カイン、再び
グラムが来てくれた。でも、それで状況が変わるかと言えば、それは違う。
見たところ、7のレベルは74か75といったところだ。ルシエドも似たようなもののはず。
数の上ではこちらに分があるが、3対2ではさほど変わらない。それにここは平地。弓ならば、地形を利用したゲリラ戦を展開すれば状況は変わるだろう。が、グラムは7と同じ高さにいるし、ヤシの木といった遮蔽物もある。
アーチャー系クラスにとって、限定された空間でのPVPは不利だ。奇襲がもっとも効果的だが、もうバレている。
それに、ルシエドがまだ動いていない。今の段階では遊ばれている。あいつらは本気で狩るつもりなんてこれっぽっちもない。
倒すのではなく、守る。それしか手は無いだろう。目下リターン再発動までの時間を、なんとか稼ぐしかない。
ソウルアレストもリキャストが追いついていない以上、エルトを7から離して、ヒールライトの連発で生きながらえ、グラムのフラッシュショットで足を止めながら、ヤマモトに壁になってもらうのがベストか。
「死ねや、豚肉!」
7がエアライドで駆ける。
グラムは7と十分な距離を取っていたはずだった。
近接物理職。とりわけ、一撃必殺を旨とするローグクラスで重要なのは、いかに最小の被害で相手の懐に潜り込めるかである。
逆に遠距離物理職の場合は、いかに相手を近寄らせない。もしくは、接近までにどれだけHPを削れるかにある。
エアライドは、そういう意味で言えば遠距離物理職にとって脅威だ。
もちろん対抗策も色々ある。それは先に挙げたゲリラ戦もあるし、スキルを駆使して距離を取ることもできる。
しかし、そういった便利なスキルは74あたりで覚えるものだから、現状グラムには対抗手段がほぼないと言っていい。
だから、一瞬で距離を詰められるのは明々白々だった。
だが。
距離を詰めた7。そこを横からフラッシュショットが炸裂した。グラムは7の目の前にいるというのに、一体誰が?
さらに今度は頭上からペネトレイトシュート。
7は同時に二箇所から放たれた攻撃に足を止める。
「他に仲間がいたのかよ、うぜー。卑怯だぞ」
「私は使える駒を全て使っているだけ。不正ツールのオンパレードに言われたくない」
カメラをさまよわせて、姿無き援軍を探す。すると、そこにいたのはグラムだった。
牛肉500gが海中から。鶏肉500gがどうやって登ったのか、ヤシの木の上からそれぞれ7を狙っていた。
3PC。実際、PCをいくつも使用して狩りをするプレイヤーは珍しくない。デスク型をメインに、ノート型をサブにして、操っているのだろう。
これは慣れるまでに少し時間がかかるが、マクロを作ってある程度自動化すればなんとかなる。実際、5だか6くらいのキャラを操るプレイヤーもいる。
だが、それを実際にPVPで使えるグラムはけっこうすごいと思うが。
グラムは、ギルドに入ってからギルドハント中心の育成をしていたので、基本的に豚肉500g単体しか使用していなかった。彼女達の姿を見るのは久しぶりだ。
ヤシの木には当たり判定かなんかで、登れなかったはずだが、バグを利用して登れるというのは聞いたことがある。
近接物理職の7では、ヤシの木の上にいる鶏肉500gを攻撃する手段がない。
こういった死角からの攻撃や、狩り中に夢中になっている所を攻撃するのは、PKの常套手段なのだが、グラムもそのあたりを心得ていたようだ。
……いけるか?
だが、その期待が甘いものであること思い知るのに、そう時間はかからなかった。
ヤシの木の上にいた鶏肉500gが光の波を受け、力尽きる。
それは、デストロイヤーのスキル『バーストウェイヴ』。
「ルシエド。さんきゅ」
ルシエドも動いた。これで、ますますもって敗色は濃厚となる。
ここで負けることに、何も意味は無い。いや、あえて負けたほうがいいだろう。一矢報いて、へんに因縁を付けられるよりも、素直に狩られたほうが彼らを刺激せずに済む。
ちっぽけなプライドにすがって、熱くなってはいけない。
ほんの少し……耐えればいい。
「うぇうぇうぇwww 皆殺しタイムよー7たそ」
だが、それは――ルシエドでなければの話。周りにいるのが暁の空ならば、なおさら。
大切な事を見失ってはいけないと思う。けれど。以前の様に、斬魔がプンやヤマモトにしたようなことは……今思い出しても、心の奥に小さな熱さを感じさせる。
過去にケリを付けるためにも。みんなを守るためにも。
彼ら暁の空の面々に敵意を向けさせず、ルシエドを撃退する方法。
一つだけあるじゃないか。
カインだ。




