ピリ辛直火炒め高菜炒飯
ゴッドキラーも買って、共有倉庫経由でカインに送っておいた。おかげでほぼ財産を使い果たしたけど、これで攻撃力は本職のアタッカー並になるだろう。
早々遅れはとらない。
これ以上ヤマモト達を傷付けさせはしない。心に付けられた傷は、ヒールライトでは治らないのだから。
MMOはもう一つのリアル。これは決して、新しい人生が始まった廃人のセリフではなく、真実だ。
ここにいるのは、ただの変数のカタマリではなく、紛れもないリアルの心を持った人間なんだから――。
「グラム、ヤマモト。少し待っていて欲しい。必ず助けに戻るから」
以前のような震えは無い。
決意があった。ギルメンは必ず守る。もう、迷ったりしない。
リスタートボタンをクリックして、キャラクター選択画面に移行する。
カインを選択。
ローディング画面が映し出され、数秒間待つ。
しかし。
一分以上が経過しても、未だに真っ黒な画面のままで何も変化がない。
「何で?」
もう一分経過した時、画面の真ん中にシステムメッセージが表示され、私は目を見張った。
「サーバーと接続できない、どうして?」
『サーバーと接続が中断されました』そのメッセージウィンドウを閉じて、一旦ゲームを終了する。
そして、ゲームを再起動してみると、自動アップデート画面には、緊急臨時メンテナンスを実施すると表示されていた。
どうやら、アップデートで何か不具合が起こったようだ。メンテは1時間実施されるようで、すぐにログインすることはかないそうになかった。
「どうしてこんな時に。もう!」
ガンと、思いっきり机を叩く。
しかし、偶然とはいえ救われたのは確かだ。再度ログインした時に運悪く彼らに鉢合わせしなければいいのだが……。
ルシエド。
椛をどうしようというのか。ギルドを崩壊させると言っていたが……。
冗談じゃない。
『おねーちゃん。そろそろお出かけの時間だよ~降りてきて~』
潤の声が遠くから聞こえた。
そうか。今日は外食だったんだ。
私は、服を着替えるとフランソワーズの電源を切って、部屋を出た。
*****
「いっらしゃいませ~」
自動ドアをくぐると、そこは夢の世界。一足踏み出せば、途端に冷気が体にまとわり付き、戦場へ出たのだと実感させる。
入ってまず目に飛び込んでくるのが、色とりどりのみずみずしい野菜達。さらにそこを進んでいけば、新鮮な海の幸が俺を手招きし、ハイカロリーな惣菜群が待ち構え、その傍らには愛紗の大好物が陳列されている。
たまらない。
この空気。このBGM。買い物かごの手触り。人間行動科学によって設計された店内。
惣菜が、肉が、魚が、野菜が俺を呼んでいる。
スーパー。そこは夢の楽園だ。
夕食の調理に取り掛かろうとした俺だったが、冷蔵庫を開けてみてびっくりした。昨日の夜確認した時には、卵やベーコンがあったので、今日の晩飯は冷蔵庫の残り物スペシャルの定番、チャーハンを作ろうと考えていた。
ちなみに俺の作るチャーハンはちょっとしたこだわりがある。卵は最後に焼いて、半熟になった状態の物を炒めたご飯の上に乗せる。言ってみれば、ケチャップで炒めないオムライスみたいな感じだ。
半熟になった卵がとろっとろに溶けて、うまい。
渡辺 翔流チャーハンを我が妹にこしらえてやろうと思っていたのだが、なんと、冷蔵庫はもぬけの空だった。
愛紗が昼飯に根こそぎ食い漁ったらしい。しかもあいつときたら、ベーコンエッグを作ったわけでもなく、どんぶりにご飯をよそってその上に生卵をぶっかけ、ベーコンもこれまた生で食べたらしくワイルド全開だった。料理しろよ。
インスタントや冷凍食品ならいくつかあったけど、成長期の愛紗に、そんな晩飯を食わせるわけにはいかない。レンジでチンする晩飯なんて、だめだ。
やっぱり、手作りのあたたかい飯を食わせてやりたい。
そう思って、俺は夜の7時半になったスーパーにやってきた。あと、なんか愛紗も着いて来た。夜の家に1人でいるのは、怖いから嫌だといいやがるのだ。
小学生か、お前は。
「ねーねー! お菓子見て来ていい!?」
「行って来い。200円までな。あんまりはしゃぐなよ」
「わかってるって!」
愛紗は元気よくスーパーを風のように駆けて行った。店員や買い物客にぶつかりそうになるが、颯爽とかわして鮮やかに人の波をかきわけていく。
だから小学生か、お前は。
まあ、うるさい愛紗がいなくて買い物に集中できるからいいけど。
さて、まずは野菜から行くかな。
そういえば、豆苗が今話題になってるらしい。エンドウマメの苗で、切り取ってもまた生えてきて、経済的で栄養価も高いとか。
買ってみよう。ネットでレシピを探せばいっぱい出てくるし、こういう情報が溢れているのは主夫にとって非常にありがたい。
野菜コーナーの先を行くと、次は鮮魚コーナーだった。
「鯛の切り身が半額!? いや、でもこれ今日までじゃないか。ああ~迷うな。無難に鮭にしとくか。いや、こっちの太刀魚もいい。でも、愛紗は骨が多いからって、残すしなあ」
俺は頭を抱えた。
「ちょっと君。今万引きしようとしたでしょう? 事務所まで来てもらおうか」
「ええ!?」
鮮魚コーナーでしきりに悩んでいると、俺は後ろから肩をつかまれぐいっと引っ張られた。
振り返ってみて驚いた。そこにいたのは万引きGメンでも警備のおっちゃんでもなく、小麦色の肌とポニテールのスポーツ少女。
「何だ、三上さんか」
「や。おはこんばんちわ! なんだか見たことのある背中だナーと思って、ついついかましちゃった」
あはは。と、あっけらかんに彼女は笑う。
「タチの悪い冗談は本気でやめてくれよ。俺、普通に買い物してるだけなんだから」
「まーまー。人生刺激は必要でしょ? 平穏無事に生きるだけじゃつまらないよ。やっぱ、勝負しなきゃ」
そういうと、三上さんはノースリーブから生え出た健康的な二の腕を、ぐっと曲げた。余計な肉は付いていない、引き締まった腕だ。
「相変らず体育会系だね」
「とーぜん! 欲しい物は自分で勝ち取る! 目標を達成するために、努力は怠らない。根性と気合って、素晴らしい」
熱血漢だ。
「ところで、何してるの? 渡辺くんがスーパーで買い物カゴぶら下げてるなんて。核戦争の前触れかと思うじゃない」
「いや、晩飯の材料買いに来たんだよ。炊事はほとんど俺がやってるから」
突然、両の手首を三上さんにつかまれた。そして、勢いよくぶんぶん振り回される。
「感動した! 今時の男の子が炊事するなんて! いいお嫁さんになれるよ!」
「オーバーすぎるよ、やめてくれ! ていうか、俺はお婿にいくし。……そういう三上さんは何でまたスーパーに?」
「私? 私はこれ! 夜食買いに来たの! 冷凍炒飯ね!」
三上さんは興奮した様子でカゴの中身を俺にさらけだしてきた。
「ピリ辛直火炒め高菜炒飯か、おいしそうだね」
「だよ! 私これ、大好きなんだよね~。3食これでもいいくらい!」




