でいうならば12mm×24mm、30発です」
「1・2cm、2・4cm、30発も?随分と」
「拳銃の事を知っている人なら疑問に思うでしょうね。装弾数が異常だと、前にも言いましたが、あちらの世界には火薬はありません。その為に弾薬には炸薬や雷管が要りません」
「ならどうやって銃を扱うの」
「紋章学の前身は付与魔法でした。この付与魔法と紋章学の中間の時代に考案されたレールガンと同じ機構、加速装置が考案され、この加速装置は様々銃に活用され、今ではクロスボウにも利用されたことから急激に普及し、ガンゲイル王国の軍事技術の革新に繋がりました。訓練の用意さもありますが、訓練が用意になり学習も容易となり結果としては軍事的な訓練の簡略化を行えました。まっそんな所です」
「音符には喜ばしい物?」
「ええ。双葉ちゃんもわかるでしょう」
「そりゃあね。ちょっと手に入ったお宝の価値がね」
「奄美君は金銭の事に無頓着だから、うちの父さんとよく似ているわ」
「お金に魅力を感じない奴は男の子が多いし、阿保の浅間も同じくね」
「もう少し考えてほしい」
「えーと。ガンゲイルではレールガンとして知られる兵器ですが、仕組みはいたって単純です。性能としても現在の銃器とさほど変わらず、全体的に装弾数が高く、平均的な数値でいえば12mm×24mmの拳銃弾は30発、7mm×40mmの歩兵銃弾は50発ぐらいです。重量に関しては様々な部品の少なさから拳銃は軽く、歩兵銃は現代のアサルトライフルの半分ぐらいです。火薬がないので反動はありませんし、オプションの銃剣、スコープ、追加弾倉なんかがあります」
「はいは~い。銃剣突撃ってありましたか」
「結論から言えばありましたが、お勧めしません。一生死ぬまで彼奴は勇者と言われ続けますから、作戦すらも台無しにしたバカの真骨頂だと」
「「・・・」」
「ちなみに銃剣突撃訓練に言われますが、剣は銃より強しという矛盾を言います」
「「・・・」」
「これを言われたら、間違いなく一歩下がってください。そうしないと勇者の訓練を受ける羽目になりますから」
「ちなみにそれを命じた人は」
「ご安心を、処刑にはならず、一生謹慎です」
「これぐらいにして、魔剣の訓練と行きましょう」