P子とフランソワーズ
今週は1日、2日、3日と3日連続更新します!
悪魔の森は、レベル40代後半から50代前半のパーティー狩り場である。ラグリアを拠点に移した、上級職に転職したばかりのプレイヤー達が、ここで新しいスキルを試し合ったり、装備をそろえるまで小遣い稼ぎの場として、賑わいをみせる。
名前の如く、悪魔が多数徘徊する森林地帯だ。シャドウビーストは、野生の獣に悪魔が憑依したMOBで、闇属性を備えている。カーズプラントも、ダークミストも皆闇属性だ。
聖属性の攻撃ができれば、狩は楽になるだろう。この狩り場で一番重宝されるのが、エルトの現クラス……ヒューマンヒーラーの上級職『ビショップ』だった。
ビショップのホーリーブレスと、レジストダークで、聖属性を通常攻撃に付与でき、闇属性の攻撃を軽減することができる。
悪魔の森で狩りをするパーティーにとって、ビショップは必要不可欠な職だ。だから、何度もエルトはお呼ばれされたことがある。
といっても、もうみんな60代だ。格下の相手ばかりなので、ホーリーブレスがなくても余裕で狩れる。が、狩りスピードを上げるのに越したことは無い。
全員にビショップのバフをかけて、早速狩りをはじめた。
「ここのMOBには聖属性の攻撃が有効だ。プン達フェイブ種族は、闇属性の攻撃スキルがメインだから、ちょっと相性悪いかもね」
「ぬを。ぼくちんも聖属性に弱いお。もっとも、弱いのは性属性だけどね(°q°*)」
狩りをはじめる。みんなで役割分担をして組織的に狩る必要は無い。格下の、それも大量に狩らねばならないので、手当たり次第。といった感じだった。
グラムが矢を放ち、イドが魔法を放つ。弓のクリティカルヒットと、一撃が高火力のイドの闇魔法は、MOBがこちらに気付き、向ってくる前に殲滅が可能だった。
「d><b」
「テラ弱い」
離れた位置にいるMOBは彼女らに任せて、こちらは近くにいるMOBを狩ろう。
プンの片手剣が薄暗い森で閃く。ホーリーブレスを受けたその一撃は、木の幹から牙を生やしたカーズプラントの生命を大幅に削り、ケルの最愛のダンナがトドメを刺した。
さっさと終わらせてしまおう。まだアイスバレーにも行かなくてはならない。
エルトを操作し、ライトブレッドでドクロの顔をした霧……ダークミストの注意をこちらに引き付ける。
さらに、射程に入ったことを確認すると、スキルアイコンから滅多に使わない……というか、使えないスキルを選択する。
一撃でアンデッドや、デーモン系MOBを消滅させるビショップ専用スキル『ヘヴンズドア』を詠唱。光の柱がダークミストを包み込み、天国への扉を開く。
瞬殺。
「おお~エルくんがなんかすごい~@@」
「ヘブンズドアだね^^ 格下のMOBにしか効かないっていう制限があるから、パーティーじゃ使う人いないよね~」
プンが感嘆のセリフを発し、ケルがプンに解説する。
「ぬを。ぼくちんもすごいお! ほらほら、こんなにMOB引いてきたお! ヌフフ。さあ、皆の衆! ここに範囲攻撃をわんさかブチ込むのだ!」
見ないなと思ったら、ヤマモトがものすごい数のMOBを引き連れてやってきた。ざっと30くらいはいる。
「ぬを。は、早くおね! ぼくちんのHPもたないお(°д°;)」
みるみるヤマモトのHPゲージが減っていく。格下とはいえ、複数相手にすれば、さすがにやばい。
「あ、エルくん。クエストおkだよー、全部倒し終えたみたい^^」
「そっか、じゃあ帰ろうか。ヤマモトは性属性だし、1人でも大丈夫」
「ぬを。なんでそこでそれを言うのか、わかんないお! ぼくちんを見捨てないで(;0;)」
といっても、ヤマモトを見殺しにするのはかわいそうなので、みんなで殲滅することになった。
ヤマモトはバカだ。けれど、それはいい意味でバカなので、まだ可愛げがあった。
見捨てる事はしない、絶対に。
その思いはみんな同じだったのか、すぐさま行動に移る。
以外にも、一番真っ先にMOBの群れへ攻撃を加えたのはグラムだった。
「ぬを。グラムたん、ありがとうだお! 胸は無くても、ハーフパンツからのぞく生足がステキだお! ぺったんこは正義ですv(`ω´)v」
「いいの。だって、ヤマモトは私が殺すから。ヤマモトにトドメを刺すのは私。誰にも邪魔されたくない」
「(°д°;)」
「フフ」
グラムとヤマモトは仲がいい。
ヤマモトの引いてきたMOBを殲滅させると、時刻はもう10時を過ぎていた。
とりあえず一旦休憩ということになって、ラグリアに帰還すると、一時解散する。
「ふあ……ぁ」
私はモニタの前であくびをかみ殺した。明日は土曜日。学校は休みだ。このままゲームを朝までやりたいなあ、なんて考えがよぎったが、そうもいかない。
あと半年もすれば、高校3年生。受験に専念しなくちゃいけない。そうなると、カオス・クロニクルも当分は封印しなくては……。
本当は予備校や塾に行くのがいいのだろうけど、私はそういうのが苦手だ。勉強は1人参考書を広げ、独学でやっている。
移動の時間ももったいないし、参考書の値段以上の価値を塾に見出せない。他人のやり方を押し付けられるのは嫌なのだ。
私には私にあったやり方がある。他は他。私は私。
「お姉ちゃん! 開けて! たいへんなんだ!」
「潤? どうしたの」
ドアが勢いよく叩かれた。そして、その向こうから潤が悲痛な叫び声を上げた。
私は席を立つと、ドアを開けて潤を部屋に迎え入れる。
「……」
部屋に入った潤は黙ってうつむいていた。私は潤の肩をつかむと顔を覗きこみ、問いかける。
「もう、黙っていたら解らないじゃない。ねえ、何があったの?」
「死んじゃった……」
「え?」
「死んじゃったんだよ……」
ゆっくりと潤は顔を上げ、私の目を見た。潤の瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。
死んだ? 一体誰が?
「ねえ、誰が死んだの? もしかして……」
「ぼくの、ぼくのP子が死んじゃったんだ!」
潤は右手に抱えていたノートパソコン……P子を私の前に差し出した。
何だ、パソコンが壊れたのか。まぎらわしい子。
「もう、びっくりさせないで! お父さんとお母さんに何かあったのかと思ったじゃない!」
溜め息を付いて、潤からP子をひったくる。その場で電源をオンにしてみるが、P子はまったく反応を示さない。
「急に電源が入らなくなっちゃったの。ぼく、P子のこと大事にしてたのに……」
「う~ん。私じゃ解らないなあ。明日、電気屋さんに持って行ったら? まだ買ってから1年経ってないんだし。保証中でしょ? お姉ちゃんも一緒についていってあげるから、ね? 早く修理を終わらせろ! って店員に言ってあげる」
「うん。でも……明日の夜必要なんだ。どうしても……だって、ギルドハ……あ」
「何? あー宿題に必要だったのかあ。しょうがないな。お姉ちゃんのフランソワーズ貸したげる。だから、P子はちょっと休ませてあげよう、ね?」
ちなみにフランソワーズとは、私が使っているノートパソコンの名前だ。潤がP子で、私のはフランソワーズ。
「お姉ちゃんのフランソワーズって、メモリいくら?」
「メモリ? んー確か、4GBあったかな」
「CPUは?」
「クアッドコアの2.5GHzよ」
自慢じゃないけど、フランソワーズはデキル子なのだ。P子のお姉さんなのだから、これは当然。
「じゃあ貸して。明日の夜、3時間くらい」
「ちょっと、3時間も必要なの? だめよ、私だって使うんだから。1時間まで! ていうか、何で学校の宿題をするのに、スペック聞いてくるのよ?」
「え? それは……」
急に潤はしょんぼりとして、うつむいた。まるで、キレイに咲いた花が枯れてしまったかのように。
「あーもう、しょうがないなあ。貸してあげるから! 元気出してよ。あんたがそんな顔してたら、私まで元気無くなっちゃうじゃない」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
潤は途端に満開の笑顔を咲かせる。春の桜のように、散り行く儚さを含んだ、危ういバランスの笑顔。
その笑顔につられて私も笑顔になる。
私、潤に甘いな……しょうがない。明日の夜はカオス・クロニクルは諦めて、勉強しよう。
次回更新は5月2日0時です。




