人間の価値は中身! すなわち、心だよ
「ごめんなさい、人違いだったみたい!」
顔から火が出る思いだった。目の前に穴があったら入りたい。……うう。
私のイメージが……三上ネットワークで今のが拡散しなければいいんだけど。
「な~んだ。よかったよかった。間違いだったんだー。ほー」
三上さんは安堵した様子で肩を落とした。
「あ! でも、どうして三上さんが私の家に? 別に電話かメールでもいいのに」
私はごまかすように話を切り出し、三上さんの目を見る。すると、三上さんは気持ちのいい笑顔で背筋を伸ばし、敬礼した。
「えへへ。実はね、マリーにちょっとお願いがあって……電話よりも、直接マリーの目を見て話たかったの。と、いうわけで! この三上 葵、日曜午後1時、自宅より大地を蹴り、風を切って馳せ参上仕りました! 思い立ったが吉日! 行動あるのみ! 三上さんはどこまでも加速しますよ~!」
三上さんは体育会系な女の子だ。ちょっと暑苦しいところもあるけど、それがこの子のチャームポイントでもある。
私もけっこうこの子のノリは好き。明るくて可愛いから、男子だけじゃなくて女子からも人気があるのも頷ける。
「お願い? 三上さんが……珍しいね」
「真剣なハナシなの」
途端に三上さんは顔を桜色に染めてうつむくと、普段の彼女からは考えられないほどの小さな声で呟き始める。
「あの、ね。その、えーと。ね? 今度のテストの事なんだけど……」
テストか。どこか解らないところでもあるのかな。三上さんは勉強もできる子だから、私に教えてくれと頼んでくるとは思えない。
教えてあげるとしたら、渡辺くんだろうなあ。なんだか、放っておいたら危ない気がする。留年とかしちゃいそう。
「もしかして、テスト範囲で何か解らないところでもあるの?」
「あ! ううん。そうじゃないの。でも……」
「なあに?」
「その、お勉強会。しない? テストの」
「なんだ、それなら別にいいよ。私もちょっと数学で解らないところあったんだ。三上さん、数学得意でしょ?」
「う、うん。それで、その……渡辺くんも、どうかなって」
「渡辺くんも? 別に……いいけど」
「やった! マリー、大好き!」
三上さんは思い切り私に抱きついてきた。突然の出来事に私は戸惑う。
「マリー柔らか~い。すりすり」
「あの。ちょっと、三上さん? は、離れて……」
私はなんとか三上さんを引き剥がしたけど、三上さんは物欲しそうな目を向けて私を見ていた。
「マリーのけち。もうちょっとくらいいいじゃない」
「だめです」
「あ、あとね。もう一つ、お願い……。お勉強会の話、できればマリーの提案っていうことにしてくれないかな? 渡辺くんにも、マリーから声をかけてくれたら、すっごく嬉しいな……」
「え? まあいいけど」
ははあ。三上さん、渡辺くんとプライベートで会う口実が欲しかったのか。間に私というワンクッションを置いてまで……。まあ、しっかりした三上さんとふらふらした渡辺くんなら、お似合いかも。
2人の間を取り持ってあげて、私が恋のキューピッドになるのも悪くない。でも、三上さん苦労するだろうなあ。毎日あのヘンな挨拶が飛んでくるんだもん。
「いいよ。三上さんと渡辺くんなら、お似合いだと思うし。私にできることがあるなら、どんな協力でもするから」
「やだ、マリーってば。お似合いだなんて……」
「そういえば、気になってたんだけど……渡辺くんのどこがいいの?」
「もちろん! 優しいところ! 人間の価値は中身! すなわち、心だよ、マリー!」
体育会だなあ、三上さん。でも、渡辺くんの優しいところ、か。潤のこともかなりお世話になってるし、確かに渡辺くんは優しい。
昨日もP子の修理に付き合ってくれたし、お昼ご飯もおごってくれたし……。
渡辺くん、か……。
「じゃあじゃあ、そういう事で! 勉強会の件、よろしくね、マリー! 渡辺君の電話番号とメルアド、メールで送っておくから!」
「あ、うん」
私が返事をする前に、三上さんは爽やかな風のように駆けて行った。
よし。数少ない友達のお願いだ。聞いてあげよう。
私はスカートのポケットから携帯を取り出すと、メールをチェックしてみた。すると、すでに三上さんから渡辺くんの電話番号とメルアドが記載されたメールが着ている。
「これが、渡辺くんの番号か……。ふうん……」
登録は後でいいや。とにかく、渡辺くんに電話してみよう。
潤の言うとおり、彼に何かあったのならこの電話で解る。
電話番号をクリックして、そのまま通話画面へ。そして、何回かのコールの後、ようやく出てくれた。
『はい?』
聞こえてきたのは、女性……いや、女の子の声。番号間違えたのかな。
「あの、渡辺 翔くんの携帯電話でよろしかったでしょうか?」
『あ、そうです。兄は今、外しておりまして。私、妹の愛紗です』
――愛紗。
次回は9月5日0時更新です。




