PK襲来
PKとは、PlayerKillerの略称である。名の如くプレイヤーを殺すプレイヤー……PlayerVSPlayerのPVPとは違う。
高レベルプレイヤーの一方的な虐殺を差す場合が多い。
特にこの『斬魔』というPKは、1年前からずっと活動を続けている有名なPKだ。
種族はダークエルフ。職業はローグで、レベルは60代後半。武器はデュアルダガー……両手に装備した二振りの短剣だ。一撃の威力は低いものの、攻撃速度とダガーによる必殺のスキル『デュアルスタッブ』は高いHPを誇るオークでも、一撃で戦闘不能にする事が出来る。
また、短時間だが姿を消すスキルもあり、気が付くと地面に転がっているなんてこともある。
強敵だ。
それも、『斬魔』はPKギルドのギルドマスターで、うかつにPKKをしようものなら、そいつの所属しているギルドに前面戦争を仕掛けてくる。
畜生……人が席を離れている間にPKとは……。
オレの頭には、先ほど淹れたコーヒーよりも熱く煮えたぎった血液が駆け巡っていた。
……いや……落ち着け。確か持ち物の中には完全に経験値を復旧させる『神秘の復活薬』があったはずだ。プン達にこれを使って蘇生してもらえれば、減った経験値は取り戻せる。
とにかく今は……プンとヤマモトを早くログアウトさせるか、村に帰還してもらうしかない。
「おい、プン! ヤマモト! 早くログアウトしろ!」
しかし返事は無い。まだ席を離れたままらしい。どうする……?
「たっだいまー\^^/」
プンが能天気にも今帰ってきたらしい。
「あれ? エルくん何してるの?」
「バカ! PKされたんだよ、一旦ログアウトしろ! もたもたしてるとお前もやられるぞ!」
『わかった^^』。そのプンのセリフが画面に表示されたのと同時、短い悲鳴がして、プンは地面に横たわった。
その後ろに立っていたのは、漆黒の塊。全身を黒いレザーアーマーに身を包み、黒い長髪を風になびかせ、褐色の肌の男が右手の短剣を構え、静かに立っていた。
斬魔だ。
そして、すぐに掛け声とともに画面から消えてしまう。姿を隠し、一撃で仕留める……ヒットアンドアウェイの戦法を得意とするダークエルフローグらしい殺し方だ。
「ヤマモト! いるならすぐにログアウトしろ!」
しかし、ヤマモトからの返事は無い。このままでは、全滅だ。
「ぬを。何ぞこれ!?」
「PKだ。早くログアウトしろ。20分後にまたログインしてくれ。その頃にはあいつもここを離れているはずだから」
「わかった。ぼくちんがPKKしちゃる! プンちゃんをこんなけしからん格好にしたPKは許せん! ハアハア」
「やめろって! 相手はレベル60代のダークエルフローグだぞ! 生き残ってるのはお前だけなんだ! 神秘の復活薬を渡すからこれでオレを蘇生して――」
しかし、ヤマモトはオレの言葉を聞かずに飛び出していった。バカな事を……敵うはずがないのに。
ヤマモトが走っていた背後に、忽然と姿を表した斬魔。ヤツの体が光を放ち、足元に光が渦巻く。スキルが発動したのだ。
『デュアルスタッブ』が。
しかし、スキルは失敗してしまったらしく、ヤマモトのHPは1ミリも減っていない。ヤマモトはそれを実力差と勘違いしたのか、振り向くと大剣を頭上高く掲げ、それを一気に斬魔へと振り下ろした。
だがしかし、その攻撃は虚しく空を斬る。今度は横からの一薙ぎ。それも軽くかわされてしまう。
斬魔が消える。とっさにヤマモトは背後に振り返りデュアルスタッブの一撃に備えようとする。しかし――斬魔が姿を現したのは、ヤマモトの背後。
つまり、もともとヤマモトの正面に出るつもりでいたのだ。
斬魔がヤマモトに攻撃を仕掛ける。スキルではなく、通常攻撃に切り替えたらしい。獣が吼えるような、双剣による連撃。息を付く暇すら与えない。
しかし、ヤマモトはそれに耐える。まったくHPが減っていない。……減っていない?
注意深く斬魔の両手を見てみる。ヤマモトのHPが減らない理由がすぐに解った。
素手だったのだ。斬魔は、最後に残ったヤマモトをすぐにPKしようともせず、遊んでいるのだ。
「てめえ! ふざけんじゃねえぞ!」
激昂したヤマモト。通常のチャットではなく、エリア一帯に響き渡る、シャウトでそう叫ぶ。
なおも素手で殴り続ける斬魔。ヤマモトはその斬魔を攻撃しようとするが一向に当たる気配を見せない。
当然だ。40近いレベル差に加え、オークの命中率とダークエルフの回避率。分が悪い所の話では無い。相手が悪すぎる。
「「「オレがガ○ダムだ!!!!」」」
ヤマモトのスキルが斬魔に襲い掛かる。奇跡的な確率で命中したその一撃は、斬魔にとっても予想外のことだったらしい。
急に素手で殴るのをやめると、双剣を装備して音も無く消える。
そして次の瞬間にはヤマモトの大きな体が崩れた。
「キモオタザマアwww テラワロスwww」
斬魔がソーシャルで笑う。そして、シャウトでそう言った。
「ちくしょう……」
ヤマモトはそう呟く。完全に遊ばれた上に瞬殺された。だから……やめろと言ったのに……。
斬魔はすぐにここを去ろうとはせず、不意にヤマモトへと向かって歩き出した。
そして、ヤマモトの死体の前に立つと、その上に座り込んだ。さらに、ガラクタやゴミアイテムをヤマモトの周りにバラ巻いて、周囲を埋め尽くす。
「ここは緑のゴミ箱。あーくっさ。ゴミはゴミ箱に捨てちゃう俺様SUGEEE」
「くそ」
PKは……最悪だ。オレも今は手も足も出ない。……不意打ちでなくとも、オレだって一撃でPKされてしまうだろう。
せっかく積み上げた経験値も、狩り友と過ごした楽しい時間も……こいつらは平然と踏みにじって、その上に唾を吐きかけて嘲笑う。
オレの視線はリスタートボタンに注がれていた。エルトでは勝てない。けれど……あいつなら……。『本当のオレ』なら……こんなヤツ、簡単に……。
リスタートボタンにカーソルを合わせた時。白い小柄な少女が、斬魔の背後に立っていた。
誰だ?
「ヤマちゃんをこれ以上いじめるな><」
プンだった。
隣を見ると……戦闘不能で横たわっていたはずのプンがいない。まさか、こいつ……蘇生を……経験値の復旧をあきらめて、村に戻ったあと再びここに……戻ってきたのか。
「www」
プンが斬魔にしかける。しかし、当たらない。
「フェイブってwww ちょwおまwww」
斬魔は依然座ったままである、それでも攻撃が当たらない。だが、プンはそれでも無意味な攻撃を繰り返す。
「ネタやんwww しかも、灰色の狼って。これは戦争やなwww」
斬魔はやれやれと言った感じで、起き上がると姿を唐突に消した。
ダメだ。早く逃げろプン。お前の安っぽい友情だか正義感で立ち向かっても、どうしようもないんだ。だから、もうやめろ。
そして、再び姿を現した斬魔。
プンは背後を取られて――。
斬魔が吹き飛んだ。
吹き飛んだのだ。
斬魔の背後にいた、銀髪の白い素肌をした赤い目の青年に。
フェイブナイト。フェイブナイトの青年である。
「@@?」
プンは何が起こったか理解できず、その場に立ち尽くす。
斬魔が体勢を立て直し、フェイブナイトの青年の姿を認めると、ターゲットを変更し、そちらに向かう。
フェイブナイトの青年も、斬魔に向かって走り出した。
……ムダなことだ。
あいつには、勝てない。
フェイブナイトの青年はヤマモト以上に巨大で凶悪そうな剣を構える。
斬魔は、馬鹿の一つ覚えのように姿を消して、青年の背後へと回り込もうとする。
フェイブナイトの青年の足元に光の渦が巻き起こり、それが体全体に行き渡る。
そして、その刹那に姿を現した斬魔が間髪入れずにデュアルスタッブを叩き込んだ。
しかし、青年には何のダメージもない。ヤマモトの時のようにスキルが不発したわけではない。確かに命中していた。
だから、斬魔はあいつには、勝てない。
「プン。よく見ておけよ……あれが、このサーバーで最強のナイト……フェイブナイトの椛だ。そしてあれが、60レベルで覚えるフェイブナイトの神スキル、ヴァンガード……」




