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ファイティングガール

「いや、男の友情を確かめ合ってたんだ。な、潤?」


「は、はい! ぼくと渡辺さんは固い絆で結ばれているんですね、再確認しました!」


「ふうん。まあ、いいや。そんなことより潤くん潤くん! 晩ご飯食べていきなよ! いいでしょ?」


 愛紗はきゃいきゃいしながら潤に駆け寄ると、俺を強引に突き飛ばして潤の手を握った。


「バカ翔はさっさと飯作れ! この前みたいに豆腐でステーキなんてインチキは許さないからねっ! こんにゃくステーキも反則よ! すき焼きにしてよね、すき焼き!」


 俺は勢いよく地面に尻餅を付いてしまい、もろに衝撃が下半身を襲った。


 途端、ムカムカと腹が立ってくる。くそう、帰ってきたばかりの兄に向って、いきなり飯作れだと? 許せん。俺を何だと思ってるんだ。都合のいい召使じゃないんだぞ。


「おいこら、愛紗! 人を飯炊きババアみたいに言うんじゃねえ! 言いかたってもんがあるだろうが!!」


「じゃあ、飯炊きジジイ?」


 殴ってやろうか。性別の問題じゃねーんだ。


 俺は立ち上がると、愛紗の手をつかもうとした。


「聞いて、愛紗ちゃん」


 しかし、潤が愛紗の手を握ると顔を真っ赤にしながら叫んだので、俺はそれを見守ることにした。


「ぼく、愛紗ちゃんが――す」


 頑張れ、潤!


「うん、あたしも潤くんがすき――」


「!?」


 おめでとう、潤。これでお前もリア充か。……チ。でもおめでとう。……チ。愛紗もおめでとう、末永く幸せにな。……チ。……チクショウが!


「焼き食べてるところが見たいな! やっぱ晩飯はすき焼きだよね! 肉だよね~! あたしと潤くんは今日もバッチリ、脳波がリンクしちゃってるよ~、愛のパワーがなせる奇跡だよ~。どうしよぉバカ翔~。もう幸せ指数が未知数だよぅ~!」


「……え、いや、あの……ぼくもすき焼き大好きだけど、で、でもっそれ以上にき、君も好き――いや、卵の黄身につけて食べると最高だよね! あははは。ははは……」


 呆然とする潤。最後は結局言い出せず、爆発して終わった。


 愛紗はきゃいきゃいしつつ、嬉しさのあまり俺のすねに何発も軽く蹴りを入れてくる。


 愛紗のアレは鈍いっていうか、そういうレベルじゃない。散々潤に惚れてるくせに、その好意に気付かないとは、厄介なヤツだ。


 とりあえず、愛紗の足を払って転倒させ黙らせた。静かになったので、潤の肩をポンと叩いて慰める。


「ドンマイ」


「は、はあ」


「てか、アレのどこがいいんだ?」


「そんなの決まってるじゃないですか!」


 潤は俺の肩を痛いくらい付かんで、力強く言った。


「全てです、愛紗ちゃんがいれば他に何もいりませんっ」


「そ、そうか。まあこれからいくらでもチャンスはあるんだし、頑張れ、な?」


「はい!」


「じゃあ、とりあえず潤はケースをリビングにでも置いといてくれ、飯はどうする?」


「あ、ごめんなさい。今日は家族で外食なんです。お母さんが宝くじ当たったらしくて……」


 それだけ言って潤は家の中に入っていった。


 俺は振り返り、未だ夢の国のお姫様な愛紗の肩をつかんで立たせた。


「おい、愛紗」


「潤く~ん、潤く~ん……アハハ」


「大丈夫か、こいつ……」


 目の焦点が合ってない。本当に潤が告白したら、卒倒しそうだな。


「おい、目を覚ませ」


 愛紗の頬をぺちぺちと叩くと、愛紗が正気を取り戻し、こちらの世界に戻ってきた。


「は!? 何でバカ翔がここにいるのよお! 愛紗INワンダーランドの続きを見させてよ~! せっかく潤くんがすき焼き王子になって、すき焼き姫のあたしと、末永く鍋をつつくストーリーの行方はどうなるの!」


 何だそれは。ユニークすぎるだろ、その夢。


「俺にとってはお前がいるだけで、毎日がワンダーランドだよ」


「う~~」


 愛紗は今にも噛み付きそうな状態だったが、とりあえず気になった事を聞いてみた。


「お前、潤のどこがいいんだ?」


「そんなの決まってるじゃない!」


 愛紗は俺の肩を痛いくらい付かんで、力強く言った。


「全てよ、潤くんがいれば他に何もいらないのっ」


「そ、そうか。まあ、頑張れ」


「バカ翔に言われるまでも無いもん!」


 愛紗はぐっと拳を握り締め、前へと突き出した。


 ファイティングガールだな、愛紗。まあ、後は潤の勇気次第な感じか。


 たぶん、潤の告白がうまくいったら、こいつらは史上最強のバカップルになりそうだな。


 まあ、俺の口から直接愛紗に潤の好意を伝えることは無い。逆もまた然りだ。


 潤に口止めされているわけじゃないが、これは2人の問題だし、もどかしいといえばもどかしいけど。


 人の恋路の邪魔はできないよな。


 もちろん、俺の恋路も邪魔はさせない、誰にも。


 俺の想いはただ一つ。


 それはさておき、家に入ってパーツの確認やらをして、飯を作って明日から取り掛かるかな、PCの製作は。


 俺は恋の炎を燃やす妹を背に、玄関のドアを開いた。



 *****



 どうしよう。


 そう思って色々考えたけど、どうにもならない。


 でも、まあこれはこれでよかったのかな? と思って納得してみる。


 渡辺くん……まさか彼が愛紗の兄とは思いもしなかった。


 昨日の夜は、愛紗の兄はどんなオタク野郎なのかと警戒していたけど、それがまさか隣に座る渡辺くんだとは思いもしなかった。


 色々とやらかしてくれたけど、いいおもちゃが手に入ったと思えば、それもありかな、と考えてみる。


 何にせよ、潤は渡辺くんにべったりだし、まあ悪い人ではなさそうだから、よしとしよう。


 問題は、明日の昼だ。


 愛紗。


 彼女がどう出てくるか。渡辺くんの妹だとしても、油断はできない。


 潤に害を及ぼすようであれば、その時は……。


 ふと時計を見る。すると、18時を回ったばかりで、外も次第に赤から黒へと色を変え始めていた。


 今日は家族で外食するけど、20時から予約してあるので、まだ1時間少しはカオス・クロニクルができる。


 夜になると、潤にフランソワーズを貸してあげる予定になっているので、今日は少ししかできない。


 部屋の明りをつけ、電源スイッチを押し、PCに命を吹き込むと私はイスを引いて、そこにすわった。


 完全に起動するまでのわずかな合間に、スカートを脱いでそれをベッドの上に放り投げる。


 熱い。


 今年は10月になっても、まだまだ秋の気配がない。ならせめて、このまま暑さを引っ張って引っ張って、暖かな冬が来てくれることを祈る。


 私はPCが起動したのを確認すると、カオス・クロニクルを起動して、エルトでログインした。


 例のごとく、私はオレになる。


「こん」


 ログインするとまずやるべきことは、ギルドメンバーへの挨拶。


 そして、ギルドメンバーの接続状態の確認だ。


「エルト、こん」


 どうやら、グラムがログインしていたらしい。


「グラム、こんばんは。今、何してるの?」


「エルトがインする前にインしたところだから、特に何も」


「そっか」


 1時間くらいなら、軽くどこかでペア狩りはできる。リニューアルされ、60代の狩り場になったという『ならず者の島』や、70代前半の狩り場『紅蓮の砦』に行ってみてもいいかもしれない。


「エルト。ちょっとお知らせ」


「何?」


「ブログをやってみた。暁の空の活動ブログ。エルトがメインで写ってるよ」


「え? ブログ? それも、メインなのか……まあ、いいけど」


 グラムがブログとは、少し意外な気がする。グラムは普段口数も少ないし、ちょっと近寄りがたい雰囲気があって今一つどういう人間か図りかねていた。一応、以前ヤマモトとの会話の中で、20の女子大生と言っていた気もするが……。


「昨日作って、今日何度も確認した。バイト帰りの電車でも見てたけど、いつの間にか寝ちゃった。気が付いたら、高校生くらいのかわいい男の子の肩に寄りかかってて、恥ずかしかった。しょうがないから、その子が降りるまで寝たフリしてたの。私には解る。きっと、あれはリアルのエルト」


「いや、違うと思うよ。今日、電車乗ってないし」


「残念」


 本当は乗ったけど、終始立ちっぱなしだったから、グラムにはウソを付いていないと思う。


「URL、後でギルド掲示板にうpしておくね」

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