ヤンデレと私
清潔感のある白いブラウスに深紅色のシフォンタイプのフレアスカート。
前世ではこんな可愛らしい服を持っていなかったし着ても似合わないが今はなかなか本当のお嬢さまみたいで様になっているような気がした。
決してナルシストではないので悪しからず。
私が呆然としている間に優秀なメイド達はあれよあれよと服を着替えさせその他諸々身支度を素早く済ませ、今はドレッサーの前で髪を整えていた。
腰まである髪を丁寧に櫛で解いてくれるのは気持ちが良くてまた夢の世界へ行ってしまいそうになる。
だめだ、寝てる場合ではない!
一体あの男に会って何を話せばいいのか、これ以上好感度を下げないために、殺されないためにはどうすればいいのか考えがまとまっていない。
なのにいつの間にか支度が終わったらしく只今客室へ足を運んでいます。
このまま、客室に着く前に大地震が起こるか某ホラーゲームのように美術館に迷い込んでしまいたい。あ、あのゲームにもヤンデレいたっけ。でも可愛い女の子だったら現実でもありだな。
なんてことを考えている間に客室に到着してメイドが扉を開ける。
仕方ない、なるようになるだろうと息を吸い込み客室の中へ足を踏み入れスカートの両裾を軽く持ち上げお辞儀をした。
「お久ぶりですわ、守様。こんな朝早くにいらっしゃるとは思わなくて驚きました。」
自分なりに笑顔を作ってみたはいいが絶対引きつって変な顔をしているだろう。
ゆっくり顔を上げ目の前にいる相手を見上げて一瞬息をのんでしまった。
漆黒の髪、中性的な輪郭と顔立ちはなんとも言えない神秘さがありサファイアのような濃い蒼の瞳は一目見たら目が離せなくなって固まってしまった。
スチルや立ち絵で見慣れているはずなのに何故だろう。
そんな私のことなど気にも留めないのか優雅に紅茶を飲んでいたヤンデレもとい雪村 守はカップをテーブルに置いて立ち上がりニコやかな笑顔で私の方に近づいてきたのでなんとかぎこちなく足を一歩後ろへ下げた。
「やぁ、久しぶりだね瑠璃香ちゃん。こんな朝早くにごめんね?帰国したら真っ先に君に会いたくて来ちゃった‥ん?どうかしたの?」
後ろに下がった私を不思議そうに首を傾げて尋ねたが何も言わない私をおかしく思ったようで怪訝そうに顔を顰めてさらに近づいて手を伸ばそうとしてきた。
あまり近づかないでっ。恐怖で身体がガクブル震えてるのがばれちゃうから!
どうしてメイドどころか招待した張本人のお母様がこの場に居ないのか。
あれですか、お見合いおばさんのようにお若い二人だけで仲良くしなさいな。みたいな感じですか。勘弁してください。
どうしよう、どんな会話をすれば穏便に事無きを得るのか。
ー力を貸して下さい神様仏様二次元の神様!
そう心の中で祈った瞬間、頭の中に3つの選択肢が浮かんだ。
1.あまりにも守様が素敵過ぎて見惚れてしまいましたの
2.申し訳ありません。まだ寝ぼけているみたいですわ
3.近づかないで、駆逐しますわよっ!
ちょっと、明らかに3はおかしいよね?
駆逐って‥物騒すぎるだろう!
無難なのは2だが‥でも3を選んだ時の彼の反応が気になってしまった。
これは前世の私の悪い癖で、これはないだろうという選択肢をついつい選んでしまうのだ。
お陰で自力でhappyエンドにたどり着けた試しがない。
一回だけ‥一回だけいいよね?
死よりも好奇心の方が勝ってしまった私は大馬鹿なのだろう。でも本当に一回だけだから!
『近づかないで、駆逐しますわよっ!』
そう叫べば彼はこれでもかという程目を見開いていた。心なしか震えているように見える。
もしかしてかなり怒ってるのだろうか。
それはそうだよね、駆逐するぞなんて言われて怒らない方が不思議だよね!
どうやら初っ端から選択肢を間違えてしまったようです。
神様、選択肢を表示するだけではなくロードとセーブ機能も追加してください。
今日は仕事が休みなのでもういくつかお話があげられそうです。