目覚め→リアル
椛が去って、数分後。日付が変わってすでに午前0時10分。オレ達は今日はもう、狩りを終えて解散することにした。
リターンを使用して、ゴブリン前線基地から一瞬でミロンの村へ。村の広場で輪になって別れの挨拶をそれぞれ告げる。
「ぬお。もう月曜か……ああああああああああ! うつだ。明日からまた仕事だ(°д°) 上司ブチ殺してええええ」
ヤマモトがうなった。社会人だったのか、こいつ。もう少し落ち着いてもらいたいものだ。
「ヤマちゃん、がんば^^b」
「早く寝ろ」
「あ~い。そんじゃ、プンちゃん、中尉おやすも~」
ヤマモトの姿はすぐに消えうせ、広場に残ったのはオレとプンだけになる。
「エルくん。ありがとねー! プン、今日だけでレベルが9も上がったよ!」
本来ならば10上がったはずなのだが、斬魔にPKされたお陰でプンのレベルは一つ下がってしまった。
「明日もよろしくね♪」
明日……いや、今日の事か。インするわけがないだろう。お前にはヤマモトという、頼りになる狩り友ができたんだ。
これ以上オレを……振り回すな。
「オレは、今日用事があってインできない」
「じゃあ、明日だね^^!」
「明日も用事がある」
「じゃあ、明後日^^」
「明後日も用事がある」
「明々後日も用事がある」
すると、急にプンから返事がなくなった。沈黙すること3分……。そのままログアウトしてやろうかと思ったが、不意にプンが何かしゃべりだした。
「ごめんね、ちょっとギルドチャットに夢中になってた」
オレの事は無視してギルメンと仲良くおしゃべりか。
「まあ、そういうことだから、しばらく忙しくてログインできないんだ。なんだったら、ギルメンに声掛けてみろよ? きっとお前の育成手伝ってくれるって」
「無理だよ」
「は? 無理ってことないだろう」
消極的な奴だな……。もう一言いってやるか。しかし、オレの言葉はプンの一言で遮られる。
「だって……プンのギルド……もうないから」
「え?」
「追放されちゃった^^; プンが斬魔って人に攻撃したから、それを理由に戦争を仕掛けるっていわれたらしいの」
あの時か……斬魔も確かにそんな事を言っていたな。
「だから、戦争を起こさないためにプンを追放するんだって。しょうがないよね。みんなに迷惑かけたくないし。プンが抜けてみんなが喜ぶんだったら、しょうがないよね」
あの斬魔がそれくらいで引き下がるとは思えないが……これが、今の灰色の狼のやりかたか。変わったんだな。
「だからね、プン、もう一人だよ。でも、エルくんがいるから平気^O^」
厄介な事になった。狩り友ができたとはいえ、ヤマモトは社会人だ。そうなれば、学生であるオレ達よりもインする時間は短いし、平日は夜くらいだろう。
となれば、同じ学生であるオレを頼ってくる頻度が非常に高い。ギルドすら抜けてしまったプンに、もはや知り合いというのはオレかヤマモトだけだ。
オレは一人がいいのに……。このままでは、プンが40レベルになるのが遠ざかってしまう。他にも狩り友が必要だ。
くそ……仕方がない。もう少し付き合ってやるか。
「プン」
「?」
「明日の予定なんだけどな、オレの見間違いだった。明日はなんとかインできそうだ」
「やったあ≧ω≦」
ほんの少しだけ……だけどな。目下の目標は、こいつに狩り友を作ること。オレがいなくても、一人で野良のパーティーに行ったり、ソロできるだけのプレイヤースキルを身につけてもらう。
問題山積みだな……。
「じゃあ、寝るな。プン、お前もさっさと寝ろよ、遅刻するぞ」
「おやすみ、エルくん^^」
オレは、ログアウトした。
PCの電源を落とし、ベッドの上に頭から突っ伏する。すると突然眠気が襲い掛かってきた。
……風呂は朝起きたら入ろう。
それにしても、厄介なことになったな。punpun321……リアルはどんな奴なのだろうか?
一度、顔を拝んでみたいものだ。
そんなことを考えているうちに……オレの意識は闇の中へと沈んでいった。
*****
眠い。これは相当に眠い。昨日、夜遅くまでゲームをしすぎたせいか……。
学校の自席で、俺は何度もあくびをかみ殺した。なんとか遅刻せずに済んだものの眠気が何度も俺を襲ってくる。
季節は9月。夏休みが終わって、今だ休み気分が抜けきらないクラスメイト達は、朝から元気いっぱいでうるさい。少しその元気を分けていただきたいもんだ。
と、まどろみながらそんな事を考えていると、チャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。
朝の挨拶と、連絡事項の確認。ホームルームも終わり去っていくのかと思いきや、唐突に教室の扉を開けて、外に向かって手招きをしている。何だろうか?
クラスメイト達は皆、扉に注目する。そして、そこから一人の女子生徒が顔を出す。
同時に、クラスの男子生徒どもは、歓声をあげる。もちろん、俺もだが。
ゲームで例えるなら……カオス・クロニクルで例えるなら、エルフ。涼しげな眼差しと、柔らかいシルクの様な肩甲骨あたりまで伸びた髪。チェリーピンクの唇から紡ぎ出されるのは、どのような声なのか。
日本人形の様な美しい顔。胸も……適度に大きい。美少女だった。
「えっと……相羽 真理奈です。親の仕事の都合でこの近くに越してきました。転校してまだ右も左も解らないので、助けていただけると嬉しいです」
転校生……相羽 真理奈。担任からの紹介と自己紹介を終えると、彼女はそよ風のように優しい歩調で歩き、指定された席へ……俺の右隣へ舞い降りた。
「よろしくね」
柔らかい微笑み。微かに漂う石鹸の香りが鼻腔をつき抜ける。まるで、夢を見ているようだった。
「あ、俺。渡辺 翔。これからよろしく」




