渡辺家の一家団欒
「ふう。なんとか片付いた……おい。キラ・ヤマモト、加齢! なんでこんなにMOBを引いてきた?」
「ぬを。これはわざとじゃないお(°д°;) 今日のアップで追加されたダンジョンを、少し偵察にきただけだったお。そしたら、いつの間にかMOBが、加齢たんにくっついてきたお。そう、これは全部、加齢たんのせいだおm9(>m<)」
「HAHAHA。何を言う友よ。最初にアクティブを引っ掛けたのは貴公であろう。人のせいにするとは、下衆の極みぞな」
「ええーー(°д°;) 『我が手を下すまでもない。愚民どもにすべて押し付けてしまえばよいのだ』って加齢たん確かに言ったー!」
「HAHAHA。戯言を。『ぼくちん、きゃわゆいおにゃのこなら、放っておかないけど、むっさい野郎ならMOB押し付けても別にいっかー(>m<)』と、ほざいていたのは貴公ではないか!」
お前らどっちもどっちだろうが。
「笑えるぜ。まったく、レベルの低い連中だ。こんなだからヴァルガスの連中はたいしたことがないって、影で言われるんだよ」
楓の言葉に返す言葉はまるで一つも無い。
「興が削がれたな。まったく、椛くんよ。ギルメンのしつけくらい、ちゃんとやれよな。明後日のトーナメント……そこでお前を、大勢の前でコテンパンにぶっ潰しやる。それまでせいぜいギルメンと仲良く、低レベル帯でゴブリンでも追い掛け回してろ。お前らにはそれがお似合いだわ」
楓はそう発言すると、椛の脇をすり抜け二階の階段へと消えた。
「加齢たんのバカ! コ○ニー落としして、核の冬が来て、サードイ○パクト発生して、ついでに月光○でナノマシンに分解されちゃえヾ(>m<)σ」
「HAHAHA! 土下座してひれ伏し、我の靴の裏を200回なめて、世界中の言葉で謝罪を口にし、額に肉と書いて全裸で東京を全力疾走したなら、許してやると考える素振りを見せてやらなくもないぞ!」
色々ひどいな。ヤマモトの言っている事はまるでわけがわからないし、加齢は加齢でどんだけSなんだ。よくこれで狩り友になれたもんだ。
とりあえず、俺は醜い言い争いをする二人をその場に残して、アジトに帰還した。
「バカ翔ー! 腹減った! 晩御飯どこ!」
突然、リビングのドアを開けて、愛紗が乱入してきた。ディスプレイの右端にあるパソコン内の時計を見て、すでに18時を回っていたことに気付く。
もう晩御飯の用意をしないといけないな。
俺は席を立つと、リビングのソファで寝転がって携帯を抱きしめ、ごろごろ転げまわっている愛紗の横をすり抜けた。
一瞬だけ目の端に捉えることができたが、どうやら、待ち受けに笑顔の潤を設定しているようだ。
「えっへへへへー。潤くーん。そんなに見つめられたらあたし、溶けちゃいそ~だよ~! えっへへへー」
愛紗の目は携帯の画面に映る潤しか写っていない。あとで、あいつの携帯の待ち受けを、俺の顔に変えといてやろうか。どんな顔をするのか楽しみだ。
「そうだ! 今日のおかず何? 肉? それとも肉? あ、やっぱり肉だった?」
この肉食獣め。
「ステーキだよ。今から焼くから、いい子にして待ってろ。間違ってもワンワン吼えるなよ」
「ステーキ!? やったあ! バカ翔大好き! あとでいつも2発しか蹴ってないところを、もう一発サービスして3発蹴ってあげるね!」
「いらん。親父にやれ」
大好きならもっと兄をいたわれ。まったく……。
『帰ったぞー。お前たちの大好きなお父様のお帰りだ』
玄関から親父のバカでかい声が聞こえてた来た。今日は家族3人でテーブルを囲むことになりそうだ。
「お父さんだ!」
「今日は早いんだな、親父。しょうがない、さっさと飯の用意するか」
俺は台所に行くと、冷蔵庫に入れておいた豆腐を取り出した。フライパンに油をひき、温める。
大豆の化身を皿から解放し、灼熱をまとった鉄の上に……いざ。
「翔よ。我が息子よ。お父さんが帰ってきたぞ」
振り向くと、腕を組んだ親父が台所に立っていた。あれは……確か家族専用挨拶EMPEROR。どうやら、今日の機嫌は上々らしい。
気分がいいときは、家族専用挨拶GENERALに切り替わったりする。このネーミングセンスはなんとかならないのか、いつも思っているけど。
少しは俺の対相羽 真理奈専用挨拶GALAXYや、対相羽 真理奈専用挨拶BURSTを見習うべきだな。こんなところで俺はオヤジ越えを果たしてしまっているわけだ。
「何だよ。つまみ食いにでも来たのか? 冷蔵庫の上から二番目の段に、ハムが半分と、一番下の段に納豆があったと思うから、それでも食べて静かにしてくれ」
「今日は……お前が晩御飯を作っているんだな……」
親父はしみじみと俺の握るフライパンを見つめて、大きく息を吐いた。
「見りゃわかるだろうがよ」
すると、いきなり親父は40手前とは思えないくらいの移動速度で台所を移動し、俺をしっかりと抱きしめた。
「いきなりなんだ!」
「お父さんは嬉しいぞ! お前の料理がこれほどありがたくておいしいものだなんて……翔、お前を愛している!」
「……明日は愛紗が作る予定だから、喜べよ」
親父はゆっくりと後ずさると、引きつった笑みを浮かべて、台所を去った。そして、すぐにリビングから親父の明るい声が聞こえてきた。
『明日は愛紗の料理が食べれるのかーははー。お父さん、楽しみだなあ。あ! しまった。明日は取引先の前田さんと飲みに行く予定だったなあ。前田さんにはずいぶんお世話になっているから、断ったらまずいんだよなあ。ああ~困ったなあ』
棒読みのセリフに、不自然な思い出し方……そうまでして食べたくないのか、愛紗の料理。
『えー! お父さん嫌い! もう口聞かないー』
『あ、愛紗! 違うんだ。決してお前の料理が嫌いなワケじゃないんだ。男には行かねばならない時があるんだ。わかっておくれ』
見苦しいぞ、親父。
料理が出来上がり、それを三人分皿に盛ると、リビングへと向う。
テーブルに皿を並べ、今度はお椀を三つ取り、ごはんをよそっていく。
「なにこれ?」
テーブルについた愛紗が、開口一番、不満全開モードで文句を言った。
「豆腐ステーキだ。大豆は畑の肉っていうんだぞ。大豆には色んな成分が含まれているんだ。イソフラボンとか、大豆レシチンとか、セラミドとか。肉ばっか食ってないで、大豆も食え」
「ええーー! 肉がいいー! 肉! ニク! にく!」
愛紗が急にだだをこねはじめた。まったく、こんな風に育てた親の顔が見て見たい。
「お父さんも肉がいいー! 肉! ニク! にく!」
俺は親父の顔を見た。親父もテーブルの上で子供のようにだだをこねていた。なるほど、親子だ。愛紗はこれを見て育ったのだ。俺もだけど。
「愛紗。大豆に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンと同じ働きをするんだ。美容にもいいそうだぞ。それに、この前潤が言ってたっけ……『豆腐をがっつり食べる女の子は、大豆サポニンを多く摂取していて、大好きです。オレイン酸や、アルギニンも多く含んでいる大豆できた豆腐は人類の宝です』ってな」
しまった。ちょっと意味の分からないセリフになってしまった。これでは潤がただの豆腐マニアだ。許せ、潤。
途端に、愛紗の体がびくんと跳ねあがり、目がギラギラと異様な輝きを放っている。
「潤くんが!? 本当にそう言ったの!? あたし、食べる! 世界中の大豆を食べつくす! そして、潤くんに相応しい女になるわ!」
がつがつと、自分の皿の豆腐ステーキに愛紗は襲い掛かった。
さて、愛紗はなんとかなった。残りはもう1人だな。
「親父。今日って何日だ?」
「2011年10月7日金曜日だな」
「そうだ。そして親父の給料日は、月末締めの15日振込みだ。あと一週間と少し。つまり……今は給料日前なんだよ! 安心しろよ、親父。15日の晩にはマジもんのステーキを用意するから」
「ほ、本当か!? 本当だな! お父さん、食べる! お父さんもイソフラボン摂取して、美容で健康になるぞ!」
親父は家庭の雰囲気を明るくするためにわざとやってるのか、それとも素で子供っぽいのか、よく解らない。前者だと思いたいが……。母さん、苦労したんだろうな……。
「フフ! 食べたよ! これで潤くんはもうあたしのモノだね。食後の潤くん鑑賞タイムに入るから、お茶持ってきてよ、バカ翔。もちろん、ミルクティーでお砂糖4つだからね!」
「潤くん……? 愛紗。それは一体誰だ?」
親父を首をかしげながら愛紗に質問した。ああ、そういえば親父の奴、潤のこと知らないんだったな。
「愛紗の片思い中の男の子だよ。ちょっと頼りないけど、すごくいい子だぜ?」
俺の一言で親父が豹変した。
「片思い!? おい、翔。何者だ、その潤とかいう小僧は! 許せん。俺のかわいいかわいいかわいいかわいい娘を弄びおって! どうせとんでもない男に決まっている! 八つ裂きにしてくれるわ!」
親父の柔和だった顔が般若のごとく、恐ろしくなった。
――このままでは、潤の命が危険だ。




