ちょっと変わったボーイミーツガール
「あれ? でも、この辺りに電気屋なんか、あったかな」
私は記憶の中からこの街の地図を引っ張り出して検索してみた。確か、駅前に色々とお店はあったけど、その中のどれがそうだったかなんて、思い出せない。
「潤、わかる?」
「わかんない」
即答されてしまい少し困る。うーん、どうしようか。と考えていたら、潤が携帯を取り出してどこかへかけていた。
「何やってるの? 潤」
「あ、渡辺さん! ぼくです、潤です!」
渡辺さん……一体誰だろう?
『おー潤。どうした? 俺今から、風呂に入るところだったんだけど……あ、そうか。この前話てた、エロゲーの件か、そっかそっか、貸して欲しいか! だよなあ。潤も男だもんなあ。やっぱ胸は大きいのがいいよなあ、爆乳メイド祭り4~24時間ご奉仕しちゃいます~は絵のクオリティーが……』
「ちょっと、渡辺さん!」
潤と目が合う。潤は顔を真っ赤にしてあたふたしていた。
いきなりエロゲーの話を切り出してきた渡辺という人物。胸がどうとか、メイドがどうとか電話で言っている。
うわあ。かなり引いた。……なんかキモい。
潤にはこうなって欲しくない。でも、潤もお年頃だから、しょうがないのかな。
「あの、この辺りで電気屋さんって知りませんか?」
『電気屋? それなら、駅前にあるだろ? 何か買うのか?』
「あの、P子が壊れちゃって……修理に出したいんです。それで、明日もしよかったら付き合っていただけないかと思って……ダメですか?」
『P子が? いいよ、付き合うぜ。でも俺、明日秋葉原に行くつもりだったんだけど、お前も来るか?』
「え? 秋葉原、ですか?」
秋葉原……フィギュアでも買いに行くつもりなのだろう、この渡辺という男は。潤をオタク色に染めるつもりか。
想像してみる。潤がオタクになってしまった姿を……。
――!!
そんな潤は絶対に嫌。阻止しなければ。
『うん。ちょっと買いたい物があるんだ。予算は10万までなんだけど、お前も来いよ。いい勉強になるぜ』
「渡辺さんがそう言うなら……」
「ちょっと潤。だめよ、そんなヤツの言う事聞いちゃ! あんたは今のままでいいの!」
「え? お姉ちゃん急にどうしたの?」
潤を堕落させるわけにはいかない。潤には、清く正しく生きてもらいたい。潤は他人の言う事を何でも聞いてしまう悪いクセがあるので、それが心配だ。
『何だ? そこに誰かいるのか? ピーピー喚いて、愛紗みたいにうるさいヤツだな。それじゃ潤。秋葉原駅に10時集合でどうだ? P子忘れちゃダメだぞ』
愛紗みたいなヤツ。と渡辺は言った。もしかすると、愛紗の兄なのかもしれない。
「わかりました。夜分遅くにすみません、渡辺さん」
『おう。じゃあな、潤。おやすみ』
「はい、おやすみなさい」
笑顔で潤は通話を終えた。携帯を見つめなんだか楽しそうだ。……面白くない。潤にとって、渡辺という男の存在は大きいのかもしれない。
「あ、お姉ちゃん。明日渡辺さんと行く事になったから、お姉ちゃんはやっぱりいいよ、ごめんね」
「え? 何、どういうこと?」
もちろん意味は解っている。要するに、私はもうお払い箱。渡辺という男に潤を取られてしまった……ちょっとイライラする。
「渡辺さんは、愛紗ちゃんのお兄さんなんだ。すっごく頼りになって、料理もできて、かっここいんだ。ぼく、あんな風になりたい」
急に潤が渡辺という男を語りだした。そんなこと、聞いていないのに。
もう、怒った。
「ふうん。愛紗ちゃんのお兄さんね、気になるな~。明日は私も付いて行っちゃおうかな。潤がお世話になってるんだし、一言くらい挨拶しなきゃ」
一言文句を言ってやろう。おのれ、渡辺兄妹。
「え? お姉ちゃんも来るの!? そんな、いいよ」
「私も秋葉原って興味あったんだー。いいじゃない、ね?」
潤は押しに弱い。
「それに、あんた1人で秋葉原まで行けるの? 迷子になっても、誰も助けてくれないよ。だから、一緒に行こう、ね?」
「でも……」
潤の抵抗はまだ続く。
「都会の人間なんて、みんな冷たいんだから。いつも誰かがあんたの手を引っ張ってくれるわけじゃないの。なによりお姉ちゃん、潤が心配なの」
「わかったよ。本当、お姉ちゃんはいつも強引だね……」
よし。これで明日渡辺の顔を拝める。
秋葉原に興味があったのは本当だし、渡辺という男に一言文句を言って、それから潤と色々見て回ろう。
「あ、そうだ潤。そういえば、愛紗ちゃんのお兄さんって、なんていう名前なの?」
「渡辺さんだよ」
「だから、下の名前よ! 渡辺 わたなべなんて氏名、聞いたことがないよ」
「ん~忘れちゃった! だって、渡辺さんは渡辺さんだもん!」
えへ。と潤は愛くるしく笑った。こうなると、もう何も言えない。
とりあえず、仮に渡辺 太郎と名付けておこう。
渡辺 太郎が潤をオタクの道へ引きずりこむのを阻止しなければ……!
*****
朝。俺はベッドを抜け出して時計を見る。
今日は潤と秋葉原に行く約束をした。P子の修理に付き合うのもそうだが、俺の買い物もある。
昨日の夜、あれから親父と話をして、PCを新しく買うことになったのだ。
ただし、買うのはMECとか、SOMYとかのメーカー製ではない。
『自分で作れ、予算は10万だ』
PCの自作。それが親父に与えられた条件だった。モニタやキーボード、マウスなんかの周辺機器はそろっているから、パソコン本体にすべて回せる。
しかも、余ればそれは自分の小遣いにしていいというから、親父の太っ腹ぶりには頭が上がらない。
低予算で組んで自分の小遣いに回すということも可能だし、予算を目一杯使って、スペックを追求するのもいい。
カオス・クロニクルをハイスペックで遊びたい。俺の目指すべきところはそこなので、予算内でハイスペックを目指すつもりだ。
そこで昨日はPCの自作に必要な知識を、ネットでひたすら調べていた。価格も調べてある程度の目処はついている。
PCのパーツは主にケース、マザーボード、CPU、メモリ、ハードディスク、CDドライブ、グラフィックボード、電源。そして、OS。といったところか。
今回、モニターは買わない。理由は2つ。
1つは、ネットショッピングでモニタ込みでパーツ代を見積もったところ、CPUやグラボのランクをかなり下げないといけなくなる……。ようするに予算の問題だ。
もう1つは、俺の部屋に置いてある液晶テレビの存在。最近のパソコンは、HDMIで本体とモニタを接続できるらしい。俺のテレビは地デジ対応で買い換えたため、最新の液晶テレビでHDMIの端子がある。つまり、テレビをモニターにすれば新たに買う必要がないというわけだ。さらにHDMIは、画像だけでなく音声も出力するので、テレビのスピーカーがPCのスピーカー代わりになる。
PCの自作は今回初めてだけど、かなり楽しい。自分なりに選んだパーツをあわせて、自分だけのマシンを作り上げる。ネットで色々パーツを見ているだけでも胸が高鳴った。
なんていうか、すごいロマンがある。
今日は潤を連れて秋葉原のソボマップをはじめ、色々回ってみよう。ソボマップはプラモデルとか、ゲームも置いてるし、いろいろ面白い。フィギュア類も置いてあるし、潤にエロいのとか見せてどんな反応を示すか試したい。そういう面であいつはいじめがいというか、いじりがいがあって面白いんだよね。
と、色々考えて床に付いたのが午前3時。10時に秋葉原に到着するには、9時ぐらいには家を出ておかないといけない。
だから、俺は携帯のアラームを8時半に設定していたのだ――が、どういうことか、部屋の時計を見ると、時刻は9時半を差していた。
「え? え? え!?」
慌てて携帯を見る。おかしいな、確かに設定したハズなのに……。
枕元に置いてあった携帯を拾い上げ、ディスプレイを見る。すると、画面は真っ暗で、何の反応も示さない。
「電源切れてる……」
しまった! 電源切れてるよ! まあでも、相手は潤だし、少しくらい遅れてもいいか。
俺はそそくさと布団から抜け出して着替えを始める。朝飯は食わずにそのまま駅に向って駆け出す。
朝の日差しが眩しい。
この時間なら、電車に乗れば、まだ20分くらいの遅れで済みそうだ。
ごめんよ、潤。少し待っててくれな。
切符を買って、電車に飛び乗り、なんとか空いてる席に座り込むと電車は動き出した。それから数十分後。
目的地にたどり着き、俺は駅のホームへと足を降ろす。周りを見渡すが、潤の姿は無い。
どこだろう? トイレかな?
すると、見慣れたビジネスカバンを発見して俺は走り出した。あれはそう、この前家に潤が持ってきたP子が入っていた物だ。
よかった、ちゃんと待っててくれたか。
潤の背中を一心に目指す。
なんだか、違和感があった。潤は元々細身だが、それにしてもなんか女の子みたいだ。
まあいいや。遅れてきたのをごまかすために、ちょっとおどけちゃおう。
「潤~! 待たせたな、渡辺さん参上だ!」
俺は後ろから潤に飛びついた。胸の辺りに手を回し、がっちりとホールドしてやった。
むにゅ。
むにゅ?
何だコレ。柔らかいし、あったかい。こんな感触は初めてだ。一体それが何なのか確かめるため、もう一度触ってみた。
むにゅむにゅ。やっぱり柔らかい。そして、石鹸のいい香りがする。
おかしい。潤にこんな胸は無いはずだ。それに、なんか髪が長いし、あれ? 女の子みたいな服装だ。ていうか、下がスカートだ。潤に女装癖でもあったのだろうか?
「渡辺さ~ん」
背後から潤の明るい声がする。
振り向くと、息を切らした潤がそこにいた。
あれ? じゃあ、これはダレ?
突然、右頬に衝撃を受ける。
「いってええええええ!」
その衝撃で俺はのけ反って、駅のホームに盛大な尻餅を付く。何がなんだか解らない。
「何すんのよ、このヘンタイ! 死ね、本気で死ね!」
さらに追い打ちをかけるべく、スカートの下の見覚えのある太もも。その先にある白い足が、槍のように鋭く差し出され、俺の腹部に突き刺さる。
「うげえ!」
鈍い痛みが腹を中心に広がり、俺の意識はブラックアウトしかけた。
痛い! けど、右手にはまだやわらかい感触が残っている! ちょっと幸せ! けどやっぱり痛い! けどちょっと幸せ! あ、でもやっぱり痛いってば!
天国と地獄を繰り返していると、腹に突き刺さっていたエルフのようにキレイな生足が、離れていった。ここからでは顔は見えないが、女の子が膝を曲げ、水平にまで上げたその瞬間。ちらっといいモノが見えて俺の胸は高鳴る。
オレンジだ。
「あれ? 渡辺くん?」
小鳥のさえずりのような可愛らしい声。
意識を集中させて視線を上にあげていくと、そこにいたのは……。
「あ、相羽さん……」
次回は5月3日0時更新です。




