男のロマン
しばらくして、相羽姉弟が注文したメニューが俺達のテーブルにやってきた。
「お待たせいたしました」
ウェイトレスさんが重そうに、というか、重いであろう俺の財布の化身とでもいうべきピラフや、パフェに、カレーとかを運んできた。
「どうぞ、ごゆっくり」
ウェイトレスさんは苦笑いを浮かべて去っていく。
俺はそれを見送ると、前を見た。
あれ?
「おいしかったね、潤」
「うん!」
え?
「ごちそうさま、渡辺くん」
見ると、一瞬でテーブルの上には皿しかなく、相羽姉弟は満足そうにお冷を口に運んでいた。
早い! 何だそれ! しかも、潤ときたらメニューを再び広げようとしているではないか!
この前家でカレーを食った時のお前はどこにいった!?
俺は戦慄すると潤からメニューをひったくった。
「潤、そろそろ行くか。お前のP子も早く直してやらなきゃな」
「あ! そうです。P子を直すんでした。お姉ちゃん、持たせちゃってごめんね」
「うん。いいよ。はい」
相羽さんが、潤にP子INビジネスカバンを手渡し席を立つ。
俺もまた席を立つと、会計のためレジに向った。レジ前で財布を取り出すと、相羽姉弟が仲睦まじく外に出ていくのが見える。
その姿は見ていて微笑ましい。仲がいいんだな、相羽さんと潤。
ウチとは大違いだ。
潤が羨ましい……俺、来世は潤がいいな。そしたら相羽さんに可愛がってもらえて……いや、ていうことは愛紗にしつこくいいよられて……妹に好意を持たれるのか。それはかなり嫌だ。いや、その時俺は潤なんだから、愛紗は妹じゃなくて他人で――。
「お客様」
「は、はい!」
気が付けば、レジのお姉さんが怪訝な顔をしていた。そうだ、お金払わなきゃ。相羽姉弟の食欲チートには驚いたが、軽食+コーヒーでそんなにかからないだろう。
俺は明るい声でお姉さんに聞いてみた。
「えっと、おいくらでしたっけ?」
「お会計6580円になります」
俺の財布から諭吉が一名旅立った。
呆然としながら店を出る。そして、俺は2人を伴って当初の目的地を目指した。
「渡辺さん、どこへいくんですか?」
信号が赤になり、立ち止まると、隣にいた潤が問いかけてきた。
「ソボマップだよ。色々置いてあるんだぜ? プラモデルとか、フィギュアとか、ゲームとかな」
「へえ、色々置いてあるんですね。楽しみです!」
秋空に輝く太陽よりも、潤は眩しい笑顔を輝かせた。ふふ。これからいじられるとは知らずに。
信号が青になると、俺たちは目的地にたどり着く。
ソボマップはコーナーごとにいくつかの建物に別れている。ゲームやプラモデル、フィギュア、DVDなんかはアミューズメント館に行けばいいし、PC関連なら本館、修理ならクリニックと、行く場所がそれぞれ決まっている。
移動が少し面倒なのが難点だけど、その分品揃えはすごいし、見ているだけでも時間が潰れる。
以前ここに来たのは、稲田となんだよな……。
まず先に立ち寄ったのがクリニックだ。P子はけっこう荷物になっているので、さっさと修理に出してしまおう。
土曜日だから、多少は待たないといけないかと覚悟していたが、人の数は少なくて、あっという間に潤の番がやってきた。電源不良。ということでP子はメーカーに送られることになり、2,3週間は戻ってこないらしい。
そういえば、今日はギルドハントがあったな。潤は当分カオス・クロニクルが出来ないのか……。
潤は名残惜しそうにP子に別れを告げ、修理の手続きが完了する。保証中ということだったので、修理費も無料だ。
クリニックを出ると、次に向ったのはアミューズメントだった。
ホビーフロアに行くと、所狭しとプラモデルやフィギュアが陳列されていて、圧倒される。
ロボット塊シリーズや、リポルテックシリーズのロボット物のアクションフィギュアが展示されているショーケースの中を覗き込むと、胸が熱くなった。
機動戦士にスーパーロボット……燃える。
ロボットは男のロマンだよなあ。
でも、このシリーズってけっこう値が張るから、高校生の小遣いじゃ、早々手が出せなかったりする。
カインに熱くロボットの何たるかを語ったこともあったっけ、俺。カインも興味を持ってくれて、色々と語り合ったな。特に機動戦士の話で盛り上がったような記憶がある。
「どうだ? 燃えるだろ、潤。男の魂がこいつらには宿ってるんだぜ」
「私はフリーダムより、ジャスティスがいいかな」
「え、相羽さん!?」
潤に聞いたはずなのに、何故か相羽さんがそれに答えた。ていうか、潤を押しのけてショーケースを凝視している。
あれ、意外と相羽さんってこういうの好きなのか?
「あ……ちょ、ちょっと友達に勧められて……」
相羽さんは顔を真っ赤にして背けた。
これは思わぬ収穫だ。相羽さんの意外な一面が発見できた。
で、潤はどうなんだと思って、潤のほうに体を傾けると目が合った。そして、すました顔で俺にきっぱり言った。
「渡辺さんって、意外と子供なんですね」
潤に言われるとかなりショックだ。
「ぼくも子供のころはこういうの欲しかったですけど……」
お前は今も子供だろうが。
「潤だって、小さい頃持ってただろ? こういうロボットの1つや2つ」
「いえ。持ってないです。ぼく、小学校に入るまではお姉ちゃんと2人で遊ぶことが多かったですし、遊びも、ままごととかがほとんどでした」
「え、そうなの?」
まあ、俺も愛紗に付き合わされて、ままごとをやった記憶があるな。その時、俺は愛紗の子供役で、人手が足りないからって俺の合体ロボットをお父さん役にして、愛紗のリコちゃん人形が何故か俺のお姉さん役になって、俺はおもちゃ相手に敬語を使う今を思えば非常にシュールな光景だった。
仕方が無い。ならば、エロフィギュアを潤に見せて度肝を抜いてやろう!
「渡辺くん。潤をわざわざ秋葉原にまで呼びつけたのは、これが目的?」
「え? いや、違うよ!」
相羽さんがまたまた睨んできた。いや、本当は目的の半分ではあったんだけど、これ以上寄り道をしている暇はなさそうだ。
「パソコンのパーツを買いに来たんだ。自作するんだよ、俺」
「パソコンを? なんか、すごいね」
険しかった相羽さんの顔が徐々に変化を見せる。南極大陸の氷が片っ端から溶けていって、大地に小さな花が、笑顔が咲いた。いや、言いすぎか。
再び相羽姉弟を伴って移動開始。本館にたどり着くと、PCパーツのフロアに向う。本来の目的地はここだったが、色々と寄り道をしてしまったな。
展示されているのはパーツだけじゃない。店の人が組んだディスプレイ用のパソコンもある。
「渡辺さん、このケースの中に入ってるチューブみたいなのは何ですか?」
「それは、水冷のCPUクーラー。チューブの中の水がCPUを冷却するんだ。普通はファンが回ってて、空冷でCPUを冷やしてる。あれは静音仕様のPCだな。グラボもファンレスにして、ほとんど音が無い」
「へえ。ほんとだ。すごく静かですね」
調べといてよかった。
「ねえ、渡辺くん。この小さくてかわいいのは何?」
「それはベアボーンだよ。大抵、ケースとマザーボートと電源が一緒になってる」
相羽さんが子供のように瞳を輝かせて俺の袖をつかんできた。何でもお答えしましょう。
「じゃあ、これにしなよ! これがいいって、絶対! これに潤が見つけた水冷のクーラーとか付けたら、よさそうじゃない?」
相羽さんは形が気に入ったのか、えらく押してくる。
「うーん。それだと、いろいろ組み立てる時に制約ができちゃうんだよ。それに、後々電源とか交換しようとしても、このベアボーンのとは規格が違うから、無理だと思う。クーラーも専用の物しか使えないしね」
「そっか……」
同時に相羽姉弟はしょんぼりと肩を落とした。




