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目の前でリア充全開バカップルが誕生した瞬間

「潤くん、あたし。今日! 本当にごめんなさい! ……もう遅いかもしれないけど、でも。謝りたいの……」


「え、愛紗ちゃん?」


「ごめんなさい! ……もう、だめだよね。約束を裏切る子なんて、嫌われて当然だよね。でも、あたし! 潤くんに嫌われたら……生きていけないよ……それなら、死んだほうがマシだよ……」


「え!?」


 潤は何が何だか解らないといった具合に立ち尽くしていた。


 愛紗は頭を下げたまま、動かない。


「顔を上げて、愛紗ちゃん。愛紗ちゃんは何も悪くないよ。約束をすっぽかされたからって、そんなことでぼく怒ったりしないし……ぼくのほうこそ、愛紗ちゃんに嫌われちゃったのかと思った。だって、ぼく……ぜんぜん頼りないし。男らしくないし……こんなぼくに愛想が尽きてもしょうがないよね」


「潤くん……違うよ! 悪いのはあたしなの! あたしが全て悪いの!!」


「違うよ、悪いのはぼくなんだ。愛紗ちゃんは何も悪くない。愛紗ちゃんを苦しめたぼくが、全部悪いんだ」


「違う! 悪いのは全てあたしなの! あたしが潤くんを苦しめたから、苦しむべきはあたしなのに!」


「それは違う! すべての元凶はこのぼくだ。ぼくが愛紗ちゃんに出会ってしまったばっかりに……愛紗ちゃんを傷付けてしまった。そう、ぼくなんかこの世に生まれてこなければよかったんだ!」


「それは絶対に違う! 悪いのはあたし! 潤くんを苦しめたあたしが生まれてこなければ!」


「悪いのはぼくなんだ! 愛紗ちゃんのわからずや!」


「こっちが悪いって言ってるの! 潤くんのバカ! 怒った顔もステキだけど、やっぱりバカ!」


「それを言うなら! 愛紗ちゃんもバカだよ! 怒った顔も可愛いけど、やっぱりバカ!」


「バカ!」


「バカ!」


「……ステキ」


「……可愛い」


 ――そろそろ止めるか。何気にラブシーン始まりそうだしな。中学生の男女は健全な付き合いをせねばならん!


「おいコラ、お前達! 悪いのは全て俺だ。俺が昨日、交通事故にあって愛紗を病院に付き添わせたから、潤は今日愛紗に会えなかったんだ! だからお前らもうやめろ! 何気に見ていてこっちが恥ずかしくなってきた」


 潤と愛紗が振り返って俺を見た。


「あれ? 渡辺さん、まだいたんですか?」


「バカ翔いたの? そこ邪魔なんだけど?」


「いたわ! お前らひどいよ。俺、ずっと見守ってたのに……うう」


 存在をまるごと忘れられていただなんて……精神的ダメージがでかい。こいつら、本当に2人だけの世界に入ってたな。


「あれ? 渡辺さん、そのケガ……もしかして、バナナの皮で足でも滑らせたんですか? よくありますよね。ぼくも、お姉ちゃんが食べ終わったバナナの皮で足を滑らせるんですよ、あはは」


 屈託のない笑顔で潤は俺の左腕を指差した。


「滑らねーよ! 昭和のギャグか! お前は何で滑るんだ! 滑ったくらいでこんな大ケガするか、ボケ!」


 潤に詰め寄り、左腕を見せ付ける。すると、急に愛紗が俺と潤の間に割り込んできて、俺を睨み付けて来た。


「ちょっとお。あたしの大事な潤くんに、ボケとは何よボケとは! ボケはあんたでしょ! ボケバカアホ翔!」


「ボケバカアホ翔とかいうな、お兄ちゃんに向って! ボケとバカとアホのトリプルパンチはダメージでかいぞ!」


「何よ、やるっていうの!?」


「今日くらい、しおらしく可愛い妹やってりゃ、俺も黙ってたんだがな……兄をバカにするとは許せん!」


 俺は右腕を上げ、戦闘態勢に入った。


「やめてください!」


 今度は潤が俺と愛紗の間に割り込んできて、通せんぼするように両手を大きく広げた。そして、顔を後ろに向けて、愛紗に微笑む。


「大丈夫。愛紗ちゃんは、ぼくが守るから。ぼくは、愛紗ちゃんのためなら……死んでもいい」


「潤くん……! 潤くん! 大好き! 潤くん!!」


「愛紗ちゃん!?」


 愛紗は顔を熟したトマトのように真っ赤にすると、潤に背中から抱きついた。


 潤もまた、熟したリンゴのように真っ赤になって、爆発する。


 完熟トマトと完熟リンゴが目の前に2つ。微動だにしない。やがて、最初に静寂を破ったのは完熟リンゴだった。


「ぼくも……ずっと、愛紗ちゃんのこと、す、す、す、す、好きだったよ!」


「潤くん!」


「愛紗ちゃん!」


 潤は振り返り、愛紗の手を取ると2人は見詰め合った。


「愛紗ちゃん、ぼく……ぼく、愛紗ちゃんが好きだ!」


「潤くん! あたしも、あたしも潤くんが好き!」


 急に2人の周りに甘ったるい空気が立ち込めてくる。なんだか、そこだけ別世界のようだ。なんだ、これ。


 抱きしめ合う潤と愛紗。俺は完全に置いてけぼりだ。


「愛紗ちゃん。ぼく、君さえいれば他に何もいらない! 3時のおやつも、月9も!」


「あたしも。潤くんが好きでいてくれるなら、他に何も望まない! イケてる服も、肉も!」


「愛紗ちゃん!」


「潤くん!」


「えっと……」


 俺が立ち入る隙はそこにない。バカップルが誕生した瞬間であった。


「許せん……俺の娘に手を出すとは……くびり殺してくれる……あの小僧」


「オヤジ!?」


 背後に強烈な負の感情を察知すると、俺のすぐ後ろにオヤジが闇属性ばりばりのオーラを放っていた。そして、手には包丁を持って、憎悪に歪んだ瞳で潤を見ている。


「そこの美少年! 俺の娘に貴様が相応しいかどうか、試してやる! 愛紗が欲しければ、この俺を倒して見せよ!!」


「お父さん、ウザい。あとその顔、かなりキモイからどっか行って!」


「ウザ!? キモ!? うわーん! 翔、愛紗が俺のことウザキモいって言ったー!!」


「潤く~ん、えへへへ」


「愛紗ちゃん、あははは」


 2人の世界の前に、オヤジは成す術がなかった。俺は泣きついてきたオヤジの頭をさすると、ちくわを一本与えて、慰めた。


 まあ、何はともあれ、よかったな愛紗。仲直り……どころか、想いが伝わって。


「潤くん……」


「愛紗ちゃん……」


 ……いい加減うざいけど。

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