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気になる『彼』

 さて、まずはケースから選ぶか。


 ケースはメタリックで派手な物から白い地味な物。大きい物から小さい物と、色んな種類がある。


 特にケースにはこだわらないつもりでいたので、真っ白な物をチョイスした。安いし地味だが、PCは中身の性能が大事だ。


 ケースは変えようと思えばいつでもできるが、CPUやマザーボードはそうはいかない。


 反面、グラボやメモリは取り付けも取り外しも簡単だから、グラボは最初ミドルエンド(中くらいの価格帯、性能の商品)を選んで、徐々にグレードを上げていくのもいいかもしれない。


 次はハードディスクとDVDドライブだな。


 1TBのハードディスクと、読み込みと書き込みのできるDVDドライブを選ぶ。


「あれ? 渡辺さん。こっちの箱に入っているのを買わないんですか??」


 潤が、I-DDATAと書かれた箱に梱包されたDVDドライブを持って、俺の所にやってきた。


「俺が買うのはこっち、バルク品な。潤が持ってるのはリテール品って言って、バルクよりも値段が高いの」


 バルク品はエアパッキン(俗に言う、プチプチ。暇つぶしに最適なあれ)に包まれていて、見掛けは粗雑だが、価格設定が低い。だが、メーカー保証が受けれないデメリットがあるし、付属品は付いていない。しかし、安価なのだ。


 それに対しリテール品は、キレイに箱に梱包されていて、付属品も付いているし、メーカーの保証も受けれる。けど、高い。


「へえ……」


 感心している潤をそこに残して、俺はCPUのコーナーへと向った。


 CPUは、PCの性能を決定付ける重要なパーツであると言っていい。だから、慎重に選ばないと……って言っても、財布事情でどれにするかはもう決めてある。


 クアッドコアの3.4GHzを選んで、マザーボードもそれに合ったソケット(CPUの形状)の物を選ぶ。


 メモリは、メーカー製の4GB(2GB×2)を選んで、電源もケースに合った物を選んだ。


 あとは、グラボとOSかな?


 グラボのコーナーに移動すると、そこには組み込んだグラボの性能をディスプレイするためか、PCが一台と32インチのモニターが設置されていて、カオス・クロニクルがプロモーションされていた。


 モニターの前には相羽さんがいて、視線はそこに注がれている。


 俺もそっちに視線を移してみると、ちょうどフェイブ種族の新職業デスブレスが紹介されていた。どうやら、アップデート情報のプロモらしい。


 新フィールドのMOBを相手に、新スキルを繰り出すプレイヤー達。そして、それを後から見守るフェイブの女性。


 フェイブの女性が手にしていた両手剣を天に掲げた。すると、光の柱がパーティーメンバーに降り注ぎ、『デストロイ・ブレス』が付与される。


 デストロイ・ブレスを付与されたダークエルフの女が、デュアルスタッブで5ケタを越えるダメージを叩きだした。


 ――すげえ。


 その一言に尽きる。


 公式チートと言っても過言じゃない。デスブレスは、極めればすごいことになるだろうな。


 けど、そこに至る道のりは果てしなく険しいし、仮に俺がなったとしても、すぐにやめてしまうだろう。


 デスブレスのスキルは、縁の下の力持ち的な役割を果たすものばかりで、前に向ってドンドン突き進む俺とは相性が悪い。


 皆から一歩下がって、状況を判断する力と、数手先の戦況予測。メンバーそれぞれの呼吸に合わせられる協調性。それはどちらかと言えば、指揮官のようなタイプにも思えるけど、ちょっと違う。


 ウチにも一人欲しいな、デスブレス。


「もうすぐだね、プン……」


 ふと、相羽さんが小さな声でだがそう呟いた。その表情はとても柔らかで、優しい笑みを浮かべている。


 プン?


「相羽さん?」


「え? ああ、渡辺くん。買い物はもういいの?」


「あ、うん。あとはグラボを選んで、レジでOSを選ぶだけなんだ。それよりさ。カオス・クロニクル……やっぱり興味あるの?」


「まさか! 興味なんかないよ。そういう渡辺くんこそ……1年前カインにお世話になったんだよね? もみじ饅頭大好きなんだよね?」


「うん。一日三食もみじ饅頭でもいけるよ、俺。クリームもいいけど、チーズもいけるよね。定番のあんこが俺の中じゃ一番なんだけどさ」


「あ、それはどうでもいいの」


「え!? どうでもよくないよ! 俺にもみじ饅頭を語らせたのが運の尽きだと思って――」


 相羽さんにじっと見つめられる。


 何だ?


「確認。君、来週の中間、大丈夫?」


「もちろん!」


 俺は精一杯胸を張って答えた。


「え?」


 相羽さんは何故かうろたえているが、それにかまわず俺は答える。


「全然ダメ! もう、マジでやばい。特に英語が無理なんだ。俺日本人なのに、何で英語なんか習ってんだろって思うもん! 鎖国しとけよ、日本! そう思うね。ていうか相羽さん、俺を助けて! 勉強教えてください、お願いします」


 勢いに任せて、相羽さんに勉強を教えてくれと頼んでみた。うまくいけば、何かイベントが発生するかもしれない。


 期待に満ちた瞳で相羽さんを見る。すると、何故か相羽さんは大きく息を付いて肩をすかせた。


「……そうだよね。君は渡辺くんだもんね。うん、渡辺くんだ。『彼』のわけがない」


 『彼』?


「彼って……誰?」


 相羽さんはにっこりと満点のスマイルを浮かべた。その笑顔に見入っていたいが、『彼』の存在が気になる。


「誰かなあ。私も解らない。けど……」


 まさか……相羽さんはそいつに恋をして……!?


 許せん。ブチ殺す!


 そいつの住所を突き止めて100万回ピンポンダッシュして、釘バットで闇討ちしてやる!!


 そう意気込んでいたら、相羽さんが目を細めた。


「少なくとも、女の子にいきなり後から抱きついたり、爆乳メイド祭り4が大好きだったり、勉強が苦手で私に泣きついてくるような人じゃないよ」


 うああああああああ!


 かなり根に持ってるんだ。どうしよう……。


「でもね」


 相羽さんは再び満点のスマイルを浮かべる。


「優しいところは同じかな。今まで潤の面倒みてくれて、ありがとね。渡辺くん」


「あ、うん」


 見つめ合う俺達。


 ソボマップのテーマソングが流れるグラボコーナーの一角で、俺達の間に静かな空気が流れる。


 周りに客はいない。そう、ここには俺と相羽さんだけ。


 心臓の鼓動が早くなる。


 やるか?


 ――ここで。


 対相羽 真理奈専用挨拶Ω(オメガ)を!


 俺は瞳を閉じて精神を集中させた。


「お姉ちゃんー。渡辺さーん」


 そうだ。『彼』の存在を相羽さんから消し去るには、もうこれしかない。やるぞ。


「どうしたの、潤?」


「ぼく、ゲーム見てくるね」


 輝け、俺! そして、勝利と相羽さんを手に入れるんだ!


「あ、じゃあ私も一緒に行くよ。渡辺くん、ちょっと行って来るね」


 右足を軸に、重心を前へ。いくぞ、相羽さん! 


「今こそ、君のハートにトドメを刺す! 受けてくれ、俺の……真心を!」


「いいわよ」


「え!?」


 ついにやったのか!? 俺は……これで今日から俺も彼女持ちのリア充の仲間入りか!?


 前を見る。すると……。


「あらん。坊やったら、おばさんの事が忘れられなくて、わざわざ職場まで来てくれたのね、んふ」


「は?」


 あれ、何だこの展開。しかも目の前にいるのは、この前の原付に乗ったおばちゃんライダーじゃないか。


 しかも、ソボマップの制服を着ている。何という偶然か、この店の店員だったとは……。


「その熱い思い。確かに受け取ったわ……愛に年の差なんて関係ないものね、ぐふふふ」


 おばちゃんの瞳がギラギラと異常な輝きを見せた。舌なめずりをして、俺との距離を詰めてくる。


 ダメ、マジで死ぬ。食われる。おばちゃんの口からのぞく八重歯は、悪魔の森に出現するカーズプラントの牙のようだ。


「いえ、その。これは冗談です。それより僕、このグラボが欲しいんです。あとOSは7のDSP版をお願いします。急いでるので会計早くしてください。連れを待たせてるんです!」


 俺はなんとか必死に誤魔化しておばちゃんを退けた。


 くそう。何なんだ、この展開は!

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