ヴァルガスサーバー
俺の事を知っている……?
楓はソーシャルで、無邪気に笑って見せた。
「俺は今日、シェルンサーバーから、このヴァルガスサーバーに来た。前からこのサーバーのことは色々聞いてたけど、ここの連中のレベルってマジ低いのな。笑えるぜ」
カオス・クロニクルには、現在6つのサーバーが存在する。
シェルン、ラグチェ、リドキア、セイファード、カルム。そして、今俺が接続しているヴァルガスの6つだ。
楓の言うシェルンサーバーは、カオス・クロニクルでもっともPVPが盛んで、もっとも荒れ果てたサーバーだ。大手ギルド一つの独裁に近い形で、狩り場の奪い合いでPVPやPKというのは珍しくない。
対してこのヴァルガスは、6つのサーバーの中でもっとも人口が少なく、比較的平和で穏やかなサーバーだった。
だから、シェルンからヴァルガスに移住するプレイヤーも少なくない。けれど、大抵は低レベル帯のライトユーザーがほとんどで、より強い相手を求めるシェルンの連中は見向きもしなかった。
「シェルンの……けど、ここはヴァルガスサーバーだ。ここにはここのルールがある。それに従わない奴は叩かれるぞ? 野良に行っても相手にしてもらえなくなる」
「は!? いらねーよ! フ抜け連中の手を借りるくらいなら、とことんソロで逝くってなあ。それによ。ヴァルガスに来たシェルンのベテランは俺1人じゃないんだぜ? そいつらからギルドの誘いも来てる。少し考えさせてくれって言ったら、ギルドハントにお呼ばれしちゃってよ。それも断るつもりだったんだけど、面白いから俺も参加したのさ。あいつら、何狩ったと思う?」
シェルンの猛者たちがこのサーバーに移住してきたのか。このサーバーの勢力図が変わるかもしれないな。
「新規狩り場のエリアボス……か?」
楓の質問にしばし考え、俺は答えた。
「その答え、笑えるぜ。プレイヤーだよ。プレイヤー。ただし、狩ったのはPKだけど。このサーバーのゴミPKギルド……何つったか? バーベーキュー?」
「……ヴァーミリオンか?」
「そうそう! それそれ! あっははははは。あいつら全員ザコもいいとこだったぜ? アップが終わって一時間くらいかなあ? こんな時間にログインしやがって、お前ら全員、家事手伝い、ハローワークの住人、暇でお忙しいニート様ですかっての?? 笑えるぜ。斬魔とかいう奴、装備も全部ボロボロ落っことして、惨めだったねえ。これでこのサーバーも平和になるかあ?」
PKは仕様上、いくつかペナルティーがある。NPCとアイテムの取引が出来ない、村の警備員から攻撃される、そして、死亡時に装備アイテムを強制的にドロップしてしまう。
PKKの中には、これを狙ってPKを追い回す奴もいるのだ。PKよりもタチの悪い連中もいて、装備を全部剥ぎ取られ、丸裸にされたPKがいた。
俺の場合は、倒したPKが装備を落とせば、それをPKされた奴にあげている。もっとも、そんなものでPKされた人間の気持ちは晴れないだろうけど。
それにしても、斬魔がやられたか。……あいつは確かにいけ好かない奴だったが……少し複雑だな。
「シェルンじゃ俺もトーナメントで、腕を鳴らしたもんさ。なあ、椛くんよ。お前は斬魔より強いよなあ?」
再び。
奴はアークデーモンを俺に差し向けてきた。こんな所でPVPをやろうだなんて、バカげている。周りは高レベルのMOBばかりなのに……。
このままだと、楓のみならずMOBからも攻撃を受けてしまいそうだ。それは楓だって同じだろうに。
仕方が無い。一度二階まで退避しよう。
カメラを回転させ、後ろを向き、椛を移動させる。だが、急に椛の足が鈍くなり、楓の召喚獣に追いつかれた。
野郎め、デバフか。ミスティックテイマーのデバフ『スロウバインド』だ。
……仕方が無い。そこまで俺と戦いたいのなら、やってやろうじゃないか。
カメラを元に戻し、楓に向き直る。ヴァンガード2をオンにして、二体のアークデーモンにマスフォースヘイトをかけた。
あわよくば楓も……と思ったが、すでに予想されていたのか、範囲外に逃げられていた。
しかも、範囲の外からデバフを色々と打ち込んでくるので厄介なことこの上ない。
攻撃力、防御力、クリティカル率、移動速度……あらゆるデバフを受け、椛の戦闘力は軒並み下落する。
そしてこのアークデーモンだ。まだ召喚契約したばかりとはいえ、最高レベルの狩り場の……それも二体。
サマナー系列は、76レベルである程度完成されるのかもしれない。サマナーは火力の大半を召喚獣に依存している。デュアルサモン……その召喚獣が二匹になるということは、単純に考えれば火力も二倍になるわけだ。
さあ、どう切り抜ける? 以前のようにここには崖があるわけでもないし、ギルドのみんながいるわけでもない。
そう考えていたときだ。
突然ラグが起こった。
そして、どこかで聞いたことのあるようなシャウト。
「ぬを。ぼくちん、人気者すぎだお(°д°;) 誰か助けてHELP ME!」
キラ・ヤマモト……何やってんだあいつは。
「HAHAHA! 友よ、我等の生き残る道はただ一つ! 逃げるのだ!」
楓の後ろから、大量にMOBを引いてキラ・ヤマモトと加齢の王子様がやってきた。
「そこに見えるは、我がギルドマスター! 我々を助けよ!」
ちなみに、加齢の王子様も灰色の狼に加入している。俺は断りたかったんだが、気が付いたらいつの間にかそこにいた。たぶん、ぴゅあが勧誘したのだろう。
潤は頼まれるとイヤと言えない奴だからな……。
「ぬを。加齢たん、椛氏のギルドに加入中? ならば椛氏よ、ぼくちんと加齢たんを助けよ! m9(>m<)」
しかもこいつら、いつのまにか狩り友になっているではないか。類は友を呼ぶというか、なんというか……お似合いのカップルだな。
「ぬを。すみません、調子乗りました。。 助けてください椛様、銀のエンゼル二枚あげますから(;д;)」
助けてあげたいところだったが、楓の攻撃をなんとかしなければこちらも動けない。……銀のエンゼル欲しいけど。
迫りくるMOBの群れ。MOBはヤマモト達を素通りして、楓に向っていった。
楓の攻撃の手が止み、二体のアークデーモンはすぐにMOBの対処に回った。
「笑えるぜ……MPKかよ」
ヤマモトたちが引き連れてきたMOBの量はけっこうなものだった。いくら楓でも、あれではひとたまりもないだろう。
俺は、ファイナルプロテクションを発動し、マスフォースヘイトで一気に全部を引き受けた。
「お前」
このまま見過ごすことは出来ない。楓を巻き込んでしまうわけにはいかないだろう。不肖のギルメンがしでかした失態は、マスターの俺が責任を取らなければいけない。
さて、ファイナルプロテクションを発動した30秒が勝負だ。一匹づつ慎重に狩っていかねばならない。
「ヤマモト、加齢! お前らも手伝え!」
「ぬを。仕方が無い……キラ・ヤマモト、紛争介入する!」
ヤマモトと加齢の王子様が殲滅に加わったことで、多少は倒すスピードが上がった。だが、それでもキツイ。
ファイナルプロテクションが解けるのが先か、倒しきるのが先か……。
「笑えるぜ。俺にターゲットが集中している間に俺をヤッて逃げりゃよかったものを……馬鹿か?」
楓のアークデーモンが俺に向ってくる。そして、その鋭い爪が椛の後ろにいたMOBを切り裂いた。
こいつ、助けてくれるのか?
「お前をぶっ倒すのは俺なんだよ。ザコMOBに取られてたまるか。もちろんその次は、お前だぜ?」
俺達は楓の手を借り、なんとかヤマモト達が引っ張ってきたMOBを掃除することができた。




