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ルシエド

 フラッシュバックするあの時。


 1年前。


 灰色の狼はサーバー最大のギルドで、数々のギルドを要塞戦や、ギルド戦争でことごとくねじ伏せてきた。


 カインはその中心にいて、連子をはじめ、色んなプレイヤーが灰色の狼の一員として支え合っていたのだ。


 ギルドイベントを開催する、お祭り好きのごはんがおさむくん。


 憎めないネカマキャラ、シャルレン。


 ギルドチャットで常に笑いを誘う、蘇我。


 廃人主婦、ぼんびー。


 ちょっと鬱陶しいところもある、スレイん。


 ギルドは賑わっていた。個性豊かなギルメン達が各々自分を磨き、カオス・クロニクルを楽しんでいた。


 でも。


 崩壊したゲームバランス。横行する育成代行やRMT。狩り場を占領し続けるBOT。アカウントの売買などの不正行為。PKギルドの活性化。


 名前のごとく、カオス・クロニクルは『カオス』な時代へと突入する。そのタイトルが皮肉として扱われだしたのも、ちょうどその頃。


 MMO黎明期は終わり、黄昏時を迎える。


 このゲームも……カオス・クロニクルも、終わりを迎えつつあった。それは誰かが口にしたことではない。プレイヤー1人1人が感じていたことだ。


 だから、引退者や他のMMOへ移住する人間は後を絶たず、引き止めることはかなわなかった。ゲームがゲームとして楽しめなくなった時、それは当然かもしれない。


 肥大化した組織構造にも問題があった。


 だから、ギルドマスターであるカインが先陣を切り、初心者の勧誘を行っていた。


 ほどなくして、3人の初心者プレイヤーがカインの勧誘を受け、新しいギルドメンバーとなる。


 その中の1人に、彼はいた。


 飲み込みが早く、ログインしたらギルメンへの挨拶はかかさない。TLもFAも、何をやらせてみても完璧にこなす。優秀な生徒。明朗快活。それが、ルシエドの第一印象。


 同時期に入った他の2人とは、ほとんどイン時間が合わず、お互い顔を合わせる事はなかったようだ。


 そして、いつの間にか彼は、灰色の狼の中心に入り込みつつあった。


 連子は仕事が忙しく、他の初期メンバー4人もゲームを卒業し、ギルドの中枢に穴が空いていたのもある。


 とても優秀な人材。それをスカウトしてきたカインはやはりすごい。


 羨望。敬愛。憧れ。


 それらはすぐに憎悪へと変わる。


 ルシエドによって。


 始まりは一つのスクリーンショットだった。


 カインがRMTをしているという決定的瞬間。それを収めた物だと外部掲示板でさらされたのだ。


 ネットで有名になるということは、それだけ敵も増え、叩かれるということでもある。


 実際、ありもしないことをでっちあげられ、何度か言いがかりをつけられたことはある。


 だがこれは、事実無根である。よく見れば加工しているのが解るし、ちゃんとカインにはアリバイがあった。掲示板では反論が巻き起こり、炎上。


 さらした者も一切反論しなかったので、これはニセモノだということで事態は収束する。


 それから……しばらくしたある日、灰色の狼が所有する要塞が宣戦布告を受けた。


 仕掛けてきたのは『葬送旅団』という、名前も聞いたことのない弱小ギルド。負けるはずのない戦い。


 ギルメン達は嬉々としてギルドチャットで発言する。『今日も勝ち戦だ』と、『軽く叩き潰してリアルのうっぷんを晴らしてやる』と。


 そして、戦いが始まる。


 カオス・クロニクルにおける要塞戦……いわゆる攻城戦は、だいたい他のMMOと似たような進行だ。城門を壊し、守護者と呼ばれるNPCを排除し、要塞の最深部に位置するクリスタルを破壊するのが最大の目的である。


 要塞を手に入れたギルドに与えられる恩恵は、とてつもなく大きい。特殊ボーナスによるステータスの上昇や、レアアイテムの生産に、主要拠点への無料テレポートなど。これを狙ってくるギルドは数知れない。


 しかし、今回は妙だった。要塞戦が始まって十数分。何も動きが無い。


 空布告か、いたずらか。


 要塞戦の制限時間は1時間。すでに開始後40分が経過していた。すると、耐え切れずに皆が口々に悪態を付き、ログアウトしていった。


 しかし、最後まで警戒を緩めることはできない。時間の許す限り要塞に止まり、終了を見届けれる者だけ残ることになった。


 ほとんどがログアウトしたといっても、2PTのフルメンバー。要するに、12人が残っている。


 それに相手は名前も聞いたことのない弱小ギルド。ギルドレベルも1。この人数でも余裕で守りきれる。そう踏んでいた。


 その余裕が対応を遅らせることになった。


 奇襲。


 まるでタイミングが合ったように2PTになった途端、門が壊され、次々と守護者が倒されていった。タイミングが悪すぎる。


 要塞内になだれこむ葬送旅団のメンバー。一瞬、灰色の狼は突然現れた敵にパニック状態へ陥る。


 しかし、敵の数は少数。装備も40前後のグレードと、恐れるに値しない。すぐに皆平静になると、各々の役割を果たそうと動き出した。


 GVGにおいても、TLがターゲットを選定し、それをFAがヘイトで受けるというのは、普通の狩りとなんら変わらない。


 いつも通り動けば、何も問題ない。


 そのはずだった。


 どんなにレベルが高かろうと、経験を積んでいようとプレイしているのは人間だ。当然、油断する。


 獅子はウサギを狩るのに全力を尽くすというが、人間は獅子では無い。アリを踏み潰すのに、助走をかけて圧しつぶしたりする人間はいない。この時もそうだった。


 だから、油断は一瞬で後悔に変わる。


 葬送旅団のプレイヤー達は、一瞬で装備を入れ替えた。貧相で地味な身なりから、いきなりきらびやかな鎧や、派手な装飾の剣を手に取り、襲い掛かってくる。


 ウサギの皮はフェイク。本来の姿であるそれは、龍に例えていいのかもしれない。


 現行最強レベルの装備をまとった彼らは、最高レベルのスキルを繰り出し、獅子に食らいついた。


 後悔は戸惑いへ。戸惑いは疑問へと変わる。


 何故これほどの装備とレベルのプレイヤーが、今まで表舞台に出る事が無かったのか。


 しかし疑問を抱く間もなく、内側から攻撃を受け、再びパニックになる。


 それは、ヒューマンウォーリアの上級職『デストロイヤー』が放った範囲スキル。


 あれは今を思えば重い一撃だった。


 ダメージログを見ると、皆一瞬唖然とする。それは、即死レベルの攻撃を食らったからでは無い。


 もっとそれ以上の……精神的なダメージだ。


 『ルシエドから1300のダメージを受けました』


 『どうして?』『何やってるんだ、お前』


 ギルメンの声に耳を傾けるどころか、ルシエドの攻撃はなおも止まらない。


 葬送旅団から受けたダメージもあって、ルシエドの攻撃で次々にメンバーが力尽き、倒れる。


 すると、耐えれなくなった他のメンバーがルシエドを敵だと判断し、襲い掛かった。


 しかし、ルシエドは反撃しない。それどころか、防具さえ脱ぎ捨て裸になると、ソーシャル『笑う』で高らかに笑った。


 やがてルシエドのHPゲージの透過率が90%になり、力尽きようとした時。


『うぇうぇうぇwww』


 ルシエドの発言だった。そして、どこからともなく放たれた矢が、ルシエドを攻撃していたメンバーを貫き、瞬殺されてしまう。


 ふとカメラを操作して、視線をさまよわせると、城門のすぐ横に立っていたプレイヤーが弓を構え、こちらを狙っているのが見えた。


 あいつがやったのか。


 そいつの名前は四度(シド)


 ヒューマンアーチャーの男で、葬送旅団のギルドマスター。


『うぇうぇうぇwww』


 今度は四度の発言。


『お前ら、鈍すぎwww』


『お前ら、鈍すぎwww』


 ルシエドと四度。二人のキャラクターが同時にそう発言した。


 ルシエドはこちらに背を見せると、四度の元へ向う。そして、その隣まで移動すると、こちらに振り向いた。


 横一列に並んだルシエドと四度。


 その段階でようやく気が付く。四度はルシエドの2PCだったのだ。


 ルシエド=四度。


 即ち――裏切り。


 2PTになった途端、タイミングよく襲撃したのも、彼が内通していたから?


 何で? どうして?


 疑問。戸惑い。ワケが解らない。さっきまで一緒に楽しく狩りをして、チャットをしていたのに。


 頭の中が真っ白になる。


 何でそんなことが平然とできるのか。


 他のギルメンも思いは一緒だったようで、誰も四度に、ルシエドに、手が出せなかった。


 信じていた相手に裏切られたショックは大きい。


 『ギルメンは僕にとっても家族ですよ^^v』


 彼は……ルシエドは確かにそう言っていた。


 でもその彼は今、手に持った弓でギルメン狩りを始めている。


 『わろすwww』『ちねwww』


 そう、連呼しながら。


『何でそんな事をするの? オレに何でも相談してくれって言ったのに!』


『アホw ボケwww たのしーからにw きまってんだろwww お前がw きにいらねーんだよw 何がカインだよw 調子こいてんなや、ハゲw』


 痛い。カインに突き刺さった矢はたいしたダメージを受けていないのに、痛い。


『なにが家族じゃw きめーんだよw 俺がぶっ潰してやるwww』


 ちくちくと心に刺さる。


 ……裏切られた。その無邪気な所も可愛いと思って、育成を手伝ってきたのに。


 装備も、色々と工面してあげた。クエストだって、うまいのを教えてあげた。


 狩だって、時間を削って協力してあげた。


 マスターとして出来る事はすべて尽くしてきた。


 何より……信じていた。


 何で? どうして?


 ルシエドを信じたい気持と、裏切られたことに対する怒りが目頭を熱くする。


 頭の中をぐるぐると回る疑問符。悔しいのか、悲しいのか、よくわからない感情。


 そして気がつけば、葬送旅団に要塞を奪われていた。


 それからルシエドは四度として、害ギルド葬送旅団を組織し、害行為を繰り返した。ただ、『楽しいから』という理由だけで。


 低レベル帯の狩り場は一時、害と古参プレイヤーの死体が転がる戦場となり、大手ギルドは葬送旅団を潰そうと必死になった。


 しかし、RMTや育成代行で高レベル、高スペックなキャラを保有する彼らとの戦いは、いたちごっこを延々と続けることになり、非難の目は灰色の狼にも向けられた。


 そして、ギルド内で非難の目は、カインへと集まる。


 無能。面汚し。マスター失格。害を育てたバカイン。


 他にも、いくつかバリエーションがあったかな。もう覚えていないけど。


 まるで手の平を返したように皆、カインの周りから離れていった。所詮、MMOでのつながりなんて、そんなモノかもしれない……顔も知らない者同士。だから、当然といえば当然……なのかな。


 もちろん、すべてのギルメンがカイン憎しというわけではなかった。スレイんを始め、何人かのメンバーはカインを擁護してくれていたし。本当はみんな、スケープゴートが欲しかっただけなのかもしれない。


 けれど、結局その視線に耐えられなくなって……カインはギルドを脱退した。


 連子もその時はいなくて、結局カインは誰にも何も告げず、ミロンのすぐ近くでログアウトして……それっきりだった。


 椛にも何も言えなかった。


 誰にも、何も。


 だって、結局ルシエドという元凶を招き入れたのは自分の責任でもあったから……。


 そして、エルトが生まれて、細々と育てて……やがてプンに会って……また新しい繋がりができた。


 そんな時にまた姿を現した、ルシエド。


「中尉。逃げよう」


「え?」


「見つかったら厄介だ」


 過去にふけっていて、ヤマモトの接近に気が付かなかった。気のせいか、いつもと雰囲気が違う。


 そうか。いつもチャットの発言に『ぬを』って言ってるのが無いからか。


「ルシエドがいるんだお。あいつは、関わるとロクな事にならないお……」


「ヤマモトも、ルシエドを知ってるのか?」


「もちろん。だって、ぼくちんの前にいたサーバーのPKギルドのマスターで……あいつが原因でこのサーバーに移住してきたんだから」


 そういえば……ヤマモトと初めて出会った時、PKギルドが原因でこのサーバーに移住してきたと言っていた。


 それがルシエドだったなんて……。

少し改稿しました。

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