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ここにいるよ!

「エビルドラゴンの件は、オレが考えておく。今はできることからやっていこう」


「たらりーん。おっと、さっそく新入部員か?」


 すぺりおるが戻ってきたようだ。


「すぺりおる殿! 自分ピリ辛直火炒め高菜炒飯っス、師匠からはイドちゃんと呼ばれてますっス。以後お見知りおきをd><b」


「はあ、イド?」


 まあ、普通に考えてピリ辛直火炒め高菜炒飯のどこからイドが出てくるのなんて、解るはずがない。


「えっとね、すぺりおる。イドっていうのは――」  


「Fried riceのイドだろ? プンらしいなあ」


 何で解る……。


「あーそうだ、エルト。俺ちょっと幼稚園のギルドハント行かなきゃならなくなったから、パーティー抜けるわ」


「うん、わかった。そうだ……すぺりおる。エビルドラゴンの討伐に興味は無い?」


「エビルドラゴン? んー、いや別に……討伐イベントでも主催するのか?」


「いや、プンの転クエでエビルドラゴン討伐が組み込まれてるんだ。どうしたらいいものか、途方に暮れてるんだよ」


「俺は主催者ってガラじゃないからなー。昔なら、カインとか、ごはんがおさむくん辺りがよく討伐イベの主催やってたよなー。もう2人とも引退してるから、最近ぜんぜん狩られてなかったっけ?」


「そうだな」


 エビルドラゴンはオレが1年前まではちょくちょく討伐イベントを主催していた。だから、討伐の流れや弱点、入場イベントの進行も全部頭に入っている。……が、エルトとして主催すればカインとしての素顔がばれるかもしれない。


 それが怖い。


 すぺりおるなら主催してくれるだろうかと期待したが……今の話の流れから察するに、引き受けてくれる確率は低い。


 椛になんとか頼んでみるしかないか。


「まあ、もしエルトが主催するなら、うちのギルメン全員参加してもいいぜー」


「ああ、ありがとう」


 幼稚園のギルドメンバーは50~60代のレベル帯が多い。人数も30人前後だったはず。すぺりおるには悪いが、戦力的にはあまり期待できない。


 灰色の狼クラスの規模と実力者を誇るギルドはこのサーバーには存在しない……実力だけなら三散花もそれなりだが、あそこは少数精鋭だ。頭数が足りない。規模でいうなら初心者支援ギルド『ひだまりクラブ』も50人以上が所属しているが、こちらは平均的なレベルが低い。


 人員がそろったとしても、問題がいくつかある。その一番最たるものがプレイヤーのスケジュールだ。


 オフゲーと違って、パーティーメンバーはNPCではない。それぞれが生きた人間だ。都合を合わせるために最低でも数日後にはなるだろう。それも週末の、土日のいずれか……けれど困った。


 来週から始まるんだ。中間テストが……。しかも、土日をまたいで翌週まである。


 自信はまったくないわけでもないけど、転校直後のテストで悪い点は取りたくない。だから、土日は勉強したいのに、エビルドラゴンの討伐は2~3時間もかかる。


 これは大きい。でも、エビルドラゴンは一度討伐すると再出現するのに一週間もかかる。早めに討伐イベントを主催して予約しておく必要がある。


 ……仕方が無い。プンだって、これだけ頑張ってきたんだから、プンの悲しい顔は見たくないし……ここは睡眠時間を少し削って勉強時間を増やそう。


 プンのためなら、これくらいは……。


「プン。先にみんなとアントの巣に行ってて。その間ちょっとやることがあるから」


「はーい^^ みんな、プンについてくるのだあ≧▽≦ノ」


「ぬを。ぼくちんどこまでもプンちゃんについていくお、お布団の中でも、お風呂の中でも(°д°)」


「ヤマモトは風呂場で寝落ちして、そのまま溺れ死ね」


「またまたひどす! (;д;)」


「いや、お前がセクハラ発言ばっかりするからだろ」


 みんなが楽しそうにギルドチャットしているのを横目に、メール作成ウィンドウを開いてメールを作成する。


 宛て先は椛……プンは共通の知人だし、エビルドラゴン討伐には興味があるはず。


 お願い椛。今頼めるのはあなたしかいない……。


 思いを乗せてキーボードを叩く。


 そうだ。エビルドラゴン討伐は椛個人にとっても、メリットがある。新ギルドマスターとしての指揮能力と、判断力をギルメンみんなにアピールするチャンスでもある。


 しかし討伐に失敗すれば、椛の信用は落ちてしまうかもしれない。


 でも大丈夫。そこはエルトがしっかりと補助をする。だから、失敗なんてさせない。討伐は必ず成功させる。


 椛に何か疑問を持たれても、カインの主催した討伐に何度か加わったことがあると言えば、信じてくれるはず。


 ……よし、メールが完成した。あとはこれを送信して……。


 メールの送信エフェクトを確認すると、エルトを動かしてすぐにプン達の後を追う。


 そういえば、プンと出会ったあの日。アントの巣で狩りをしていた。もうあれから一ヶ月も経った。


 あの時は、誰かのために動くなんてこと、誰かを助けようだなんて1ミリも考えてなかった。


 不思議だ。1年前にネットでのつながりを失ったオレ……私は、1年後に再びこうしてまた誰かの為に動いている。


 これも、プンと出会ったおかげかな?


 リアルも、まだまだ胸の内をすべてさらけだすまではいかないけど、少しずつクラスメイト達と打ち解けるようにはなってきた。そうだ、クラスメイトといえば……。


 隣に座る渡辺くんは、ちょっと変わっているけど面白い人。あのヘンな挨拶さえなければモテる子だと思う。顔もかっこいい部類だし。


 実際、いつも私を放課後の帰り道に誘ってくれる女子のリーダー的存在の子は、渡辺くんのことが気になっているみたいだ。


 でも、私は特に恋愛に興味は無い。だけど、椛となら……。


 実際、リアルの椛には興味があった。一体どんな男の子なんだろうか?


 きっと、責任感が強くて、真面目で、他人をぐいぐい引っ張って行く頼りがいのある人。けれど、時折ジョークを言うお茶目な所があって……あと、ヘンな挨拶はしない人かな。


 間違っても渡辺くんじゃないことは確かだ。


 話が椛のことでそれたけど、プンに出会ってからゲームもリアルも充実し始めた。だから、プンのためならできる協力は惜しまない。


「エルくんおそーい@@ もう狩り終えたよー、ヤマちゃんがいっぱいアリさん引いて、イドちゃんが範囲魔法撃ってすぐに終わっちゃった><」


「自分、頑張ったっス! d><b」


「ぬを。ぼくちん、かなりひどい目にあったお。もてる男は辛いお(°д°;)」


「ヤマモトはパッシブでヘイト持ってるから、適任だった」


 アントの巣の入り口でばったりと4人にでくわした。どうやら、もうすでに対象MOBを全て狩り終えたらしい。


 少し感慨にふけっていた私はオレに戻る。


「もう終わったのか……イド大活躍だな」


「本当、イドちゃんうちに来てくれてありがとねー^^」


「イドちゃんいい子、なでなでしてあげよう^▽^」


「d><b」  


「ぬを。ぼ、ぼくちんも……なでなでの場所は指定していいですか? (*°д°*)」


「ヤマモト、とりあえず死ね」


 和んだところで、次の目的地に向うことになった。


 次の目的地は悪魔の森。一度ラグリアに戻ってそこから歩いていける距離だ。テレポーターもあるが、正直ムダにお金がかかるだけなので歩いたほうがいい。


「そういえば、エルくんは何でエルくんなの^^?」


 隣を歩くプンが唐突に質問を繰り出してきた。


「は?」


「名前の由来だよーー^0^」


「適当だよ。適当にキーボード叩いたらこうなったの」


「適当なの@@!?」


 そう、大した理由は無い。


「グラムちゃんはどうして、豚肉500gなの? ^0^」


「うちの実家、商店街にある潰れかけの精肉店だから」


「ほうほう、ご実家は商店街の潰れかけの精肉店、と@@Φ」


「プン、失礼だろ」


「ぬを。ぼくちんの名前の由来はねー(*°д°*)」


「アニメの主人公の名前だろ、知ってるから」


「プンは興味ないかな^0^」


「アニメおたく乙」


「orz」


「そういうプンの名前はどういう意味なんだ? やっぱりマジできれる3秒前っていう意味?」


「なにそれ@@! 意味解らないよ>< この名前にはちゃんとした意味があるんだから!」


「へえ、どんな?」


 何だろう? お腹がすく3秒前とかだろうか? それなら、punpun321じゃなくて、guuguu321か。


「ここにいるよー^▽^ノ」


「は?」


「ここにいるよー! って意味なの^^」


「ごめん、やっぱり意味がわからない……」


 何かの暗号? しかし、難解すぎてどんな名探偵でも解読不能だろう。


 その時、メール受信エフェクトが発生して、椛からの返信を受け取った。


 慌ててその場でメールを開封する。


 ざっと目を通したところ、灰色の狼内でも、エビルドラゴン討伐の話はすでに出ていて、来週の日曜昼に討伐する予定らしかった。暁の空から参加希望者がいるのなら、プレイヤー名と職を添えて返信してくれとのことだ。


 追伸で、『来週から中間テストがあったのですが、ギルメンの要望もあるし、まあなんとかなるでしょう(笑)』とあった。


 余裕なんだな、椛。普段からよほど勉強しているんだろうか?


 そういえば、隣に座っている渡辺くんは授業中たまに寝ているけど……少しは椛のカッコいい所や真面目な所を見習うべきだな、と思う。


 そんなことを考えていると、悪魔の森に到着していた。

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