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椛、舞う

 ヴァンガード。確か英語で前衛っていう意味だったと思う。


 このスキルが神スキルである理由は、フェイブの特性と関係している。これまで何度も触れてきたようにフェイブは他種族よりも飛びぬけた攻撃力を持っている。


 それは、近接物理職で一番攻撃力の低いナイトですら、他種族のウォーリア以上の攻撃力を持つ。


 しかし、最大の弱点が打たれ弱さだろう。それを克服するのがヴァンガードである。


 ヴァンガードは、スキルを使用したプレイヤーの攻撃力と防御力を入れ替えるスキルなのだ。


 仮に攻撃力2300 防御力 560なら、それが攻撃力560 防御力 2300となる。


 このスキルはトグル型……ようするにスイッチのように、オン・オフする事が出来るもので、リアルタイムに使用することができる。


 椛はこれを絶妙なタイミングで、攻撃の瞬間にオフにし、防御の瞬間オンにすることができる。はっきり言ってかなり面倒というか、細かい作業であったりする。


 そのお陰か、1年前から『トーナメント』で勝ち続けており、現在ではナンバー1の地位にいる。


 その椛が……目の前にいる。


 何故ここにいるのか? 理由は簡単だ。斬魔がプレイヤーを狩るPKなのに対して、椛はPKを狩るPKKなのだ。


 おそらく、この辺りに網でも張っていたのかもしれない。斬魔に対して個人的な恨みを持つものは少なくないので、斬魔を見かけたという情報を誰かが椛に流した可能性がある。


 不意に斬魔が動いた。ヤマモトの時と同じ様に姿を消し、椛の前に現れる。椛はすぐさまヴァンガードを展開。嵐のような斬撃を大剣で受け止める。


 椛はナイトでありながら、盾を持たない。その代わりに武器の中で一番攻撃力の高い、大剣を装備している。これは、ヴァンガードの恩恵を大きくするためだろう。


 オレは二人が戦っている間に、プンに神秘の復活薬を渡して、蘇生してもらうと、すぐにヤマモトにリザレクションをかけた。


 再び視線を彼らの戦いへと移す。斬魔が押されている。ヴァンガード状態の椛に傷を付けるのはそう容易いことではない。あとは時間の問題だろう。


 再び斬魔が消える。椛は不意打ちに備える。しかし、5秒経っても10秒経っても奴の姿は現れない。


「あ! エルくん下見て!」


 プンの言うとおり、崖の下を見ると逃走中の斬魔の後姿があった。……逃げたか。


「プン、ちょっとあの人にお礼言ってくるね^^」


 プンは戦いが終わり、大剣を背中に背負い、戦闘状態を解除した椛に駆け寄った。


「助けてくださってありがとうごじあます」


 早速、打ち間違えたらしい。


「いえ、別に。PKを潰すのが趣味なんでね」


 椛は素っ気無くそう答える。


「強いんですね、ビックリしちゃいました@@w」


「俺なんか……大したことないですよ。カインさんに比べたら……」 


「カインさん(?_?)」


「ああ、初心者の人ですか? なら知らないのも当然ですかね。カインさんは、一年前までこのサーバー最強のナイトだった人です。俺も初心者だった頃、色々お世話になったっけ」


「へえ、その人。今はどうしてるんですか??」


「一年前くらいに……ちょっと事件があってね。それが原因で突然誰にも言わずに引退しちゃったんですよ。今はどうしているのか……」


 椛は、背中を向けこの場を去ってゆく。


「斬魔がまた別の狩り場に現れたようなので、行きます。狩り……頑張って下さい。それでは」


 次の瞬間、椛の姿はそこには無かった。


「あの人、すっごく強かったね@@w プンもあんな風になりたいなあ~><」


「ぬを。プンちゃんの好意がさっきのフェブ男に向かっている!? 許すまじ、あの男め!」


 ヤマモトのほうも、落ち着いたらしい。目の前で椛が仇を討ってくれたこともあるのだろう。……逃がしてしまったが。


「あれれ。そういえば、エルくんって椛さんと知り合いだったの? 椛さんの事、詳しかったみたいだし@@」


「別に。このサーバー最強のナイトの情報くらい、ベテランならみんな知ってるさ。椛はPKKとしても有名だしな」


「ふーん、そうなんだあ。。」


 椛が消えた方向へとカメラを向ける。


 ふと、思い出す。あの日、オレの前で装備も何も付けず、スキルの使い方をまったく知らずに狩をしていた、一人の初心者プレイヤーの事を。


 ……強くなったんだな、椛。

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