GMコールは慎重に
ド変態と開き直ったヤマモト。むさ苦しい、暑苦しい、息苦しい。そして、今もなおプンの背後を動き回っている。ド変態の鑑のような男だ。
はっきり言って後悔している。ヘタをこくと、プン以上に厄介な存在かもしれない。
「やっぱいいや。他を当たるんでさようなら」
こういう事は、さっさと言ってしまった方がいい。失礼だが、なんとなく危ない香りがするのだ。
「そんな! ぼくちん、プンちゃんの為なら何でもやるよ!」
「そうだよ、エルくん。ヤマちゃんかわいそうだよー><」
プンの心は広い。ヤマモトに背を向け、オレに向き直るとソーシャルで、泣き始めた。そして、その後ろでヤマモトが座って、『プンちゃんおパンツ鑑賞会 ハアハア』をどうどうと開催している。
「ぬを。心優しき我が女神! あれですか!? あなたは死なないわ、私が守るもの。でございまするか!? ぼくちん、プンちゃんとシンクロ率1000%オーバー! プンちゃんに向けて、ぼくちんのエントリープラグ強制射出!」
最後のは下ネタじゃないか。もう我慢も限界だ、少し脅してやる。
「おいプン。GMコールだ。へんなプレイヤーに粘着されています、セクハラ発言で不快な思いをしているので対応お願いします。ってGMさんに伝えるんだ」
「はーい^^」
その後に、『もちろん冗談だ』とプンにウィスを送っておく。
「ぬお、GMコールΣ(°д°);」
GM……たぶん、ゲームマスターという意味だと思う。一言で表せば運営だ。不具合が起きたときの報告や、規約違反者を通報する時、GMにメッセージを送る。それがGMコールだ。
もちろん、本当に通報するつもりはない。プンだって、解ってるはずだ。これは単なる脅し。
ちなみに、重大な規約違反者については、アカウントの停止や、最悪削除される場合もある。
「まあ、もちろんウソだ。だが、これ以上バカな事を言って付きまとうなら――」
「エルくん、終わったよ^^」
「ん? 何がだ?」
「GMコール^^ 目の前に変態さんがいます>< 私襲われそうで怖いです;; 捕まえてください! ってGMさんにメッセージ送っておいたの」
「……」
「ガクブル((°д°))」
「プン、やればできる子なんだよ。いえーい^^v」
「お前はアホか! 本当にやるなんて何考えてんだ! そもそも、冗談だってウィス送っておいたろうが!」
「えーーーー;; あ、ほんとだぁ、気付かなかった。あはo(≧▽≦)o」
あはo(≧▽≦)oじゃないだろ。
すると突然、ヤマモトがフェードアウトして消えて行った。まさか。
「……噂で聞いたことがあるな。規約違反してGMに睨まれたら、特殊なフィールドに転送されるって……」
「え! ヤマちゃん……ご冥福を祈ります(>人<)」
祈るな。
しかし、また突然ごつい緑の巨人が現れ、豪快な笑い声がスピーカーを振動させ、部屋に響いた。
「ヤマちゃんふっかあああっつ! なんか回線の調子悪いみたいだったけど、直った!」
回線が切れて落ちただけだったか……。
「おかえりヤマちゃん^^ノ プンいっぱい心配しちゃったよお」
さっきまでご冥福を祈っていたお前はどこにいった。
「まあ、もうどうでもいいや。ヤマモト、あっちで一緒に狩ろう。オレがMOB引いてくるからプンと同じのを攻撃してくれ」
なんだかんだで、貴重なプンと同レベル帯のプレイヤーだ。今日だけは我慢してやる。今日だけは。
それからさっきまで、プンと一緒に狩りをしていた場所に戻ると、ヤマモトを加えて再開する。
プンだけでもお代わりが必要な状況だったので、周囲からありったけを引いてくる事にした。他に人がいないのが、こういう時は助かる。
オレがMOBを引っ張る。プンとヤマモトがそれを倒す。オレがMOBを引っ張る。プンとヤマモトがそれを倒す。それをかれこれ20分は繰り返した。
その成果で、プンは瞬く間にレベルが22になり、ヤマモトも25になった。
ヤマモトの火力もまた相当なモノだ。プンと違い初心者ではないので、狩での立ち居振る舞いをよく心得ている。特にスキルを使うタイミングが絶妙だ。
このままレベルが上がっていけば、上級狩り場でも貴重な戦力として色んなパーティーから引っ張りだこになるだろう。
……これさえなければ。
「「「オレがガ○ダムだ!!!!」」」
「「「オレがガ○ダムだ!!!!」」」
「「「オレがガ○ダムだ!!!!」」」
「「「オレがガ○ダムだ!!!!」」」
「「「オレが――」」」
「うるさい」
ヤマモトはどうやら、攻撃スキルを発動する際にマクロを組んでいるらしく、スキル発動と同時に、上のセリフがメッセージとして表示されるらしい。
他にも、『虎牙○斬!』とか、『分の悪い賭けは嫌いじゃない』とか言っていた。
何を言っているのか、さっぱりわからない、最後の一つだけは。
「しかし、戦ってるときのプンちゃんかわゆす。ハアハア」
「ハアハア言うな、オタクが」
「エルくん、ハアハア^q^」
「プン、お前まで真似するな」
「中尉、ハアハア」
「エルくん、ハアハア^q^」
「ハアハアうるさい! あーもう、10分休憩! オレ、飲み物取ってくる!」
「いてらー^^」
「あ、ぼくちんコーラでいいおー。ストロー付けといてね、あと、おいしくなるおまじないも、かけてね」
ヤマモトうざ。
席を立ち、足早に部屋を出て一階のリビングへと向かう。家族はもう寝てしまったらしく、リビングは真っ暗で誰もいなかった。
時計を見ると、すでに11時を回っていた。もう少し狩をして、今日は終わろう。
インスタントコーヒーの粉を愛用のマグカップに入れ、ポットからお湯を注ぎ、それをかき混ぜる。少し、冷ましてその場で一口含む。
やはり、コーヒーはブラックに限るな。
マグカップを片手に階段を昇り、自分の部屋へと戻る。机の前にたどり着くとイスを引いて、こぼさないようにパソコンから離れた場所にカップをそっと置く。
「何だこれ……」
席に着いたオレはその光景に絶句する。エルトが……。HPが0になり、戦闘不能になっていた。
オレ以外のメンバーは無事のようだ。離席しているのか、キャラが突っ立ったまんまで、虚空を見つめている。
急いでログを確認する。すると、1000を超える大ダメージを数発くらっていたことに気が付く。
バカな。このレベル帯でここまで強力な攻撃を仕掛けるMOBはいない。一体何が……。
その時だ。画面の端を何かが横切って行くのがかすがだが見えた。あれは……プレイヤー?
ダメージを一体誰から食らったのかを調べると、オレのキーボードを打つ手がかすかに震えた。
『斬魔』……。
――PKだ。




