【03-02:1/5日】
個室がある調査課の面々、ただしプレハブ小屋で有り、よく被災地などでひられる建物長屋が並ぶ。
自衛隊と行動を共にするために、その朝も早く5時には起床、05:20分には整列してラジオ体操、暢気に化粧をする暇もないが、おおむね良好だ。
ちなみにラジオ体操の映像もしっかりと有る。
そんな訳で終わると、高校生組は水をすくって朝食のお湯を作る。
奄美が製作した汎用紋章魔法による<微熱>の紋章化装置(紋章を刻印した道具)に掛けて後は待つだけ。
後は、カップ麺か、レトルト弁当かの二択だ。
さすがに朝かっカップ麺は嫌らしく余る。
このカップ麺は食糧庫に戻され、後はひたすら弁当を食べる。
「当座の間は仕事はありませんよ」
「年始のごたごたしたこともありまして、ダンジョンに潜るしかありません」
弁当の白米を上手そうに食べていた奄美が挙手する。
「何です奄美君」
奄美に君をつけるのは今では波田間だけだ。
「食料のお裾分けと、娯楽の提供と、自転車の提供と、まあ近くの学校に贈り物でもしようかと」
「奄美君の給与から引きますのでご安心を、そちらの方々の許可は」
「ああ。しっかりと頂いています。ちなみに来栖に武道の指導を依頼されたそうです。若宮も引っ張っていきたいですが」
「若宮はダメです。彼は唯一の警備隊隊員ですし。来栖は研修の期間ですね」
「課長、意見が」
「何です若宮」
「その学校とやらの方々に、こちらの事を教えてもらうわけにはいかないのかと」
「合理的な意見です。それは可能ですか奄美君」
「可能ですが、ああそうだ。どうも世情的な不安要素がいくつか」
「皆さん、よく聞いておくといいです。どうぞ奄美君」
「はい。今まで王族、貴族、平民、解放奴隷、この五階級でしたが、俺の学生時代に奴隷階級は全て解放奴隷になり、財産から二等市民になりました。また王国政府は多数を占める平民以上の人口になる解放奴隷を統治するために、上手い政策を押し出し、財産は制限するが、代わりに恩恵を出す。ついでに義務としての兵役です。これらは平民にはないモノではありますが、まあ後に手を結び、横暴を極めた貴族に逆襲しました」
ここまでは奄美が話したことだ。
貴族は二つの階級の強さと容赦のなさに押され政治的な力を失いつつあった。
王族は貴族に対抗するために二つの階級を保護し、結果として王国は非常に発展したことは言うまでもない。
ただ不安要素でいうのなら貴族を徹底的に叩き潰す事や、王国の教育機関の魔導院の性悪の魔法使い達を駆逐しなかったこと、数多くの不安要素の中でこの二つが最大の問題だ。
「ただあれから10年が経ち、どんな善政にも陰りが見え始める様に、魔導院の腐敗、それらと結びつくことで軍部に対抗した貴族、次第に勢力を広げ、今ではかつての皇太子の現在の国王の政治を妨害するほどです。つまり昔に逆戻りです。日本では9カ月でしたが、こちらでは11年が過ぎたのが悔やまれます。先の短い国王、政治的は有能なれど女性の王妃、一人娘は国民平民論を主張し貴族と対立」
「その国王と王妃や王女との面識は」
「何度かあります。特に国王には恩がありますし、それに今の国王は軍部の出身の元平民です。その為に軍部のカリスマは絶対と言っても過言ではありません」
「手紙を送るのなら誰に」
「王妃です。あの方は非常に優れた頭脳を持つ王国の屋台骨の一人です。王国の大水路計画の説明ですぐに即決したこちらの王妃もカリスマ性に富んだ方です。ただなんといいますか、国王も王妃も野心というモノが非常に薄い方なので、国土拡張論は拒否、戦争より交易で国を富まし、これらの利益を水路に使っての内の開拓を行うという循環型経済生産を中心とした政治家です」
「好感が持てますね」
「ただ、奴隷という階級の復活を考える一派もいるわけです」
「奄美君とは敵対するような関係の方々ですか、さてそうですね。知らないのなら知ることから始めればよい、上司の蘆田課長も行っていますし。ああ私は部長に降格です。速水君が副部長に降格です。課長は新しく蘆田さん、副課長の方は日本側のゲート管理です」
「そちらの方にガンゲイル王国の話は」
「しなくてはなりません。それが組織というモノです」
「なら特にないのですが、学校の場所は徒歩30分ぐらいです」
「近いですね」
「こんな感じです」
「朝食後に準備してください」
◆
朝食の後に準備する。
日本製の頑丈なマウンテンバイクに積載量より安全性を重視したリアカー。
通常のリアカーに比べ非常に頑丈に作られた物、それでも積載量は100kgと通常の二倍の積載量はある。
ちなみに異世界配属により給与は年俸500万が学生給与、大人に関しては600万だ。
ドローンサービス社の谷口は社長、佐久間は整備主任、悠木は主任操縦士、この三人のン峰は600万、特に佐久間、悠木の二人には技能給与が出されるから、700万ぐらいになる。
パワードスーツの研究所の竜胆研究所はすでに防衛研究所に技術を売却しかなりの額だ。設計師でもあるフィリスは年俸700万ぐらい、浅間は600万ぐらいだ。
つまりかなりの年俸になる。
そんな訳で頑丈な自転車+100kg積載リアカーがお小遣い感覚で買える。
奄美を除く全員が困惑したのはその数。
運ぶ予定の荷物もそうだが、頑丈な自転車のマウンテンが15台、しっかりと全員分だ。
谷口と佐久間はエスケープ、釣り竿も消えていた。
ただ混この事もあり、自転車でも十分な脚力があれば足となる。
たが、メカニックのフィリスは奄美の気遣いに微笑む。
なぜなら振動式の充電装置付き蓄電器のついたモーターがついていた。
つまりペダルなどは緊急手段いわばマニュアルだ。
「奄美、高かったの」
フィリスが問い掛けると奄美は微苦笑した。
「便利さには負けますよ。」
「運ぶ量がちょっと積載量にね」
「そうですね。二人が外れましたので、13名で運べる量ですし」
奄美がてきぱきと仕分けし直す。
そうやって運ぶ量は一人90kg、全員で1170kg(1・17t)
日本では違法な改造品の自転車の動力付き、こうなると電動の原付だ。
運ぶ場所は直ぐに近くなので、大体2・5キロぐらいだ。
視界に入らないのは平原に少しある丘の先の、山脈の麓にある林の中にあるからだ。
アクセルを入れるたけで時速50kmほど出る。
直ぐにつくのは目に見えており、舗装されていない道のマウンテンバイクは軽やかに進む、リアカーも安全第一なのでスムーズに進む。
丘の方に人影が見える。
亜麻色の三つ編み、姉のディーダと似た様な容姿の美女のエマだ。
「師匠大丈夫ですか」
「え?」
「なにか怒られているような」
「怒らすことは何もしていないよ」
奄美は人を怒らう真似はしない少年だが、このエマという女魔法使いの怒りは尋常ではないらしく、次第に大きくなっていく巨大な火球、恐らくLv1のファイアーボールだ。
その大きさはすでにアマミの領域に匹敵するレベルだ。いや恐らく破壊力に関しては奄美を抜くと思われる巨大な火球だ。
「仕方ないなあ」
放ったグラビティLv1、極小の重力子が火球にぶつかりこの火球を破壊した。
そう表現するにふさわしい魔法の使い方だ。
魔法で魔法を打ち消す魔法というモノを作った奄美の意図を理解し、来栖は師の過去に思いをはせた。だが、このエマという女性の怒りはさることながらその実力も奄美に匹敵するもしくは超える、そんな腕前らしい。
次に高速作られた膨大な雷撃、これもカウンターの様に重力系魔法を放ち、この雷撃魔法を破壊する。
対魔法用魔法という凶悪さを見せられた来栖だ。
「おーいエマ遊びはそこまで」
誰もが遊びではなく焼き殺す予定だったとしか思えない。
魔法は銃弾に似る。放たれたらそのままだ。当たるまで飛び続ける。
波田間などからすれば、中々度量の大きい発言だし、将来が楽しみな大らかさだ。
バイク集団が丘の坂を上る。
エマは怒りに震えながらも愛用の狙撃銃を構える。
「193年式02狙撃銃だ。懐かしいなあ」
「ユキ、この方々は?」
「職場の仲間、日本国沖縄県の役所の人と関係者、後で紹介するけど、挨拶しないといけないからね。子供達にも贈り物をしたいし」
「相変らずでなんというか、もう少し成長してほしいです。盗賊かと思いましたよ」
「なんで俺が盗賊になるのさ」
「冗談?かも」
「ひとまず丘を降りるね」
「別によいのですけど、銃ぐらいは持った方が良くないですか」
「日本の武器も基地にはあるよ」
「では案内します」
明らかに殺意があっても誰も言わない。
言わなくてもよいことがこの世にあるという立証のような事件だった。
◆
シャルクク・天海・司は今回は人間の姿で応じた。
その妻と主張するディーバ・ミルズティは人間の女性、年齢的には20代中頃。
ディーバの妹のエマ・ミルスティは人間の女性、年齢は20代前半。
この三名が子供達の教育と魔法を教える教師役であり実質の父親・母親・叔母のようなものだ。
シャルククは紋章学の基礎を作った真祖、紋章学から派生した呪印学者、紋章学派の当主のような魔法学者だ。
ディーバは13歳の頃に奄美と同じ学派として同じ様に勉強した学友、苦楽を共にした関係ながら、別に男女の仲ではなく、波長の合う性格同士なのだ。
エマは2歳年下の少女だった。学年はそれでも1つしか違わない、優秀さが分かるというモノ、紋章学派ではないが、病の治療のための魔法の植物魔法の真祖だ。
シャルクク、ディーバ、エマの三名はここで10年近く暮らしているので、お互いの魔法の事は大抵把握しており、また二つの魔法の真祖のシャルクク、その学派の二番手のディーバ、植物魔法の真祖のエマの三名だ。
学派でいうのなら、奄美は紋章機械工学の学派でもある、所属する者はフィリス、来栖の二人だ。その為に零細学派なのだ。
全員が日本語が話せるので、ガンゲイル語の自信のない面々には助かったと言った所だ。
多くの荷物は蓄電器、ソーラーパネル、振動充電器、電子レンジ、冷蔵庫etcetc
少なからず教育用の書籍、科学雑誌・書籍、農学、植物学、治水学、建築学などの書籍。
また携帯ゲーム機なども少なからず送られた。
「生活には助かるな」
「シャルクク殿」
「なにかな波田間さん」
「現在の事を教えてもらえませんか」
「なるほど、確かに合理的だ。貴方方は学びたい、我々は学びたい」
「お話が通って感謝します」
「後なのだが」
「何か」
「奄美に女は居るか」
「あちらにいるエマさんでは」
「そうなのか、実はな朝から非常にエマの機嫌が悪くてな、ここに来るまでに何かあったか」
「奄美君と遊んでいましたよ」
「その中でLv2以上を使ったか」
「いえ」
「良かった」
「エマさんはかなりに使い手のようですが」
「急がなくてもよいさ。ゆっくりと行こう若いの」
「ええ」
◆
朝方から男性達は林の中にそれぞれの住処を建設中だ。
別にテントでもよいのだが、奄美が手配したプレハブ建材が自衛官より輸送された。
特に離れているわけでもないし、むしろ退屈になった異世界生活に、待ちに待った異世界の外見の異なる人々を見に、かなりの数が志願した。
中隊長の西田二尉も散々悩んだ末に一番信頼する隊員に任す。
そうしてやってきた穂村、佐藤のコンビ。
二人とも高卒でだが、実家が片田舎にあったために木工技術があった。
その為に奄美に頼まれて二人とも隊長からの事も有り、任された。
そうやって完成した各自の分のプレハブ小屋。
こちらに作った理由はとても簡単、こちらに映る場合に備えてのセーフティハウスだ。
「よし運んでから、荷造りだ」
◆
改造自転車+リアカーで荷物を搬送し、穂村・佐藤の二人より調査課の敷地に居住させることは伝えてある。
波田間が手紙を出していたのが届いた西田は、勝手なことをと言いたいが、現地人でしかも日本語が話せる奇跡中の奇跡の一家らしく、もろ手を挙げて歓迎した。
この事は隊員にも伝え、その後に上司に連絡した。
「運が向いてきたぜ」
西田がニヤリと人相の悪い顔で笑う。
副官の江戸川准尉が、この上司の一つ加えた。
「隊長、果報は寝て待てと言います」
「まさしくそうだ」
「少なくてもこちらの世界の情報がこんなにも早く手に入るのなら、色々と片付くのもありますな」
「ああ。俺達はここで異世界の情報を集めるために来ているのだからな、個々の世界の住民と喧嘩するわけにもいかない、奄美ですら散々いう言葉もあるしな」
「侮るな、につきます」
「そうだ。61式魔法戦車や、レール自動小銃なんかと戦うのは正気じゃない。大きな理由は相手は万単位で有り、こちらはどう頑張っても精々大隊レベルだ。万対千では勝ち目はないさ」
「隊長、運が良かったというべきでしょう。ここが偏狭なので王国政府とか交渉できなくても、武力による排除はされませんし」
「いいこと尽くめじゃないが、悪い訳でもないようだ」
◆
調査課及びシャルクク一家の面々はプレハブ小屋を増設し、さすがに慣れた物だ。
◆
プレハブ長屋は基本的に10坪の2間×5間、トイレ・浴室、4帖のキッチン、6帖の洋室、6畳の和室の部屋が基本的なプレハブの家の二階建てだ。
大学生である竜胆・フィリス・音符、高校生の悠木双葉、浅間雄真、四之宮志雄、奄美信雪、周防真、戸村仄、シャルクク学校の学生であるドワーフのギル、フェルパーのレオン、ヴィエラのフラン、エルフのルリ、バードマンのチェルピーには勉強部屋が完備される。
基本的にダンジョンで鍛えられているために肉体労働には強い適性を持つ。
食道に集まる。
ひときわ大きなプレ小屋の中に長いテーブルが増設されていた。
「では皆さん、食事に関しましては15名から23名に増えましたが、割と暇な時間もありますので、釣りでの魚釣りなどで採れた魚、またカニやエピに海藻なども食べてみようと思います。所謂試食です。また美味しい料理ならばそののままレシピに採用します。日本人は食事にうるさい方なので、好みはあってもよいレシピが採用されると判断しております。長くなりましたが私からは以上です」
波田間の珍しい長広舌、拍手ではなく調査課の面々は、美味そうな魚の刺身、カニの手足、伊勢エビのような巨大なエビの身、見るからに美味しそうな料理を今か今かと待ちわびていた。
ちなみに谷口、佐久間の二人がいくら何でも食べきれないので、自衛隊の方にお裾分けしていた。
少なくても豊かな海産物の宝庫ような場所なのが分かる。
「自分からもあるが、まあひとまず食おう」
料理の前に手を合わせ、直ぐに食べ始める。
味を簡単にいえば産地直送の一級品の刺身だ。
刺身やで頼めばかなりの額が取られそうな食材、特にイセエビのようなエビの身は非常に甘く、食感もぷりぷりして素晴らしく、歯ごたえも最高で、刺身醤油との相性が抜群でもあって、手元にある白米の丼との共演が素晴らしい味わいだ。
カニの刺身の方も素晴らしい、少し塩味がするが、そこがまたカニの好い味わいを引き出し、カニのハサミの部分は身をよくとられてた。
魚の方は中トロのような味わいで、色合い的にはカツオに近い、バーナーで炙れば素晴らしい味わいになるのは確かだ。
そんな訳でひたすら食べる。
シャルククが食べ終わり、奥さんから出されたお茶を啜り。
「えー、先ほど言おうとしたが、学生同士は名前で呼び合うように、ここじゃあ、学生の間は家名で読んじゃダメなんだ。ただしあだ名は許可される、また通り名や略称も許可さるぞ。まあそういう訳でこれは鉄則な、もし家名で呼べば1人前の成人とみなされるからな、それは少々不味い、その理由はこのガンゲイル王国の文化的なモノだ。郷に入れば郷に従ってもらえると信じているぞ」
これで悠木双葉は双葉、浅間雄真は雄真、竜胆・フィリス・音符は音符だ。四之宮志雄は志雄、奄美信雪は信雪、周防真は真、戸村仄は仄。
シャルクク家の者は元々家族のために名前で呼ぶし、彼らも名前しか名乗らないので必然的に名前で呼ぶので、後は慣れだ。
食後に、呼び慣れないために何度も間違える光景が見えた。
最年長は音符のようだが、実際のところはエルフのルリの75歳。
ドワーフのギル、ヴィエラのフランの26歳だ。
三番手に音符の満21歳。
満19歳になる双葉、雄真。
満17歳になる志雄、信雪、真、仄
16歳のバードマンのチェルピー。
15歳のフェルパーのレオンだ。
夕飯の後は静かな夜の闇が支配する中、信雪の製作した<街灯>の汎用紋章魔法が活躍し、昆虫などを集めない上に燃料の消費もない、それでいて駆動音もなく、いくらでも使える便利さがある、ただ欠点を付け加えるのならオン・オフ以外の操作ができないのが製作者の悩みの種だ。
「信雪」
赤毛のストレートの音符だ。
「どうした音符」
「こういう図面を纏めてみたけど」
図面を見て図に分かる。前に説明された紋章その物をエネルギー源とした紋章動力炉の図面だ。
「紋章動力炉の図面にこっちは」
「うん。ディーバさんが空を飛ぶのが夢らしいのよ」
「ああむ。知っている。空飛びディーバの名前は有名だから」
「うん。だから簡単な機構の飛行機を設計してみたのよ」
「なるほど、佐久間さんを」
「それもあるけど、食事が減るのは嫌だし」
「それには全面的に賛成、ここの海産物は凄く美味しいし、なると西田二尉に話してみるよ。あちらさんは暇過ぎて死にそうと困っていたしね」
「訓練とかをしないのかな」
「やんないみたい、なんでも自衛隊の上層部と、いろんなところとの調整期間らしいんだ」
「了解。なら頼むわ」
「心得ましたなんてね」
自衛隊の敷地には直ぐに行ける。基本的にお隣さん同士の為行き来は自由だ。
中隊長の部屋のプレハブ小屋の前の准尉に用件を伝え、中に通される。
「ほう。動力炉?そいつはまた」
「完成すればかなり便利になります。何せ紋章のみの供給で幾らでもエネルギーを生み出せますから、こちらがそのエネルギーの実験機です。やはり軽いなら飛行機かなと」
「了解だ。ちょいと聞くが、なぜ彼らは日本語が話せる。まさか日本人がいるのか?」
「正解です。シャルククは日本人の此方への来訪者の天海司、おおれの紋章学の基礎を作った紋章魔法の真祖です。また紋章魔法の上位に位置する呪印学の真祖です」
「そいつはまた、信じられないほどの魔法使いか?」
「幸運なところはありますが、このゲート目的のためにいるので必然なのかもしれません」
「なるほどねぇ。そいつは運が良かったか」
「そういえば草は調べましたか」
「草か、新種発見だな。花も種も、十分新種だ」
「ええ。その草の汁を集めて瓶に入れ暗室で保管するとポーションという貴重な回復アイテムになります。ここは聖地、薬草が花咲く場所なのです」
西田が止まる。
「話してませんでした」
「あーまーみー!」
「ではお試しあれ」
信雪が逃走し音符はニコニコと笑い掛けながら退室した。
「なんだよおい、江戸川!今すぐに雑草を集めろ」
命令を受けた江戸川准尉は混乱しながらもすぐに再起動し、しっかりと質問していた。
◆
紋章学派のシャルクク、ディーバ、信雪、来栖、音符の学派の面々に植物魔法学派のエマの6名が集まり、熱い魔法理論を出はなく、ディーバの目的の空を飛ぶこと、これを成就させるために、紋章動力炉、飛行機を製作する。
紋章エネルギーは、紋章を製作し、その紋章のエネルギーを電力などのエネルギーに変換する物。
だがこれは理想的なエネルギーではある物の、夢物語に過ぎないのが現状だ。
その為に紋章刻印のため装置、その他いろいろの補助装置をつけ、完成した。
音符が作り出した紋章動力炉を説明する。
また紋章エンジンは根本から異なる、紋章エンジンはあくまでエンジンに紋章を刻印することでその出力を上げるというモノだ。
紋章エンジンはその性質上、各所に過負荷を与え、結果として耐久年数を激減させる欠点がある。
紋章動力炉は、紋章の固定化技術を使った紋章動力炉は、その性質上に核となる紋章を変えることで様々な変化を与えることができ、兵器的な応用、家庭エネルギー的な応用などもあり、少なくても一つのエネルギーとして十分な成果を出す。
問題は紋章動力炉の研究がまだまだなのでこれからに期待といった面も多い。
最大の特徴はそれほど多くの資源をしようせずに作れる利点がある。
細かな数値などに、その後にやり取りは魔法使いではない音符の真価を発揮したようなもので、ディーバは熱心に話に聞き入り、理解してから疑問がわくと矢継ぎ早に質問していた。音符もそれに答え、説明会は激しいやり取りの中、他の面々からも質問が入る。
「素晴らしいわ音符、今すぐに魔力取得の儀を執り行わない」
「はは、遠慮します」
「機械工学の専門家がいて助かるよ。紋章機械工学の発展も目覚ましいけど、この学徒は少ないんだよねえ」
「師匠は科学者ではないですから、そういえば飛行機の方は」
音符が両手を叩き笑顔で話す。
「双葉ちゃんに言ったらこれ飛ばないわ、って言われた」
「動力炉の出力?」
「うんうん。動力炉は十分と、ただ飛行機の設計は初めてだから双葉ちゃんから習ったのだけど、計算を間違えたみたい」
「いっその事ヘリにすれば」
「そっちは双葉ちゃんが製作中」
「ほう、彼奴の意外な趣味だな」
「そうでもないよ来栖、双葉は元々は飛行機乗り希望だ」
「?何故」
「視力が悪くなる病気にかかり挫折したのだ」
「そっ。双葉ちゃんはそれでもと思い複数使いというドローン使いになったわけ」
「師匠」
「なあ来栖」
「はい」
「双葉はドローンサービス社に入った」
「そうですね」
「今更視力が回復しても航空大学には入れない、少なくても今は」
「確かにその通りですが、仲間と言っても過言ではない双葉の意思はどうされるのです」
周りもおやと思う、師である信雪にがっちりと抵抗中だ。
「来年でよいそうだ。難しい視力の病気なのだ。医者からは遺伝的なモノと」
「さすがにそれは無理です。何の為に魔力を得たというのだ」
「ユキ、ちょっとよろしい」
「ああ」
「私の植物魔法の分野には視力を失った人の再生なんかの知識もあるわ」
「遺伝子、人を創り出す細胞分裂の設計図、分かった。頼む」
「承ったわ。貴方に恩が返せるのはなんというか不思議な気分です」
「じゃある説明会はここまで、エマついてきてくれ」
「了解です」
室内から出て双葉の元に二人はいった。
「なるほどう。信雪口が軽すぎるわよ」
「申し訳ない」
「それでエマさんが遺伝子の病気を治せると?」
「遺伝子というモノは分かりませんが、今まで直してきた治癒の系統に似た魔法が有ります」
「OK。さっそく試すわ」
「では」
エマが植物魔法を使う。
「あらら、もしかして成功?」
「そのようです」
「魔法って便利ね。ありがとうエマさん」
「後で薬を作りますので目薬の用にお使いください」
「感謝、信雪口の軽さの件は許す」
「うっす」
◆/1月6日
エマの植物魔法の噂は直ぐに広まり、自衛隊の医療班の自衛官が訪れ、朝早くから白熱したい薬草の事で異世界同士で情報交換らしい。
高校生組は朝飯の支度、昨夜で谷口、佐久間、若宮が獲ってきてた魚、カニ、エビなどを捌いて活き造りを作り朝から食べる。
また信雪が味噌と魚介類のスープを作り、これは寒い季節の中温まると好評だった。
自衛隊の中隊長×1、小隊長×3も朝飯を食べてから集まった。
「西田中隊の西田冬樹二等陸尉だ」
「西田中隊所属第1小隊千本義輝1等陸尉です」
「同じく西田中隊所属第2小隊富阪孝治1等陸尉です」
「同じく西田中隊所属第3小隊風間勇志1等陸尉です」
「自衛隊に挨拶されるなんてのは不思議な気分だぜ。シャルクク・天海・司だ」
「ディーバ・ミルスティよ」
「エマ・ミルスティです」
「沖縄県ゲート及びダンジョン及び異世界管理・調査部異世界課の波田間忠孝です。この長い名前の部署は役割としては三つ、日本国沖縄県の金城ダム前にあるゲートの管理、れは自衛隊との合同で落ち着きました。次にダンジョンに管理、こちらも自衛隊との合同です。最後にダンジョンを超えた先にある異世界、こちらの調査がメンイではありますが、こちらの人々との関係をよくするために異世界課はあります。どうぞろしく。後なのですが、シャルククさんには問う調査部に一時的に預かります。調査の結果沖縄県の行方不明者リストにあったのです」
「波田間さん、こんなところで役人根性を出さなくても」
「彼と彼の家族は日本国に所属する、我々は国民を守る、よろしいですか」
「まあ日本語も話せるし、上手い手なのか」
「ええ。ここに日本人がいたというのなら政府からかなりの額が下ろせます、要するに渋る官僚にここに日本人がいるから物資を寄越せ、まあ後は色々です。当方の役人としてはこれ以上にない大成果であり、当然の様に保護のための予算も降りるわけです」
「調査部異世界課の速水です。これらの降りてくる予算の大半はシャルククさんの希望の物資に変わります。またこの地での実験などに使う物資も購入リストにあります。言い換えます、工作のための物資が手に入ります。今の所はこれぐらいです」
こういう政治的なことに非常に長けた波田間と速水の二人がいるので、安心できることもあるが、この二人は戦闘指揮にも長け、交渉事にも長ける。少なくても味方ならとても心強い二人なのだ。それでいて部下に優しいものだから人気が高い。
「資源の管理につきましても、分かりましたか」
自衛官の四人は頷く。
「さすがだぜ波田間、あんたが役人なのが不思議だが、王国にどうするつもりだ。俺達は軍人、政治なんてのは無理だ。そういうふうにできないからな」
西田も非凡な軍人だ。何より非常に勇敢な軍人の為に勲章も数多い。
「だが、一つ分かることは、この辺りを日本領として王国政府と話し合う事だな」
「そうせざるに終えないと判断しています。シャルククさんの土地とすれば特に」
「我々は間借りです。所謂借家です」
「で役所は管理と?」
「そのような訳です」
「とすると奄美の財産はどうなる」
「後々に換金するときに」
自衛官も感心する無茶苦茶な役人根性だ。もう役人とは言えないような役人だ。
シャルククもディーバも感心するとともに、この役人なら信じられるとも思えた。
エマに関しては特に興味のない話ではあったが、いつの日か結ばれた時の為に財産は蓄えるべきかとも悩む。
話を纏めると
この辺り一帯の土地を全てシャルクク一家の土地とする。
これらの土地を間借りして役所を作る。
これらの土地を間借りして基地を作る。
大規模な土地を確保し、ある程度の規模の日本人が住む、必然的に日本国の管理がいる。
西部劇のようなやり方だが、ここら辺は誰も住まないので誰からも文句は出ない。
ちなみにこの世界はまだ危険ではないが、危険手当は付くほどに危険な所だと西田は報告していた。ある意味虚偽ではない。
「さてと、日本の事はまずおいて、ガンゲイルの事だ」
シャルククが久し振りの緑茶を飲みながら話す。
「ガンゲイル王国が変わったのが190年、それまでの五階級制度を改めるきっかけになったクラーク筆頭将軍のダジギス王国軍侵攻防衛作戦の頃だ。この時に奴隷兵士で構成された軍は、クラーク筆頭将軍の解放奴隷にする約束を受け、ダジギス王国軍に奇襲、寡兵でありながら敵将軍を捕獲、その他の軍の重鎮を捕獲した」
「どれくらいの兵力と装備なのだ」
「ガンゲイル王国軍筆頭将軍クラーク・ガンゲイル、並びに各将軍の平民からなる平民軍が凡そ3千、奴隷で構成される奴隷兵士軍団3千、武装に関しては盾と槍だ。クラーク将軍はこの槍を投擲啜るやり方で敵軍のダジギス王国を破った。対峙するダジギス王国軍はフュラン筆頭将軍が率いる1万の軍だ。武装は斧と盾、少数の騎兵だ」
「よく戦ったな。勝ち目はないだろう」
「士気の格が違った。皇太子自ら率いる軍、しかも士気を挙げるために色々と政策を約束したのだ。当時の軍の事も有り、このクラークの戦いではガンゲイル王国軍が勝った」
「それで」
「凱旋したクラーク筆頭将軍は熱心に奴隷を開放して回った。それは193年まで続く」
「そりゃあ嫌われなかったか?」
「ああ。貴族や一部の平民からは非常に嫌われたが、奄美の様な解放奴隷の活躍もあり194年までに王国は最盛期を迎えた。あの少年の活躍もあり革新的な政策を次々と打ち出し、このままではと焦った貴族たちは王国支持に回り生き残る、奄美に睨まれていたし人々から嫌われていたあくどい魔法使いたちは、その会合のリストを奪われ王国中にばらまかれる、結果として奄美は戦わず勝利した」
「個人的な活躍は抑えてくれ」
「個人か、奄美はな、個人ではないのだ。別に要職に居たわけではないが、魔導院の希望そのものだったのだ。あの当時の英雄だな」
「ユキの人気は想像以上ですよ。何せ魔導院の体勢を変えたのですから」
「つまり文部省の体勢を改めたのです」
「彼奴ならやりかねない、いや良い意味で」
「ただユキの考えに反発する者も居たのもまた事実なのです」
「旧体制が良かったのか」
「はい。その旧体制に巣を食っていた連中は甘い汁が吸えなくなり当然の様に牙をむくことになります。ユキの魔力は精々学生の最低限レベル、簡単に殺せましたが、その当時を生きている者ならよくわることに、時代を変えた解放奴隷の魔法使いを殺すことが果たして自分の利益になるのか、非常に葛藤です。何せ魔導院の多くが味方に付くユキを殺せば自分はどんなことがあっても殺されることは易々と理解できますから」
「つまり魔法使いたちの英雄だったのか」
「分かり易く言えばその通りです非常に優秀な魔法使いの素質がありましたし」
「しかし、194年12月10日、第五次パラミダ平原会戦、パラミダ平原でぶつかり合う両軍の戦いは既に五回を重ね、ダジギス王国軍は既に20万の兵力を失い、それでもと最後の決戦に臨む」
「おいおい、20万?」
「ああ。ダジギス王国軍は9万が寝返り、11万が戦死した」
「どれだけ人口があるんだ」
「まあまあ、そんな訳でガンゲイル王国軍、当初は解放奴隷のみで構成された傭兵隊が3千から始まった戦いは、ガンゲイル王国軍の銃によって王国に勝利をもたらし、大軍を防御射撃で破壊しまくった。当時の工業技術は非常に高く、戦車すら作っていた」
「それは紋章学派の学徒が作ったのだろ」
「そうだ。銃も蒸気機関車も俺が作ったが、改良を加えたのが奄美だ」
「あいつ」
「人には色々といるが、頭の回転が速いものを頭が良い、勉強ができる者を頭が良い、奄美は発想が良くアイディアをポンポンと作るタイプだ。それも100個中1・2個ではなく50個ぐらいはモノにできるアイディアなのだ。」
「発想の天才なのか」
「いや、合理的な考えるの持主だ。非合理的なことを嫌うタイプだな。魔法も合理的、効率的なモノに置き換え始めたのもこの頃だ。奄美はあまりに確信過ぎたわけではない、元々が奴隷の料理人なので、人に説明するのも上手かった。奴隷にも分かり易くを口癖にするそんな奴だ。そんな訳が奄美が手掛けた作品は爆発的に売れ、今では高級品になる、何故なら奄美がその後に失踪したからだ。あれは衝撃的だった」
「それが194年12月31日、この日を境に王国は下り坂を歩くことになるのです。司、ユキを失った解放奴隷勢力はあっさりとは瓦解しませんでしたが、その強固な絆を武器にその後も巨大な勢力としていました。しかし、次第に富を蓄える過程で平民になる者が多く、多くの財産家を輩出したものの、自らの勢力を失う結果になり、結果として解放奴隷と平民の同盟関係は崩れかけています。代わりに貴族と平民と魔導院の半数以上との蜜月です。良識ある者は次々に王都から、王国から出ました。ガンフォー、フレイア夫婦のように王国に残り、王国の問題である大水路計画を行っています」
「貴族の腐敗、魔導院の腐敗、平民と解放奴隷の同盟の瓦解寸前、解放奴隷の勢力の弱体化、これらは王国の求心力に陰りがあることを示すことは容易に理解できた」
「そして王女の政策」
「国民平民化論、貴族も、平民も、解放奴隷も皆平民として国民となるべし」
「失策ですね」
「その国民平民化論を支持した層は」
「ない、一切が支持しなかった」
「参考に」
「まず貴族は階級の降格だ。メリットが一切ない、次に平民だ競争相手が増えるデメリットしかない、解放奴隷は王国の保護と仕事がなくなる、デメリットしかない、奴隷は直ぐに解放奴隷になるのでおのずと反対だ」
「しかも王女の性格は剛毅なものなので、結婚相手も居ません。そんな方と貴族が結びつくわけもない、必然的に王女への国民の支持はありません。この為に王国は将来への不安を持つようになったという訳です。」
「でしょうね。誰にもメリットが内に見えて一つあるのは王族のみです。そんな馬鹿な政策を打ち出すあほな娘さんには教育でも施した方が良いですね」
「そんな訳です」
全員が分かったことは、奄美の事は置いても、この王国は末期的なモノだ。しかし最後ではない、まだ間に合うのは明白だ。その為に尽力するのは日本の方針次第だ。
「国の事は国に任せましょう」
「波田間先輩」
「何です速水」
「無理です。当方はこの異世界の日本人の問題を解決するしかありません、シャルクク・天海・司、奄美信雪両名の奴隷時の賠償などもありますし、知的財産権やその他諸々の商業的な問題もあります。結果として王国との交渉を行うことになります。よつて当方の調査部異世界課は従軍するしか道はないのです」
役人根性ではあるが、言わんとすことを分かる。ここで留守番せずに前に出ろと。
「波田間さんなら安心だ」
自衛官の小隊長は「全くだ」と頷く。
波田間としては美味しい海産物でも楽しみにしながら暢気に役所の仕事をとちらりと考えていたので思わぬ裏きりだ。しかし、両名の問題も、その家族の問題も全てが終わってからでも遅くはないとも思えた。何よりも国の滅びは人心が離れた時だ。
王国が亡びどのような戦乱が起こるが予想出しにしない。
「分かりました。役所の範囲で働かせてもらいます。私にも部下はいますから」
「まあこんなもんだが、今後の予定を取り組もう。奄美はどうした?」
「飛行機を作ると言って燥いで」
「あのバカ!」
そのバカは、大事な会議に出席しなかったので大人たちに代わる代わる説教された。
◆
信雪としては飛行機の方が面白そうだから双葉から学びつつ作業をしていた。
その後の説教だ。
その後にガンゲイル王国の世情に関する報告書を政策を命じられ、これを製作し提出した。
「奄美君」
波田間が信雪の名前を呼ぶ。
「はい」
「近くの貴族を買収するのは反対ですか」
「貴族は嫌いっす」
「なるほど、それで」
「でも敵対するよりは味方につけたほうが良いと考えます」
「ふむ。ならばどのようなものが最適か、分かりますか」
「そうですね。昔よりは上手くできると思います。その為には貢物が一番です」
「誰をつけますか」
「まずシャルククは外せません、ディーバ、エマは交互に、護衛としては来栖、運転手兼危機感仮間の浅間さんです。また何らかの会合には真、仄の二人は外せません」
「なるほど、傭兵隊長の名声があるシャルクク、魔導院でも有名な姉妹の二人、護衛には弟子の来栖、浅間はその危機察知能力から、周防、戸村は産業的なことにですか」
「はい。」
「分かりました」
「後、護衛にもう一人というのなら若宮さんを」
「なるほど、確かに誰かの護衛は勤められそうです。許可します」
「はい。後は買収のために必要な貢物リストを作成します」
「ええ。ところで輸送車両は作れますか」
「輸送車両ですか、それは作れなくもないですが」
「では73式大型トラックのようなものをお願いします」
「はい、ただ輸送機との並列でよいでしょうか」
「輸送機?」
「はい。防衛庁の篠原さんがこちらで必ず役に立つと言って押し切ったらしい小型輸送機ですLC90ですよ」
「燃料の方は」
「音符が設計した蒸気機関車の燃料タンクがあります」
「蒸気機関のプロペラ機ですか?」
「こちらに防衛研究所の分室を作る予定だそうです」
「なるほど、それは朗報です」
「後なのですが、外務省の方はもう少しかかりそうだと、ダンジョンにまだ分隊がついてないそうです」
「耳が早いですね」
「ええ。研究所の知り合いやらなんやらに色々と話す代わりに情報を貰っています」
これには波田間が苦笑する
要するに噂話だ。
「第5航空群からも来る予定なのですが、そちらでもすでに人選は終わっているので外交官と一緒に来るそうです」
波田間からしてもかなりの情報網だ。
(助かります。感謝ですよ奄美君)
「ではれで」
「ええ」
◆
直ぐに貢物リストを提出したアマミは、波田間も感心するとある名案を伝える。
日本の外務省と同時に沖縄県の役人として追従する。
要するに日本の外務省の贈り物、地方政府よりも贈り物、一回で二回分に分ければ二倍に嬉しいものだ。必然的に交渉は外務省に押し付けながらも水面下での交渉を持つ。
日本政府と同じ立場ではなく、地方の一自治政府としての贈り物と交渉。
この二つに分けることで、貴族のようなものは二つに分けて交渉するしかない上に、シャルクク、信雪の二人の名前は非常に有名なので、今は地方政府に協力しているとでも伝えれば、必然的に両者に重きを置く、貴族としても敵対という愚かな真似は出来ない。
調査部異世界課の面々も話し合うが、ひとまず今は奄美のやり方を見ようとなる。
準備を待つ間に、パーツごとに運ばれたLC90の組み立てなどを行う。
同時に73式大型トラックも組み立て、燃料を見ずにした蒸気機関と紋章エンジンの流用から作られた紋章蒸気エンジンを利用した41式大型トラックと命名し、その馬力から速力は向上し130kmの速度が出る。
何より燃料が簡単に手に入るので今後の足となる予定だ。
「外務省の異世界担当の杉原です」
外交官のエリートらしい青年だ。
波田間は挨拶し、素朴な疑問をぶつけた。
「当方は日本国沖縄県調査部異世界課ですが」
「奄美より聞いていますから」
「なら話は早い」
奄美が呼ばれる
「よう少年」
「おお、杉原じゃないかむ、元気そうだな。こんなところに来るのも何かの縁だ」
「奄美君」
「ああ。ゲーム仲間です。ゲームでそっちゅう戦う。こいつの重量級には苦労しましたよ。しぶといですから」
「そういえばそういう伝手もありましたね。まずは計画を説明します」
この辺りの地図を出す。
中心にあるゲート及び日本基地及びシャルクク一家の土地。
この土地と隣接する勢力はない、しかしある程度の距離なら山脈のバードマン、砂漠のフェルパー、平原のヴィエラ、山脈を超えたところにあるエルフの森、ドワーフの地下都市。
ヴィエラの平原を超えた先にあるガンゲイル王国のゾーゲン辺境伯領、この辺境伯と隣接するヘグーチ男爵領、ファブルショー子爵領の3領だ。
計画の当初は貴族からとも思われたが、むしろ平原のヴィエラが真っ先、次にバードマン、次にエルフ、ドワーフと続き、最後にフェルパーとなり、ここにき日本領の事を承認してもらう代わりに日本製品を提供する。族長などに長老などにはシャルクク一家が面識があるので、じっくりと友好関係を築けばよいと言った所だ。
◆
「オイオイ!なんだよこれ」
雄真が叫ぶ。
トラックの運転ができるのだが、73式大型トラックの事は昨日のうちにVRシミュレーターで訓練し覚えた。
しかし、その周囲に止まっている乗り物がおかしい。
CH-47Jは輸送ヘリだ。これはまだ許容範囲だ。
16式機動戦闘車。
105mmライフル砲を採用した戦車のような車だ。
「おいノブ!」
「うっす。紋章蒸気エンジンに改良した奴っす。エンジン性能は大幅に向上した奴っすよ?」
「こんなもんで賄賂を贈りに行くのかよ!」
「だって、41式トラックは不細工だから、それに比べて16式は中々見栄えがする。要するに威信のようなものも少しは高めようという意見の奴です」
「却下だ」
「ユウくんわがまま言わない」
「そうよユウのバカは適当に運転させて」
「もしや、うさぎが跳ねたがるので」
「なんややばい臭いが匂い過ぎる」
「16式はパス、護衛にはヘリだけでも十分です」
どんな強力な兵器を持っても数の暴力の前には難しいものがあるのもあるし、この世界には魔法が有り、その破壊力に関していえばLv1からLv4までの攻撃魔法の映像をしっかりと研修で見ているのだ。
Lv1で人が即死するような破壊力が当たり前の世界だ。
映像にないLv5以上がどれほどの破壊力を持つか想像に難くない。
こんな魔法より確かなのは浅間雄真の危機察知能力だ。
この能力の通称は兎、やばいものからは逃げだす習性を考えたある意味確定的な危険に対する一つの対策だ。
このウサギは有名な能力の一つで、西田中隊も危険な時には活用するために雄真には休む間が無かったりする。
さらに言えばダンジョンでの専任の武官のようなものなので、これを無視するのは現場では難しい。後から来たような自衛官が束になってもかなわない戦闘能力も持ち主でもある。そんな男がやばいと思うようなものは持ち込まない方が賢明なのだ
「おし、準備完了。雄真さん出発っす」
とトラックの二階から一階を叩く。
二階は急増させられた魔法使い用の見張り台だ。
乗り心地は悪いが、ヴィエラ族の少女のフランと信雪が搭乗中だ。
平原の草原を通るので、ゆったりとしたものだ。
「ここの食事は美味しいけど、あそこの食事は美味しくない」
「問題なし、万能調味料がありますから」
「参考に聞くけど、なに?」
「うま味の元、この袋一つで浴室一杯の水が惜しいスープに早変わり」
「凄い調味料ね、うま味って出すのが難しいの」
「そそ、そんな訳で手っ取り早く作れるかなって作られた奴、今出はどの家庭にもある奴だよ。日本領の村でもできたら取り寄せたい品の一つだね」
「そうね」
フランからしてもこの歳下の少年は、珍しいまでに友好的な日本人の国でも更に珍しいことに、魔導院で学んだ正式な上位正規魔術師だ。
しかも若干14歳で昇格したために、どれほど優れた魔法使いと言えるし、どうも日本での役割というべきか、
(役職、だった)
「信雪、貴方の役職は何」
「役職?うーん。そうだねえ。日本の南側にある島の地方自治の行政の一つの部署の下にある一つの課の中で雇われる臨時の役人」
「・・・・よくわかんない」
「要するに役所に雇われる臨時のお仕事に就く人」
「それならわかる。」
「日本では学生だからね。また正式な仕事にはつけないんだ」
「そういう所なんだ」
「まあ興味がわくと言えば、料理の学校やお菓子の学校なんかもあるね」
「興味は沸く、いつか学びたい」
「それは可能だよ。シャルククの家族だからね。まあ後は留学生なんかも使えるな、日本人と決行すれば日本国籍も持てるから住めるけど、フランはもう日本国籍を持ったシャルククの娘だから特に問題なく日本に済めるよ」
「話が長い」
「よく言われるんだよねえ。話が長いって」
「長い」
「短くできないのが困りものだようん全く」
一人で長々と話す信雪に呆れながらも色々と質問した。
「服装は、自衛隊の人達は変、役所の人達は自由過ぎ、家の家が落ち着く」
「うん。同意するよ。でもフランの家の人も結構派手だよ」
「そんなことはない100%」
「ディーバに関しては御洒落だし、シャルククに関してはいかにも魔術師の正装だし、エマはなんというか地味の中に派手さがあるというか、昔からそうだったからな」
「家は普通、これは決定」
こんな会話をしながらフランはこの年下の魔法使いとの会話をそこそこ楽しんでいた。
◆
ゲートから西側のカシモミル大草原のヴィエラの町。
この町はヴィエラの族長が起こした村から歴史の中で町まで発展した、ヴィエラの象徴的な街だ。
「何者か」
「シャルクク殿とそのお連れの方々がお見えです」
「通せ」
「後なのですが、アマミ・ノブユキ殿もお見えです」
「アマミ?ノブユキ?ガンゲイルの英雄ではないか、町の魔法使いも集めておけ、何やらあるか知れぬ」
「それが、その魔法使いたちはアマミ・ノブユキと久しぶりの談話と言って宴会中です」
「ならシャルクク殿と連れだけを通せ、アマミ・ノブユキは監視せよ」
「はっ」
通されたシャルクク、杉原の二人。
「久し振りだなシャルクク」
「ああ。久し振りだ。こちらは俺の元々の国の日本から来た外交官の杉原殿だ」
「始めまして外交官の杉原です」
「よく知らない国ゆえ失礼があるかもしれぬが、ヴィエラの族長のラウラだ。正式な名前はヴィエラ・ラウラ・アルクレイドだ。アルクレイドと呼ぶのが習わしだ」
「ならアルクレイド殿、日本からの話を聞いてもらえませんか」
「下手な交渉の仕方をする男だが、まあ人にしてはなんというか、まあよい話してくれ」
「まず」
と日本の風土、四季折々の季節ごとの草花に木々、自然豊かな国だと。
シャルククは近くに座って出された温いワインを飲む。
「なるほど、よいお国の様だが、国力というモノが見えぬ。自然だけでは物は作れぬ故に」
「確かに、ならば我が国の品を見てもらえますか」
「もちろんだ」
自衛隊の隊員が運ぶ、友禅染の見事な絹布、金糸、銀糸で彩られた京都西陣織の反物、黒屋種の美しい光沢の軽井沢の漆器、螺鈿の細工、錦絵の鮮やかな扇、薩摩切子のガラス、島の養殖真珠、関の刀工の刀、和紙、洋紙、便利な文具類、陶器、磁器の食器。
「我が国の産物です」
「実に見事なものだ。少なくても私が商人なら是が火でも商売をしたくなるような見事な物、なるほど、確かに豊かで我々とも話し合える方々に思える」
「何かご不満でも」
「残念なことに我が種族に国はない、これを受け取る訳にもいかないのだ」
「ならば捨てます」
杉原のあっさりした言葉に、アルクレイドは微笑してから降参した。
「シャルクク殿も人が悪い」
「年寄って証拠さ。人間だろうがヴィエラだろうが年寄は性格が悪い」
「確かに、それでアマミ・ノブユキは一体何の用なのだ」
「ノブユキの魔導院での改革は知っていたか」
「いや、英雄とは聞いておる故」
「ノブユキの魔導院の改革案があるあとで提出される」
「シャルクク殿は賛成か?」
「国民すべてに教育を」
アルクレイドは黙る。
「国民すべてに魔導院を開放する改革案だ」
「危険ではないのか」
「魔導院の全ての知識ではない、魔力のないモノに魔法を教えるわけではない、全ての者に禁呪を教えるわけでもない、全ての者に全てを教えるわけではないが」
「が」
「魔導院が許可できる範囲内で国民すべてに教育を義務付ける」
「・・・」
「国民は王国に属するすべての人々、王国に従うのなら教育を与える」
「悪くない、可能なら素晴らしい改革案だが、その英雄殿はどうされた」
「この改革案を魔法使いに伝えている」
「そうか、その英雄殿の人柄は、教えてもらえぬか」
「そうだな。まあ無害そうな満17歳になる予定の少年だ。魔力も平均的な魔導院の学生レベル」
「残念であるが、そんな者にこの国は任せられぬ」
「あくまで改革案、彼奴はどんな職にもつかんよ」
「訳が分からぬ、何も求めぬというのか」
「彼奴はそんな奴さ。まあ日本の役所に臨時の役人として雇われている」
「・・・この国より豊かな国着いたからか」
「彼奴の祖国なのだ」
「そうなのか、祖国か」
「なあラウラ」
「何か?」
「物を作る知識をどこから持ってきた」
「我が国も手伝えるのなら協力は尽力させてもらいます」
アルクレイドは完全に降伏した。
◆
魔導院への改革案は直ぐにカシモミル大草原のヴィエラの村々や町などの魔法使いに広まることになる。また改革案の発案者の名前の蘭にはアマミ・ノブユキ、シャルクク・アマミ・ツカサの二人の名前が載っていることが真実味を増した。
結果として魔法使いたち、また魔法使いの弟子たちが集まり始める。
一般の兵士10名に対し魔法使いと呼ばれる者たちの最低限の魔法兵1名が対等と言われるほど魔法使いたちの力は畏れられていた。
この頃にシャルククがヴィエラの中心的な街のアルク=レイドで魔法使いギルドを起こす、魔法使い同士の助け合い、魔法についての様々な事の問題解決など、まさしく相互扶助の精神のもとに創設された組織だ。
◆
ヴィエラの女族長のラウラ・アルクレイドよりバードマンの聖地ウルクイルの周辺の空白地帯をシャルククの土地と定め、この所属を地球の日本国が持つことを定める外交が進められる、当然の様に大草原をヴィエラの土地であることも定められる。
相互不可侵、相互認知、相互通商条約が定められる予定だ。
シャルクク一家は日本に国籍を持つ者とすることが決まり、シャルククとディーバの正式な婚姻が決まる。
無宗教なので、地球側の宗教色ない結婚式が決まり、これを機会にとヴィエラ側、日本側の交渉の席と共に、大会合の席が決まる。
日本もそうだが、沖縄県の異世界側の担当の異世界課も非常に忙しい日々になる。
あちらこちらの橋渡し役を行うだけではなく、ガンゲイル王国でも覚えのある魔法使いのアマミ・ノブユキなどもいる、日本側の魔法使いをフル活用する予定になるのは致し方ない事だ。
シャルクク・ディーバの子供達は日本語が話せて魔法使いでもあるために破格の条件で雇われた。当然の様に文字・記号・数字もできるのでその忙しさは大変なものだ。
◆
1月14日
総務省、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
これらから選ばれたエリートのキャリアとも呼ばれる人々が、この異世界を担当するための準備としてこの世界に来た。
日本でも有名な魔法使いの奄美信雪が護衛を担当する。
ちなみに沖縄県からの派遣人員は既に到着し、お役所仕事を行う最中だ。
この辺りは敵対勢力もない、特に害となるモンスターも居ない、ダンジョンの事を考えれば非常に安全な土地柄だ。
日本語・ガンゲイル語・ヴィエラ語の三つが話せるシャルクク一家の8名、奄美信雪の9名しかいないために、中央官僚でも護衛通訳を兼ねた信雪一人だ。
ただ官僚の殆どが見知らぬ人たちの為に杉原や篠原との自己紹介や信雪に紹介なども行い、名刺交換なども行って、信雪の今の肩書はアルバイト聞いてすぐに外務省が臨時講師の話を持ってきたが、他にも仕事があるのでと断られる。
ただ英語がここにはない為に、ここでの共通語はガンゲイル語が最上位だ。
日本語も今後の日本の活躍次第で変わることはよく考えられるル。
最低限の日本人の財産・人身の安全確保、これだけは絶対に確保しろと言われてきているのはよくわかる。何せ重要な地位にいるシャルクク一家も日本国籍があるからだ。
シャルククの肩書は多い、その中でも知識と力を司る魔法使いの組合長というのは大きいものだ。
要人警護の為に自衛官が二人付く、打ち合わせなども行うための時間もあるが、何度も言えることだが、非常に忙しい。
9名しかいない通訳に、日本側の自衛隊、役所の仕事、ヴィエラ側の政治・外交・交渉・防衛・産業・通商と幅広い通訳の仕事とに公式文や私文等の翻訳の仕事まである。
やることが余りに多いのだ。
CH-47Jに乗り込む。
盗賊などは居ないために別に陸路でもよいが、舗装されていない道の為に下手すると疲れてしまい、会場に着いた時にはぐったりと言った所だ。
草原の為になだらかな道だが、石や岩がごつごつとしておりあまり道路事情はよろしくないのだ。むしろ遠回りするのなら急によくなるのだが、そういう訳にもいかないのも事実だ。
「緊張しますか篠原さん」
防衛庁の役人でもある篠原は安全とはわかっていても、ここは全くの別世界という事は分かっているつもりだ。
「家に帰ったらまずは日本酒、夕飯はマグロの炙り、白米に味噌汁をセットに食べる」
「手配しますよ。ただ話の分からない方々ではないのです。どちらかといえば人の好い所が多すぎて困っているのが本音です。人が良いのも末端の兵士などですが、さすがに指揮官にもなれば頭を使いより利益を求める傾向にはありますが、交渉事で有利になる程度の事です」
「なら階級でいうのなら」
「末端兵士は人が良い、しかし勇敢、小隊長は人がまだ良い、しかも勇敢、交渉事を有利に進めるために頭を使う」
「なるほど」
「中隊長は人はまあまあ良い、勇敢とは言い難い、頭はよく使い、交渉事を上手く勧める為ならあくどい真似も行う」
「なるほど」
「大隊長は人が悪い、臆病と言え、頭をフルに使う、このランクから参謀を持つ」
「なるほど」
「連隊長は人がかなり悪い、臆病というより慎重、頭の好い者だけがなり、優れた人材の多くがこの地位にいる」
「なるほど、その連隊長の上は」
「連隊長の上は族長、人が普通で慎重で冷静な勇敢さも兼ね備えた感じながら、智勇仁備えた方ではあるものの、武に欠ける。謀に欠ける」
「つまり優れた政治家、もしくは智将肌の族長か」
「ちなみにかなりの美人な女性です」
「それは知っているが」
「年齢は60歳、人間でいう20歳です」
「若過ぎないか、それほどの英傑なのか」
「優れた知性をもってヴィエラの地を作るというほどの方です。少なくても味方なら大歓迎で手を結びたいですし、あの性格からして裏切るとはとても思いつかない」
「政治的には基盤は」
「かなり手堅くいく性格です。慎重さと勇敢さを履き違いない」
「敵は弱い方がいい、味方は強い方がいい、その女性はどちら」
「今の所はまずまずの敵です」
「敵?」
他の者達も興味を向ける。
「まず敵です。それは心得てください。それも謀略を好まない知性が非常に高い政治家」
「魔力があれは優秀な魔法使いになった?」
「ええ。かなりの非凡な方です。傍にいる者も油断ならない方々なのですが、その女性には従いますし、その結果人材の宝庫です。それに今では魔法使いの組合もありますし」
「つまり」
「はい。現在急成長中の一大勢力です」
「防衛に関してのことは」
「彼らヴィエラに対してはまずは日本との和平交渉を行う事から始め、脆弱な工業力しかないヴィエラに対してのライセンス契約の話です。かなり大きな話ですよ」
「我々が指導するか、悪くはない、ここでの生産拠点が必要なのは明白だ、しかし彼らが求めるものは随分と違うのではないのか」
「日本製品のライセンス生産、その為の資源に関係する交渉事、これらの資源調達のための交渉事」
「日本にヴィエラを肥やせか、日本製品の技術もただじゃないのだがな、その族長の利益は、工業力や資源だけかい」
「甘いです。ヴィエラに最も利益のある話は商売です。その商売の元になるのは自ら造幣することです。ヴィエラの族長は自らの手で造幣を行いヴィエラ経済を成長させ事です」
「なるほど、日本の製紙技術か」
「それが狙いです。あんまりこういうのもなんなですが、早く紙を作ってほしいのも民間人や役所ではありますよ」
「まだまだかかる」
「後ですが、ヴィエラの年齢にはご注意を、これは何処に行っても同じですが、ヴィエラは年齢を正確に癒えなければ黙る事という不文律があります」
「間違うと、どんなペナルティが」
「女性の場合は平手打ち、男性なら顔面を殴られます、それ程の失礼な事なのです」
「もう少し予備知識が欲しかったよ」
「無理です。何せ9名しかいませんから翻訳家も通訳も、他にもヴィエラ側からもし五度舞い込むので忙しいのに、医者が一日6時間は眠れという有り難い話を幻想するようですよ。疲れます」
「ごめん、これからもこき使う予定なんだ」
「まあこれぐらいです。忘れないでください、族長はまずまずの敵、日和見主義な所がありますから」
「言い換えれば僅かながらの味方か」
「ですが、あの女性の好みからすれば、敵として当たった方が好印象でしょう」
「ありがとう奄美」
「いえいえ」