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気になるあの子からお誘い

 片手で四苦八苦しながらもなんとか着替えを終えた俺は、朝日がまぶしく輝く道路に出た。


 週明けの登校ほどだるいものはない。早く週末にならないかなー。なんてことを考えながら電車に揺られて、駅に着くと通学路をひたすら歩き出す。


 歩きつつも、今日の授業を1時間目から思い出してみた。そういや今日、体育があったっけ。お?


 今俺、骨折してるから、体育をさぼれるじゃないか。ラッキー。骨折も悪いことばかりじゃないな。


「三上さん参上!」


「うを!?」


 いきなり背中に攻撃を受けた。ダメージ的には、1か0に等しいくらいに軽い。


「だーれだ!? ヒント、美少女です」


 さらにそこから、俺の視界が闇に落ちる。これでは、物理命中率が0になる。――って俺はゲーム脳か。ていうか、自分で美少女と言うか、三上さん。まあ、実際美少女だから異論はまったくないけど。


「三上さん、おはよう」


「あれ、どうして三上さんだと解ったの!? さては渡辺くん、後に目でも付いてるの?」


「いや、最初に三上さん参上! って自分で言ったじゃん」


 後に目が付いていると言えば、カオス・クロニクルにデーモン系のMOBにそんなのがいたな。


「ああ、そうだっけ? 細かいなー渡辺くんはー。男がそんな細かいこと気にしたら、勝負に負けるよ?」


「何の勝負に負けるのさ。ていうか、そろそろ目隠しやめてもらいたいんだけど」


 俺がそう言うのと同時、視界が開けて目の前に制服姿の三上さんが現れた。


 健康的な生足がスカートの下からのぞいている。……たまらんな。


 いや、俺は相羽 真理奈一筋だけど。しかし……たまらんな。


「やっほー。渡辺くん! ってあれ。なんか腕が変だよ? もしかして、渡辺くんに封印されていた力が目覚めて、それを封印しているのかな、その包帯は!? ちなみに能力名は何!? 解った、魔犬の牙(ケルベロスファング)でしょ!」


「うん、そうなんだ。土曜日に煉獄の軍勢が我が家を襲ってきてね、俺は妹を助けるためにやむなく、左手の封印を解いて立ち向かったんだけど、その代償として、三日に一度、人の生き血を飲まなければいけない体になってしまったんだよ」


 俺は悔しそうな顔をすると、左手を抱え込んでうずくまった。ていうか、三上さんのセンスは何だ? 魔犬の牙(ケルベロスファング)って……。


 かっこよすぎるだろ、それ。


「そんな裏設定があったなんて……衝撃!」


 三上さんは超が付くオーバーリアクションで、跳ねあがった。しかし、これを本気にされても困る。何気に注目集めてるし。


「いや、ウソだけどね」


 ちょっと悪ノリしすぎたかな。三上さんとはどうもこういうバカな話にウマが合うというか、ついつい乗せられちゃうんだよな。


「送信、っと。みんなが聞いたら、きっと驚くよ!」


「え? ちょ、ちょっと!?」


 もしかして、三上ネットワーク!? 俺は……封印された左手の男、2つ名は魔犬の牙(ケルベロスファング)として、学校中の笑いものにされる!?


「冗談! 話し振ったのは三上さんのほうなんだし、渡辺くん相手にそんなことしないってー! それに、渡辺くんケガ人だし、それ骨折でしょ?」


「そっか……よかった……かなりマジで」


「それじゃ、体育会系女子な三上さんは、これで失礼! 出前迅速、30分前集合がモットーなので!」


 三上さんは敬礼すると、俺に背中を見せて朝日の中を駆け出していった。朝から騒がしい人だな。ま、その騒がしい所が彼女の最大の魅力なんだけど、それにちゃんと空気を読める子だから、人の輪の中心にいるんだろうな。


「よー、ナベ! ん? どうしたその腕? まさか、封印されていた力が目覚めたのか!?」


 いきなりやってきたのは級友稲田だった。


「アホかお前は。んなわけーねーだろが!」


 こいつ相手にバカな話はできん。俺まで同レベルだと思われたら厄介だ。


「ていうか、何かお前の顔……久しぶりに見た気がするな」


「え? 先週の金曜に会ったじゃんかよ」


「いや、気のせいだ……忘れてくれ」


 くそう。稲田じゃなくて、相羽さんに会いたかった。昨日炸裂した専用挨拶を皮切りに、どんどんかましてやろうと思ったのに。


「そうだ、ナベ。昨日さー俺、名店発見しちゃったんだよー」


「何だ? プレミア物のエロゲーを扱ってる店でも見つけたか?」


 こいつの行動原理は、食う寝る遊ぶエロゲーだからな。


「違うな。美人のお姉さんが働いているハンバーガー屋を見つけたのさ。味は保証できんが、あの攻撃的でクールな瞳に見つめられたら、お前も逝っちまうぜ?」


「逝きたかねーよ」


「ち。せっかくナベにおごらせようと思ったのに……」


「それが目的かよ、まったくお前って奴は……でも、ま。皆でどっか行くのはいいかもな」


 相羽さんを誘って今度こそ二人っきりになって……。そして、想いを打ち明けるんだ。相羽真理奈専用挨拶と、共に!


 ……中間が終わってからだけど。


「そういや稲田、お前。今度の中間自信ある?」


「ああ、自信あるぜ」


「何?」


「赤点を取る自信がな!」


「ああ、そう。だよね、お前は我が校が誇る赤点王だもんな。応援してるぜ、華々しく散ってくれ」


「照れるぜ、親友。見てな、俺が赤点の何たるかを見せてやる。だからお前も一緒に地獄に落ちようぜ!」


「やだよ、かっこ悪い」


「俺たち親友だろ!? そんな連れないこと言うなよ! 一緒に恥かかこうぜ!」


「バカめ。テスト期間は、親友ではない! その瞬間、俺達は……ライバルだ」


「いいぜ。そっちがその気なら……俺もやってやるさ。どっちが多く赤点を取るか……勝負だ」


「ああ、いいぜ」


「負けたほうがバーガーをおごる! どうだ?」


「へ。まるでお前がバーガーをおごる様が目に浮ぶようだ。楽しみだな、中間」


「ああ、俺の真骨頂を見せてやる。よし、そうと決まれば帰ったらエロゲーして遊ぼうっと。じゃあ、俺は先に逝くぜ、あばよ親友」


 まあ、俺は真剣に勉強するけどな。1人で地獄に落ちるがいい、稲田よ。


「渡辺くん」


「ん?」


 この小鳥のさえずりのような声。優しいせっけんの香り。……天使(相羽さん)だ。


「おはよう、相羽さん!」


 先手必勝。連続で決めてやるぜ、専用挨拶を!


「お、おはよう……」


 だが、相羽さんはうつむいたままで、俺と目を合わせてくれなかった。やはり……昨日のことをまだ怒っているんだ。くそう。どうすれば……。


「あの、そういえば、その。テスト……大丈夫?」


「テスト!? やめてお願い。俺、今だけはその単語忘れたいの!」


「……やっぱり、勉強……していないんだ?」


「……うん」


 ああ、終わったな俺。相羽さんはうつむいたままで、何を考えているかは解らないけど、むっつりスケベでおばかで勉強も出来ない渡辺くんなんか、視界に入らないで! って考えてるんだろうなあ。


「じゃあ、お勉強会、しない? 三上さんと3人で。解らないところがあったら、私が教えてあげるから」


「え? いいの?」


「う、うん」


「ぜひに! お願いします! 相羽様! この渡辺 翔、槍が降ろうが、地球が終わろうが、日本経済が破綻しようが! 必ず参ります!」


 俺は勢い余って、その場で土下座した。これぞ、渡辺家に伝わる秘奥義。


 この土下座の起源は、俺のじいさんのじいさんが、俺のばあさんのばあさんに浮気がバレて、それを謝るときに使用したという、どうでもいい歴史があるのだ。いや、ウソだけどね。


「ちょっと、やめてよこんな所で! 早く顔上げて。日本経済が破綻しても困るけど」


 相羽さんは顔を真っ赤にして、俺を見下ろしている。少しハメを外しすぎたか。


「えっと。それじゃあ、詳細決まったらメール送るから……私、行くね!」


「え、あ。ちょっと!」


 相羽さんは顔を真っ赤にして駆け出していった。えらく真っ赤だったな。


 風邪でも引いたんだろうか?

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